- Amazon.co.jp ・本 (155ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560042793
感想・レビュー・書評
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死体保管所に勤めるスピーノの元に、ある夜、警官たちが若い男の遺体を運んでくる。立てこもりの現場で撃たれたというその男は偽名を使っており、身元がわからなかった。なぜか男のことが気にかかって仕方がないスピーノは、彼の足跡を辿り始めるのだが……。
『インド夜想曲』もこんな話じゃなかったっけ。他者に自分の似姿を見、他者を通じて自分のアイデンティティを見つけようとしてしまう話。
タイトルの意味は須賀さんの解説でなるほどとなったが、生死に限らずアイデンティティに関わるさまざまな境界線のことを指しているのかなと、とりあえず思っておく。スピーノが深入りするほど海に近づいていくのも象徴的だ。
哲学的な思索よりも、映像的なイメージがくっきり印象に残る小説だ。遺体が収められている引き出しの取手。教会のテーブルに置かれたタロットの本。老舗のテーラーの出納帳。古い家族写真。秘密の合言葉を教えてくれる女給。どこまでもついてくるかもめ。
最後は夜の海という水平線が見えない闇の景色に、読者がそれぞれの水平線を思い浮かべて話を閉じる。モチーフの連なりによって、いつのまにか青い空と海の水平線が印象づけられている。このモンタージュのような語り口がタブッキだなぁと思う。そしてこの余韻を引きずったまま、須賀さんの役者あとがきを読めるという贅沢!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
住む街のうつくしさをあんなに感じ取れるのにそれでもそっちにいってしまうの、こっちはそんなに無価値なの、というかなしい読み心地の本だった。だんだん頭のねじが緩んでいったのは、それまでのスピーノの生の不本意さがあってのことかもしれず、ただ見ているばかりの無力感が残った。サラが「似てるね」って言わなかったらそっちの方にそれていかなかったのかな、休暇から帰ってきたら彼女は悲しむだろう。
小さな町(訳者によるとジェノバらしい)に住んでみたいと思った。東京は広すぎて、かえって家にいるしかないようなところがある。 -
050710
あとがきのみ既読