- Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560046517
作品紹介・あらすじ
芸術の域に高められたアニメーション、塔の王妃の懊悩、呪われた画家…ピュリツァー賞作家が紡ぎだす蠱惑的な夢を精緻な名訳で贈る。アメリカ最後のロマン派による繊細にして夢幻的な小説世界。
感想・レビュー・書評
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白水Uブックスで既に持っていたのだが、古本屋でハード・カヴァーを発見。
好きな作家だったので、思わず購入してしまった。
以下の感想は白水Uブックス読後に書いたもの。
三つの短めの中編からなる作品集。
この人の作品は、たとえ読み始めは「うーん、どうかなぁ、いまひとつかなぁ」と思うことがあっても、読み進めるうちにどんどんとその世界に没入し、読み終わった頃には頭のてっぺんまでドップリと浸かってしまう。
今回の三つの作品もそんなドップリと浸かることが出来る僕にとって本当に極上の内容だった。
一人の漫画家の半生を丹念に描いた「J・フランクリン・ペインの小さな王国」、短めの章を重ねながら、王、王妃、王の友人、そして小人と四つどもえの心理戦を行っているような「王妃、小人、土牢」、一人の芸術家の絵画解説集を模しながら、二組の兄妹の悲劇の顛末を描いた「展覧会のカタログ-エドマンド・ムーラッシュ(1810-46)の芸術」。
いつものようにどの作品にも過剰なまでの細かい描写が多く、読む人にとっては少しくどい印象を与えるかも知れないが、これはこれでやはりミルハウザーの魅力の一つだろう。
そして、読む人の心をそっと、それでも大胆に切り開いて、中身をさらけ出してしまうような心理描写の凄さ。
「J・フランクリン・ペインの小さな王国」のラストで描かれた胸をすくような感動。
そのどれをとっても、僕にとってミルハウザーは最高の作家の一人である証となっている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
微細な描写が官能的といってもいいめまいを招きます。「J・フランクリン・ペインの小さな王国」のような狂気じみた創造性の追及はミルハウザーの得意技。しかも、泣けます。ありがとう。ありがとう。どうか。もうそんなに。。
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一番最初の話だけ面白かったかな?
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三つの中篇小説。
それぞれ漫画、物語、絵画という芸術を創り出す物語で、ミルハウザーの姿がなんとなく重なってくる。
中でも「J・フランクリン・ペインの小さな王国」が素晴らしい。主人公のアニメーションに対する少し狂気の混じったような情熱と、それが導く幻想的な情景。美しい物語。 -
3本の中編が収まった作品。訳者は「J・フランクリン・ペインの小さな王国」が一番ミルハウザーらしいとあとがきで言っているが、私は独特の形を持った「王妃、小人、土牢」と「展覧会のカタログ」の方が好きかもしれない。どれもミルハウザーらしい、形容しがたい作品。
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3つのお話からなる。一番心をひかれたのは,フランクリンのアニメーション。王妃もカタログも挑戦的な小説で,形態が異質な作品。王妃・・・は場面ごとに小見出しがつけられ,不連続な形で話がすすんでいく。展覧会のカタログも,絵の解説からムーラッシュの物語を読み取っていく形。おもしろかったけど,やはりちょっと読みにくかった。
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2009/7/7購入
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(2008.07.30読了)
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ファンタジー物のようなタイトルですが、わくわくする冒険夢活劇!みたいな話ではなく、ファンタジーと敢えて言うならば、ダークファンタジーや幻想小説にカテゴライズされるような三篇が収録されている。<br>
三つ目のお話は、ある画家の絵画のカタログのような作りになっていて、面白い手法だと思った。残した絵画、一枚一枚についての解説のみで物語が構成されている。まるで本当に存在しているかのような執拗さで、絵の内容や色使いなどが描写される。画家の感情が如実に表れた絵画の数々が、読者の目の前に鮮やかに浮かんでくる。生み出した作品に纏わるエピソードを交えながら、画家の半生が描かれていく。暗く陰鬱な絵ばかりを残すようになり、いやな予感を漂わせる後半から、最期に残した自画像に纏わる衝撃的な出来事とラストへの流れが見事。