目かくし

制作 : Siri Hustvedt  斎藤 英治 
  • 白水社
3.71
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本棚登録 : 48
レビュー : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560046876

感想・レビュー・書評

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  • ポールオースターの妻の作品。
    コロンビア大の院生の女性が、主人公。作者自身もコロンビア大で博士号を取得しているので、主人公と重なる。独特の雰囲気を持ち読者を引き込む。

  • なめらかな強姦のような、こわい本。
    主人公の名前はirisであり、
    それは逆さ綴りのSiriなのであります。

  • ここのところ、ポール・オースターという作家が割と気に入っている。オースターを一言で言うなら、幾つもの物語が折り紙細工のように畳み込まれた話を書く作家だと言えると思う。その作家にこの小説は奉げられている。それがシリ・ハストヴェットの処女作「目かくし」である。なんのことはない、彼女はポール・オースターの妻である。

    もちろん、そのことを知っていて本を手に取っているので、どこかで、ポール・オースターの語り口をその妻にも期待していなかったと言えば嘘になるだろう。しかし、その期待は根拠のない期待でもあった。もちろん、その責任がハストヴェットにあるわけではない。しかし、単に今まで読んだことのない作家の作品を読む時よりも、なぜだろう、厳しい目で本を読んでしまうのは。

    残念ながら、長編としてこの作品は焦点が定まらない印象が強い。それは逆に言えば、各章の物語が個々として余りにも強い印象を投げつけて来るから、というべきなのかも知れない。あとがきによれば、もともと短篇として発表されたものを幾つか繋ぎ、それに新たに章を足して長編にしたらしい。やはり、と思う。その創作背景など知らなくても、きっとそのようなものなのだろうなと気づいてしまう程、余りに鮮やかに個々の話が独立、あるいは孤立と言った方がよいかもしれない形で残っているのだ。更に言えば、ただ残っているのならまだいいのだが、各章の間には有機的な関連性が薄い、という印象が残る。各章に出て来る「私」は、同一人物であるということになっているのだが、章が切り替わる度、頭の中で人物像を一から作り上げ直さねばならないような気にさせられる。エピソード間の前後関係も、注意深く思い返さなずにはいらいらした感じが休まらない。端的に言って、ここに登場する「私」は、私であってかつ誰でもない。時にシリ・ハストヴェット自身のようであり、時に、ニューヨークに住む典型的な学生の一人のようであり、精神的に病んだ女性のようでもある。それが、一人の女性の多面性を表現している、というのが作者の意図であるのかも知れない、とは思う。それは作家の自由である。しかし、そうであるならば、そのことは、もっと尤もらしく描かれて欲しかった。ここまでバラバラに切り取られ、時間的にも辻褄が合っていないようにも思える話の集まりが提示され、名前が同じだから、同じ人物なのだと言われても、困ってしまう。頭で理解しようとし一応納得もしてみるのだが、体がその結論を受けつけない。

    ハストヴェットは何故、これを長編にまとめようとしたのだろうか。もしこれが、ニューヨークに済む女性を個々に切り取って来た短篇集だったとしたら、自分はもっと肯定的にこの本を読むことが出来ただろう。個々の話には、読者を惹きつける力がある。特に第三章の物語が自分はとても気に入っている。偏頭痛に悩まされ入院を余儀なくされた若い女性が、病室を共にするO夫人とM夫人を描きながら、自分の内面に降りていく話だ。その中に、前の章から引き続き登場する男性も登場するのだが、この男性はかつての女性の恋人である必然性はない。誰でもよいのだ。話の中心はO夫人とM夫人、そしてその二人に翻弄される(翻弄されているという意識もないまま、それを自分で綴る、というのも興味深い)女性にある。

    思うに、個々の短篇の個性が余りに強過ぎるのでないか。長編の中にあるリズム、例えば起承転結のようなリズムを読む側は要求しているのに、ここに書かれている物語は、ひとつ一つが余りにも強く輝いていて、その都度眩暈のようなものを感じてしまうのだ。もし、この長編が初めから全体を見渡した構成で書かれていたら、と想像してみる。ひょっとしたらまた違った趣になったのかも知れない。しかし、それはそれで妙に陳腐なものになってしまうような気もする。そんな細部にこだわりつつ全体の構成も計算されたような物語を語るには、きっとポール・オースターのような才能が必要なのかも知れない。もしポール・オースターがこの物語たちを糸と針で縫い付けるのだとしたら、彼らしく仕上がるように思う。

    しかし、この一見バラバラにされた女性の内面は、そのバラバラさから来る切実さは、薄れたのかも知れない。このひとつ一つが妙に尖った、焦点の定まらない長編こそ、恐らくシリ・ハストヴェットが書きたかったもので、ある意味で、ポール・オースターの描く不思議な予定調和的世界に、真っ向から異を唱えるものであることが、その作品の隠された意図だとしたら? それはあり得ないことではないことのように自分には思えるのだった。

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