古書修復の愉しみ

  • 白水社
3.82
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本棚登録 : 70
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560047873

作品紹介・あらすじ

触れただけでぼろぼろと崩れそうな古くて貴重な書物を丹念に修復してゆく。-手仕事の技を学ぶ愉しみ、実践する喜びをいきいきと描く。

感想・レビュー・書評

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  • 保存科学を専攻していた大学時代でさえ、本の保存修復について何か学ぶことはほとんどなく、その技術や処理方法はあるのはあるが、どのようなものかはわかりませんでした。

    本書の訳者あとがきでも書籍修復が珍しい仕事であることが書かれていましたが、この本は修復技術のノウハウや、専門知識を深めるというような内容ではなく、書籍修復家の著者が日々の修復活動の中で感じたことや、どのような本をどう処理したのかというような日記的な内容になってします。

    修復は今では大学などで専門的に学ぶことが主流みたいですが、著者の時代は修復家の元で弟子として学ぶことが多かったようで、師匠からは技術や知識だけなく修復に対する姿勢も学んだとあり、その姿勢を知る本として日本人が書いた本を紹介され、熟読したとあるのは興味深かったです。

    文化財の保存修復の原則は現状をほとんど改変しない方法を選ぶと学んだ人は、一部、その修復でいいのか疑問に思うところがあるとおもいます。それは当時の考え方によって行われたもので、考え方の違いを知る上での関心も湧いてきます。

  • <閲覧スタッフより>
    日本ではあまりなじみのない書籍修復家という職業。欧米では主要な図書館や文書館には資料の保存修復をする部門があるそうです。著者が大学図書館の修復部で働きながら、修復家として技術を習得していく過程を綴った自伝的作品。
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    所在記号:014.66||WIA
    資料番号:20075639
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  • 本好きと呼ばれる人には二種類ある。一つはいわゆる読書家。本を読むことが好きな人たちで、読むことさえできれば、文庫であろうが、借りた本であろうが関係ない。もう一方は、愛書家と呼ばれる人たち。無論読むのも好きだが、それだけにとどまらず本という物自体が気になってならない人々である。当然、装幀、造本に煩い。本好きの多くは、この二極のどこかに位置しているはずだ。私自身は、どちらかと言えば、後者よりか。本という物の成り立ちや作りに興味がある。

    京極夏彦の本でお馴染みの中禅寺秋彦は古書店主だが、扱うのは主に和綴じ本。衒学趣味を満足させるには古書店主の探偵というのはいい設定だが、資料的価値はともかく、本としての堅牢さ、美観という点では、洋書に一歩譲るのではないだろうか。しかし、その洋書も時の浸食には勝てない。洋の東西を問わず古書は傷みやすい。そこで、古書の修復を専門に担当するブックアーティストと呼ばれる人が登場してくる。

    著者は大学の出版局で製本を学んでいるときに、古書修復の第一人者であるウィリアム・アンソニーに出会う。「一冊ずつ違う本を作る方が、そっくり同じ本を二百五十冊をつくるよりはるかにいい」と、考えた著者はビルに弟子入りし、古書修復のノウハウを直接伝授されるという幸運にめぐりあう。敬愛する師との出会いから別れまでを、実際に担当した古書修復の現場報告を交えながら綴ったのが、本書である。優れた仕事でありながら、あまり世間の注目を浴びない世界に読者を導いてくれる貴重な一冊といえるだろう。

    実際、古書の修復というものがどのようにして行われているのか、著者は自分の担当した『ロシア遠征詳述』を例に、初心者にも理解できるように、丁寧に解説してくれている。道具や用紙の準備から薬剤の製法まで、これを読めば、そのおおよそは分かるのではないか。何よりも大切なことは、無味乾燥になりがちな解説書めいたところがなく、はじめて出会った古書修復にかける著者の意気込みや、失敗したときの落胆ぶり、師の支えによって見事成功したときの喜びが、ある時は初々しく、またある日には自信に満ちて、こちらに伝わってくるその筆致である。

    仕事の上でも人間的にも尊敬できる師と過ごす毎日。気心許せる仲間とのふれあい。時には、講師として出かけたワークショップで、騒ぐ児童に疲労困憊したりもするが、適切な助言と見本を与えてくれる師のおかげで、次第に独り立ちしてゆく著者の姿はまぶしいくらいだ。現代にあっては、存在すら危ぶまれる職人の徒弟制度というものに対するちょっと面はゆいほどの傾倒ぶりは、日本人職人オーダテ(大館年男)の著書の引用から熱く伝わってくる。

    楮(こうぞ)紙や寒冷紗といった紙だけでなく、他の用途で作られた道具を借用して製本用の道具にしている古書修復の世界では、鉋や砥石その他、日本の道具が多く使われている。国連やオリンピックで騒がれるより、こういうところで頼りにされる日本という存在に心惹かれるものがある。手仕事の世界では、まだまだ貢献できることがあるのがうれしい。

    本を全部ばらして、紙を薬品につけて水洗いをし、中和させることで酸性化を止めたり、ポリエステルフィルムの袋で挟み込んで再び製本したり、と古書修復の現場でとられている作業の実態には、驚かされることも多い。同じ出版社から先に出ている『本棚の歴史』と併せ読まれると一段と興趣が増すことだろう。読書の秋にお薦めしたい一冊。

  • 2010/08/30-
    天神

  • 物語に出てくる古書修復家の皆さんの、本と向き合う姿勢に強く感銘を受けます。
    絶版のようです。なんとしても手元に置いておきたい一冊。

  • 分類=本・古本・修復。04年9月。

  • [ 女性書籍修復家が、今は亡き師に捧げた自伝 ]

    米国の女性書籍修復家が、
    亡き師に捧げた自伝。
    書籍修復という職業を紹介しつつ
    師との絆を感動的に描いています。
    どこか静かな宗教家を思わせる
    古書修復家の世界を垣間見られる作品。


    読了日:2005.12.23
    分 類:エッセイ
    ページ:230P
    値 段:2400円
    発行日:2004年8月発行
    出版社:白水社
    評 定:★★★+


    ●作品データ●
    ------------------------------
    テーマ :古書修復
    語り口 :1人称
    ジャンル:エッセイ
    対 象 :一般〜書籍関係者向け
    雰囲気 :感動系、専門的
    扉写真 :John Van Allen
    装 丁 :東 幸央
    ------------------------------

    --オリジナル・データ-------------------
    A DEGREE OF MASTERY
     A Journey Through Book Arts Apprenticeship
    by Annie Tremmel Wilcox
    c1999 Annie Tremmel Wilcox
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    ●菜の花の独断と偏見による評定●
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    文 章 :★★★
    描 写 :★★★
    展 開 :★★★+
    独自性 :★★★★★
    読後感 :★★★
    ------------------------------

    ---【100字紹介】-----------
    一流の製本家・書籍修復家であった故・
    ウィリアム・アンソニーに女性として初めて弟子入りした著者が、
    書籍修復職人として成長していく過程を丁寧に綴る自伝。
    書籍修復という職業を紹介しつつ師との絆を感動的に描く
    ------------------------------

    古書修復。うーん、魅力的な言葉です…と思う菜の花は変ですか?いやいや、本が好きな人にならきっとこの気持ちは分かって貰えるはず。書籍の修復なんて、菜の花にとっては小学生の頃に図書委員会で破れた本を修復テープで補修したくらいなんですが、資料保存とかそういう言葉には憧れを感じます。読めなくなって失われていこうとしている本が、もう一度蘇り、人の利用に供されていく姿というのは感動的なものがあるように思います。


    本書はアメリカの女性書籍修復家の、弟子入り、修業を経てひとり立ちしていく様を描いた自伝。第1章「始まりと終わり」はまさに始まりと終わり、つまり弟子入りするまでの経緯と、修業を終えた著者が1人前の修復家として書籍修復をしていく過程を交互に描いた章となっています。

    書籍修復というものの実態というのは、一般には知られていないもの。興味があったはずの菜の花でも、殆ど知識はありませんでした。書籍修復は基本的には手仕事、職人芸ですから幾ら知識を蓄えても実際に手を動かして練習していかなくては実際のところは分からないものかもしれませんが、それでも読み進むにつれて目の前に次々と現れる作業を読者は著者の視点、著者の手さばきで見つめていくことができます。元の状態を観察し、修復の計画をたて、ばらし、ページを洗浄するためにバッドの中の脱イオン水に浸し…。紙を水に浸してしまうという洗浄方法は、慣れない人間の目には驚き以外のなにものでもありませんでしたが、著者の手は気にせずに次のステップに進んでいきます。困難に直面する困惑や恐れ、自分の技術への信頼と誇り、巧く修復が完了したときの喜びがダイレクトに伝わってくる文章です。


    そしてもうひとつの本書の大きなテーマは、師・アンソニーです。アイオワ大学大学院に在籍しながら、大学付属印刷所で働いていた著者が、一流の製本家であり書籍修復家であるアンソニーの製本講座を受講し、その楽しさにのめりこんでいくところから話は始まり、やがてアンソニーに弟子入りすることに。昔ながらの徒弟制度で育った職人アンソニーとしては初めての女弟子だった著者は、大学図書館の保存修復部の職員として、アンソニーの指導を受けていたのですが、僅か1年でアンソニーは帰らぬ人となってしまうのです。このアンソニーの人柄や教えを丁寧に描いた前半を読んでいると、これが作り物のお話で、アンソニーは本当は亡くなってなどいなければいいのにと彼の死に無念さに胸が痛みます。全編を通して著者の、師への敬慕の念とその意思を受け継いでいく決意が強く感じられました。


    本書の内容は1980年代のもので、現在の技術とは少し事情が変わっているということはあるようですが、概略は変わっていないと思います。現代との時間差は直す対象の作られた時代との隔たりの中では小さなものですから。人間1人が生きられる時代を何人分も乗り越えてきて
    昔に確かに生きた人間が作り遺していった古書。これを次の世代へ、昔の形のままに受け継いでいこうという、どこか静かな宗教家を思わせる古書修復家の世界を垣間見られる1冊です。

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    「湯船の中でも、スパゲッティを食べながらでも読めて、
     しかもページを傷めないんだ。」
    そして私をじっと見つめ、にやりとした。
    「でもそんなことはしないね!」
    (ウィリアム・アンソニー)
    貴重本に新しい製本法を試みて。

    ---------------------

  • 本屋で一目見たときから、ハァハァしてしまう、この題名!

    しかし、以前、やはり『製本工房から』っていうステキな題名の本を買ったものの、
    装丁士の本当に日々の雑記だけが書かれていて、
    非常にげんなりしたことが脳裏をかすめたんだけど、
    表紙と、作者が外国人と言うことを信じて新刊で購入決定。

    アタリでした。

    日本だとあまり馴染みがないけど、
    海外では装丁、古書修復ってのが専門の教育機関、組合もあるくらい地位のあるもの。
    そのアメリカの第一人者ウィリアム・アンソニーの女性弟子1号の作者のエッセイ。

    敬愛する師匠との思い出と、古書修復の手順が交互に出てきて飽きさせない。
    紙の脱酸やら、折りのかがり直しやら、革装の張り直しやら、
    と古書修復の記述はもちろん、この師匠との思い出もまた面白い。
    こういう恩師との思い出は退屈だったりすることもあるけど、
    その古書修復に対する心構えや技術が常に書かれていて退屈とは無縁。
    また、日本の道具や建具師の職人としての心構えもよく出てきて、日本人としても気を惹かれる。

    この手のことに興味がある人なら、是非オススメ。
    やってみたいなぁ。

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