ハムレット (白水Uブックス (23))

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560070239

感想・レビュー・書評

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  • 「演劇論」の課題。改めて読むと、先王の妻、ハムレットの母の再婚は性急で、不倫の匂いがします。ハムレットが見た亡霊は妄想でしょう。マザコンの彼は母の再婚が認められなくて都合のいい物語を語らせたと思います。オフェーリアは父兄に忠実であり狂乱に至るのは不自然に思えました。時間をおいて読むと登場人物の印象が変わりますね。

  • "To be, or not to be, that is the question."(「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」<本書訳、以下同>)、"Get thee to a nunnery." (「尼寺へ行くがいい」)、"Frailty, thy name is woman."(「心弱きもの、おまえの名は女!」)など、数々の名台詞で知られるシェイクスピア悲劇。

    デンマーク王子、ハムレットは憂えていた。偉大なる父王が突然の死を遂げ、次に王位に就いたのは王の弟でハムレットの叔父であるクローディアス。高潔な兄に比べ、(ハムレットの目から見ると)卑小な弟。王と呼ばねばならぬことさえ苛立たしいのに、あろうことか、前王の死後、二月足らずで母王妃は現王に嫁した。悲嘆と憤怒の只中にあるハムレットの前に、父王の「亡霊」が姿を見せる。亡霊は弟に謀殺されたと告発し、ハムレットに敵を討つよう命じる。ハムレットの深い煩悶は、周囲を引きずり込みながら、破滅へと雪崩れ込む。

    結末では、主要登場人物のほぼすべてが死んでしまうという一大悲劇である。
    ハムレットの人物像に関しては、古来、議論があるようだが、読み返してみても、すっとは呑み込めない「わかりにくさ」がある。
    叔父が父を本当に殺したのであれば、さっさと皆に疑いを明らかにして、裁きの場に引きずり出せばよいではないか。気狂いの真似をするのが有効な手段とはあまり思えない。
    「生きるべきか、死ぬべきか」とも訳された"To be or not to be."の"be"は何を指しているのか。
    ハムレットの逡巡は、確かな証拠がないことによるのか。叔父の自白を待っているのか。
    八つ当たりのようにかつての恋人オフィーリアに冷たく当たり、彼女の父を(過失とはいえ)殺してしまってもあまり後悔の色もない。
    とはいえ、父王を殺され、母が邪悪な男の手に落ち、恋人も失い、ついには絶望のうちに自らの命も失うのだから、悲劇の中心人物であることには違いはない。

    この話、周囲の人々もそれぞれに悲劇を抱える。
    兄の死後、王位に就いたクローディアス。
    自ら兄殺しに触れるのは、中盤を過ぎたあたりの傍白部分が初めてである。前半だけだと、気難しいうえ、おかしな想念に取り憑かれた義理の息子を扱いかねているようにも見える。
    一応、前王殺しの犯人ではあろうけれども、何だかこの人も謎が多い。美しい兄嫁が好きだったのならば、なぜもっと早く手を下さなかったのか(それこそハムレットが生まれる前に!)、面倒くさい義理の息子を早いうちに片付けなかったのか、いろいろすっきりしない。穿った解釈をすれば、「兄殺し」は、例えば兄が倒れていたのを見つけたのに適切に助けなかったといったような消極的な意味と受け取れなくもない。そうなると、亡霊の告発を聞いているのはハムレットだけなので、すべては難しい年頃の青年の妄想だったという可能性もなくはない。クローディアスは最終的には汚い手でハムレットを陥れるわけだし、さすがにそれはないかとは思うのだが。
    となると、息子を愛する王妃を慮るばかりに、冷酷非情に徹しきれなかったところが、この人の「悲劇」といったところか。
    極悪非道というよりは、小人物の趣である。

    王妃ガートルード。
    前王を愛していたとはいうが、死を悼む涙も乾かぬうちに、弟と結婚する。
    この人が兄王、弟王をそれぞれどう思っていたのかもすっきりしない。王が突然死に、外国との間も平穏無事というわけではない。そうであれば、年若い王子よりも、それなりに分別のある年頃の王弟を王に迎え、王国の安泰を図るのも1つの手だろう。弟王が狡猾で邪悪だと知っていたのならともかく、そうではないとすると、「事件」の様相はがらりと変わる。息子が再婚相手を嫌い、わけのわからぬ因縁をつけてくる。気がおかしくなってしまったと悲嘆にくれても無理はない。

    恋人オフィーリア。
    この人こそ、罪科がないのに巻き込まれてしまった悲劇の人だろう。
    前王殺しにもまったく関係がなく、邪淫に堕ちたわけでもない。ハムレットが何に悩んでいるかも明かしてもらえぬまま、一方的に冷たい言葉を浴びせられ、父親も殺されてしまう。ショックのあまり、本当に気が触れ、最後は命を落としてしまう。気が触れてからのオフィーリアが発する、辻褄は合わないながらも断片的に鋭い洞察を秘めた台詞は味わい深い。
    ジョン・エヴァレット・ミレーも描いた、悲しい美しいオフィーリア。
    「尼寺に行け!」と言われたときに、本当に尼寺に行ってしまえばよかったのに、と思わぬでもない。神はハムレットのようにひどい仕打ちはしなかったろう。

    その他、ハムレットの忠実な友人であるが、ともに死ぬことを許されず、語り部となることを強いられたホレイショー、阿諛追従の徒ではあるが、悪意のないポローニアス(オフィーリアの父)など、いずれも幸せにはならない登場人物たちも、鮮やかに描き出される。

    シェイクスピア作品は、概して、堅牢にがっちり作られているというより、どこかいびつであったり、「隙間」が残っているような印象も受ける。
    ただそれはすべてシェイクスピアが意図したというよりも、成立の事情も絡んでいそうだ。ハムレットには、Q1、F1、Q2(Qは四折本、Fは二折本の意)という3つの版が知られており、各版間で、台詞の有無、場面の移動・カットなどがある。一般的には、F1版を元本とすることが多い(本書も含む)。*光文社古典新訳版はQ1を元にしているので、読み比べるのもおもしろいかもしれない。
    どれがオリジナルに近いかは議論があるようだ。戯曲というものの性質上、演出者や出演者の判断で元の脚本に手を加えられることもあったろう。
    いずれにしても、さまざまなエピソードに「穴」や「引っかかり」があることで、読み手・観客の想像をかき立て、物語の中に引き入れ、何度鑑賞しても飽きさせない、そんなマジックが効いているようにも思う。

    恐るべし、シェイクスピア・ラビリンス。

    • ぽんきちさん
      淳水堂さん

      コメントありがとうございます。

      そ、そうか、優柔不断(^^;)。理由はそれかよっ!とハムレットの胸ぐらを掴みたくなり...
      淳水堂さん

      コメントありがとうございます。

      そ、そうか、優柔不断(^^;)。理由はそれかよっ!とハムレットの胸ぐらを掴みたくなりますねw
      王妃様が無邪気、というのもなるほど、最強の理由かもw

      いろんな解釈が出来るのがおもしろいところなんでしょうね。オリビエ版もギブソン版も機会があったら見てみたいです。

      個人的にはぜーんぶハムレットの妄想だったバージョンも、それなりにおもしろそう&見てみたい気がしますw
      2016/10/03
    • 淳水堂さん
      >ぜーんぶハムレットの妄想だった
      そう考えるとすっきりするところが困ったところ(笑)

      ・ハムレット王子は推定30歳(23年前に死んだ...
      >ぜーんぶハムレットの妄想だった
      そう考えるとすっきりするところが困ったところ(笑)

      ・ハムレット王子は推定30歳(23年前に死んだ道化の事をはっきり覚えているぞ発言、職歴を聞かれた墓堀人が「ハムレット王子が生まれた30年前から」と答えていること)。
      とっくに成人してるんだから父王が死ねば王位継承したっていいはず。
      それをわざわざ王の弟が継いだのはハムレット王子になにか問題が?

      ・ボローニアスはハムレット王子から見れば老獪で悪党の手先だけれど、よくよく読んでみれば国と家族思いの忠臣。
      息子と娘への助言「金の貸し借りはするな。友情を壊す」「服装は立派に。でもけばけばしいのはダメ」「ハムレット様は王子、おまえ(オフィーリア)は臣下なんだから近づきすぎるな」。うん納得。クローディアスが悪人と知らなければハムレット王子の方ががおかしいと思うだろうなあ。

      ・ハムレット演出の劇をみて動揺するボローニアスをみて、ハムレットは「やっぱり叔父が父を殺したんだ!」と確信するんだけど、
      あれって観客から見れば「甥(ハムレット)が叔父(クローディアス)を殺すという強迫」にしか見えないんじゃないの?そりゃーガートルードやボローニアスがハムレットを危険人物扱いするよ。

      そういえば、志賀直哉の短編『クローディアスの日記』が、クローディアス目線で「義理の息子になった甥が自分を狙ってる!こいつヤバい!」という内容らしいですよ。読んだことないけど。

      まあ妄想でなくクローディアスが本当に王位を簒奪した状況を推測するとしたら、
      ハムレット王が死ねば普通はハムレット王子が王位継承するところを王子が海外留学中(ハムレットが「ここにいても日陰者だからナントカ大学に戻りたい」とか言ってる)にクローディアスが兄を殺害。
      デンマークは内乱外圧の危機も多いので、「経験のないハムレット王子よりこの私を王に!」とアピール、さらに兄の妃を娶ることにより自分の王位継承の正当性をアピール…と言うところでしょうかね。

      映画版ではメル・ギブソンのハムレットが男の葛藤というかんじでなかなかすっきりしたので機会がありましたら是非!(^^)! 
      2016/10/03
    • ぽんきちさん
      淳水堂さん

      ぶっw まさかのハムレットやばい順当説w
      ちょっとマザコンぽいというか、こじらせちゃった感がありますよね(^^;)。
      ...
      淳水堂さん

      ぶっw まさかのハムレットやばい順当説w
      ちょっとマザコンぽいというか、こじらせちゃった感がありますよね(^^;)。
      「クローディアスの日記」、リストに入れておこうと思いますw

      でもまぁ、叔父もやっぱ善人ではなさそうで・・・。

      メル・ギブソン版、見てみたいです。
      いずれにしても役者もやりがいがありそうな役ですよね。
      2016/10/03
  • 5幕もあるお芝居だ。有名なセリフは意外とシレッとあらわれて下手をしたら気づかないくらい。こう、いろいろ地口みたいなのがあって工夫を凝らして訳されているものと思う

    ピンと来ないといえば来ない。また舞台で見ると違うのかしらね。解説によれば読むもので演じるものでないとする評者もいるようだが

  • ひっさびさに沙翁読んだけど、(ていうか戯曲も久々)なんてーかこの前時代的思想・・・みんながみんな仲悪い雰囲気・・・飛び交うハイセンスすぎる罵詈雑言・・・思い込みの強い登場人物たち・・・シェイクスピアだなあ・・・

  • ・最後は、みんな死んで、ノルウェー王子フォーティンブラスにデンマークを譲るというところが、意外。

  • 小田島雄志訳。あまりにも有名な「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」の箇所は、訳者の新しい解釈だそうだ。自分的には、小田島訳の方がしっくりきた。
    初見だが物語として面白く読めた。確かに結末は悲劇なんだけど、狂人を装ったハムレットの皮肉たっぷりの台詞などニヤリとする場面も多い。
    芝居で見たくなる。

  • はじめてシェイクスピア作品を読んでみました。
    が、残念ながら、いまいち感動できませんでした。
    この戯曲形式に慣れていないのか、
    想像力や感性が乏しいのか…。
    作品にというより、この作品を味わって凄いと思えない自分にガッカリ。

  • ハムレットの"狂気"がきっかけとなり色んな人が死んでいって、(元はといえば弟=現国王が悪い?んだけど)、最後は大切な人たちもみんな死んでしまって、めちゃくちゃかなしいなと思った。

  • 誰もが知っている古典だが、日本人はあまり読んでいないと感じる。
    かくいう自分も何度か読んだが全然頭に入ってこなかった。戯曲に触れることが少ないからだろう。
    その点、小田島雄志役は読みやすい。
    他の戯曲も読んでみよう。

  • 4大悲劇のうちの1つ

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著者プロフィール

イングランドの劇作家、詩人であり、イギリス・ルネサンス演劇を代表する人物。卓越した人間観察眼からなる内面の心理描写により、最も優れた英文学の作家とも言われている。また彼ののこした膨大な著作は、初期近代英語の実態を知る上での貴重な言語学的資料ともなっている。
出生地はストラトフォード・アポン・エイヴォンで、1585年前後にロンドンに進出し、1592年には新進の劇作家として活躍した。1612年ごろに引退するまでの約20年間に、四大悲劇「ハムレット」、「マクベス」、「オセロ」、「リア王」をはじめ、「ロミオとジュリエット」、「ヴェニスの商人」、「夏の夜の夢」、「ジュリアス・シーザー」など多くの傑作を残した。「ヴィーナスとアドーニス」のような物語詩もあり、特に「ソネット集」は今日でも最高の詩編の一つと見なされている。

「2016年 『マクベス MACBETH』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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