ブロディーの報告書 (白水Uブックス 53)

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  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560070536

感想・レビュー・書評

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  • ダニロ・キシュを読んだら
    https://booklog.jp/item/1/4488070779
    ボルヘスが読みたくなったので。

    ボルヘスが好きな作家のひとり、キプリングの直截な作品を読んで、「才能豊かな一人の青年が考えて実地に行ったことを仕事の心得のある老境の男が真似ても不遜のそしりを受けるはずがない。そうした思案から生まれたのがこの本である。」ということ。長年書いて、考えて、重苦しさや意外性を取り去り直截表現に辿り着いた心境を「年を取って、作者はボルヘスであることへのあきらめの境地に達したのだ」と言っている。
    いままで作品では「自分が自分になった瞬間」を書いてきたボルヘス本人にもその時が来て、その時が過ぎたのだろうか。

    さて、ここに収められているのは、本人が言うように、直截というか、分かりやすい短編たち。
    一昔前に南米男のマチスモ(男らしさ)を書いたもの、物の意思が人を操るという因縁、表には出ないが密かに行われていた勝敗の物語、人がそれを選んだその一瞬の心情、など。
    「他の人から聞いた話だが…」として語られる物が多い。
    また、前書き最後に「舞台は架空の時間と場所ということにしておくよ。読者の中には『当時はそんな言葉使いはしなかった』などと咎めてくる人たちがいるからね」と断っているのがなんかおかしい(笑)。現代ではネットが発達したり海外へ行く人も多いので、ちょっとした間違いに指摘が入りまくるのはあるけれど、このボルヘスの時代からもそんなチェックする読者はいたのね(笑)


    二人で牧童をしていたクリスチャンとエドゥアルドの兄弟は、ある時召使として一人の女を連れてくる。
    そんなことは男らしくないと思いつつ、彼らはその女に恋をした。
    最初は共有することで保った均衡はやがて崩れ…
     *** 題名が『じゃま者』ですからね、それが”マチスモ”の解決方法になるんですね。
     /「じゃま者」


    少年は、ならず者のフェラリを英雄視していた。そしてフェラリにいっぱしの男として信頼された少年は…
    *** これまた題名が『卑劣な男』ですからね。「彼がそうした、その気持ちになるまでの日々を遡る」という話。
     /「卑劣な男」


    短編『薔薇色の街の男』の姉妹編。『薔薇色~』では挑発された男がそれには乗らずに姿を消す(それは非常に男らしくないことだが)のですが、ここではその姿を消した男が、なぜそのような心境になったかを話す。
     /「ロセンド・フアレスの物語」


    別荘で起こった決闘騒ぎ。
    「ぐさりと突き刺さったナイフ。地面に倒れている死体。すでにこの世にいないが、九人か十人もの人間が、わたしがこの眼で見たものを見たわけだ。しかし彼ら他見たのは、実はもっと古い別の話の結末だった。(…略…)闘ったのは人間ではなく、ナイフだった」
    二人の男が手に取った二振りのナイフは、かつての持ち主が対決を望みながらも果たせなかった対決を行ったのだろうか。
     /「めぐり合い」


    無法者フアン・ムラーニャと連れ添った女は、フアンが死んでも彼への憎しみと愛を持ち、フアンの残した得物にその気持ちを同化していた。
     /「フアン・ムラーニャ」


    ラテンアメリカ独立当時の軍人ルビオ大佐の娘で、もう百歳になろうとしているマリア・フスティーナ老夫人は、記憶も薄い父の思い出、行ったこともない父のかつての荘園を懐かしんでいた。
    世間からすっかり忘れらていたルビオ大佐だが、ある晩陸軍大臣が訪問すりためのパーティーが開かれる。 
    戦争が終わって長い年月が経ったが、その戦争最後の犠牲者たる者がいる。
     /「老夫人」



    クララ・ゲレンケアンは、夫の死後、友人マルタ・ピサッロの影響で絵を描き始めた。
    クララとマルタは互いを尊重し合い、だが二人の間には微妙な争いがあったのだ。
     /「争い」


    マヌエル・カルドーソとカルメン。シルベイラは、それぞれの心に相手への憎しみを募らせていた。
    独立戦争で捕虜となった二人に、敵方の指揮官が告げる。「お前たちを並べてその首をはねてやる。その後で競争をやるんだ。果たしてどっちが勝つのか、これは見物だ」
    二人の最初で最後の闘いは、その首が切り落とされたのと同時に始まった。
     ***実際にあったことを元にしている??捕虜の処刑は一種の見世物だったのか、もはや皮肉さえ超えているような男の対決。
     /「別の争い」


    私はシモン・ボリバルとホセ・アベリャーノ博士の書簡を鑑定するという推薦を得たのだ。だがその役は、私と同時に推薦されたツィマーマン博士の物になった。
    今私は、なぜ私があのようにしたか、第三者の目で書き記そう。
     /「グアヤキル」


    田舎の農場に滞在した医学生は、農場の家族に聖書を読み解いた。
    農場の家族は、実に素朴に原始的にその意味を彼らなりに解したのだ。
     *** いやいや、怖いよ。ちょっと書き方を変えればホラー映画でありそう(><)
     /「マルコ福音書」


    キリスト教宣教師のブロディ―が訪れたブラジル密林地帯の野蛮な種族。彼らの生活と思考。
    原始的生活を営む人たちはどのような思考になるのか。魔術を信じ、時間とは切り取った”今”だけであり、想像力には欠けているからどんなに残酷なことでもできる。
    だが自分たちに文化があるように、彼らにも文化がある。彼らなりに言葉があり、王がいて、霊魂や死後の世界を信じている。それは原始的な人間というより、退化した人間の姿なのだろう。
    だが彼らを救うのは私たちなのだ。文明社会に戻ってからも、彼らが忘れられず、以前のような純粋な神への信仰を持てなくなっている。
     /「ブロディ―の報告書」

  • アルゼンチンの作家、ボルヘスの短編集。
    何かパッと見堅苦しい感じがしますが、これが結構読みやすいんですね。
    短編集だから1つ1つの作品は短いし、収録されているほとんどの作品が「回想」とか「聞いた話」風に書かれているんです。

    「これは私がバーの親父から聞いた話なんだができるだけ忠実に書いてみよう…」

    みたいな感じ。
    で、また世界観がいいですね。
    何だろ、歴史は様々な闘いで紡がれる、というのか。
    人と人の争いをいろいろな形で描いている、そんな面白さがあります。
    そこには残酷で報われない結末も当然ありますけどね。
    争いというのはそういうものかもしれません。
    少し『キノの旅』や「Sound Horizon」の世界を連想しました、何となく、ね!

  • ●ふと裏表紙をめくると、そこには「ブック×フ100円」の値札が。物の値段を知らないなあ。だからこそ買ったんですが。

    ●さてこの作品、ボルヘス=幻想作家だと思っていたら肩すかし。
    場末の乱暴なマッチョな男どもの短編が多いです。(←違うか?)
    まあ幻想チックなのもあるけど、むしろ人情の機微(・・・)に重点を置いた物が多いと言うか、そこはかとないおかしみを感じさせられました。
    読みやすいと思ったのは、そのせいもあるかも。昔は逆にそう言うのが苦手だったんだけどなあ。
    では、かんたん感想。

    「じゃま者」いちばん映画にしやすい話。て言うか、阿呆な監督によって安直に一人の女を廻る兄弟の愛憎物語にされそうな危険が最も高い話。
    いや結構好きなんですが。

    「争い」上の次に映画にしやすい話。ヨーロッパ系の監督が撮りそうですな。

    「マルコ福音書」・・・こわ! でも、ちゃんと聖書覚えてないから、いまいちオチの恐さが伝わってこないよ。とりあえず棚から新約を引っ張りだしてパラ読みしてみたが、やはり微妙に分からないのであった・・・単に理解力の不足?

    ●その他、「卑劣な男」「別の争い」「グアヤキル」なんかも好きです。
    ここにタイトル挙げてない物も面白いよ。そして急に船戸与一が読みたくなったり。
    ただ、中島敦の文庫本の解説で、“ボルヘスの短編のようにうんぬん”と書かれてあったのは、納得がいかんですな。
    ボルヘスはボルヘス。中島敦は中島敦。
    どっちも似てなくて面白い。
    だがボルヘスでも幻想物を読むと中島敦を連想するのか? さてはて。

  • いついつ、誰それからこんな話を聞いた〜という語り口で書かれた「対決」がテーマの短編集(ではないか?)
    作中出てくる(主に南米の)地名や人名についてはほとんど皆目見当もつかないのだが、ドライな筆致がとにかくカッコイイ。

  • 読み終わった日から10年以上経っているため内容を全く覚えていないのだが、読み終わった当時に書いたメモによると「難解」「卑劣な男、別の争い、マルコ福音書、表題作が印象に残った」「特にマルコ福音書にはうならされ、非常に謎めいた余韻を感じた」とある。

  • ボルヘス晩年の短編集。語りの上手さが際立つ。いい。

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著者プロフィール

1899年ブエノスアイレスに生まれる。教養豊かな家庭に育ち、年少よりヨーロッパ諸国を移り住んだ。六歳の頃から早くも作家を志望し、驚くべき早熟ぶりを示す。アルゼンチンに帰国後、精力的な文学活動を開始。一九六一年国際出版社賞を受賞。その後、著作は全世界で翻訳されている。20世紀を代表する作家の一人。
驚異的な博識に裏打ちされた、迷宮・鏡・円環といったテーマをめぐって展開されるその幻想的な文学世界は、日本でも多くの愛読者を持ち、全作品のほとんどが翻訳出版されている。一九八六年スイスにて死去。
小説に『伝奇集』『ブロディーの報告書』『創造者』『汚辱の世界史』(以上岩波書店)『エル・アレフ』(平凡社)『砂の本』(集英社)、評論に『続審問』『七つの夜』(以上岩波書店)『エバリスト・カリエゴ』『論議』『ボルヘスのイギリス文学史』『ボルヘスの北アメリカ文学史』『ボルヘスの「神曲」講義』(以上国書刊行会)『永遠の歴史』(筑摩書房)、詩に『永遠の薔薇・鉄の貨幣』(国書刊行会)『ブエノスアイレスの熱狂』(水声社)、アンソロジーに『夢の本』(国書刊行会)『天国・地獄百科』(水声社)などがある。

「2021年 『記憶の図書館 ボルヘス対話集成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ホルヘ・ルイス・ボルヘスの作品

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