インド夜想曲 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

  • 白水社
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レビュー : 134
  • Amazon.co.jp ・本 (163ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560070994

作品紹介・あらすじ

失踪した友人を探してインド各地を旅する主人公の前に現れる幻想と瞑想に充ちた世界。ホテルとは名ばかりのスラム街の宿。すえた汗の匂いで息のつまりそうな夜の病院。不妊の女たちにあがめられた巨根の老人。夜中のバス停留所で出会う、うつくしい目の少年。インドの深層をなす事物や人物にふれる内面の旅行記とも言うべき、このミステリー仕立ての小説は読者をインドの夜の帳の中に誘い込む。イタリア文学の鬼才が描く十二の夜の物語。

感想・レビュー・書評

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  • この何かを忘れているような気持ちにさせられる不安定さが何故だか心地良かったのです。
    ずっとこのまま眠っていたいような。ずっとこのままこの場所にいたいような。少しの罪悪感を背負いながら、インドという無秩序で神秘的な国の夜に永遠に抱かれていたい、そんな気持ちにさせられます。
    バス停の待合室で会った美しい目の少年。その少年に背負われた兄。その2人との遣り取りから主人公の探している友人の輪郭がうっすらと見えてきたようで、この場面とても印象に残りました。
    主人公は友人を探すために様々な人々に巡り会いながら歩きます。2人の関係はまるで、写し身が魂を求めるような、魂が写し身から逃れるような、インドの夜が魅せる幻惑のようでした。そしてそこにはいつもノクターンの調べが流れているかのよう。
    須賀淳子の訳がとても読みやすくて、どこにも引っかからずにすっと物語の世界へ入っていけました。読み終えた後もゆらりゆらり夜を漂っている感覚に陥ってしまいます。

  • 「インドで失踪する人はたくさんいます。インドはそのためにあるような国です。」
    失踪した友人を探しに、主人公は鞄ひとつでインドを巡る。

    読んでいる先から、匂いが、空気が、むっとまとわりつく瞬間が何度もありました。旅行記のように様々な景色が描かれているものの、インドの陰の部分に焦点を当てた、深い深い夜が似合うエピソードで溢れています。静謐だけどディープ。読み手にも幻想的でまどろむような空気感が伝わってきます。
    肝心の友人探しも一辺倒にはいかない仕掛けが。小説全体の雰囲気にとても合った余韻の残るラストです。

    不思議な魅力と謎の義務感から大学生の頃は行きたい国No.1でしたが結局怯んで行かずに今に至ります。この作品からも感じ取れることですが、普段は心の奥の方にしまわれている「本能」や「生死」といった動物的な感覚が容赦なく引きずり出され、自分自身と向き合わざるを得なくなるのがインドという国に対する印象です。今となっては活字としてのこの距離感がちょうど良いかな。

  • 再読。水のにおいの揺れるインドの街が闇にゆうらりと沈んでいく頃、宙を歩くような足どりで、僕は僕の影を探す旅に出る。時計の針は進むべき方向を指し示すみたいに時を刻むけれど、僕の足跡をたどる僕は幻惑の夜の谷間を浮遊する。もうずっと以前に忘れてしまった記憶を取り戻しながら、旅の途中、たくさんのものたちと出会う。日常にいるよりも長い時間が僕のなかで引き伸ばされ、うねっているから。
    そのうねりというのは、私に心地よい眠りをもたらしてくれる気がする。張りつめた視線が緩み、夢のやわらかな唇が瞼を押しつつむような眠りだ。

  • 書評で話題となったことのある本。
    インドのホテルを渡り歩いて探しものをする短編。短編と思いきやそれをまとめたお話。
    短編のお話が飛ぶのでなかなか入り込めなかったので、またいつか読み返したいと思います。

  • インドの夜がもたらす幻想性と、主人公の旅、出会う不思議な人々とのやりとりを、ただ楽しんだ。旅をしたのは、現実あるいは夢、それとも両方...?読後は静かな余韻に浸る。

  • 筋書きの連続性や結論がない非線形の物語は、不安を掻き立て、アイデンティティの本質そのものに疑問を投げかける。それは人間の孤独の旅であり、魂の不毛な苦悩に過ぎない。起こることは、流動的であり、幻想的であり、完全には存在しないものすべてに対する神秘的な比喩でもある。旅の終わりには、ぼんやりとしたインドを思い出すのだが、もはやそこは場所として重要ではなく、熱帯の湿った夜の匂いがするだけ。その曖昧さは、霊魂のようでもあり、この物語に魅了されたものは皆、永遠の眠りにつくことのできない亡霊となる、眠れぬ夜のために。

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    「インド夜想曲」は、失踪した友人シャヴィエルを捜し求め、インドを旅する男の物語。ボンベイからゴアまでの間には様々な出会いがある。偶然に起こる出会い、偶然ではあるが決定的な出会い、もう二度と会うことのない相手との出会い。他者を通して出会う自己とは、他者の持つイメージに直面することでもあり、自分を探すための最良の方法でもある。人はしばしば、他人の鏡で自分を見ることを余儀なくされ、自分自身を垣間見る。しかし、予想外な結末は、明快な洞察を示唆することなく、読者を煙に巻き、この騒動をインドの夜に終わらせた。

  • この小説の読みどころを探ろうとして、1章1章と読んでいくのだけれど、何となく掴めないままに小説が終わってしまった。それぞれのエピソードは暗い中でぽつりぽつりと小さな灯がともっているようで、夜の深さのようなものを思わせた。「夜想曲」だからそれでいいのかもしれない。

    するりと読めたのは訳文もよかったからなのだろうか。それにしてもタブッキの小説のタイトルはどれもシンプルでかっこいい。

  • 「僕」が友人を探しにインドを旅する物語。
    友人の後を追って、インドのスラム街から始まり、旅先で謎の女性や神智学協会の会長、占い師の兄弟と不思議な人たちに出会う。
    そして、神父に会って目を覚まし、クリスティーヌを通して実際を語る。

    オチはない。
    でもラストは「僕」とともにこの物語を批評家のような視点で見つめているから不思議である。

  • なんだか、白昼夢をみているようだった。猿のように小さく、しわくちゃで、弟の背中にしがみついているアーハントが言う「大切なのはアトマンです。」このシーンが妙に印象に残ったのだけど、最後の最後に、このことの意味がわかる。私のカルマは何だろう。

  • 世界が今より少しだけ広かった時代のおとぎ話。

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著者プロフィール

1943年イタリア生まれ。現代イタリアを代表する作家。主な作品に『インド夜想曲』『遠い水平線』『レクイエム』『逆さまゲーム』(以上、白水社)、『時は老いをいそぐ』(河出書房新社)など。2012年没。

「2018年 『島とクジラと女をめぐる断片』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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