木のぼり男爵 (白水Uブックス 111 海外小説の誘惑)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (311ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071113

作品紹介・あらすじ

イタリアの男爵家の長子コジモ少年は、十二歳のある日、カタツムリ料理を拒否して木に登った。以来、恋も冒険も革命もすべてが樹上という、奇想天外にして痛快無比なファンタジーが繰り広げられる。笑いのなかに、俗なるものが風刺され、失われた自然への郷愁が語られるカルヴィーノ文学の代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 幻想的で知られるカルヴィーノの小説。

    1767年、貴族であるコジモ・ロンド―は12歳の時、姉の作ったかたつむり料理を拒否して木にのぼり、それ以来降りてこなくなった。初めはいやらしい姉や厳格な父への反抗だったが、隣家の令嬢ヴィオーラに木から降りないと誓った結果、彼は頑なにこの約束を守った。地に足を着けることは敗北を意味した。文字通り一歩でも地上に足をつけない生活を送るようになったのだった。

    舞台であるオンブローザの一帯には樫の木、オリーブの木から、桃、いちじく、栗、松など多種多様な木が生えていて、コジモは木の上だけで移動したり、生活を送ることができた。ヴィオーラへのあこがれを胸に、試行錯誤をかさねて樹上生活を発展させる。ときには盗賊と交流したり、領民の家畜追いを手伝ったり、治水行事を行ったり、革命に手を貸したりとおよそ木の上でできることはなんでもしてしまう。父が死んで以降は長男である彼は男爵の位を引き継ぎ、晴れて木のぼり男爵となり、彼の噂は遠く広くフランスへも行き渡ったのだった。

    なんで降りてこないの?と、弟から尋ねられて、木の上からはものが良く見える。みたいなことを返した主人公。思春期の反抗から始まって、恋愛に対しての潔癖さと意固地さが彼の信念を強化した。そして彼独自の人間社会への参加の仕方は、諦めから始まってある種清々しさを感じさせもする。コジモのピュアさや、才気煥発とした青年期の態度にはちょっとした感銘も受けた。

    コジモの生活は森に囲まれていて、この自然の描写が凄かった。奇想天外な設定だけど、コジモや市民の生活も、政治情勢も細かに描かれていて現実的に読めた。中編くらいの長さで、結構分量があった。その大部分がまるでこの珍奇な設定を正当化するために拵えたようにも感じた。だけど同時に「木にのぼる」というひとつの発想から、ここまで話を広げて書くことができるんだと、その想像力を凄いとも思った。

  • 2020年4月28日BunDokuブックフェアで紹介されました!

  • 1767年、男爵家の長男12歳のコジモは意地悪な姉のカタツムリ料理にブチ切れたことをきっかけに(もちろんそれ以前に日頃の鬱憤がたまりまくっていたのだろうけど)木に登ったきり降りてこなくなる。最初は軽い反抗期かと思いきや、意外と頑固、そして木の上の生活が意外にも快適だったのか、コジモはそれきり樹上生活者となってしまう。65才で死ぬまで、二度と地上には降りてこなかったコジモの人生がその弟の目線で描かれている。

    序盤は冒険ファンタジー的な要素もあって、わりとお気楽に楽しい。樹上にいながらもロマンスもあるし、山賊、海賊、狼退治と、コジモの機転で領地の人々はピンチを救われたりもして、変人だけど悪い領主ではなく、ある意味人気者でもあり。しかし最愛のヴィオーラに去られ、終盤には革命や戦争の影が差し、奇人ではあるけれど狂人ではないとされていたコジモも老いて本当の狂人のようになっていってしまうのは寂しかった。

  • 初めて読む作家の本ってドキドキする。あらすじなどの予備知識なしにタイトルだけで選んだ場合は特に。「木のぼり」と「男爵」、どう考えてもミスマッチ。いったいどんな話なのだろう?と思ったら、なんと言葉通り。木の上で暮らす男爵の話だった。
    木の上に寝床を拵えたり狩りをしたり盗賊や海賊が出てきたり、トム・ソーヤーなど少年の冒険小説のような雰囲気でけっこうワクワクしながら読んだ。
    解説を読んでようやく、なぜこんなヘンテコな設定になったのか納得。「≪地上不在のモラリスト≫の≪樹上からの参加≫」、なるほど!そして「ある種の低さにはけっしておりないという決意」。作家は物語に託していろいろなことを語っているのだな、としみじみ感じた。文字通りの意味だけじゃなく、言葉の裏を読めるようになりたいものだなぁ。

  • イタリアの男爵家の長子コジモ少年は、十二歳のある日、カタツムリ料理を拒否して木に登った。以来、恋も冒険も革命もすべてが樹上という、奇想天外にして痛快無比なファンタジーが繰り広げられる。笑いのなかに、俗なるものが風刺され、失われた自然への郷愁が語られるカルヴィーノ文学の代表作。

  • 突飛な設定が枷になることもなく、
    物語を楽しませてもらった。
    メタファとして樹上生活をとらえてみると、
    歴史や文学におけるある程度の教養も必要だが、
    なかなか深い物語である。

  • 寓話というのは現実に少しだけ非現実要素を持ち込む事で、現実に対する認識を相対化させることにある。ふとした癇癪で12歳の時に木の上に登って以来、半世紀以上もの間地に足を付けることなく生活した男爵の話。18世紀後半から19世紀へと入る動乱の時代を一歩離れた目線で語る事によって、混迷する現代をその射程に置くことに成功する。ルソーやヴォルテールと文通をしナポレオンと対面したかと思えば、トルストイの作中人物と遭遇するというのも現実と非現実の境目に意識的な故か。それにしても「私に登ったら?」という誘い文句はエロい。

  • 意地悪な姉が振る舞う鬼畜かたつむり料理を拒絶し、木の上に逃亡したコジモ。それから死ぬまで一度たりとも地面には下りなかった。
    はちゃめちゃではあるけどどことなく哀愁が漂い、なんとなくちょっと愛おしいような小説だ。

    特に隣家のヴィオーラとの恋愛は、追いつこうと思ったら離れていき、決して添い遂げることは叶わない……そういう書き方が哀切があってとってもよかったな。

  • まさか、そんな、いくらなんでも頑固すぎる

  • 27章くらいからすごい

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著者プロフィール

イタロ・カルヴィーノ(Italo Calvino)
1923 — 85年。イタリアの作家。
第二次世界大戦末期のレジスタンス体験を経て、
『くもの巣の小道』でパヴェーゼに認められる。
『まっぷたつの子爵』『木のぼり男爵』『不在の騎士』『レ・コスミコミケ』
『見えない都市』『冬の夜ひとりの旅人が』などの小説の他、文学・社会
評論『水に流して』『カルヴィーノの文学講義』などがある。

「2021年 『スモッグの雲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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