さくらんぼの性は (白水Uブックス 121 海外小説の誘惑)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071212

感想・レビュー・書評

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  • 歴史を空想によって生かし続ける魔法がある


    『さくらんぼの性は』は、この著者の代表作の一つになりそうな予感のある傑作!
     まず、ジャネット・ウィンターソンという作家が、海を空までふっとばしかねない、現代の作家のなかでも随一の想像力を持った魔女なのです。彼女は、とびきり強力なスプレーで歴史を虹色に光らせ、揺らめかせるのです★

     その彼女の、想像力の奔放さと強靭さがいかんなく発揮されたこの作品。
     一つは象をも吹き飛ばす怪力の大女ドッグウーマンの物語、一つは彼女の拾い子ジョーダンが、幻の踊り子を探し求める旅。二つにわかれていた物語の川は、再び合流して大河となり、時空を切り裂きながら先を続けます。

     ……という説明で、果たしてこの作品の素晴らしさが伝わるかは甚だ疑問ですけど★ 話の筋がどうこうというよりは、自由自在なイメージの奔流に、ただただ身をゆだねたくなります。

     これほど奇想天外な物語ならば、「17世紀ロンドン、ピューリタン革命真っ只中」という現実的な舞台背景なんていらないのではないかと、一瞬思ったのです。一から架空の物語でいいのではないかな~と。
     しかし、ウィンターソンは空想の宇宙に歴史の一コマ一コマを、丁寧に切り混ぜています。全体的には作り物語のなかで、史実だけが浮いてしまうというようなこともなく、面白い効果が生まれておる! だいたい、実話も創作もなく、物語とは、本を開けば今もそこで起きている出来事なのだなぁ……と、終始唸りっぱなしでした。

     実在した人物、実際に起きた出来事が、ただの過去へと流れ去らずに残っていく魔法がある。それがナラティブ。史実は、物語というかたちをとることで、空想によって生かされていくのです。

     いや、もしかすると『さくらんぼ』の場合、過去も歴史も未来さえも、すべては見せかけで何もなかったことになってしまう、という方でしょうか? いやはや、スゴイ本を読んだものだなと思っています。

  • 過去、現在、未来、現実と幻想、歴史と寓話のあいだを揺れ動くうちに、だんだん重力を感じなくなる。恋の疫病とやらでバタバタ人が死ぬ変なエピソード、強烈な描写と表裏一体のナイーブさ、言葉の美しいけど跡を残す手触り、そのバランスに、痺れる。
    割と最近、別の小説でも時間論を読んだけれど、この小説ではまた別の考察がされていたのも興味深い。付箋がたくさん立つ小説がひさしぶりだったので嬉しかった。岸本佐知子訳の影響か、ウィンターソンを読むと、バドニッツが読みたくなる。

  • 新刊が楽しみな作家の一人。お金が余ってたら配って歩きたい。

  • 図書館で。
    アトラスの話が面白かったので読んでみました。最初とっつきにくいなぁと思ったんですが犬女の登場辺りからこれはこういうスタイルなのね…とわかると面白く読み終えることが出来ました。

    それにしても犬女の彼女はすごいキャラだ(笑)後書きの「気は優しくて人殺し」ってフレーズがまさにって感じ。彼女は不言実行タイプなんだろうなぁ…

    男性が英雄を目指し、時空を越えて犬女の魂を持つ彼女と出会うくだりはロマンティックとも言えるかもしれない。正しいと思う事を正しく行える人は滅多に居ないから、だから煙たがられるのだろうか?まあ…大抵の場合人は民主主義の多数に圧倒されますからね… だからこそ目を瞑りたくなるのかもしれない。

    とりあえず他の本も読んでみようと思いました。

  • このタイトルがイヤで。
    不条理落語の「あたま山」→徒然草の「榎木僧正」みたいな連想させるんですよね・・・・

    ディズニーランドより豊島園が好きなあなたにオススメ。
    自転しつつ公転する、ぐるぐるの乗り物あるじゃないですか、あんな感じです。

    まー、なんといっても犬女のおかーさんです!ほら、日本人的には「親が大事と思いたい」果物ですし~

  • [ 内容 ]
    時は十七世紀、所は疫病とピューリタン革命の嵐渦巻くロンドン。
    象をもふっ飛ばす未曽有の大女ドッグ・ウーマンと拾い子ジョーダンは、自由の天地をめざし、幻の女フォーチュナータを探して時空を超えた冒険の旅に出る。
    英国の新鋭が放つ奇想天外にして感動的なベストセラー。

    [ 目次 ]


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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 101226*読了

    時空間を完全無視した構成がすごい。大女は今までに出会ったことのないぶっとんだキャラクターで好き。これでもか、これでもか、と作者の信念が文章につめこまれていて、おおおー、と圧倒された。読みながらいろいろ考えさせられる本こそが究極の名作だと思う。イギリスはひいきの国なので、そこも読んでいて嬉しかったポイントの一つ。この本は今まで読んできた中でも上位に入る好きな本になりました。やっぱり名作は読まないとなー。国内も海外も。何年経っても文学と呼ばれる作品にはそれだけの価値がある。

  • 象をもふっ飛ばす大女『犬女』と、その拾われ子で船乗りのジョーダンの二人が交互に話を披露する、という体裁をとった小説。
    話は時間軸を超え、空間を超え、現実と幻想の境も飛び越え、奔放に展開される。話として一つのまとまった筋があるタイプの小説ではなく、個々の挿話を楽しむもの。
    全体的に漂うユーモアと、幻想的なシーン、そして犬女の大活躍が何とも楽しい。

    構成として一つ面白いと思ったのは、存在自体がギャグみたいな犬女の語る話の方が(比較的)現実味が感じられるのに対し、逆に、存在自体はいたって普通の人っぽいジョーダンの語る話は遥かに幻想的である点。そのギャップがまた何とも言えない魅力の一つになっているように思う。

    気づけばあっという間に最後まで読んでしまうタイプの良書。

  • 読みやすい。

  • おとぎ話の12人の踊るお姫様は毎夜、秘密の場所でダンスを踊って楽しく暮らしていました。
    でも12人の王子様とめでたくご結婚、ダンスは卒業。めでたしめでたし・・・。でもでも、その後のお話は?

    巨大な犬女とジョーダンは16世紀と現代のイギリスを軽やかに越え旅を続けます。
    おとぎ話の12人のお姫様のモノローグが挿入され、幾重の物語が交差し、時間と場所を越えた世界へと向かっていきます。
    モダンダンスのように軽やかな躍動する文体、行間から溢れる女神達の溜息。訳者の岸本佐知子との相性は完璧です。

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著者プロフィール

1959年、イギリス生まれ。福音伝道主義クリスチャンの家庭に養女として迎えられたが、女性との恋愛関係を理由に10代で家を出る。1985年に半自伝的小説『オレンジだけが果物じゃない』で作家デビュー。

「2022年 『フランキスシュタイン ある愛の物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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