イン・ザ・ペニ-・ア-ケ-ド (白水Uブックス 123 海外小説の誘惑)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071236

感想・レビュー・書評

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  • 「ペニーアーケード」は所謂ゲームセンター。ピンボールとか。
    コレから日本の「100均」って思いついたのかなあ。どうでもいいですが。

  • 第一部は「アウグスト・エッシェンブルク」
    テントでの魔術ショーとか、「イン・ザ・ペニー・アーケード」もそうだけど、子供の目にうつる日常から断絶されたような空間とか、その瞬間のイノセントな着想みたいなものを描くのがどうも好きらしい。けど視点は常に大人のそれで、むしろイノセントな世界から弾かれて、もう踏み入ることができないエデンの園として描いているというか、その墜落感が好きなんだろうけど。

    自動人形は既に失われたものなのに、そこに芸術家の情熱を一身に注ぐアウグストと、むしろ人々の堕落を冷めた視線で見つめる嘲笑的なハウゼンシュタイン。やはりハウゼンシュタインのほうが生き生きと描かれている気がする。

    第二部は、なんでもない退屈な、あるいは幸福な時に、脈絡がありそうでないような突然の激情、みたいな。
    筆が冷めてる、あるいは醒めてるという感じ。感情的に描かれてはいても、その感情はまるで静物のようなのだ。

    第三部の「東方の国」が一番好き。
    詩的であり幻想的であり。あんまり人を描くのうまくないんじゃ、と思った。

  • ポオに『メルツェルの将棋指し』という一文がある。人間相手にチェスを指す機械仕掛けの人形のからくりを、得意の推理で暴いていく小品だが、怪奇と幻想の詩人ポオが、その反面徹底した合理主義者であったことを納得させられる身も蓋もない結論で終わっている。つまり、中には人間が隠れていたのだと。およそ、自動人形の類はこのように胡散臭い出自を持っている。場末の見世物小屋あたりに置いておけば、それなりの関心を買うだろうが、白日の下に晒されたらひとたまりもない。

    人型ロボットの相継ぐ開発に湧く日本とはちがって、西欧では、あえてロボットに人間の姿を与えようとはしない。それは、自分に似せて人間を創り出した神に対する冒涜だと考えられているからだ。限りなく人に近い人形を造ろうという行為は背徳的なものであり、「フランケンシュタインの怪物」を持ち出すまでもなく、その行為に携わる者には必ず罰が下る。しかし、禁じられているからこそ魅惑的な主題となりうる。19世紀後半のヨーロッパでは、絡繰り仕掛けの自動人形の一大ブームが起きた。メルツェルの自動人形もその一つである。

    短編集『イン・ザ・ペニー・アーケード』は、三部構成で第一部が、自動人形作りにのめり込む若者の姿を描いた「アウグスト・エッシェンブルク」。第二部は、作者にはめずらしい現代女性の一日をスケッチした小品三作。そして第三部には表題作を含むいかにもミルハウザーらしい意匠を凝らした小品三編が配されている。

    「アウグスト・エッシェンブルク」の主人公アウグストは、後に描かれ、ピューリッツア賞を受賞することになる『マーティン・ドレスラーの夢』の原型的人物である。葉巻商人と時計職人のちがいはあれ、父親の店舗に自分の作品を展示したところを見出され、より大きい世界に導かれ、自分の天職に目ざめてゆくところも、眠る間も惜しんで制作に没頭し、初めは飛躍的な成功を収めるものの、やがて飽きられ、挫折するところも同じだ。自分の希求するものと世間一般が求めるものとの差異を知りながら、自分の夢に殉じるしかない男の世間知らずな生き方が共感を込めて描かれている。自己憐憫に耽ることなく、再起を予感させられる結びまで酷似している。

    これだけよく似たストーリーを繰り返し、繰り返し使いながら、読者に飽きられもせず、賞まで取ってしまうミルハウザーの秘密はいったい何だろうか。ひとつは、フロイトならコンプレックスと呼ぶにちがいない原風景への絶対的な固執がある。他の作家には書けない自分だけの世界を持っている強さだ。しかもそれは、極めて個人的なものでありながら、ユングの言う「原型」に近い普遍性を持っている。予め喪われているからこそ甘美な、思春期という「夢」の揺籃期を背景に描かれるミルハウザー的世界には、抗しきれない魅力がある。

    小説が言葉で書かれる以上、プロットやストーリーがいくら卓抜であったとしても、その提示のされ方がお粗末であったら、誰も見向きもしない。反対に、同じメニュウであっても、料理の仕方のちがいで、うまい店もあれば、まずい店もある。ミルハウザーの提供する素材は限られている。いわば専門店だ。読者は、初めからシェフの腕に期待して扉を開けるのだ。同工異曲であっても、これでもか、これでもかと供される物尽くしめく選び抜かれた素材の配列の妙に客は堪能させられるのである。

  • ミルハウザー初体験。柴田氏の訳も美しく、細密画のように繊細で緻密な世界がひっそり花咲く箱庭を覗いたような印象。物語のスタート時とゴール時の世界の変化という意味では大きなドラマのない作品ばかりだが、外側から見ると何の変化も見てとれない日常の一瞬を切り取って緻密に掘り下げる静止画の連続のような水面下のドラマが、幻想的でもあり現実的でもあり、非常に独特な余韻を残す。そうした短編の中で、冒頭の中編「アウグスト・エッシェンブルク」はドラマ性豊かで起伏に富み、他の作品とまた違う骨太な印象もあって魅力的。ミルハウザーの他の作品も読んでみたい。

  • くらくらする世界。
    緻密に描写された景色。
    しかし、流れるような文章で読みやすい。
    心地よく流されていくと、不思議で魅惑的だが孤独の陰があり、感傷的な色合いを帯びた異世界に入り込んでいる。
    どの話も良かったが、天才からくり人形師の半生を描いた中篇「アウグスト・エッツェンブルグ」は目眩がするような人形たちの世界が蠱惑的で、自分もその世界に囚われたような気分になった。
    また、最後の「東方の国」はひと味違っていて、カタログ風に描き出されたパーツを自分の頭の中で組み上げる楽しみがあり面白かった。
    他の作品も読みたい。

  • 『描写フェチが描き出す幻想世界と栄枯盛衰』

    3部構成の中・短編集。
    各部、趣の異なる作品が集められ、作者の多彩な才能が垣間見れる。特に第3部の幻想的で不思議な雰囲気の作品(短編3作品)は、独特の世界観に惹き込まれます!
    他の作品も読んでみたくなる作家さんでした。

  • 素敵な現代アメリカ文学
    アメリカン・ノスタルジーも取り混ぜた
    以下7編の中短編小説集

    アウグスト・エッシェンブルク
    太陽に抗議する
    橇滑りパーティー
    湖畔の一日
    雪人間
    イン・ザ・ペニー・アーケード
    東方の国

    スノウマンが雪だるまじゃなくて、雪人間になっちゃうような翻訳なので小説の面白みは半減以下になっていると思う

  • 2022/1/26

  • 中編『アウグスト・エッシェンブルク』が一番面白かった。19世紀末のドイツを舞台にした天才からくり人形師を取り巻く世界はあまりにもめまぐるしく、きらびやかななかにも濃い影を見出すことが出来る。幼少期のアウグストが博物館でからくり絵を見て魅了される場面から、読者である自分も作品世界に引き込まれて行く感覚を味わった。百貨店や見世物小屋の場面は本当に胸が躍る。

  • 3部構成になっているけどそれぞれ独立した短編集。1部は中編「アウグスト・エッシェンブルク」これはいかにもミルハウザー的な「ある芸術家(職人)の一生」もので、時計屋の息子に生まれたアウグスト・エッシェンブルクが自動人形に魅せられ、デパートのショーウィンドウや見世物小屋などを転々としながら成功と挫折を繰り返していく。自動人形の描写の細かさが流石。

    2部はティーンエイジャーから30代まで、ミルハウザーには珍しい女性のリアルな心情をとらえた3編。「湖畔の一日」が良かったなあ。大人だって号泣したいことあるよね。

    3部は再びミルハウザーらしい幻想的でノスタルジックな3編。表題作がやはり印象的。変わったのは遊園地のほうではなくて、それを利用する客の側。「東方の国」は一種のシノワズリというか、西洋人の脳内中国が不思議で面白い。

    ※収録作品
    アウグスト・エッシェンブルク
    太陽に抗議する/橇滑りパーティー/湖畔の一日
    雪人間/イン・ザ・ペニー・アーケード/東方の国

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著者プロフィール

1943年、ニューヨーク生まれ。アメリカの作家。1972年『エドウィン・マルハウス』でデビュー。『マーティン・ドレスラーの夢』で1996年ピュリツァー賞を受賞。『私たち異者は』で2012年、優れた短篇集に与えられるThe Story Prizeを受賞。邦訳に『イン・ザ・ペニー・アーケード』『バーナム博物館』『三つの小さな王国』『ナイフ投げ師』(1998年、表題作でO・ヘンリー賞を受賞)(以上、白水Uブックス)、『ある夢想者の肖像』『魔法の夜』『木に登る王』『十三の物語』『私たち異者は』『ホーム・ラン』(以上、白水社)、『エドウィン・マルハウス』(河出文庫)がある。ほかにFrom the Realm of Morpheusがある。

「2021年 『夜の声』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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