レクイエム―ある幻覚 (白水Uブックス 130 海外小説の誘惑)

  • 白水社
4.15
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感想 : 51
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  • Amazon.co.jp ・本 (182ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071304

作品紹介・あらすじ

七月は灼熱の昼下がり、幻覚にも似た静寂な光のなか、ひとりの男がリスボンの街をさまよい歩く。この日彼は死んでしまった友人、恋人、そして若き日の父親と出会い、過ぎ去った日々にまいもどる。タブッキ文学の原点とも言うべきリスボンを舞台にくりひろげられる生者と死者との対話、交錯する現実と幻の世界。

感想・レビュー・書評

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  • もういない人たちに会うために、半日かけてリスボンをめぐり歩くお話。そして現在のところマイベストタブッキ。文体が柔らかくて(鈴木さんの訳文が好みなのかも)、ほとんどの登場人物がちょうどよく遠い。彼らの言葉は耳で聞くのではなくて直接頭に響いてくるような感じがして、ああこれは夢なんだなとわかる。

    「わたし」はこの夢の中で、自分の中で折り合いを付け「済み」の箱に入れてしまわなくてはならないことを片付けていっているように見えた。彼のお父さんが言うように、「わたし」が求めているから彼らは現れ、言葉を残して去っていくのだ。タブッキがこの本を書いたのは50歳の頃。あと10年したら、自分にも箱に入れるようななにかができているのだろうか。

    『島とクジラと女をめぐる断片』はお酒、『インド夜想曲』はミネラルウォーターのイメージだったけれど、本書は間違いなくポルトガル料理。実際おいしそうなのがたくさん出てくるためではあるのだけれど、読んだ後、おなかが温かくなる感じがする。

  • 主人公が1日を通して数多くの人と出会う物語です。その相手は、死者だったり、おそらく生者だったりするのだけれど、私は彼が出会うそのすべての人々に、あるいは場所に、奇妙な懐かしさを覚えました。ポルトガルなんて行ったこともないのに、不思議なことです。昔住んでいた家が取り壊されるのを見るときのような、少し胸にジクっとくるような懐かしさ。『レクイエム』というこのタイトルのせいかもしれませんが、それだけではないかもしれません。

  • イタリア人作家がポルトガル語で書いた小説をイタリア語に訳してそれを日本語に訳したもの。本に出てくる病気が帯状疱疹なのか麦角感染なのか混乱してしまったが、本の内容には特に影響はなかった様には思う。熱気に満ちたリスボンの街を彷徨い歩く話で、食べることや汗をかくことが生を、病や堕胎や自殺が死を直接的に突きつけ、幻覚とともに生と死の境が曖昧になっていっていた。詩情にあふれた無軌道な彷徨に見えて、計算された描写になっていて何度でも読み返したくなる。

  • 夢と現の狭間で「リスボン」という舞台を彷徨する

    <レクイエム=「安息を」を意味するラテン語。カトリックのミサやその聖歌を指すが、宗教的な意味合いを離れて、「葬送曲」「死を悼む」の意で用いられることもある。>

    あちこちで見かけて、いずれ読もうと思っていたタブッキ。手に取ってみました。
    原著はそもそもはポルトガル語で書かれているという(但し邦訳はイタリア語版を元にしているとのこと)。
    イタリア生まれのタブッキがなぜポルトガル語で書いたかは、本人による序文で述べられている。
    あらすじを記せば、1人の男が、灼熱のリスボンで、ある男と待ち合わせをしたけれどもなかなか会えず、その間に何人かの人々と出会っては別れていくといったところだろう。行き違う人々の中には生きているものも死んでいるものもいるが、タイトルが想起するように、死者の方に重点が置かれている。

    血湧き肉躍るという冒険譚ではないにしろ、退屈なわけではまったくない。しかしいかんせん、この彷徨する感じが睡魔を誘う。一晩目は1章読んだところで沈没。読みたい。しかし眠い。
    あまりしないことだが、BGMを聴きながら読んでみることにした。選んだのはポルトガルギターとマンドリンのデュオのアルバム、その名も『リスボン』。本書の内容と比べると、曲調がやや明るめに感じるが、ふんふん、悪くないぞ。二晩目は5章まで到達。三晩で旅を終えた。

    リスボン。アレンテージョ。カスカイス。
    フェイジョアーダ。サラブーリョ。パイナップル・スモル。
    出てくる地名も料理の名もほとんど馴染みのないものだが、あれこれ想像しつつ巡る。
    人のよいタクシー運転手、不満たらたらだけれど憎めないバーテンダー、『聖アントニウスの誘惑』をひたすら模写する画家、そしてイザベル。
    最後に、会えずにいた男にも会えた。

    変則的な読み方だが、楽しかったということで、タブッキさんには許してもらおう。
    さて、初タブッキとしてこの本を選んだのは自分にとってよい選択だったのかな・・・? よくわからないが、またご縁があれば2冊目・3冊目との出会いもあるかもしれません。


    *BGMはマリオネット『リスボン』でした。

    *作中に出てくるペソア『不安の書』というのがちょっと読んでみたい。が、難しいかな・・・? 元気のない時には読めない、かな・・・?
    とりあえず、リストには入れよう。

    *本筋とはまったく関係がないのだが、ちらっと触れられる麻薬の売人の名前が「ザリガニ」。ポルトガル語では”bicho de lama”(泥の中の虫、といった感じか?)または”lagostim”(どちらかというと身(肉)を指すようだ)というようだが、麻薬とのつながりはあまり感じられない。何で「ザリガニ」?

    • usalexさん
      ポルトガルギター、いいですね!
      ポルトガルギター、いいですね!
      2012/07/03
    • ぽんきちさん
      usalexさん

      たまたま元々持っていたCDだったのですが、久しぶりに聞きました(^^)。
      異国の雰囲気があっていいですね。
      usalexさん

      たまたま元々持っていたCDだったのですが、久しぶりに聞きました(^^)。
      異国の雰囲気があっていいですね。
      2012/07/03
  • 夢か現実か? その境界線がほどけて消えていってしまう――とか言うと、タブッキの作品への感想としてはあまりにも陳腐すぎるのだけれど。タブッキを呼んでいると「小説という世界は現実か、非現実なのか?」という問いもまた、どこかに行ってしまう気がする。ただ、そこに感じる実在感みたいなものだけを追いかけている読書経験はいつもながらとても幸せなものだった。再読。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「あまりにも陳腐すぎる」
      いえいえ、一言で表すなら、そうなるでしょう。
      私は何故か、、、タブッキ を読むとブッツァーティが読みたくなります。...
      「あまりにも陳腐すぎる」
      いえいえ、一言で表すなら、そうなるでしょう。
      私は何故か、、、タブッキ を読むとブッツァーティが読みたくなります。理由は謎ですが、、、
      2013/01/04
  • 約束していた相手と会うためにさまよう主人公の、幻想の旅路。引きずられ、あるいは引き寄せて出会う人々との交流がよどみなく(むしろハイスピードで)描かれているが、個人的に興味のあった人物についてははぐらかされたというか、ぼかされた点が何とも憎い(苦笑)。

  • 「インド夜想曲」とちょっと似ている。「インド夜想曲」が友人 (それはおそらく彼自身) に会いに行くのに対し、「レクイエム」では「死者」(死んだ友人、死んだ妻、そしてペソア) に会いに行く。翻訳は須賀さんよりこちらのほうがうまい。おもしろい。
    中にいくつかポルトガル料理やカクテルのレシピが出てきて、ポルトガルへの旅愁をかきたてられる。

  • 福間恵子「ポルトガル、西の果てまで」を読んだら、無性に読みたくなった一冊。あるひどく暑い夏のリスボンでの一日、現実と夢うつつを行き来しつつ、さまざまな人に--時に死者とも--会ったのちに、夜半に--明確には記されないものの--フェルナンド・ペソアと食事を共にするまでが描かれる一篇。
    ふらふらとさまよい、思い出の場所を探し、シャツを買い、着替え、娼館で仮眠し、占いを受け、墓参し、語り合う。イザベルと出会う直前まで描かれて、何を語ったか全く描かれなかったのはなぜなのだろう。タデウシュとの会話で何を話したいか語ってしまったからだろうか。◆わたしの感情は、真の虚構を通してしか湧き上がらない性質のものなんだ。わたしに言わせれば、きみの考える誠実さなど、形を変えた貧困だよ。究極の真実とは虚構にほかならない。(ペソア。p.163)◆魂には、どんな薬もいかさまだよ、タデウシュが言った。(p.56)◆優しさって、知らないひとにしてあげられる、最高の贈り物だよね。(p.77)◆

  • ①文体★★★★★
    ②読後余韻★★★★★

  • タブッキに導かれるまま、リスボンの街やその周辺を彷徨った気分。『インド夜想曲』を読んだ時もそうだったが、旅行に行けないけど行きたい気分の時はこれだな、と思った。何だろう、この癒される感じ。

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著者プロフィール

1943年イタリア生まれ。現代イタリアを代表する作家。主な作品に『インド夜想曲』『遠い水平線』『レクイエム』『逆さまゲーム』(以上、白水社)、『時は老いをいそぐ』(河出書房新社)など。2012年没。

「2018年 『島とクジラと女をめぐる断片』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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