最後の物たちの国で (白水Uブックス 131 海外小説の誘惑)

  • 白水社
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本棚登録 : 817
感想 : 89
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071311

作品紹介・あらすじ

人々が住む場所を失い、食物を求めて街をさまよう国、盗みや殺人がもはや犯罪ですらなくなった国、死以外にそこから逃れるすべのない国。アンナが行方不明の兄を捜して乗りこんだのは、そんな悪夢のような国だった。極限状況における愛と死を描く二十世紀の寓話。

感想・レビュー・書評

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  • この作品の語り、文体がとても好き。

    この世界のどこかで現実に起きていることなんだと迫ってくるような気がする。静かに。淡々と。
    絶望しかないような状況のはずなのに最後にはほんのり希望の光が感じられる作品だった。

  • 絶望した。先の見えない世界に。戦慄した。この物語の素晴らしさに。分類としてはおそらくディストピア小説になるのだろう。終わりが見えてきても絶望から脱することはできないし、物事はますます悪くなっていくばかりではある。だが、目が離せないのだ。溢れ出す感情に胸がいっぱいになってなかなか先へ進めない。この気持ちになんて名前をつけたらよいのかわからない。本国では評価が低いようだが私が今まで10冊ほど読んだオースター作品では間違いなくナンバーワン。傑作。今もなんだか茫然自失だ。

  • 社会秩序が崩壊し、すべてのものが壊れ失われつつある“最後の物たちの国”に兄を探していったアンナが書く手紙というかたちを取った物語。
    読んでいる間、何かが喉の奥でつっかえて泣きそうなのに泣けなかった。とことん悲惨で救いのない世界なのに、読むのをやめられない。続きが気になって読み進んでしまった。苦しかった。でもこれは悪い評価ではない。
    “最後の物たちの国”は架空の場所だけれど、今の世界にも“最後の物たちの国”の片りんは見え隠れしていると思った。それでも、絶望の中に希望はあると思いたいし、思わせてくれる物語だった。
    そういう意味で、マッカーシーの『ザ・ロード』と近しい場所に存在するお話だと思った。
    崩壊した世界での必需品は、靴とショッピング・カート。

    • Morrisさん
      泣きそうになる感覚はなかったけど、
      『ザ・ロードと』の共通点を
      気づかせてくれた、このレヴューは
      素敵です。
      泣きそうになる感覚はなかったけど、
      『ザ・ロードと』の共通点を
      気づかせてくれた、このレヴューは
      素敵です。
      2013/02/12
  • 三回か四回目の読了。ワタシは記憶と喪失についての物語が好きなんだなぁと改めて思いました。閉じられた世界は崩壊していくだけで、主人公には勿論止める力などないし、ただかきとめて送るだけ。それも本当に届くかどうか分からない。哀しいことだと思う。

    5/11更新。何度読み返したか分からない。何度読み返してもいつも新しい発見がある。いわゆる近未来ディストピア小説のようなものと思い読んで来たが、今回何度目かの読み返しで、今は違った考え方で読めると思った。以前にこの読書会で読んだ「写字室の旅」を思い出していただきたい。あの作品の中で部屋に囚われている老人ミスター・ブランクがいた。彼は作者自身の意識、そして彼の世話をするアンナ・ブルームこそ今回の主人公である。アンナ・ブルームを何年もたってから、また重要な役割を持たせ、作品に登場させたオースターの思いを探るような読み方ができればいいと思う。オースター自身は解説にもあるようにこの作品の時代背景を近未来として描かなかった。最後の物たちの国で、原題はIN THE COUNTORY OF LAST THINGSである。最後の物たちとはなにを表しているのだろうか。ここにある物は人だけではなく、世界を構成する物質であり、終わり行く世界、崩壊していく場所と物、そしてそれらの記憶をあらわしているのではないだろうか。終わり行く世界の中で、アンナはまだかろうじて自分が認識できる青いノートにその思いと記憶を綴る。手紙形式で書かれた、どこにも届くことはないかもしれないそのノートはかつてまだ死を意識しないでいられた、平和なはずの世界にある彼女自身の部屋に置かれることを祈って外の世界に送り出される。アンナは、ノートを部屋にあるかつてのアンナを構成する物たちのひとつになるように置いてもらうことを読み手にお願いする。手放した記憶その物もアンナの今の世界からはもう 遠くへ行ってしまう。ということは、彼女は明日になればもう何も覚えていることはできないのかもしれない。記憶を確かめるように、何度も何度も読み返していたに違いない青いノートは、きっと端がめくれ上がっていて、あちこちに染みがついているはずだろう。(オースターは文房具もモチーフにすることが多い。「オラクル・ナイト」でも作家がノートに綴る形を取っている。)青いノートこそが、アンナ・ブルーム自身だったかもしれない。いずれにしろ街から出ることはできなくなっていて、逃げ出そうにも船は入港してこない、飛行機は人々の記憶から消えている。ひとたび物が消えると、その記憶も一緒にきえてしまうのです、と書かれているとおり。死と隣り合わせのこの閉ざされた国でアンナは 精一杯生きようとする。生きることが死ぬことにつながる世界でただ一人生き抜こうとしたアンナが要所要所で誰かにうまいこと保護されるのは、小説としてでき過ぎかもしれないと思ったこともあったが、それほど彼女の生存本能は強いとも言い換えられる。観察する目と記憶する頭脳を持ち、生まれなくなって久しい子供を宿したアンナはこの世界で聖母にも等しい存在になれそうだったのに、宿した子供は裏切りによって失われてしまう。どんなに身を落としても、彼女は生きることだけは手放さない。それがアンナ・ブルーム。オースターの愛したキャラクターではないだろうか。何もかも失ったとしても記憶がある限りひとは存在したことになるのだろうか?もしも記憶さえもなくなったとしたら、それは 生きていることになるのだろうか?わたしはこの作品を読むたびにそう考える。最後の一つの物とは、人間自身のことだと思う。

  • どこの国ともいつとも知れない、物が極端に貧しく、荒れ果て、犯罪が横行し、人々はごみ漁りぐらいしか仕事がない、国を出ていくことすらできない、言葉すら(概念ごと)どんどん消失してしまう国に兄を探しに乗り込んだ主人公アンナが、そんな「最後の物たちの国」で時折垣間見た希望や人との出会いなどを
    「あなた」に向けて綴っている物語。

    これまで読んだオースターの作品の中では一番救いがないんだけど、なぜかちょっと温かい気持ちになれた不思議。

    そしてこれは近未来とかじゃなくすごく現代的なお話だと思う。

  • 悪夢の国へ向かったアンナ・ブルームからの手紙。
    何もかもがばらばらに崩れたあと、そこに何が残るか見きわめること。物の時代は終わりました。わたくしはどこへ向かいましょう?あなた次第で本当はどこへでも行けるのです。
    愛おしい物語。

  • うーむアンナ・ブルームよ生きていてくれい。

    消息を絶った兄を求めて、すでにまともに機能していない国に渡ってしまった若い女性アンナのサバイバル物語。青いノートにつづられた手紙という形で語られている。『ガラスの街』では赤いノートだった。ノートにぎっしり書き込む登場人物がP.オースター氏は好きなのだろうか。

    苦労話の連続ではあるのに、相変わらず語り口が天才的に面白くて、内容ほどには重苦しく感じずに読めた。不思議な本だ。

    サバイバルのハウツー描写が地味に沁みた。ショッピングカートを体にくくりつけて狩猟民族のようにアクティブに街をうろついて物拾いをする人たち。原語はスカベンジャーだろうか。くくりつける紐を臍の緒と呼ぶのが洒落てる。もしかしたらアメリカのホームレスからイメージしてるのかもしれない。

    目的は分解し、夢は燃え尽き、愛する人々は死んでゆき、刹那的な希望だけがかろうじて残る。生まれたら死ぬのが当たり前の成り行きだけれども、誰も自分が死に向かって生きているとは思っていない。ただ日々をどうにか生き続けるだけだ。その過程で出会って別れる風景や人物は、どんなに素晴らしくても永遠に残してはおけない。風景は記憶から消えてゆき、人との関係も変わってゆく。それでも瞬間瞬間鮮やかに花開き、奇妙に愛しく人生を彩ってくれる。

    アンナが歩いた道程はひどく過酷で、奇妙で、とんでもなくファンタジーなのだが、同時にとても馴染みのあるものだった。

    青いノートがちゃんと誰かに読まれているのがいい。読んでいるのは元恋人なのだろうか。それとも何の関係もない赤の他人だろうか。どっちでもいいのかもしれない。発した言葉が、別の誰かに届くこと、そこには救いがある。

  • 兄を助けに「そこ」に行った女性の話。「そこ」に染まるつもりがないのに、最終的に「そこ」に居場所を見つけてしまう過程が秀逸。
    ポールオースターでは1番好きな作品。

  • 秩序が崩壊し、犯罪が横行している国。その国にジャーナリストとして取材に行き、行方不明になった兄を探す主人公アンナ・ブルーム。常に状況は変わり一定の状態が存在しない世界。状況が変わりすぎて人々の思考から言葉どころかかってあった概念さえ消えてしまう世界。そんな世界の放浪記。アンナが手紙を書いている形式なので、語りかけてくる感じがよい。近未来とも思えるし、まさに今どこかで起こっていることにも思える。

  • 再読。
    従来の秩序が崩壊し、横行する食物の強奪や殺人はもはや犯罪ですらない国。物が次々失われていき、大半の人々が街を漁って一日を生き延びる国。そんな国に行方不明の兄を捜しに来たアンナ。
    人の悪意に揉まれながら逞しく生きる術を身につけ、絶望の中でも支え支えられる人々との出会いから新しい希望を見出していく。誰かに必要とされる、それこそが最大の生きる理由なのかもしれない。
    昔読んだ時は完全に架空の世界の話だと思えたが、新型ウイルスの影響でマスクや一部の品々が姿を消したこの状況、いつこの“最後の物たちの国”になってもおかしくないのだと痛感する。

    「何だかんだ言ったって、たとえこんなひどい時代だって、人生ってのはいくらでも素晴らしくなれるんだ。それをわざわざ台なしにしちまうことしか考えない人間がいるなんてねえ、ほんとに情けないよ」のイザベルの言葉が胸に刺さった。
    この小説は作者からのアンナからの、混沌した時代を迎える今の人たちへのメッセージ。

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