三つの小さな王国 (白水Uブックス 137 海外小説の誘惑)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071373

感想・レビュー・書評

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  • ある種の才能が飛び抜けていても世渡り力/生命力に欠ける人たちの、眩い夢のような「こういう風にしか生きられません」ストーリー。

    「J・フランクリン・ペインの小さな王国」が思春期に読んだ少女漫画並みにキラキラしていてすてき。大昔に感じた、世界が美し過ぎて、胸が苦しいような気持ちが思い出される。

    「王妃、小人、土牢」は、王妃たち(やや類型的な)主要人物より、川のこちら側から城を眺める町の人の視線・物語に対する考え方が面白かった。

    「展覧会のカタログ」もギリギリの四角関係がどうなってしまうのか、息を殺すようにして読んだ。終わり方がちょっとざっくりし過ぎているような気がするけれど、これくらいやってしまったほうが、現実感がふわっと薄れるような効果があるといえばあったかも。

    • なつめさん
      何冊か読んだミルハウザーの短編の中では「J・フランクリン・ペインの小さな王国」が一番のおきにいりです。
      何冊か読んだミルハウザーの短編の中では「J・フランクリン・ペインの小さな王国」が一番のおきにいりです。
      2012/09/21
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「J・フランクリン・ペインの小さな王国」
      素晴しいですよね!
      モデルとなったウィンザー・マッケイが描いた「リトル・ニモ」が復刊(訳者が違うか...
      「J・フランクリン・ペインの小さな王国」
      素晴しいですよね!
      モデルとなったウィンザー・マッケイが描いた「リトル・ニモ」が復刊(訳者が違うから、新訳と言うべきか?)されるのですが、高過ぎて手が出ません(「初期アメリカ新聞コミック傑作選1903-1944」4巻+別冊。限定1000セット!創元社)。。。
      2012/12/13
    • なつめさん
      限定1000セットにしておかないと採算が取れないということなんでしょうかね。廉価版もあったらいいのに
      限定1000セットにしておかないと採算が取れないということなんでしょうかね。廉価版もあったらいいのに
      2012/12/13
  • 「J・フランクリン・ペインの小さな王国」「王妃、小人、土牢」「展覧会のカタログ」の3つの中編が収録されています。

    「J・フランクリン~」は、三作の中では唯一、正攻法(?)ともいうべきオーソドックスな手法の小説ですが、漫画家でありアニメ製作者でもある主人公の作品世界があまりにも緻密でリアルで、劇中劇的な、本来の筋書き以外にいくつも短編を味わったような濃密さがありました。こんなアニメーションがあったら、ほんとに見てみたい!と、同時に人間たちの関係のほうもなんだかリアルで、女性側としては「これもう絶対奥さん浮気してるよ~」とかなり早い段階で主人公にアドバイスしてあげたくなります(笑)。

    「王妃~」は中世ヨーロッパのファンタジーっぽい舞台で繰り広げられるのだけれど、段落ごとに小見出し(?)がついていて、多角的な視点で伝説が語られ、最終的にどれが本当に起こったことかは読者(というよりは伝説を伝えていく町人たち?)にゆだねられるという趣向。小人というとオスカーワイルドの短編(王女の誕生日)を思い出しますが、こちらの小人はもっとしたたか。童話的世界観でありながら、大人の心理のどろどろっぷりが恐ろしい。

    「展覧会~」は架空の画家エドマンド・ムーラッシュの、タイトル通り「展覧会のカタログ」のテイで1作ごと作品の解説風に人物や背景が語られてゆき、それを年代順に追ってゆくことで画家の人生が浮き彫りになる、これも凝った趣向の作品。これも「J・フランクリン~」同様、架空の画家の作風なんかがすごく緻密に表現されていて、実際にその絵を見たくてたまらなくなりました。

  • 昔ながらの作風にこだわったアニメーション作家の魂の物語。
    猜疑心によって、少しずつ平穏で豊かな世界が瓦解していく王国の人々。
    一人の絵描きの年代別作品をパンフレット風に読み解きながら、破滅へと向かっていく様を追憶する。

    それぞれの物語が、非常に緻密かつ詳細に描かれていて気づいたら物語にのめりこんでしまう。
    アニメも、人間模様も、デッサン技術も、まるで「専門家」かと思わせるほど豊富な知識を土台にして描写されている。
    テクニカルな技術だけでも一見の価値あるし、幻影的な物語でも読者も魅了する。

  • 濃密な世界に目眩を覚える1冊です。

  •  三つの短めの中編からなる作品集。
     この人の作品は、たとえ読み始めは「うーん、どうかなぁ、いまひとつかなぁ」と思うことがあっても、読み進めるうちにどんどんとその世界に没入し、読み終わった頃には頭のてっぺんまでドップリと浸かってしまう。
     今回の三つの作品もそんなドップリと浸かることが出来る僕にとって本当に極上の内容だった。
     一人の漫画家の半生を丹念に描いた「J・フランクリン・ペインの小さな王国」、短めの章を重ねながら、王、王妃、王の友人、そして小人と四つどもえの心理戦を行っているような「王妃、小人、土牢」、一人の芸術家の絵画解説集を模しながら、二組の兄妹の悲劇の顛末を描いた「展覧会のカタログ-エドマンド・ムーラッシュ(1810-46)の芸術」。
     いつものようにどの作品にも過剰なまでの細かい描写が多く、読む人にとっては少しくどい印象を与えるかも知れないが、これはこれでやはりミルハウザーの魅力の一つだろう。
     そして、読む人の心をそっと、それでも大胆に切り開いて、中身をさらけ出してしまうような心理描写の凄さ。
    「J・フランクリン・ペインの小さな王国」のラストで描かれた胸をすくような感動。
     そのどれをとっても、僕にとってミルハウザーは最高の作家の一人である証となっている。

  • 「展覧会のカタログ」のストーリー展開が素晴らしかった。

  • ノンフィクションや研究書と錯覚してしまいそうなほど
    緻密な描写。
    生々しく迫り脳内で再生される映像の数々。
    でも現実からはみ出していることは明らかだし
    柴田元幸の
    「これほど「さし絵」のありえない作品」という解説も尤も。
    ミルハウザーのこの哀しく美しい気持ち悪さが好きだ。

  • スティーブン・ミルハウザーの中編集、自己世界による現実の喪失(特に恋愛の喪失)という極めて似たテーマが、普通の三人称小説、小節ごとに区切られた民間伝承の解説、展覧会のカタログという、それぞれまったく異なる形態で提示される一冊。

    ミルハウザーらしい雰囲気がよく出ているという意味では、『J・フランクリン・ペインの小さな王国』が面白いが、絵画の果てしない可能性とその境界を描いた奇想作『展覧会のカタログ - エドマンド・ムーラッシュ(一八一〇 - 四六)の藝術』が、その構成も合わせて素晴しかった。たとえば書評集だったり、観光ガイドブックだっり、物語以外の形態で小説を提示するというのは現代では割と普通だが、それでも絵画の図録(ただし、もちろん絵はない)というのは初めて読んだ。

    ミルハウザーにしては、やや落ちるかという感じで星 3つ。

  • 柴田さんの翻訳もの。中編もの3作品で成っています。まさにミルハウザーの小説といった最初の1編、
    ・J・フランクリン・ペインの小さな国
    もいいですが、あとの2編、
    ・王妃、小人・土牢
    ・展覧会のカタログーエドマンド・ムーラッシュ~
    が個人的には脱帽。

  • 市井の漫画家について描いた正統な物語、中世の物語について物語るメタ構造的な物語、実在しない画家の架空の展覧会の解説文という実験的な手法による物語という3作を収めた中編集。いずれの作品でも揺れる人間関係を緻密に描いているが、やはり注目すべきなのはその芸術論についてだろう。本作に出てくる漫画・物語・絵画という3つの芸術に共通するのは丁寧な人間関係の描写とは対極の「輪郭の曖昧さ」であり、それは逆説的に小説の形式の可能性を浮かび挙がらせようとしている。3作目はやや難解さが目立つものの、それ以外の2作は楽しめた。

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著者プロフィール

1943年、ニューヨーク生まれ。アメリカの作家。1972年『エドウィン・マルハウス』でデビュー。『マーティン・ドレスラーの夢』で1996年ピュリツァー賞を受賞。『私たち異者は』で2012年、優れた短篇集に与えられるThe Story Prizeを受賞。邦訳に『イン・ザ・ペニー・アーケード』『バーナム博物館』『三つの小さな王国』『ナイフ投げ師』(1998年、表題作でO・ヘンリー賞を受賞)(以上、白水Uブックス)、『ある夢想者の肖像』『魔法の夜』『木に登る王』『十三の物語』『私たち異者は』『ホーム・ラン』(以上、白水社)、『エドウィン・マルハウス』(河出文庫)がある。ほかにFrom the Realm of Morpheusがある。

「2021年 『夜の声』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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