踏みはずし (白水Uブックス 138)

  • 白水社 (2001年7月9日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (155ページ) / ISBN・EAN: 9784560071380

感想・レビュー・書評

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  • 柔らかい邦題が気になって購入。ひねってあるのかな?と思ったが、原題の«Faux pas»は、フランス語ではありふれた言い回しだとか。

    冒頭から7ページほど、ある男の動作と状況判断が、延々と改行なしで描かれる。ある種のだらだら書きだけど、これはフランス語独特の文の続けかたでもあるので、「そういうもんだ」とおぼろげに知っていながらも、読んでいて息が続かない感覚が増してくる。そこに、男のいる、緊迫した状況が重ねられるので、ピンと張りつめた、一触即発の状況が鮮やかに浮かび上がってくる。男は巧みに住居に侵入し、標的となる人物のいる部屋を探っている。そしてサイレンサーをつけた銃を構えて…スタイリッシュなロマン・ノワール(フランスの犯罪もの)で、映像的にクール。実写ではどの俳優さんがいいのかはっきり思いつかないけれど、『ルパンⅢ世』の、ルパンや次元大介が銃器を扱うシーンのイメージが近いように思った。

    主人公の持つストイックなポリシーと、狙った人物との対話は、ル・クレジオなんかを読んでいるときに感じる、「フランス人と哲学、論争は切り離せないんだなー」という、相手の自我(というのかな)に食い込んでくる鋭さがある。フランス人の凄腕殺し屋は、報酬だけでは殺しの理由として足りないのか…ちょっとめんどくさいかも(笑)。題名にも使われた「踏みはずし」については、普通のミステリーだったら、主人公の周りを彩るフレイバーのひとつで、さほど問題は大きくならないのかもしれない。それが、彼には違ったのか…結末は予想できたように思うけれど、どこからが「踏みはずし」だったのかは、読みかたによっては考えが分かれるかもしれない。

    不用意に登場人物や込み入った状況を増やさず、描く人物と行為を絞り込んで抑えた筆致で書かれた、ものすごく冷やかな文章だと感じる。逆に、絞り込みすぎてもの足りないと思うこともあるかもしれない。「あれっ、もう終わりですか?」と思わないわけではないけれど、このコンパクトな濃さが効いているのも明らか。読み終わった直後は☆3つくらいかな…と思いましたが、堀江敏幸さんのクリーンな翻訳が小説の温度を柔らかくも低く保っているとも思うので、ひとつ上げて、この数で。

    • Pipo@ひねもす縁側さん
      堀江さんが作家専業になられる前くらいの出版じゃないかと思います。訳はやっぱりクリーンで温度が低くて素敵ですね。

      ガンアクションがなかな...
      堀江さんが作家専業になられる前くらいの出版じゃないかと思います。訳はやっぱりクリーンで温度が低くて素敵ですね。

      ガンアクションがなかなかクールでちょっとしびれました。本筋はそこじゃないのはわかってますが(笑)。キャラ的には次元かなあと思いますが、44マグナムにサイレンサーをつけることもないだろ、おいっ!ということで~。

      10年くらい前のUブックスって、ラインナップがすごく面白いですね。今、ちょっとハマってます(@ジュンク堂さん)。
      2012/11/19
    • 花鳥風月さん
      あっ、昨日ジュンク堂さんへ行ったところです。ピンクレシートで図書カードと手ぬぐい(青)をもらいに。

      ジュンク堂さんのガイブンの棚はいつ見て...
      あっ、昨日ジュンク堂さんへ行ったところです。ピンクレシートで図書カードと手ぬぐい(青)をもらいに。

      ジュンク堂さんのガイブンの棚はいつ見てもほれぼれしますね~。
      2012/11/19
    • Pipo@ひねもす縁側さん
      私は手ぬぐいを色違いでいただきました!

      緑色の柄を、てっきり矢絣だと思っていたのですが、ジュンク堂さんらしいアレンジがされていてキュー...
      私は手ぬぐいを色違いでいただきました!

      緑色の柄を、てっきり矢絣だと思っていたのですが、ジュンク堂さんらしいアレンジがされていてキュートでした。本のカバーにすると、まるっきり「噺家さんが高座で作る、手ぬぐいの帳面とか本」のビジュアルで、そこもまたチャーミングです。
      2012/11/20
  • 訳者が堀江敏幸氏だったので読んだ。

  • 男は、本を床に置くと、コートのポケットからオートマティックとサイレンサーらしい光沢のあるシリンダーを取り出し、それをくるくると銃身に装着した。男はそれを、一瞬のうちにやってのけた。ことをせいたからではなく、完璧無比にして、精確きわまりない一連の動作が生んだ迅速さだった。

  • 話はともかく、村の寂れた小屋を借りて日用品を調達してきてとりあえずの生活を始めるところの妙なリアルさがとっても気に入りました。
    こういう身軽さ、憧れです。

  • 翻訳技術については門外漢ながら、これは訳文がいいのだろうと思う。ハードボイルド的な暗殺シーンの緊張と、いかにも仏文チックな長文どちらにも対応しているのが素晴らしい。
    著者の他の作品が非常に気になる。

  • 本作の訳者である堀江敏幸氏の小説が好きなので読んでみた。
    全てが筋書き通りで、
    小説的偶然のアウトラインを一歩も踏みはずさずに、
    淡々と敵たちは死に、
    あまりにも都合よく愛が交わされ、
    巨悪のスキャンダルは暴かれる。
    それらが一切の心理描写を排した、
    静かな筆致で綴られる。
    この非現実感はなんだろう。
    哲学的な意味を唐突に付け足したかのようなあっけないラストは、
    肉体的にも論理的にも完璧であったはずの「男」の破綻を、
    (ただしあくまでも「男」個人の内的な論理破綻にすぎないが)
    白日夢のような切なさで描いている。

  • この話の現実はぼくにとって夢のような世界だから、この話の、夢の中を歩いているような気分がする、というのは陳腐すぎる感想になるか。とはいえ、夢にしては、うむ、うむむ、なんかちょっと思う通りにいかないぞ、という感じで、そこが現実、引き戻されつつも、やはり夢の中。そういう本の読み方もありか。と考える。

  • 本来ミステリ−に分類されるべき小説だと思いますが、愛の印象が強かったので「love」に分類しました。
    実に好きな文体、そして展開でした。
    無駄なものをそぎ落とし、ある論理の展開をベースに緻密に構築された作品。
    著者の他の作品も読んでみたいと思います。

    • Michiruさん
      存じ上げない方でした。
      チェックします!
      存じ上げない方でした。
      チェックします!
      2009/05/31
    • lovefigaroさん
      MakiYさん
      すっきりとした作品です。
      内容はかなりハードボイルドですが。
      堀江さんが訳しています。
      MakiYさん
      すっきりとした作品です。
      内容はかなりハードボイルドですが。
      堀江さんが訳しています。
      2009/05/31
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