黒い時計の旅 (白水uブックス)

制作 : Steve Erickson  柴田 元幸 
  • 白水社
3.76
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本棚登録 : 464
レビュー : 39
  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071502

作品紹介・あらすじ

仮に第二次大戦でドイツが敗けず、ヒトラーがまだ死んでいなかったら…。ヒトラーの私設ポルノグラファーになった男を物語の中心に据え、現実の二十世紀と幻のそれとの複雑なからみ合いを瞠目すべき幻視力で描き出した傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 読み終えてただ圧倒されてしまった作品。

    壮大なスケールと、細やかで幻想的な筆致は素晴らしい!のひとこと。

    物語の筋を追うだけなら、ヒトラーの私設ポルノグラフィー作家となった1人の人物、バニング・ジェーンライトの生を、歴史とともに辿っていく…そうした内容なのですが、でも、それだけではありません。

    読みごとに形作られていくのは、著者のものか自分のものかどちらともつかない様々な生き物や光景です。それらが、時とともに成長し、一度消え、またその姿を変えて眼前に現れます。

    「幻視の作家」とも言われているそうですが、すごい能力だと思います。

    柴田氏のいう、振り子のような、輝きのような、海のような、揺り返す、揺らめく世界のなか(決して至福ではありません)に存在しているのを感じます。

    そして自らの罪がその生を終えることにより終焉を迎える、作者の死生観のようなものを感じました。

    傑作、といってよい作品と思います。

    柴田氏の訳も非常に格調高くて美しく、感動的ですらあります。

  • やたらめったらおもしろい。
    しかしどういう話なのかと説明を求められても困る。理解出来てると到底思えないから。
    どこまでが現実でどこまでが幻の話なのかも分からないから。
    語り手も歯車が切り替わるように気付いたら別の人物へと変わっている。
    夢と現を行き来するような感覚を繰り返し、話はどんどんと進む。
    旅の時計は、時に逆行することもある。
    ドロドロした愛憎と血なまぐさい匂いが充満してるのに、美しさにはっとさせられる瞬間が何度も何度も訪れる。
    幻想的な手触りにクラクラして、紡がれる暗い夜の世界にひたすら酔った。
    参った。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「どういう話なのかと説明を求められても」
      イメージや雰囲気を味わえれば、それで充分ですよ!
      「どういう話なのかと説明を求められても」
      イメージや雰囲気を味わえれば、それで充分ですよ!
      2012/06/26
  •  海外の作品を読むようになって思うこと、それは日本の作品とは明らかにスケールが違うこと。日本の小説は《個人》と《限定された時間と空間》が割と多いのに対し、海外の小説は《人間》と《交錯する時間と広い空間》を描いている。
    これまで日本の小説ばかりを読んでいたのだけれど、ポール・オースターやイアン・マキューアン、ジャン・ジュネ、イタロ・カリヴィーノなどを読んで食わず嫌いだったと気付いた。内容も構成力も文章も断然に秀でている。

    そして、この、スティーヴ・エリクソンの『黒い時計の旅』。時間と場所が交錯し卓越した想像力によって構成される物語は、『すごい』のひと言に尽きる。読んでいる最中ハンマーで頭を殴られたような、冷水を頭から被ったような衝撃を受けっ放しだった。終わってしまうのが惜しくて仕方なかった。小説というのはこういうものだと大絶賛したくなる小説であり、芸術のような作品である。訳者があとがきで言うように最良のメタフィクションである。

    終盤、胸が苦しくなって泣けてしまった。心に刺さる幾つもの文章が繰り出す美しさ、比喩(もしくは象徴)として全く新しい意味を持たされて連なる言葉たち。
    小説として素晴しく、物語として実に面白い。最高の1冊。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「すごいのひと言に尽きる。」
      飲み込めない大きさなので、無理矢理食べると、お腹だけじゃなく、胸も頭も一杯になって自分の身体じゃない感覚に襲わ...
      「すごいのひと言に尽きる。」
      飲み込めない大きさなので、無理矢理食べると、お腹だけじゃなく、胸も頭も一杯になって自分の身体じゃない感覚に襲われてしまいます。。。
      2013/07/06
  • 2005-08-00

  •  本のオビから引用すると
    「仮に第二次大戦でドイツが負けず、ヒトラーがまだ死んでいなかったら……。ヒトラーの私設ポルノグラファーになった男を物語の中心に据え、現実の二十世紀と幻のそれとの複雑なからみ合いを瞠目すべき幻視力で描き出した傑作」ということになる。
     作中に「ヒトラー」という固有名詞は出てこない。
     イニシャルで「A・H」という記述が1回出てくるのみ。
     それでもこれは間違いなくヒトラーの事であり、中心となる登場人物はその男のための私設ポルノグラファーになってしまった大男である。
     とにかく面白い。
     時間と空間を自由に乗り越え、現実と虚構をひょいひょいと飛び越えていく。
     このポルノグラファーが描く小説内世界がいつのまにか現実世界となり、現実世界が虚構の世界にリンクしていく。
     こちらの二十世紀とあちらの二十世紀があり、緻密に組まれた物語は時にどこに向かっているかわからなくもなるが、最後にはきちんと一つのところに収まる。
     とにかく時空を超え、虚実を越え、時には語り手も変えながら物語は進む。
     訳が分からない、という感想を持つ方もいると思うが、僕はもう読みだしたら止まらなくなってしまった。

  • 2016/04/23

  • 話が時間場所を飛び交う。今話しているのは誰なのか、多くが語られないので読んでいてだんだん不安になってくる。最後までモヤモヤ。それが狙いなのか。

  • とりあえずとても面白くてグイグイ読んでしまった。でもどう感想を書いていいのかこんなに困る小説は初めてかもしれない。帯に書いてあるようなあらすじ「第二次大戦でドイツが負けず、ヒトラーが生き続けている世界」で「ヒトラーの私設ポルノグラファーになった男」のストーリーを安易に想像していると肩すかしを食らわされます。ヒトラーが死ななかったら歴史はこうなったかもね!という大河パラレルSFではもちろんないし、そもそも小説の中でヒトラーという言葉は一度もはっきりと呼ばれていないし、彼のために書かれたという官能小説の内容も不明。謎めいた島と本土を行き来するボートの渡し守をする白髪の男のトンチンカンな行動から物語は始まり、ヒトラーも彼のために官能小説を書く男もなかなか登場しない。読者はいったいどこに連れていかれるのかずっと不安なまま。

    最終的に、なぜかヒトラーとも作家とも縁もゆかりもない一人の女性、美人でもないし金髪でも青い眼でもない一人の女性が、わけもわからず長年にわたり実態のない男たちの影にストーキングされ凌辱され子供を生まされ人生をめちゃくちゃにされても生きるしかなかった、という悲愴な挿話が浮かび上がってきて、やっと冒頭の白髪の男の時間に戻る。メーガンとコートニーは本当に可哀想で、バニング・ジェーンライトが復讐に取りつかれる気持ちはとてもよくわかる。ただそういう現実に理解できる人間らしい感情と、実態もなく歪んだ時空を超えて女のもとを訪れる男の非現実感が当たり前のように混在して、自分のいる場所までどんどん歪んで、ふいに別の時間に投げ出されそうな錯覚に陥りました。ちょっと体感したことのない読書体験だった。

  • 読者はまず密室的な異様な空間に閉じ込められる。その
    空間がいよいよに狭くなった瞬間、そこに空いた小さな
    針の穴から物語が怒濤のように流れ出す。それに飲み
    込まれた読者は足掻き溺れながらも為す術もない。終焉
    に気付く頃には自分が何も手にしておらず、ただ蹂躙され
    弄ばれたという思いだけが残される。そんなとんでも
    ない小説だった。一応「SF・ファンタジー」の項には
    入れたが、SFでもファンタジーでもない、何か別の
    ジャンルの小説だな。

    読んでみて面白いかと聞かれれば、間違いなく面白いと
    答えるだろうが、好きか嫌いかと聞かれると決して好き
    ではないと答えてしまうだろう。私は一度でいい(苦笑)。

  • 解釈は自由だ。ただ、敢えて判りにくい迷路に読者を誘い、鹿を馬と呼ばせるような傲慢さを感じる。判りにくいだろう?だけど、これが芸術さ。わかる奴は、センスが良いんだぜ!いや、そんな事はない。ハシシか何かを決めながら、読者を置き去りにプロットすれば、術としてのリテラシーが世界を作りながらも、酩酊した纏まりの雰囲気を文体に持たせる事は可能だ。一言、わかりにくい。だから、楽しめない。小説なのに。

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著者プロフィール

1950年、米国カリフォルニア州生まれ。作家。『彷徨う日々』『ルビコン・ビーチ』『黒い時計の旅』『リープ・イヤー』『Xのアーチ』『アムニジアスコープ』『真夜中に海がやってきた』『エクスタシーの湖』『きみを夢みて』などの邦訳があり、数多の愛読者から熱狂的な支持を受けている。大学で映画論を修め、『LAウィークリー』や『ロサンゼルス・マガジン』で映画評を担当し、映画との関わりは長くて深い。本作は俳優のジェームズ・フランコの監督・主演で映画化が進行している。

「2016年 『ゼロヴィル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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黒い時計の旅 単行本 黒い時計の旅 スティーヴ・エリクソン
黒い時計の旅 (福武文庫) 文庫 黒い時計の旅 (福武文庫) スティーヴ・エリクソン

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