審判 (白水Uブックス 154 カフカ・コレクション)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071540

感想・レビュー・書評

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  • ある朝突然、逮捕されて裁判を受けることになった青年の生活を追う。結末が描かれるも、未完のカフカ代表作。

    変身に続いて、「どういうことやねん、これ!?」となる不条理文学。これは難易度が高い……!何の罪で捕まったのか明らかにされず、進まない裁判の間で、少しずつ崩れていく日常。とりあえず、主人公がやたら女性に手が早いのはわかったけれど、あとはダラダラと関係者との人間関係が描写されていくのみで、なんだかよくわからなかった……。そして、あまりに唐突な結末にポカーン( ゚д゚)
    もう一度言おう、「どういうことやねん、これ!?」

    今回もネットの考察頼みで色々見てみると、「ナチスが出現する前の作品であり、ファシズムを予見していた」という意見が。
    なるほど、意味のわからない裁判に翻弄される主人公の姿は、意味のわからない権力に愚弄される庶民の姿にかぶるかもしれない。不条理な社会システムの恐怖を描いているといえばそうかも……。

    本作は最初と最後を同時に書いたらしく、結末部分はあるものの、全体としては未完とのこと。完成していたらどんな作品になってたんやこれ……。

  • オーストリア=ハンガリー帝国領プラハ出身の、20世紀文学を代表するユダヤ系ドイツ語作家フランツ・カフカ(1883-1924)の未完の長編小説、1914-1915年執筆。後述の通り、或る奇妙な"訴訟"に巻き込まれた男の物語であるが、カフカ自身プラハ大学では法学を専攻しており、大学卒業後は弁護士見習いや司法修習の経験がある。その後は「ボヘミア王国労働者傷害保険協会プラハ局」に勤務し、近代官僚制機構の末端に身を置くことになる。



    カフカ自身を連想させるヨーゼフ・K.という名の青年は、或る朝理由も分からないまま突然逮捕される。その罪状が明かされることはない。捜査機関・司法権力による逮捕・刑事"訴訟"の過程は、物語を通して一貫して不明瞭で曖昧模糊とされたままである。そして情況が何ら明らかになることなく、ヨーゼフ・K.は「犬のよう」に処刑される。

    ヨーゼフ・K.を逮捕しに来た監視人曰く「あなたが告訴されているのかどうか、わたしはまるきり知らないし、あなたが何者なのかすら、まったく承知していない。あなたは逮捕された。それ以上のことは何も知りませんね」。彼同様に"訴訟"に巻き込まれて商人ブロック曰く「それにわたしの場合の提出書類にしても、・・・、まるで価値のないものでした。・・・。ものものしいつくりのわりに内容がないんですね」。同じく「・・・、だれひとり審理の日を確定したいとは思わず、できもしないのです」。教誨師曰く「裁判所はお前[ヨーゼフ・K.]に用はない」。

    近代官僚制機構は、社会システムとして巨大化・遍在化するとともに、個人の対世界意識・対人間意識をも深いところで規定することになってしまった。この物語は、このように二重の意味で人間の生が匿名化され非人格化されてしまった事態への、則ち近代人の疎外情況への、裁判を材に取った滑稽譚による批評であると、一応は云えるだろう。



    ところで、この物語には特徴的な構造があるように思われる。それは、ひょっとすれば自己関係的・超越論的と呼ばれ得るものかもしれない。"訴訟"が物語の中心であるはずなのに、その実態/実体がすっぽり抜け落ちている。ついぞ明示的に語られることはない。この物語はその中心が空虚そのものである。一つの虚点であると云っていい、内実が無いのである。そして、ヨーゼフ・K.の様々な立ち回りも、その他の登場人物の言動も、全てこの空虚な中心の周りをただただ浮遊しているだけなのだ。そこへ遡行することで意味と位置づけを与えられる物語の中心は、無内実な虚点なのであるから。中心が無いのではない、無という中心が在るのだ。そして無からは何も引き出せない。意味も本質も目的も位置も方向も価値も当為も。物語世界の秩序の支点と糸を欠いているのだから、それは何処までもズレていき、チグハグと化していく。恰もそうして崩れ毀れ続けていく過程そのものがこの物語自身の本質ならざる本質であるかのように。物語の全ての要素が、この虚点を中心に、無軌道な軌跡を描くのだ。物語中のあらゆる言葉も行為も、その始点と終点とが共に虚点となり、それを結ぶ諸関係の全ても虚線となる。つまりは、一切の自己意識も communication も意味を為し得ない。この事態を「不条理」と呼んでもいいだろう。

    「わかってもいないことをしゃべり合っている」。

    言葉が、その交換が、communication が、空転している。それは物語中の言葉だけではない、当の物語そのものについて当てはまることである。小説『審判』に於ける言葉の空転は、『審判』とその読者とのあいだの discommunication と明らかに並行関係にある。逆に云えば、小説『審判』とその読者とのあいだの discommunication (超越)が予め当の『審判』の内容そのものとなっている(閉包)。先に自己関係的・超越論的と呼んだのは、この機制のことである。小説内容(閉包)が、小説それ自体を食い破って、小説と読者との関係そのものへと迫り出てくる(超越)。小説の批評対象が当の小説そのものの存在様態である、則ち小説の存在様態が小説の批評対象を体現している(ただしこの機制を自己関係的・超越論的と呼べるか否かは、自己関係性という概念の検討を経た上で、慎重になされるべきであり、ここではその議論は保留としておく)。以上のような意味で、これは中井秀夫『虚無への供物』にも通じる、メタ・フィクションの構造を有していると云えないか。

    この小説を読んで感じる困惑が、まさに communication の空転を体現している。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/758478

  • 3.68/250
    内容(「BOOK」データベースより)
    『銀行員ヨーゼフ・Kは、ある日、突然逮捕される。彼には何ひとつ悪いことをした覚えはない。いかなる理由による逮捕なのか。その理由をつきとめようとするが、確かなことは何ひとつ明らかにならない。不条理にみちた現代社会に生きる孤独と不安をいちはやく描いた作品。』

    原書名:『Der Prozess』(英語版『The Trial』)
    著者:フランツ・カフカ (Franz Kafka)
    訳者:池内 紀
    出版社 ‏: ‎白水社
    新書 ‏: ‎345ページ


    メモ:
    ・20世紀の100冊(Le Monde)「Le Monde's 100 Books of the Century」
    ・世界文学ベスト100冊(Norwegian Book Clubs)
    ・死ぬまでに読むべき小説1000冊(The Guardian)「Guardian's 1000 novels everyone must read」

  • #英語 だと The Trial by Franz Kafka

    ある日突然(小説では朝ですけど)事件が始まるのは、冤罪犠牲者の心理と通じるのではないかと。
    リアリティのある恐ろしさを感じた一冊。

  • 社会の仕組みを全部知っている人はいない。
    それぞれが自分の知る範囲の中で生きて、それを超えるものは人の手を借りたり、なあなあでごまかしたり、すっかりお手上げしたりして片付ける。

    主人公のKは理由の分からない訴訟を起こされ、仕組みの分からない裁判所に関わり、能力の分からない弁護士を雇う。
    一方で、普段の生活には制約を受けない。だが、なぜか周りの人はKが訴訟を起こされていることを知っている。

    これはお手上げの案件だと私は思うけれど、Kはあれこれ手を尽くそうとしては失敗して苛立つ。そして、今まで通りにしていれぱいいはずの普段の生活さえ狂わせていく。

    そういうものなのだろうか?
    そういうものな気もする。

    自分より大きなものが間違っている時、個人はどうしたらいいんだろう?

  • 生きていると説明のつかないものごとっていっぱいあるよね、わたしたちってそういう世界の中で生きているよね、と言われているような心地がした。
    画家のアトリエや屋根裏の裁判所でKが感じる息苦しさだけは妙にリアルに感じられたけど、それ以外はなんだか夢の中の出来事のような、フワフワした感じで、あってもなくても同じことみたいな印象。
    理由もなく周りの女の人に好かれるとことか、象徴的だと思う。ものごとに理由なんてものはなくて、そうなるべくしてそうなっていくのだから、最後に死が来るのは必然といえば必然なのかな。
    「罪」などというものは他人が勝手に決めるもので、決めつけられた方には決めつけられた方の言い分があるはずだけど、そもそもなんの罪なのかもわからずに話が進むのだから、手も足も出ない。
    まるで真っ白のトランプでババ抜きしてるみたいな、途方もなさを味わう小説だった。

  • 青空文庫で読んでます。

  • 事務処理能力があがります。(うそじゃないよ)

  • 日本語訳は買ったものの読まないまま放置してあった。英語で読もうとして途中で飽きてしまい、また放り投げた。今回、改めて読み直して、つっかえたり、分からないところは読み飛ばしたりしながらも読了。「城」、「失踪者」も似たような成り行きで読み終えた。

    三冊の本は同時期に書かれたこともあり、似通った雰囲気を持っている。女性との関係、自分が何らかの事件に受動的に巻き込まれること、城や裁判など重要な組織の全体像が最後まで分からないこと、その割に細部はやたらに細かく描かれたりすること、など。

    「審判」で特に印象的だったのは、大聖堂における出来事を綴った章。プラハの大聖堂を思い出した。

    備忘録として。

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著者プロフィール

1883年プラハ生まれのユダヤ人。カフカとはチェコ語でカラスの意味。生涯を一役人としてすごし、一部を除きその作品は死後発表された。1924年没。

「2022年 『変身』 で使われていた紹介文から引用しています。」

フランツ・カフカの作品

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