城―カフカ・コレクション (白水uブックス)

制作 : Franz Kafka  池内 紀 
  • 白水社
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レビュー : 21
  • Amazon.co.jp ・本 (460ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071557

感想・レビュー・書評

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  • オーストリア=ハンガリー帝国領プラハ出身の、20世紀文学を代表するユダヤ系ドイツ語作家フランツ・カフカ(1883-1924)の未完の長編小説、1922年執筆。『失踪者』『審判』と並ぶいずれも未完の三つの長編小説のうち、最も執筆時期が遅いもの。



    物語の中では"城"をしばしば近代官僚制機構に見立てて、その中に配置された人間の生が匿名化・非人格化・書類化・情報データ化されずには在り得なくなってしまった事態への、則ち近代人の疎外情況への、批判と読み取れる箇所が散見される。実際にカフカ自身、「ボヘミア王国労働者傷害保険協会プラハ局」(これ自体は半官半民の組織)に勤務し、近代官僚制機構の末端に身を置くことになる。『審判』同様、そこでの経験が"城"という非人間的でその全体像がついぞ把握しきれない肥大化し遍在化した機構の描写の背景にあるのは間違いない。

    現代、価値の正統性への志向を放棄し手続きと権力運用とに於ける合法性を専ら正当性の基準とするマックス・ヴェーバー的な広義の近代官僚制機構があらゆる社会的関係に根を下ろし、諸個人間の関係を目的‐手段連関へと貶めておきながらなお決してその最終目的を明示的に語ることができず結局は「力(腕力・金力・権力・精力)」と「快楽(生理的・性的)」の効率的獲得という即物的(無)価値観に頽落する以外に無いところの目的合理主義(⇔価値合理主義)があらゆる人間的関係を規定している。そこにあって、世界は屍体と化し、社会は屍体性愛・屍体依存の傾向性で経営されている。これも、現代ニヒリズムの、そこからの頽落としての、一つの相貌であろう。そんな徹底的に荒廃したネクロフィリア的実相はあらゆる欺瞞的虚構(ここでもその主要な働きを為すのは、言葉、それは頽落した言葉・屍体としての言葉・屍姦された言葉と云っていい)を駆使して糊塗されているが、その欺瞞自体が同じ屍体性愛の基準に則っているのだから、それは二重の虚偽意識と云うほかない。



    "城"から測量士として雇われたK.が、それにも拘らず延々とその"城"自体に辿り着けないまま、そもそも"城"からの呼び出しが一向にやってこない、という物語。『審判』に於ける"訴訟"と同様に、最後まで"城"の実体が明示的に語られることは無い。この物語でも、やはりその中心は空虚の一点である。内実無き虚点としての"城"、無限遠点としての"城"。その如何なる意味でも目的たり得ぬ虚点の周りを、方向も無く浮遊するばかり。物語が、"城"の実体に近づくようで手許を零れ決して到り着かず、或いは全く脱線していってしまう。物語のかなりの部分(とりわけ後半部分)がK.と他の登場人物との冗漫と云っていいほどの対話から成るのであるが、K.が外部から"城‐村"を訪れたという一事から繰り出される言葉の線形的横溢に、K.自身にとっても読者にとっても"城"は益々その果てが彼方へ茫漠となるばかりだ。カフカ自身の筆が"城"に向かう気配が殆ど見えないのだから、読者はその無軌道に翻弄されるしかない。

    そのうちに、K.も読者も虚点としての"城"の、その非自明性・不可視性に対する異和の感覚が知らず麻痺していってしまうのではないか、馴致されていってしまうのではないか。そして、虚点を紛い物の(無)内実・自明性という虚偽意識で埋め込まれることで、欺瞞でしか在り得ないところの日常性が成り立つ。不条理性から頽落した惰性態としての卑俗な日常性。そこには必ず、頽落した言葉・屍体としての言葉・屍姦された言葉、則ち駄弁のガラクタが堆積している。現実のどの瞬間を輪切りにしてみても、この物語の任意のページをめくってみるのと同じように、虚点を凝視する「覚悟」を失った冷笑面の方向無き屍体語の乱反射が層を為しているだけだ。この瞬間を時間軸で積分して間延びさせた代物が、キェルケゴールが「批判」した「現代」の生の在りようだ。美的瞬間の対極としての日常性。つまり、虚点は無限遠点としての"城"ばかりではない、あらゆる瞬間が虚点で充溢しているのだ、"城"はその記号的な象徴でしかない。我々は既に、その充満した虚点という縁無しの空虚へ失墜しているのだ。そうした無間地獄として以外に在り得ない人間存在の自由性――則ち実存としての生――を自覚し不条理な世界に対して歓喜しながら豪奢な敗北に墜ちていくか、安いハリボテ同然の虚構を次々と虚点へ投げ込んでみては自己欺瞞で騙された振りをし通して安逸な日常を卑しく寿ぐか。あれかこれか、二つに一つだ。"城"は、このいづれを選択するか、その試金石だ。それは読者に対する小説作品としての『城』にも云えることだ。

    それ故に、"城"とは『城』のことでなければならない。

    それがこの作品の存在意義であり、またこの意味で『審判』同様にメタ・フィクションを為す。

  • 『変身』や『審判』ほど面白くはなかった。訳のせいもあるかもしれない。
    これは、空気を読む小説だと思う。空気を読みまくる村人と、村のシステムが分かっていない分まったく空気を読まないKの話。
    Kはその村にとどまるため、口から出まかせに自分は測量士だと言い、それに応えるかのように、城は即座に彼を測量士だと認める。後から助手が到着するはずだと言えば、城から助手が派遣される。そしてKは、その設定を受け入れる。後になってから、もっと別の方法で村にやって来ていたら、こんなに大変な思いはしていなかったかもしれないのに、と後悔するけれども。
    城は、城の意思を尊重する村は、とにかくすべてを受け入れる。しかし、あまりにも空気を読まないKに業を煮やして、そこに軋轢が生まれる。村の常識とKの常識は相容れない。
    村人は城の支配下にいるわけだが、指示系統は混乱を極めている。というより、誰も上級役人に会ったことがないのかもしれない。下級役人の秘書の連絡係の召使の……。うまくいかない伝言ゲームのようだ。だから、多分こういうことだろうと空気を読んで行動する。それが正しいのかどうかは分からない。分からないけれども、それが城の意志だと主張する。だからKはいつまでたっても城にはたどり着けないし、測量の仕事も始められないし、クラムにも会えない。
    『城』が未完なのは、然もありなん。この堂々巡りの物語に、着地点が見つけられなかったのだろう。父と折り合いが付けられなかったように。

  • え、未完なの

  • 「城」に依頼を受けた測量技師が、仕事をなそうと努力するが、何もできず、ただたらい回しにあい続ける。次第に測量技師としての仕事から遠ざかり、城がおさめる村での生活へとなじんでいく。何も起きずに、主人公と登場人物との城をめぐる会話で、物語は進んでいく。お役所仕事の典型の「城」の秘書たちは、そもそも測量を頼んでないとか、あなたの仕事に期待してるとか、さまざまな手紙をゆっくりと主人公へと受け渡し、主人公は翻弄される。読んでてうんざりしてきたとこで唐突に小説は終わる。未完らしい。うーん。これが、名作なのか。

  • 今年、村上春樹さんが、海外との相互理解に貢献した個人・団体に贈られる国際交流基金賞を受賞し、その授賞式で編集者が代読したメッセージの中で、村上春樹さんが少年時代にカフカの「城」を読み、チェコの田舎町が「僕にとって何よりリアルなものとして感じられた」というエピソードが紹介された、という記事を朝日新聞で読んだ。私が「城」を読んだ理由はその記事を読んだからではないけど、自分の年齢を考えて、ノーベル賞に限りなく近いといわれる国際的作家さんは少年時代に読む本が違うわーと思った。

    自分で「測量士」であるという「K」が「城」の見える村にやってくる。どこからやって来たのか、何者なのか、まるきりわからない。「城」に近づこうと(今風に言うと「アクセス?」)するのだが、なぜだか近づけない。もちろん行く道がわからないというようなことではない。村の人達との好ましいだけではない交流の間に、「城」の恐ろしさがだんだんわかってくる。

    いまさらながら、難解である。それに、ばらしてもいいと思うので書きますが、未完です。未完とわかっていて450ページを読むのは楽ではなかった。永久に結末にたどりつけない自分の読書体験により、「K」の気持ちがほんのちょっとわかったような気がしたりしました(もちろん錯覚)。

    難解だけど、思ったより面白い。恋愛もあるし、村長や2人の助手など、コミカルに描かれる人たちもいて、完結してほしかったような気もするけど、完結した短篇「掟の門」などのように悲しい結末の可能性が高いと思うので、未完でよかったのかとも思う。

    コミカルな部分もあるとはいえ、全体としては雪に閉ざされた村の雰囲気が色濃く覆っているこの小説の中で、私には次のような文が印象に残った。

    Kは一本抜き出して、栓をねじり、匂いを嗅いだ。おもわずニヤニヤしないではいられなかった。甘い匂いがした。やさしい匂いだ。それはまるで、好きな人にほめられ、うれしい言葉をかけられたぐあいで、それもどうしてなのかまるでわからず、わかりたいとも思わず、そんなふうに言われたと知るだけで幸せこの上ない、そんな気持ちだった。

  • スモールイズビューティフル(人間中心の経済学)より

    遠隔操作の恐ろしい威力を描いている

  • カフカの思考回路ってどうなってるのか気になる。カフカしか書けないような物語。途中からは先が見えて読み終わると、どんよりする気持ちでいっぱい。

  • 恋をしていないけれど、もどかしい気持ちになりたい人はぜひ読んでください。

  • 長くてよくわからない本でした。
    Kは何が目的でここにきたのでしょうか?
    最後のあたりになると、当初の目的を忘れてしまったように見えます。
    Kの行動は、所々かっこよかった(真似したい)と思います。できるかどうかはまた別の問題ですが。

  • 中断されなかったら、もっとずっと長い話になっただろうか。

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著者プロフィール

1883〜1924。チェコのプラハ生まれ。プラハ大学で法学を専攻。ジョイス、プルーストとならぶ現代世界文学の最も重要な作家。著書に「失踪者」「城」「審判」など。

「2013年 『ミレナへの手紙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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