マーティン・ドレスラーの夢 (白水Uブックス 171 海外小説の誘惑)

  • 白水社
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071717

感想・レビュー・書評

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  • この本を読みながら、会社の友人が書いた一つの概念図を思い出してました。
    横軸が時代、縦軸がニーズ。そこにやや右上がりの幅広の帯があり、ユーザー―ニーズと書かれています。そしてその帯を急な右上がりで貫く一本の線は製品です。最初の製品はユーザーニーズを満たしていませんが、時代を経るにつれニーズを満たすようになり、やがて突き抜ける。つまり過剰装備に陥り、あるいはガラパゴス化する。
    主人公は青年・ドレスラー。親の営む葉巻商店の改善を皮切りに、ホテルに勤務で頭角を現す。ホテルを飛び出してからは、自ら起業したレストランチェーンを成功させ、ホテル業界(日本には珍しい居住者型のホテル)に戻っても次々と新機軸を打ち出して大成功するが・・・。
    最終的にはユーザーニーズを突き抜けてしまい、居住者が埋まらず、破産。でもあまり敗北感は無いのです。もともと経済的な成功をより自分の「思い」をホテルという形にすることにこだわった主人公です。その「思い」が一般に受け入れられなかったことを理解した主人公が抱いたのは、どこか寂寞とした達成感の様です。
    もう一人の重要人物が主人公の妻・キャロリン。美人だが捉えどころがない。常に頭が痛いと言ってソファーから立ち上がらない。病気を口実に家族を支配する。性生活もおざなりで結婚後ほどなくしてセックスレスになる。一方キャロリンの妹・エメリンは美人ではないが、活動的で頭も良い。ドレスラーと常に行動を共にし、右腕としてホテルの副支配人として活躍する。それでもドレスラーは美人というだけの姉を取り続ける。
    細部まで緻密な描写で、ところどころに強烈な状況の羅列があって、それが作者の文体らしいのですが、個人的にはやや苦手。
    ピュリッツァー賞受賞作品だけあって読みごたえがありました。ミルハウザーさん、一作だけでなく読み込んで行くほどに味の出そうな作家さんですが。。。。

  • 『三つの小さな王国』の「J・フランクリン・ペインの小さな王国」と同じ系統の、自分のビジョンをひたすら追求する男の話。ミルハウザー的に「静かに興奮している」感じが、読んでいてなんとも心地よい。

    しかしペインとちがって、前半のマーティンはリア充。有能だしモテモテで、「こんなのミルハウザーじゃない...」と思いつつ読んだ。仕事のできるモテ男さんの話なんて何が面白いのかっていうね。でも最後の40ページまできて、マーティンの世界がやさしくはかなく無音のまま崩れていく様が本当にうつくしく描かれていて、ああここまで読んできた甲斐があったなあ、というカタルシスがあった。これは長編ならでは。

    最終的にマーティンのモテも何の実も結ばなかったわけだけれど、「結局残ったものはありませんでした」感にふくらみが出てナイスだった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ミルハウザー的に「静かに興奮している」感じが」
      上手いねぇ~、私なりに言葉を変えると「淡々としていながら目眩く感じ」でしょうか?
      「ミルハウザー的に「静かに興奮している」感じが」
      上手いねぇ~、私なりに言葉を変えると「淡々としていながら目眩く感じ」でしょうか?
      2012/09/04
    • なつめさん
      眩いというのもわかります。実際ミルハウザーの文章は映像的な情報が多いですね
      眩いというのもわかります。実際ミルハウザーの文章は映像的な情報が多いですね
      2012/09/04
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「映像的な情報が多いですね」
      サービス精神が旺盛だけど、それより文字の力を信じているのでしょう。。。
      「映像的な情報が多いですね」
      サービス精神が旺盛だけど、それより文字の力を信じているのでしょう。。。
      2012/09/18
  • 20世紀初頭のニューヨークを舞台にした一人の男の物語。

    この小説の原語タイトル「Martin Dressler The Tale of an American Dreamer」のとおり、マーティン・ドレスラーという青年の 絵に描いたようなアメリカン・ドリームとして話は進む。
    小さな葉巻商の息子として生まれたマーティンが、ホテルのパートタイマーから始まって順調に成功を重ね、ホテルの経営者にまで昇りつめる。 と、ここまではサクセス・ストーリーなんだけれど、マーティンのあくなき成功への欲望が半ば狂気とも思える様相を呈し始めた辺りから、物語はそれまでと少し違う展開を見せる。

    彼の描くホテルのコンセプトや、そのコンセプトを具現化したホテルの描写に相当な行数を費やしていて、これがこの小説の肝と言えるところ。20世紀初頭が舞台だから、SFということでは決してないのに、何か近未来を思わせるような描写が続いて、これを追っていくと、何だかマーティンの狂気が狂気と思えなくなるような錯覚に陥る。んん、してやられた。

    最終的にマーティンが現実をしっかり認めたところに救いが感じられたので、読後感はマル。

    話の中心部分ではないけれど、個人的には、揺れるマーティンの恋心を描いた部分が印象的。独身で特定の彼女もいない時期のことだから、浮気とか二股の心配をする必要などまったくないのに、一人で勝手に揺れている心情が瑞々しく書かれていて、なんだかくすぐったい。


    ところで、ワタシは単行本ではなくて、この8月に出た白水Uブックス版を読んだのだけれど、このUブックスはサイズが微妙。新書より少~しだけ背が高くて、市販の新書ブックカバーにおさまらない。なんでこんな微妙なサイズにしたんだか。

  • ミルハウザーは岸本佐知子訳、と認識してたのに、いつの間にか柴田元幸訳になってる。ポール・オースター翻訳現象か?
    ミルハウザーは白水社Uブックス率がすごく高い。担当に気に入られているんだろうか?

  • 柴田元幸訳。ミルハウザーの作品は3作品目になりますが長編は初めてで、ピュリツアー賞を受賞作品と言えども少し評価が微妙というのが率直な感想。 20世紀初頭のニューヨークにて驚異的なホテルを次々と建て、アメリカンドリームを成し遂げたマーティンのお話なのだが、伝記風に淡々と語っているので心情が薄くて感情移入しにくかった感じですね。もちろんミルハウザー特有の精緻で緻密な面(とりわけホテルに関する具体的な描写)も織り込まれているのですが。

    登場する女性たち(とりわけ3人の親子)に影響と言うか翻弄されている主人公の苦悩と、仕事面におけるサクセス・ストーリーとがあんまり上手くマッチングしてるように感じられなかった。もちろん作者はそこにカタルシスを感じさせようとしたのであろうが・・・ 夢を叶えた物語なのであろうが、日本人的な感覚で読むとマーティンの成功よりも人生の儚さを感じたところの方が大きい。失敗を恐れてはならないというよりも、有頂天になってはいけないということを教えてくれた物語であったような気がする。

  •  元のタイトルに『The Tale of an American Dreamer』とあるので、一人の青年の栄光と挫折の物語…何だろうけれど、結末を読むに邦題にある通りの夢の話なのかもしれず。
     夢の話とすれば、この物語に感じる『捉えにくさ』もある程度は納得できるのか。

     どうにもこうにも評価しにくい小説です。

  • 昔、マーティン・ドレスラーという男がいた。って文から始まるこの小説。

    葉巻屋の息子として生まれた彼が、そのお店の常連客に誘われ老舗ホテルのベルボーイになり、ある日、天からの啓示にも似た情景、夢の中にいるような感覚を頼りに、それを追い求めて、どんどん成り上がっていくって話です。多分。

    いろいろとボンヤリとした表現が多くて、(特に性描写など)、なんかモヤモヤするんだけど、きっとそれが文学ってもんだよね、多分。

    主人公のマーティンも、ヒロイン的存在のキャロリンもキャラが掴みどころなくて、やっぱりモヤモヤする。

    ただまぁ、マーティンがどんどん己が信じる道を突き進んでいく様は、感心するっていうか、起業家の人の頭の中ってこんな感じなんだろうなぁって漠然と思いました。

    だからきっとその結果、どうなったとかは、さして重要な問題じゃないよね、多分。

  • ふむ

  • 葉巻煙草店の息子マーティン・ドレスラー少年が、父の店の販売促進広報活動等について色々試みているうちにその才覚を認められてホテルの世界に飛び込み順調に出世、しかし彼の野心はとどまることを知らず、ついにいち従業員を辞めて自らカフェ経営を始める。20代半ばにしてチェーン店のカフェ経営者として大成功をおさめるマーティン。ついに彼はホテル経営に乗り出すが・・・。

    スタートから途中までは一見ミルハウザーらしからぬ、リア充主人公のサクセスストーリー。これはこれで単純に面白く読めたのは、自分の今の仕事と関係する部分が結構あったからかもしれない。マーティンの真面目な仕事ぶりと目の付けどころの斬新さ的確さ等に、なるほどと感心しつつ、とんとん拍子の成功も痛快に読めた。

    マーティンはなんというか、一種のマグロですよね、泳いでないと死んでしまう的な意味で。お金持ちになりたいとか贅沢な暮らしがしたいとかそういう現実的な欲望のためではなく、働きたいから働く、自分が何をしたいかわからないからこそやみくもに目の前の仕事をどんどん拡張していく。あまりにも順調に成功してしまったがゆえに立ち止まることができなかったのが彼の不幸かも。

    唯一の不安要素は女性関係で、というか基本的にモテるはずのマーティンが結婚相手に選んだキャメリンという面倒くさい女性がクセモノ。妻としての役割を一切果たさずいつも具合が悪くて憂鬱そう。しかもちょっとしたメンヘラ。最後まで彼女のことだけは好きになれなかった。妹のエメリンのほうと結婚してればなあ、と大概の読者は思うけれど後の祭りだしそもそもマーティン自身が面食いだというのなら仕方ない…。

    後半に出てくる建築家ルドルフ・アーリングの経歴や造形傾向のほうが、マーティンよりもいかにもミルハウザー作品の登場人物ぽかった。彼とマーティンが実現していく夢のような高層ホテルはまるでバベルの塔のようで、つまりそれは完成する前から崩壊の予感をはらんでいる。アメリカンドリームとは、アメリカという国自身が見た夢のことだったのか。

    マーティンの夢のホテルは、外へ、上へ、地下へと巨大に敷地を拡げながら、実際にはそれ1つで完結した都市の機能を持つ閉ざされた世界でもあり、野心の実現であったはずのそれは実はマーティンの内側の世界であり、そういう意味では眠り姫のようなキャロリンをマーティンが伴侶に選んだのは自然な成り行きだったのかもとも思う。救いはマーティン自身が夢から覚めようが夢の世界に泳いでいようが少しも絶望していないところ。まだ若い彼がこれに懲りずまた新しい夢を見られるといいな。

  • 20世紀初頭のニューヨーク、一人の男が築いた帝国の興亡記、成就しない恋愛、勝手な当てはめだけど、ミルハウザー版ギャツビーっぽいな、と。
    第一次大戦前後で差があるし、ギャツビーは帝国の成立については伝聞で語られるだけだし、違いの方が多い気もするけど、全編漂う寂寥感というか。

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著者プロフィール

1943年、ニューヨーク生まれ。アメリカの作家。1972年『エドウィン・マルハウス』でデビュー。『マーティン・ドレスラーの夢』で1996年ピュリツァー賞を受賞。『私たち異者は』で2012年、優れた短篇集に与えられるThe Story Prizeを受賞。邦訳に『イン・ザ・ペニー・アーケード』『バーナム博物館』『三つの小さな王国』『ナイフ投げ師』(1998年、表題作でO・ヘンリー賞を受賞)(以上、白水Uブックス)、『ある夢想者の肖像』『魔法の夜』『木に登る王』『十三の物語』『私たち異者は』『ホーム・ラン』(以上、白水社)、『エドウィン・マルハウス』(河出文庫)がある。ほかにFrom the Realm of Morpheusがある。

「2021年 『夜の声』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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