灯台守の話 (白水Uブックス175)

制作 : 岸本 佐知子 
  • 白水社
4.07
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本棚登録 : 247
レビュー : 30
  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071755

感想・レビュー・書評

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  • 翻訳物が好きだ。
    脳からそのまま出力されたのではない言葉は、
    事象に対して多分に真摯だ。

    出だしの文にやられた。
    「母さんはわたしをシルバーと名づけた。わたしの体は銀と海賊とでできている」
    なんて素敵な表現なんだろう。
    こんな素敵な文章が随所にある。
    それを眺めるだけでもとっても幸せだった。

    最初、少し勘違いをしていた。
    ピューとシルバーを起点として、流転していく物語かと思っていた。
    なんと言ったらいいか、わからない。
    でもいつの間にか愛について私は読んでいた。
    私だって救いようのないロマンチストだし、愛こそがもっとも価値のあるものだと思っている。(その解釈が物語りや他の人と同一である確証はないけれど)
    恋は近年の発明だ。
    子どももそう遠くはない昔に見出された。
    それに伴って母性愛も。
    さらに新しく父性愛も。
    それらに較べたら愛の歴史ははるかに長い。
    だが、自然のものではない。
    ダーウィンの進化論のように、起源をもとめて物語りは彷徨う。
    見つけて、見失って、結局それが本質なのかもしれない。

    ひとつだけかわらないのは、物語であり言葉だった。
    灯台守、彼らが護る灯火そのもの。
    だから、灯台守の話、なのだ。
    岸本さんの翻訳が素晴しいと思った。

  • 今にも崖からおちそうな家で、命綱をしながら暮らしていた少女シルバー。母親がなくなったことで、孤児となり灯台守ピューとともに暮らすことになる。

    ピューが彼女に教えたのは灯台の「灯を世話すること」、そしてそれ以上に大切な、「物語る」こと。
    それは人生という航路の中で、ときに道に迷う私たちを、導いてくれるものだから。

    美しい海辺の描写の中、重層的に語られていく静謐な愛の物語。
    こういうお話が私は好きだ。

  • 荒い波のうねりを背景音に、開いた傷口のようなヒリヒリする孤独が描かれている。図書館のくだりでは思わず貰い泣きしそうになった。まさかこのシーンで泣かされるとは、とびっくりした。

    灯台守が女の子に聞かせる物語は、自らの手で自分も家族も損なってしまったろくでもない男の人生だ。でも女の子はそこから物語の効用をつかみ取り、なんとか自分の脚で立てるようになる。駄目男の人生は失われてしまったのではなくて、その上に灯台守の、または女の子の人生が折り重なっていく。

    駄目人間でも一人ぼっちでもだいじょうぶ、心を開いておこう、なにか温かくて眩しいものが降りてくるかもしれない。そういう気持ちになった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ヒリヒリする孤独が描かれている」
      ウィンターソンは、重いけれど何となく清々しく感じてします。
      「ヒリヒリする孤独が描かれている」
      ウィンターソンは、重いけれど何となく清々しく感じてします。
      2012/09/14
    • なつめさん
      この本であんまり「がーん」となったので、ほかの本にまだ手が出せていないのです
      この本であんまり「がーん」となったので、ほかの本にまだ手が出せていないのです
      2012/09/14
  • 3度目くらいの再読。『オレンジだけが果物じゃない』の方が好き。バベル・ダークとピューの語る物語のなかに、他の物語が差し込まれる。この感じは『オレンジだけが果物じゃない』と同じ。でも、『灯台守の話』は断片的で、何度も何度も色んな形の愛を語る。まるで波のようだ。シルバーは死んでしまった母親にも、引き取ってくれたピューにも愛されていたのに、物凄く愛に飢えている。シルバーなのか作者なのかこの目線の先にあるひとは、女性ばかりなのも面白い。

  •  タツノオトシゴが表紙でとても惹かれる。物語のなかでも重要なアイテムだ。牧師として生きたダークという物語のなかで発見した化石と進化論。神がなぜ変わり続ける世界を作ったのか。神と共に歩む生活への動揺を持ちながらも、退屈な妻と、恋に落ちた別の女(マリアの処女懐胎のように、誰の子かわからないのを身ごもった)との二重生活。物語の中のダークは、葛藤し、愛することがわからなくなり、物語をうしない、分裂し、化石を手に持ったまま、海の底へと沈んでいく。

     ダークと対をなすもう一人の主人公シルバーは、みなしごになり、灯台での生活を過ごすことになる。ピューという年齢不詳の聖霊のような存在と暮らすのだが、あるとき、文明・技術の発達によって灯台守は不要となり、追い出される。(最後にまた戻ってくるが)

     ダークが愛していない妻をボコボコにするところや性暴力の場面は非常にリアルで、斜めに傾いていた家の話をしていたころのシルバーのエピソードはどこへやらの恐さだ。6時間ほどまたせる場面なども含めて、女性陣はダークを許せないだろう。それでも牧師の妻としてふるまう嫁の姿に、悲しくなる。愛は悲しすぎるものとして、ダークの場合、表現されている。

     しばらくするとダークとシルバーが交差する。どう交差するかというと、シルバーの人生のほうがリアルになってきて、ダークがファンタジーになっていくのだ。この小説は、ダークとシルバーという二つの物語を使って、ダークはリアルからファンタジーへ、シルバーはファンタジーからリアルへと、×の形に展開させていく作りになっているように思う。
     最初は精子卵子から、斜めに傾いた家の場面でスタートしたシルバーは、最後の方では女性同士でセックスしながら携帯を充電しているという「上海ベイビー」に出てきそうな状態に。ダークは逆に、海の底に沈んでいく、なにかしら幻想的な感じになっている。

     図書館でのやりとりから、物語を追いかける展開が好きだ。身分証明書を見せてくださいなど、めちゃんこ意地悪に書かれているのがたまらん。こういう司書像は、逆に今は新鮮なのだ。それからストーリーを横取りされて、家まで追いかけてまで物語を読もうとするシルバーの精神。つまり「物語を求める心」と「理性的なもの」「進歩的なもの」は「違う」というのが書かれているのが面白かった。物語を求める、もしくは愛は、理性でも本能でもない、というのが、この本全体で書かれていることではないか。

     シルバーが突然大人の女になり、よくわからない「あなた」といちゃこらするのだが、なんかこう課長島耕作か黄昏流星群みたいになっている。
    『チップ係と話しているあいだ、わたしたちはずっと手をつないでいた。人生は短く、無数の偶然であふれている。わたしたちは出会い、わたしたちは出会わず、まちがった方向に進み、それでもやっぱり偶然出会う。念入りに“正しい道”を選んで、けっきょくどこにも行き着けない。「お気の毒に」わたしは彼に言った。「これ、ありがとさん」彼はチョコレートを持ちあげてみせた。「うちのやつ、きっと喜ぶよ」

     この場面、一瞬、彼という言葉が出てくるので、あなたって男かなと思うのだが、やっぱり言葉遣いが女だ。シルバー、いつのまにかレズというか同性愛として生きてらっしゃいます。携帯電話を充電したり、同性愛のセックスとか、妙に現代的なものを書きつつも、灯台守とか、ライラの冒険みたいなファンタジー世界を織り交ぜていて、リアルとファンタジーが渾然一体となっていて、それでいて引きつけるものがある良い小説だと思う。

     最後に、この話、母親が死んでいることが大事だ。もし母親が生きていたら、この子はこんな風に振る舞えないし、ずっと傾いた家にいたままだっただろう。母が私のために犠牲になってくれた。シルバー最大の不幸にして幸運は、ここにある。

  • ほのぼのと明るく終わっているようでいて、あたしには最後まで救いようのない孤独を感じます。たぶん、自然と人が集まってくる、いつでも人の輪の中心にいるようなタイプの人には、この本は面白くないし、よくわからないのではないでしょうか。

  • ジョン・アーヴィングの「神秘大通り」に出てきた作家で、興味本意で手に取った一冊。
    これが当たりで面白かったです。
    ひょんなことから孤児になった主人公とその子の養父となる灯台守、それから200年ほど遡った時代に生きた二人の女性の間で二重生活を送る牧師、二つの物語が灯台を中心に交錯して一つの太い物語になっていきます。
    初めて読んだ作家ですが、久しぶりに著作を集めてみようと思いました。

  • 2017.07.07

  • ひっそりとしていて
    暗闇と海の匂いのする物語。
    訳者あとがきで「永遠にここばかり訳していたいと思ったほど」とある箇所は、「永遠にここを読んでいたい」くらいの素晴らしさだった。

  • とてもオリジナリティーのある話。こんな話は初めて読んだ

  • 洋書翻訳ものは苦手だ。なかなか読み進めなくて苦痛だった。
    内容も再読しないとよく理解できてない。ピューは一体何者?
    他の人の評価が高くて驚く。
    西加奈子かオススメしていたので読んだけど私が手に取るべき本ではなかった。

  • いい本だった。静かで、力強い。
    漆黒と、灯台が照らす光の波が交互に打ち寄せるように、重層的に語られる物語。
    訳者あとがきに、 
    「すべてのものが闇に浸され、物を食べれば闇の味まで一緒に味わうような灯台の暮らしのくだりなどは、永遠にここばかり訳していたいと思ったほどだった」とあり、読者としてもそこばかり読んでいたい!と思ったほど。
    不思議な文体だけど、原文はどうなっているんだろう。気になる。

  • 好きな題材。文体がそのときの自分に合わなかったのか、単に期限が来て他にやることがあって返したのかどっちだっけ。今は読んでみたい。詩に向き合ってる今は。好きになるのか、やっぱりこれは自分にとっては違うと思うかどっちかな。

    ■備忘録…Twitterのフォロワーさんの感想 
    @clove_mix: ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』、すごく好きだった!全編が詩のように深い言葉で綴られているのに、不思議なほどに推進力がある。物語ることの力を信じさせてくれる本。

  • Uブックスに入ったので再読。言葉のリズムと美しさに酔うが、これは翻訳本なのだ。岸本佐和子さんは間違いがない翻訳者。
    離島への旅の途中、フェリーのデッキで、空と海を眺めながら読んだ。この孤独感と潮の香りに満ちた本を読むにシチュエーションにふさわしい・・・と思いきや、船酔いが怖くて読みやめてしまった。もちろんその後陸の上で読了。愛、悪、喜び、失意を豊かに物語る。

  • 全編を通して感じたのは、海と海風と、回転する光を放つ灯台。
    基本的に訳書は苦手だが、この本は気にならずに読む事ができた。

    訳者あとがきにある「〈物語ること〉で人は救われる」という一文。
    表現する事で、一時的にでも、また後々見返した時にでも、助けられる事は確かにあると思う。

  • ふたつの人格に翻弄されるダークと、いくつもの記憶を受け継ぐピュー。その対比にのめり込んで読んだ気がする。

  • わたしたちは幸運だ、たとえどん底の時でも。ちゃんと夜は明けるのだから。

    愛している。

  • まんまだけど灯台の光のような物語。岬に凛と佇むその姿はとても孤独、なのに夜の闇(それはダーク?)に指し示す光の筋(それはシルバー?)に希望を感じずにいられない。波の音と潮風とやさしい灯火とがしんしんと五感に響いてくる。とても深く美しい。

  • 灯台が人生の道しるべ、灯台守はひかりの世話をし、物語を語る。
    孤児の女の子と二面性のある牧師。
    それぞれの数奇な人生は、物語ることで苦しさを半減させるのかも。

  • “お話して、ピュー。”
    盲目の灯台守の男に物語をねだっていた孤児の少女が、いつしか自らの物語を語り始める。
    “お話して、シルバー。”
    これは自らの人生を物語ることで、自らを見つけ出す物語。

    盲目の灯台守の男が物語るのは、愛を求めて破滅的な二重生活を送った牧師の物語。光と闇の間に揺れる男の話を経て、少女シルバーが愛を見つけ出す物語。

    とても好きなお話だった。
    どこがいい、と言われると言いにくいけれど、言葉の感覚や端々に出てくる何気ない一文が胸に刺さった。
    私が自分の人生を物語るとしたら、何が灯台のように残り、何が波間に消えていくのだろう。そんなことを考えたりした。

  • 生活の音が静寂に紛れて微かに聞こえてくる。
    最後らへんの展開にやや動揺しましたが、きれいしずかなおはなし。

  • ジキルとハイドだけではなく
    宗教的な牧師さんという存在とダーウィン
    (土木技師?と作家も?、シルバーとダークという名前も?)
    といった対照的なもの
    を絡めて一つの統合された意識にまとめたくなる
    多様な世界・自分に悩む人と自然に受け入れている人を通して
    帯に書いてある「響きあい、交差する、二つの孤独な魂の遍歴」
    「孤独」というところ、そのままの印象。
    ピユーというどの時代にも存在するキャラクターを通じて
    物語は一つになっているが、現在と過去、人を行き来していて
    文章は詩を読んでいるような感じ。

  • 崖の上に斜めに突き刺さって建っている家に生まれた、シルバーのお話。時間や場所や、自我までもがひとつに固定してなくて、ぽん、ぽん、と語られることにより、ひとつの世代で完結しない魂が物語として生まれてくる。

  • 愛について考える時に。孤独感を美しく描いていて、自分のふるさとのような一冊になりました。

  • 「崖の上に斜めに突き刺さって建つ家」という設定によって最初の数ページで物語の不思議な世界に入り込まされる。

    風が吹いたり匂いを感じたりするような丁寧な、しかし装飾的ではない文章は美しい。

    物語は詩的で余白がある。

    取り留めのない、捕らえ所のない本だが心に残るイメージがある。

  • 何年かに一冊出合う感覚の本。自分で何かしら書くようになって気がついたが、この本のような鋭さと孤独感と異郷の感じのある本はめったにない。目立たないタイトルだし、地味な話でもあるが、知性的で個人的で、こんな風に語れたらいいのにと思う書。

  • なんか刺さんなかった。不完全燃焼。「愛」「愛」言われてやんなっちゃったっていうのが正直なんだけど。「愛」の話というより、「人生を生きてく」話だと思った。そして、シルバーとダークではなくて、シルバーとミス・ピンチの違いを考えた。すねてるのって損だな、生きてくのってそれぞれいろいろ背負ってるものがあって大変なんだけど、"< ノー >こそが力"ってすねてても始まらないなって。すねてないシルバーだって、満たされてるかどうか、わからない。求め続けているように見える。でも、彼女は話すことで開けてる。信じようとしてる。それってピューがおしえてくれたんだよね。
    時間を超えて生き続けるピューは、誰のところにもいる、無意識の中にいる賢者というか人生を知ってる大人というか。物語そのものみたいな。そんなかんじがした。

    岸本佐知子さんという訳者さんを初めて知った。
    『オレンジだけが果物じゃない』が読みたい。読んだら感想が違う気がする。

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    徐々に消化されて来た。5日くらい経ったか?
    信じるって、能力だと思う。信じることは愛ですって言われたら、そうかもしれない。

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