ピサへの道 七つのゴシック物語1 (白水Uブックス 海外小説 永遠の本棚)

  • 白水社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071861

感想・レビュー・書評

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  • 不勉強につき、聞いたことのない作家だなあと思って調べてみたら、デンマークの女性作家で本名カレン・ブリクセン、映画化された「バベットの晩餐会」や「愛と哀しみの果て」の原作者だそうで。映画のほうは知っていたので、え、そうだったんだ、とびっくり。まあそういう経歴を知らずとも、作品自体がとても面白かったので良かったです。

    「七つのゴシック物語1」ということで、7つの短編のうち1冊目のこちらには「ノルデルナイの大洪水」「老男爵の思い出話」「猿」「ピサへの道」の4作が収録されています。

    大洪水がきて、農家に取り残された4人の人たち(基本あかの他人)が、おそらくは確実に訪れるであろう死の時を待ちながら各々の過去を語り、秘密を明かすのだけれど、カタストロフィとカタルシスが同時にやってくる感じがなんともドラマチックな「ノルデルナイの大洪水」や、短めながら恋愛の薀蓄が結構凝縮されていた「老男爵の思い出話」も好きだったけど、最後のどんでん返し(?)でビックリしたのは「猿」、そして物語としてすごく良くできているなと感心したのは「ピサへの道」。

    「猿」のオチはほんとびっくりですよ(笑)。同性愛者のイケメン青年士官がそのスキャンダルをもみ消すために偽装結婚しようと修道院長の叔母に相談を持ちかけ、彼女は不美人で大女で嫁の貰い手のなさそうなある令嬢に白羽の矢を立てるのだけれど、令嬢のほうはこの結婚を拒んで・・・という物語の経過もとても興味深かったのだけれど、最後のオチがあんまりで、そういうのが全部どうでもよくなります。たぶん登場人物たちも、自分の恋愛のことなんかこの際どうでもいいと思ったことでしょう(笑)。

    「ピサへの道」は、絶世の美少女やら、その親友で少年にしか見えない男装の麗人やら、どんな女性もとりこにしてしまうイケメンやら、登場人物も個性的で魅力的なのだけれど、思わせぶりな事件の全貌が明らかになって、さらに主人公と老婦人の因縁がわかったときに、なんともいえない「大団円」感があって痛快でした。

  • 幻想的な物語集

  • なかなか読み進まない。
    ひとつひとつの文章が味わい深くて。

  • 自分の立っている場所が実は氷の上で、その下には暗くて冷たい潮流があるのだということを思い出させる本だった。日常の外側にある自分を規定する領域に、ディネセンの小説は光を当ててグラグラにする。日々のつじつま合わせを無効にしてくる。

    特に心に残ったのは「ノルデルナイの大洪水」。四人の「わたしを見て!」という叫び。この言葉を誰かに向かって言える人が、いったいどれだけいるだろう?

  • いかにも海外、特に欧州の小説。昔話の体を取り、宗教や風習に関する会話を通じての権威揶揄や風俗の記録。登場人物の正体が実は、という仕組みも面白い。デカメロンやモンテクリスト伯のような独特の文体と、歴史や宗教に基づく背景を理解しているともっと楽しめるんだろうな。

  • 表題の「ピサへの道」を含む4つの短編小説集。

    「ピサへの道」が圧巻。
    この世に読書力というものがあり、さらにそこに段位があるとしたら、この物語は三段はある猛者でないとうまく組み合うことができないと思う。
    自分は恐らく高く見積もっても二級くらいなので、残念ながら全然太刀打ちできませんでした。

    70ページの短い美しい文章の中に伏線がこれでもかと散りばめられています。
    1回読んだ時は本当に何が何だか全然わからず、2回、3回と見直して(そして恥ずかしながら巻末の解説を読んで)、ようやくこの複雑で数奇で奇跡的な人生の巡り合わせの物語の一部を理解できたような気がするのみ。


    圧倒的な自分の力不足を感じつつも、不思議と物語から拒絶されている感覚はなく、それどころか「またいつでも挑戦しなさい、この本はあなたのためにこそあるんですよ」とほかでもない私に向けて慈愛の目で語りかけられているように思われた。

    残りの人生で昇級昇段していって、また挑戦させて頂きます。

  • 文学

  • 3/18 読了。
    人生を仮面劇のように生きた人びとの悲劇とも喜劇ともつかない物語を集めた中篇小説集。「ゴシック」という言葉から連想されるような、鬱蒼とした場所で貧血気味の登場人物がウロウロしてるポーみたいな話はない(幽霊や悲劇のヒロインは出てくるが)。おそらくここでの「ゴシック」は<クラシカルな建築物のように組み立てられた物語>を指すのだと思われる。無駄がなく巧みな構成と、機知に富んだ爽やかな読み心地の文章とで、「小説を読むってこういうことだなぁ」という喜びに包まれた。
    また、それぞれの物語に通底するものとして<秘めたる愛>というテーマがあるように思う。結婚式当日に姿を消して海賊になった弟と、オールドミスになった姉との言葉にできない恋や、名前を変えるたびに生き方も変えていく女に、話しかけもせず遠くから見守るだけという約束を死ぬまで守った男の愛情。物語の本筋として語られたこれらの関係だけでなく、「ピサへの道」では、運命に導かれて出逢った老婆と主人公の叔母が同じ香水びんを大事に持ち続けていたことから、二人が深い繋がりを持っていたことが発覚し、主人公は強く感じいる。ここでは示されていないが、物語の冒頭で叔母の形見のびんを眺めている主人公は、妻との離縁について考え、親友に手紙を書いているのだ。そのモノローグのなかで、主人公は結婚相手の理想に「親友のような関係でいられる人間」を挙げる。深い信頼関係で結ばれているらしい親友のことはこの冒頭でしか触れられず、物語にも登場しないのだが、本筋が結婚というもののある種のバカバカしさを暴く内容であることと、老婆と主人公の叔母は互いに一生独身だったこと、老婆からびんを受け取った後の主人公の神妙な心持ちなどを鑑みるに、親友への秘められたる想いがほのめかされていると考えても良いのではないだろうか。

  • 「アフリカの日々」で有名なイサク・ディネセンの短編集ということで、楽しみにしていました。
    副題に「七つのゴシック物語」とあるように、全部で7つの短編集ですが、本書では4つの短編が収められています。
    (残り3冊は「夢見る人びと」という続編に収められています)
    デンマーク出身で、経歴も非常に興味深い女性作家だからか、とても幻想的であり、いい意味で奇妙な味わいのある、英米作家には見られない雰囲気があります。
    特に女性の登場人物は美しいながらも強く、そして自意識の高い性格であり、女性作家らしい造形だと思います。あんまりフェミニズムという言葉も使いたくないですが、男性に対しても誇り高い女性像は気高く美しいです。
    残りの短編も楽しみです。

  • 「ノルデルナイの大洪水」、はじめは映画のようで劇的で良かったが、4人が語り出すあたりから、道に迷った気分になり、何度も挫折しそうに。でも、「バラバ」のエピソードで、ハッとする。そしてどんでんがえしと最後の終わり方のうまさ。もう一度読み返してやっと全体像と構成が頭に入った。辛かったが読んで良かった。次の2編はちょっと退屈。「ピサへの道」も良かった。
    これから先、もうちょっと賢くなったら(なるか大いに疑問だが)もう一度読みたい。

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著者プロフィール

1885年デンマーク生まれ。本名カレン・ブリクセン。1914年にアフリカに渡り17年間農園を経営する。帰国後、本書のほか、『七つのゴシック物語』『バベットの晩餐会』など、物語性豊かな名作を遺した。

「2018年 『アフリカの日々』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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