ある青春 (白水Uブックス 197 海外小説永遠の本棚)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071977

作品紹介・あらすじ

さようなら、シトロエンDS19! パリのサン・ラザール駅で出会った恋人同士は、十代最後の日々、夢を追いつつ「大人の事情」に転がされていたが……。新ノーベル文学賞作家による青春小説。

感想・レビュー・書評

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  • 「次々と打ち寄せては砕け散る波」

    主人公はルイとオディール
    二人の二十歳の頃の放浪
    ブロシエ、ベリューヌ、ブジャルディ……。
    二人がその頃関わった年上の人たち。
    彼らにもまた若かりし頃があった。

    ボソボソと降る雨の中、足元の水溜りを避けながら、当てもなくパリの街を歩く。
    ひたすら、「今」をこなすことで精一杯の時期……。

    霧のような、モディアノの本が読みたくて……。

    読みました。

  • ソファで眠りかけていたところを起こされたルイは、娘の背丈が母と変わらないことに驚きを感じる。今夜は知り合って以来初めて妻オディールの三十五歳の誕生日を祝う会を山荘で開く。腕のギプスが外れたばかりの息子は招待客の子どもたちとはしゃぎまわっている。寂しい山住まいだが平穏な今の暮らしに不満はない。パリ行きの夜行に乗る友人を車で駅に送った帰り道、ルイは落ち始めた雨滴に十五年前を思い出す。

    兵役を終えても両親のいないルイには帰る所がなかった。顔見知りのブロシエの伝手でパリにあるブジャルディのガレージを手伝っていた頃、サン・ラザール駅近いビュッフェで眠りこけていたオディールと出会う。不始末をとがめられ店を首になったばかりの娘は場末の音楽ホールに入り浸っていたところをベリューヌという作曲家に拾われ、歌手を目指していたが、この日ベリューヌが自殺し途方にくれていたのだ。

    身寄りのない二十歳前の男女が大都会で生きるすべもなくその日暮らしの生活を送る。それを助けるのが、ブロシエとブジャルディ。身寄り頼りのない若者を導く中年の男、というのはモディアノ作品ではお馴染みの存在。何の商売をしているのかはよく分からない二人だが、いずれろくでもない仕事のようで、詳しくは語らない。それでも右も左も分からない二人がパリ生きてゆくには彼らが必要だった。ルイは、ブジャルディに信頼され、オディールと二人、イギリスまで金の運び屋をしたりする。

    一時期のフランス映画にでもありそうな、青春真っ只中の若者の行き当たりばったりのパリ暮らしが、なんともいえずモディアノ調。先行きが見通せない若者の、誰を何を頼ればいいのか分からないままに、誰かに何かに頼らなければ生きていけないというディレンマ。これっぽっちも信じられないのにまるまる信じたふりをし、食べつけないものを食べ、飲みつけない酒を飲む。命じられるままにパリ市内を彷徨い、海峡を流離う二人の根無し草的放浪。

    特に恵まれたとはいえぬまでも普通の親を持つ者と、寄る辺ない身の上の者とでは、青春といっても、かくもちがうかという際立った孤独感を見せて読む者の胸に迫る二人の境遇だが、確かにこれも「ある青春」である。競馬の騎手であった父と踊り子だった母の間に生まれた、というルイの生い立ちは、これまでに読んできたモディアノの小説で見かけた男の子の出生の秘密に類似し、作家のアイデンティティへの固執をうかがわせる。ブジャルディには終始手厳しく接する愛人ニコルがルイには優しいのも、年上の女性に対するモディアノの思慕の強さを物語る。

    あまりにも繰り返される類似のモティーフが、作家モディアノの描く小説世界と、作家自身の生い立ちとの相似関係を必要以上に暴き立てる理由となっているのだが、あまり神経質に考える必要もない。モディアノ自身、テクスト至上主義を言い立ててはいない。無鉄砲な青春期にある者にしかできないであろう選択と決断によって、ルイとオディールは、二人を取り巻く胡散臭い連中との別離を余儀なくされる。さらりと書かれているようでいて、読み終えた後うならされる、なかなか巧みな小説である。

    風格を感じさせる訳も好ましい。ただ、1983年刊だけに、今となっては幾分古色を帯びているように感じられた。訳文の「ミルクコーヒー」、原文では「カフェ・オ・レ」だったのではないだろうか。「Uブックス版に寄せて」を読む限り、訳者はご壮健のようだ。このままでよしという自信の翻訳であろうから、改訳とまでいかずとも、ほんの少し手が入っていたら、と愚考した次第である。

  • ひとまず、この作家の作品を読むことができてよかった。若い2人の話は物悲しい気持ちにもさせるけど、青春ってそういうものかぁと思う。赤いモレスキンの女からの流れで読んだけど、面白かった。確かにこの作家のサイン本が入った鞄を見つけたら、探し出したくなるなぁ。

  • ある夫婦の回想録。

    身寄りのない2人
    物騒な稼業にも手を染める
    霞掛かったパリの街並みは、
    不透明な未来を予感させる。

    情緒を抑え、坦々とした文体は物語の構図の一部であり、作者の思惑だろう。

    細部まで読み込めたのかな...
    暗い青春に映った。

  • BBの本屋さんの定期点検で
    ふと惹かれ購入した本。

    フランスの作品って
    割と内省的で少々理屈っぽいものが
    多い気がする。
    (参考文献は大挫折中のプルースト、
    大好きなグルニエ、
    憧れて噛り付いて読んでいるユルスナール、
    かっこつけもあってのデュラス、サガン、
    そしてこの間読んだシムノン、など)

    それともフランス語が得意になり
    翻訳してくれるようになりがち(?)な方の
    好みの傾向?

    今回のこの小説のストーリーは
    ある30代半ばのルイとオディールの夫婦が
    はじめて出会った二十歳の頃の物語。

    兵役あがりのルイは、偶然出会った男ブロシエを頼り、
    仕事を紹介してもらう予定だが、
    実はブロシエはある目的からルイに目をつけていた…

    一方のオディールは
    歌手になりたいと言う夢を追いかけているが
    なかなか思うように行かない。

    通い詰めていたライブハウスでベリューヌと言う男に出会い、
    道が開けるかと思ったが…

    胡散臭く、良くないことなんだろうなと薄々思いながらも
    とぼけて、気付かないふりをして、
    その件に加担してしまう、
    若さ故の自暴自棄と無防備が同居している感じ。

    芸能の世界で成功したいと思うあまり才能の無い人が
    体験しそうな事(やっぱりこんなことあるのかな)や、

    誘惑に抵抗しないで自ずから飲まれていくところ。

    復讐しているつもりが、
    逆に自分をさらに傷つけていることってあるかもね。

    お互いに楽しく笑って思い出せる時期では無さそうだけれど、
    自分たち以外に頼るものの無い、
    誰かの子供でも親でも無い頃の、特別な時代の話。

  • モディアノの作品、初めてです。うーん、さすが。。。あっという間に引き込まれて読んでしまいました。再読が必要なのでしょうね。が、他の作品にも手を伸ばそうと思います。

  • 『暗いブティック通り』と同じで、なんか書き足りていないと言いますか、謎を謎のまま残しているようなエンディングです。とにかく定職もなく、誰かの情けに縋って辛うじて生きている若い二人が、パリの街をうろうろしている小説。彼らが中年にさしかかるまでの十五年をどう生きたのか、そこが知りたいです。

  • ノーベル賞作家となったモディアノの青春小説。
    作品社から出ていた『失われた時のカフェで』しか読んでいなかったのだが、今作も語りながら徐々に現実感が薄れて行く、不思議な作風。有り得ないものが出て来たり、SF的ガジェットが登場したり、そういったことはないのだが……。
    この人の本を読んでいると、何故か小川洋子を思い出す。

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著者プロフィール

(Patrick Modiano)1945年フランス生まれ。1968年に『エトワール広場』でデビュー。1972年に『パリ環状通り』でアカデミー・フランセーズ小説大賞、1978年に『暗いブティック通り』でゴンクール賞を受賞。その他の著作に、『ある青春』(1981)、『1941年。パリの尋ね人』(1997)、『失われた時のカフェで』(2007)などがある。2014年、ノーベル文学賞受賞。

「2023年 『眠れる記憶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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