- Amazon.co.jp ・本 (390ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560072172
作品紹介・あらすじ
ペンギンの国に託して描く人類の愚行の歴史
高徳の聖者マエールは悪魔に唆されて極地の島に向かい、間違ってペンギンに洗礼を施してしまう。天上では神が会議を開き対応を協議、ペンギンたちを人間に変身させて神学上の問題を切り抜けることにし、ここにペンギン国の歴史が始まった。裸のペンギン人に着物を着せるという難題に始まり、土地所有と階級の起源、竜退治の物語、聖女伝説、王政の開始、ルネサンス、革命と共和国宣言、英雄トランコの登場、国内を二分した冤罪事件と続くペンギン国の年代記は、フランスの歴史のパロディであり、古代から現代に至る人類社会の愚行が巧みなユーモアで戯画的に語り直される。ペンギン人の富裕層が主張するトリクルダウン理論への諷刺や、近未来の新格差社会の光景は、21世紀の日本に生きる我々にも痛切に響くだろう。ノーベル賞作家A・フランスの知られざる名作。
感想・レビュー・書評
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設定?あらすじは愉快で面白そうだが、どう間違っても人類とペンギンを間違えるわきゃないし、そういうファンタGにするんであれば、もっと内容を軽い感じにしないとバランスが取れないような。「なぜにペンギン」の解説もないので、なんだかまた、「そのまま出すとフランス的に立場が」「でも折角買いたし」「人間って設定やめときゃなんでも許されるって」とかの仕方のないやりとりがあったのかな。「名作」って結局「大人の都合」ってことか?
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ペンギンに洗礼しちゃってしょうがないこいつらみんな人間にしちゃおーっていう導入がもう凄い
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フランスの歴史のパロディ。ペンギンの目線でシニカルに。
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アナトール・フランス『ペンギンの島』。おー。聖人が間違ってペンギンに洗礼を施してしまったため、神はペンギンを人間に変えることで神学上の問題を回避し、かくしてペンギンたちの歴史が始まる。カトリック教会や当時のフランス政権なんかを痛烈に諷刺しながらユーモラスに描く、長大な傑作。
そして、詩人としての技が光る、壮麗な言葉遣いでいてするする読める美文と博学だったなあ。おもしろいなあ。フランス史、文明史をもパロディ化しているんだろうけど、わからない部分も多いので、勉強してからまた読み直したいなあ。 -
後書きや出版社の紹介などで「アナトール・フランスは昔流行ったものの今や忘れられた作家だが」というニュアンスの前置きをされているようだが、振り返れば翻訳された本をかなり読んでいるほうだと思う。辛口の風刺にユーモア、イヴリン・ウォーなどの系譜といっていいのだろうか。かなり好物。
本作もすごく面白かった。偉い聖者が目が霞んで洗礼を施したのがペンギンだったので、天国で神様と偉人が話し合ってペンギン人を作ってしまうのだ。ペンギン人の荒唐無稽なような、いやとてもリアルなような歴史の裏に、現実社会の宗教や政治、社会や文明への痛烈な批判が潜む。高度に知的なユーモアは私ではすべて理解しきれないが、それでも面白い。 -
書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記は控えさせていただきます。
http://www.rockfield.net/wordpress/?p=11597 -
老いてなお布教熱心な修道士・聖マエールが、悪魔に騙されて辿り着いたある島で視力の衰えからペンギンを人間と勘違い、全員(全ペンギン)に洗礼を施してしまったものだから天界は大わらわ。神様が聖人たちを招集してペンギンたちの受洗を認めるか否かを問うが会議は紛糾。結局、件のペンギンたちをみんな人間に変身させましょうということになり、ペンギンたちは信者として認められる(ペンギン側のの意思は無視なのだから大迷惑だよなあ)
まずは全裸のペンギン人間たちに服を与えるところから。しかしここでも悪魔の悪巧みで、最初に着飾らされた乙女オルブローズは道を踏み外し(ここは聖書のイブのパロディ)しかしやがて彼女はジャンヌダルクのごとく竜退治の聖女として伝説になる。竜の正体は狡賢い盗人だし、聖女オルブローズは実は盗人とデキていただけというのがなんとも皮肉な真実だけれど、聖化された彼女の伝説は後々まで語り継がれる。
こうして始まったペンギン島の歴史は、ことごとくが愚かで滑稽。しかしそれは現実の歴史のパロディ、つまり人類の歴史はことごとく愚行の繰り返しということですね。古代、中世から近代へ、フランスの歴史上の事件の数々(アナトール・フランス自身もリアルタイムで体験したドレフュス事件など)をモチーフに語られるペンギン史。私は元ネタがわからないものも多々あったけれど、それでも面白おかしく読めました。世界史をイタチ族でパロディにした筒井康隆の『虚航船団』を思い出した。
個人的には前半のほうが面白かったかな。『神曲』のパロディ的な「マルボード冥界下り」では、ウェルギリウスが、ダンテが現世に戻ってから嘘(ウェルギリウスがまるでキリスト教の神を信じているかのような)を広めたといって怒っていたりして。アナトール・フランスはアンチ・カトリックなのでその辺はとても辛辣。個人的にとても共感ポイント高し。
終盤は未来となり、頽廃、無気力な世界で起こるテロリズム、いったん崩壊した文明はしかしまた同じことを繰り返し・・・。とにかくシニカル。嘲笑的というかブラックなユーモアで人間の愚かさをおちょくっている。一番の皮肉はやっぱり、ペンギンはきっとペンギンのままのほうが幸せだったろうに、勝手に洗礼して善いことした気になってる宗教への批判かな。