- Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560072240
作品紹介・あらすじ
遥かな風の夜の悪夢にも似た不思議な小説
棟続きの家に住む二組の夫婦。戸口の梶の花のにおいに心乱された更善無(コンシャンウー)は、隣家の女、虚汝華(シュイルーホア)に怪しげな挙動を覗き見られて動揺する。虚汝華の夫の老况(ラオコアン)は生活能力のない男で、しじゅう空豆を食べている。女房の好物は酢漬けきゅうり。家の中では虫が次から次へと沸いて出て、虚汝華は殺虫剤をまくのに余念がない。ある夜、梶の花の残り香の中で、更善無と隣家の女は同じ夢を見た……。髪の毛が生える木、血のように赤い太陽、夥しい蛾や蚊、鼠。死んだ雀。腐った花の匂い。異様なイメージと夢の中のように支離滅裂な出来事の連鎖が衝撃を呼ぶ中篇『蒼老たる浮雲』に、初期短篇「山の上の小屋」「天窓」「わたしの、あの世界でのこと」を収録。アヴァンギャルドな文体によって既存の文学の枠組を打ち破り、現代中国の社会と精神の構図を深い闇の底から浮かび上がらせた残雪(ツァンシュエ)作品集。
感想・レビュー・書評
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白水Uブックスから3冊目の残雪が!表題作は長編。妻にも娘にも侮られている気弱な男・更善無(コンシャンウー)と、マザコン夫・老况(ラオコアン)とその母=姑に困らされている隣家の女性・虚汝華(シュイルーホア)は、梶の花が咲く頃から同じ夢を見るようになる・・・と書くと一見配偶者に恵まれなかった男女の不倫恋愛話のように聞こえるかもしれないけど、とんでもありません。登場人物全員頭おかしい、いつもの残雪でした。
悪夢的なのもいつものことながら、今作でとくに際立っていたのはとにかく親という親から敵視され親子で憎みあっている関係性。舅、姑のみならず実母、実父であっても同じ。更善無の舅(妻の父)は家の物を毎日のように盗んでいくし、なぜか近所に住む老人からも執拗な嫌がらせを受ける。虚汝華のほうも姑の嫁いびりはまだしも、実母がつきまとい罵倒してくるし、実父は煙草屋の老婆とデキて別居、彼らの語る娘像はまるで怪物。では当の虚汝華がまともかというとやっぱりちょっと変なんですね。
登場人物ほぼ全員の行動が異常な上に不眠症。夜眠らないので夜行性だし、眠らずにすることといえば他人の監視だし、毛布が飛んでいこうとするので格闘してるだけで夜が明けちゃうし、なんだかもう大変。でも読んじゃうんだよなあ。この他人の悪夢の中をふわふわ漂ってる感じが一種心地よいのかもしれない。
短編「山の上の小屋」「天窓」「わたしの、あの世界でのこと」も収録。いずれも悪夢。解説にあるように、あれこれ妨害してくるわりにトドメはさしてこない「他者」が「死」のことだとしたら、どの作品を読むのも恐ろしい。
※収録
蒼老たる浮雲/山の上の小屋/天窓/わたしの、あの世界でのこと―友へ―詳細をみるコメント0件をすべて表示