倒壊する巨塔〈上〉―アルカイダと「9・11」への道

制作 : Lawrence Wright  平賀 秀明 
  • 白水社
4.21
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本棚登録 : 237
レビュー : 22
  • Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560080191

作品紹介・あらすじ

ピュリツァー賞受賞作品。『ニューヨーク・タイムズ』年間最優秀図書。ビンラディン、ザワヒリなど「アルカイダ」の軌跡を丹念に追いかけて、その等身大の姿を描く。徐々に惨劇に向かって収斂していく様には、まさに戦慄を覚える。調査報道の頂点を示す傑作ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • ○この本を一言で表すと?
     9・11事件に至るまでの背景を描き出した本


    ○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
    ・「9・11」事件やイスラム世界に触れた本は何冊か読んだことがありますが、アルカイダが発足する以前から、アルカイダが発足して9・11事件に至るまでの話はほとんど知らなかったことばかりで、また読む前に想定していた内容とも大きく違っていて、これまでとは違った視点から見ることができてよかったです。

    ・インタビューをベースに書かれているので、どこまで内容が正確かは不明な点もありますが、テーマとして著者のアプローチ以外でここまで深く掘り下げることはできなかっただろうなと思いました。

    ・著者はあまりイスラム教の教義や歴史に対する知識がないように思えました。イスラム教自体について触れている記述に違和感を感じました。ですが、それが宗教的な視点より俗な視点から書かれることに繋がり、良い点でもあるなと思いました。

    ・ビンラディンが金持ちの一族の者だということは知っていましたが、ビンラディンの父親が一労働者から叩き上げで建設業を立ち上げ、王族が金を使いまくって国が回らなくなるほどの借金漬けになった状態でも道路の受注を受けて成功させるなど、かなりサウジアラビアにとって重要な人物だったのだなと思いました。

    ・ソ連のアフガン侵攻に対抗するためにアメリカがイスラムの義勇兵をパキスタンに集め、訓練を施していたという話は別の本で知っていて、その本ではそれがビンラディンにテロリストとしてのスキルを身につけさせたと書かれていましたが、実態がかなり異なっていたということはこの本で初めて知りました。アフガンの兵に対して、イスラム義勇兵が対して役に立っておらず、逆に邪魔扱いされていたこと、成果を上げていないのにイスラム各国から資金を流入させ、その窓口となったことでビンラディンが地位を高めたことなど、初めて知ること尽くしでした。

    ・ビンラディンがアルカイダを率いた主要人物で、組織化や計画立案・実行までいろいろ指導していたものだと思っていましたが、どちらかといえばお坊ちゃんというのんびりした人物で、神輿としてかつぎあげられて周りが動いていたというのは初めて知りました。アルカイダという組織が厳格にイスラムの教義を守り、偶像崇拝に当たるようなポスター・写真などを認めなかった中で、ビンラディンの家族は割とゆるい環境にいたというのは意外でした。

    ・ビンラディンは資金繰りに困らずにずっと支援を受けて余裕を持っていたものだと思っていましたが、サウジ本国から縁を切られ、家族からも縁を切られてかなり困窮していた時代があったということを初めて知りました。そんな状態でも焦らずビンラディン自身が好きな質疎な生活を送り、やがてまた資金が集まるようになっていったというのは、なかなかの第人物かもしれないなと思いました。

    ・アルカイダはかなりうまく組織化され、組織としての経営とテロの実行で成功し続けているようなイメージを持っていましたが、設立後しばらくはハッタリばかりで他の団体が行ったテロも自分たちがやったと宣言したりしていたというのは初めて知りました。そんな中でもアルカイダ以外の団体のメンバーの訓練などを引き受け、影響力をつけていったというのは、かなり長期的な視野をもった組織運営だったのかもしれないなと思いました。

    ・この本で読む限り、アルカイダは理念が実態よりかなり先行し過ぎて妄想だけで終わるお粗末な宗教団体のように思えてきましたが、その理念がいざ行動を起こすとなった際に自爆テロなどをいくつも実行させ、アメリカ大使館や駆逐艦を攻撃するなど、かなり大きな成功を収めていくのは、かなり固まってコミットされた理念自体の強さのようなものを感じました。「謎の独立国家ソマリランド」という本で、一番治安が悪くて過激な場所はアルカイダ系の組織がいるところだと書かれていて、この本で書かれているしょぼいアルカイダとイメージが異なるなと思いましたが、理念にコミットしたメンバーが行動に移しだすと一気に原理主義として機能しだすのかなとも思いました。

    ・「9・11事件」が、まるで弟を使ってかなりあやしい選挙で当選したブッシュ大統領を守るようなタイミングで起きたことなどから「アメリカ政府の自作自演ではないか」という説があることを聞いたことがありますが、そういった陰謀説が出る所以をようやく理解できたように思いました。アルカイダのメンバーがアメリカに入って飛行訓練まで受けていることをCIAが把握していながら他の組織に情報を渡さず、FBIが1年半もアルカイダがアメリカで活動することを知ることができなかったことなど、防ぐチャンスがいくらでもあったのに見逃すことの原因が組織間のセクショナリズムにあったことよりも、政府の陰謀とした方がわかりやすくありがちだと思えそうだなと思いました。

    ・アルカイダやその他の団体を追う側のCIAやFBIの人物について書かれていて、この辺りの話はほとんどどれも初めて知ることばかりでした。一番主軸となって書かれているオニールが3人の愛人を作ってオニールの葬式で対面するまでバレなかったことなど、ゴシップネタも混じっていて面白かったです。オニールがFBIの捜査官としてアルカイダを追うためにかなり強くセクショナリズムの壁を打ち崩そうと動き、それを疎まれて出世コースから外され、一度テロに会った世界貿易センタービルの保安部門にスカウトされ、「9・11事件」の被害者となるという流れは、小説でもあまりなさそうなぐらいに演出が効いた流れだなと思いました。

    (下巻のレビューと同様)

  • もともとイスラームにとっての敵は、無神論(物質主義)であった。したがって、物質主義を生み出した「近代」を、イスラーム主義者たちは憎悪した。

    第二次大戦後、植民地支配から脱出したイスラーム圏各国は「近代」化を目指した。それがイスラーム主義者には気に入らなかった。こうして世俗政府対イスラーム主義の構造が生まれる。

    ところで、国際政治に目を向けてみると、「近代」の代表者がいることに気づく。アメリカとソ連である。ソ連はマルクス的な唯物史観を信奉している無神論国家だ。当然、イスラーム主義者が敵視する。アメリカはキリスト教国家(イスラームからすれば、同じ神を信ずる同門である)であるが、資本主義経済によって、物質主義に堕落してしまった。したがって、アメリカもまた「潜在的に」敵視されうる。

    先述したとおり、もともとイスラーム主義者にとっての最大の敵は「地元の政府」であった。政府との対立というローカルな戦いから、アメリカとの対立というグローバルな戦いに変化したのは、決して必然ではなかった。。アメリカが最大の敵に絞られていく過程。ジハードが正当化されていく過程。自爆テロという手段が「選択」されていく過程…。それこそ「神のみぞ知る」変化だったのである

  • 9.11同時多発テロに至るまでを、イスラム原理主義側からと、CIA,FBIのアメリカ側からの両側から書いた本。著者の膨大なインタビューを元に、事細かに書かれていて、主観は挟まれていない。イスラム過激派を批判しているわけでもない。
    上巻では主にイスラム原理主義が生まれた背景と経過が述べられている。イスラム原理主義の発端となったクトゥブはアメリカで人種差別、性の解放などの誘惑を目の当たりにし、アメリカへの敵意を募らせた。敬虔なイスラム教徒で、厳戒な戒律主義をとっていた彼には西洋の近代化は悪に見えたのだ。その感情は増していき、西洋の完全拒絶、さらにはイスラムか、ジャーヒリーヤか・・・要するにイスラム教が支配するか、完全に滅ぶかの二者択一を唱えた。彼は殺されるのだが、彼が最後に書いた本が後々の若者に受け継がれることになる。
    ザワヒリは名門の家系。幼少の頃より伯父からクトゥブの話を聞かされる。地下組織を作りそこで厳戒なイスラム教を信仰する。エジプトの刑務所で拷問を受け、抑圧的なエジプト政権と、さらには西洋に対しても復讐心を抱くことになる。
    そして有名かもしれないが、ビンラディン。彼は伝説的な企業家の元に生まれる。彼もまた敬虔なイスラムである。殉教の概念も彼の周辺で発生した。後に9.11のテロを計画することになる。そのきっかけは自国に居座るアメリカ軍への嫌悪だった。
    歴史に「もし・・・だったらどうなっていた」はないわけだが、これを読んでいると思わずそういう考えが頭をよぎる。ただこの9.11同時多発テロは首謀者がビンラディンでなければ起きていなかったのかも。それだけ彼がどれだけカリスマ性を持ち、アメリカに対して執念を燃やしていたかが読み取れる。ただクトゥブもザワヒリもビンラディンに共通している点は、敬虔なイスラム教徒であるということだ。ビンラディンも、プライベートでは子供と遊んだり温和な一面が書かれている。「神」の解釈の数だけ宗教があるのかもしれないが、9.11は本当に起きなければならなかったのだろうか。一読して、なにかもの悲しさを感じてしまった。

  • 9.11に至るまでのアルカイダを含むイスラム過激派とCIA、FBIの軌跡を追ったノンフィクション。上巻は、サウジ王家やアフガン戦争のジハードについて詳しく書かれています。

    いわゆるイスラム過激派と呼ばれるグループのメンバーの、死を恐れないどころか、殉教による死こそを望む思想を持つに至るイスラム社会の背景が抑制が効いた筆致で丹念に描かれています。もちろんイスラムの教義を信じるロジックについても、著者は共感や理解を示しているわけではないですが、ひとつの世界観として決して否定的でなく描かれています。

    ビンラディンについても、その家族や失敗への対応も含めて、その人物像に焦点を当てて描写していて非常に興味深いです。読み応えありです。

  • 上下巻の大著。$$9.11の原因、背景、に迫る。$$ジャーナリズムというのはこういうのを言うのだなと思わせるほど$$徹底的に調査し描き出している。$$描いている情景はまるでその場にいるようなリアリティがある。$$内容もビンラディンがそのような思想に至った環境遠因から描いている。$$これを読むと彼が冷酷無比なテロリストというイメージが覆される。$$むしろお坊ちゃまで理想主義な夢想主義者に見える。$$

  • 世界貿易センタービルの描写が素晴らしい

  • ビンラディン、ザワヒリ、FBI捜査官オニールの軌跡を丹念に追いかけて、等身大の姿を描く。徐々に惨劇に向かって収斂していく様には、まさに戦慄を覚える。ピュリツァー賞受賞、『ニューヨーク・タイムズ』年間最優秀図書。手嶋龍一氏推薦! たった一つの出来事が現代史の風景を一変させてしまう。9.11事件こそ超大国アメリカをアフガン・イラク戦争に駆り立てた凶事だった。本書は重層的な視座から21世紀の悲劇の全貌を描いた意欲作だ。

  • [崩れ落ちるまでに]世界中に衝撃を与えた9.11同時多発テロ。事件の首謀者であるビンラディンとその側近のザワヒリ、対してアメリカにおけるテロの発生を未然に防ごうとしたFBI調査官のジョン・オニールの3者が、テロに至るまでにどのような環境で育ち、世界認識を固め、悲劇に突入していったかを徹底的な調査で追いかけた作品です。著者は、本書でピュリッツァー賞(注:米国のジャーナリズムにおいて最も権威あるとされる賞)を受賞したローレンス・ライト。訳者は国際政治経済に関わる作品を多く手がけている平賀秀明。


    上下巻でなおかつ文字の細かさ故に圧倒されてしまう方もいると思うんですが、その情報の濃度にさらに圧倒されること間違いなしです。どれだけの情報量と精査を必要としたのだろうと思わずにはいられない質の高さと多角的視点に驚嘆させられました。9.11に関する作品は多数見かけられますが、本書はその中でもマストとして位置づけられる作品なのではないでしょうか。テロが起こってしまうまでの一挙手一投足がつぶさに記されていますので、決して読みやすい作品とは言えませんがぜひ一読をオススメします。


    「狂」の一文字で片付けられてしまいたくなるアル・カーイダ、そしてその頭目であるビンラディンの存在を事実に基づいて歴史的文脈に入れ込んでみせたところ、そしてそれ故に彼らが相対化された(かなり回りくどい言い方ですが、「こっち側の世界」にビンラディンらを引き摺り下ろしている)ところに本書の価値があると思います。ぜひ一読していただきたい箇所として、本書後半にある尋問シーンが出てくるのですが、最後に被疑者から引き出した回答、そしてその引き出し方に著者の訴えたいところの一端があったのではないかと感じています。

    〜新兵たちには都会育ち、コスモポリタンな背景、高い教育と言語能力、コンピューター操作のスキルといった共通点があった。だが、強いてひとつだけ共通点を挙げろと言われれば、それは”寄る辺なき思い”だったろう。〜

    (みんながみんなというわけではないのだろうけど)アメリカの調査報道の素晴らしさには本当に感服する☆5つ

    ※本書は上下巻合わせたレビューです。

  • 2007年にピュリツァー賞を受賞した傑作ルポルタージュ。2009年に邦訳を読んで一気にのめりこみ、もう何度読んだか分からないくらい大好きな本です。

    テーマは「9.11前史」。アメリカ側、ムスリム側それぞれの立場から9.11テロへと至る歴史を、膨大な史料や取材をもとに組み立てていく本です。

    上巻はアルカイダの思想的なバックボーンがどのように形成されていったか、ということがメインテーマになっています。ハイライトは現在、アルカイダのNo.1であるドクター・アイマン・ザワヒリの半生でしょう。サダト大統領暗殺に関する嫌疑により、収監されたザワヒリは1982年にテレビカメラの前ですさまじい演説を繰り広げます。

    "ザワヒリは何人かの被告人の具体的名前を大声で読み上げた。いずれも拷問のすえ、死亡したものたちだとザワヒリは言う。「だとすれば、民主主義はどこにあるのか?」ザワヒリは叫んだ。「自由はどこにあるのか? 人権はどこにあるのか? 正義はどこにあるのか? われわれは決して忘れない! われわれは決して忘れないからな!"(P.95)

    この映像はいまでも動画サイトで見ることができます(https://www.youtube.com/watch?v=BK4hTGpiij8)。ザワヒリはいささか独特な発音の英語を駆使し、人差し指をたてて振りかざし、堂々とスポークスマンとしての役割を果たしている。彼の背後にいる多くの被告人たちの、「ラー・イラーハ・イッラッラー!(アッラーの他に神は無し)」という声に煽り立てられるように。

    著者はどちら側に立って語っているというわけではなく、事実を粛々と報告しています。しかし上巻を読んでいると、どうしてもアルカイダ側にも五分の理があるように思われてきます(言うまでもなく、途中からどんどんおかしくなっていくのですが・・)。

    "イスラム主義運動にリクルートされたものの大半は、田舎で生まれ、進学のため都会に出てきた若者たちだという。大多数を占めるのは、中級官吏の息子たちだ。彼らは向学心に燃えており、最も優秀な学生のみが入れる、"理科系"分野に惹きつけられる傾向が強かった"(P.99)

    これを読んだとき、多くの方はオウム真理教事件を思い起こすのではないでしょうか。無論、テロ行為を擁護するつもりはありませんが、いまの社会のあり方を無条件で与件とする生き方に、とてもじゃないがついていけない、という思いは、わたしのなかにも間違いなく潜んでいます。本書を読んでいると、それがざわついてくるのがわかります。

  • 誰かからもらう。恐ろしい労作。9.11についてはニュースで報される以上のことを理解していなかった。
    この上巻では、まず9.11に至る道程を説明しようとしている。

    ・サイイド・クトゥブ、1950年代 - 1960年代におけるムスリム同胞団の理論的指導者、イスラム原理主義の源流をつくった彼はアメリカ留学の経験をもつインテリで、留学時代の彼の温厚なようすがわかる描写はおもしろい。
    ・アイマン・ザワヒリ、アルカイダの戦略立案者、裕福な家にうまれ、中庸な考え方をもち、医学を志す有能な若者が政府の拷問などを経て、過激な持論を展開する先導者になっていく過程がかなしくもおもしろい。
    ・ムハンマド・ビン・ラーディン、ウサマの父。一代でサウジアラビア王家にまで強い影響力をもつゼネコン(だけでなく通信などあらゆる業種)をたちあげた、天才ビジネスマン。篤い信仰心を持ち、無駄遣いをきらい、労働者とともに働く、魅力あふれる人であったようだ。
    ・ウサマ・ビン・ビン・ラディン、おなじみビンラディン容疑者。生い立ちからアフガン戦争でのあまりイスラムの同胞を守るのに貢献できたとは言い難い「活躍」からアルカイダを立ち上げるまでを描く。サッカーの得意な、すらっとした美青年。

    ざっと書いてもこんな感じだ。なぜ飛行機がWTCにつっこんだか?に目をとられがちな我々に、その背景にあるアラブの、そしてイスラム教の世界を蒙いてくれる本である。オススメ。

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