悲しみを聴く石 (EXLIBRIS)

  • 白水社
3.84
  • (20)
  • (30)
  • (22)
  • (2)
  • (2)
本棚登録 : 233
感想 : 48
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560090053

作品紹介・あらすじ

女は、もはや意識もなくただ横たわるだけの夫に、初めて愛おしさを覚える。そして、自分の哀しみ、疼き、悦びを語って聞かせる。男は、ただ黙ってそれを聞き、時に、何も見ていないその目が、妻の裏切りを目撃する。密室で繰り広げられる、ある夫婦の愛憎劇。アフガン亡命作家による"ゴンクール賞"受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • かなり好みの本だった。アフガン小説ファンでないとなかなか理解しにくい系の一冊。訳者もすごいし、さすが映像作家だなと思わされる描写が多々あって、かなり好みの作品だった。まあ、一般ウケはしなさそうだけど...

  • 忍耐の石は、人々の苦悩を聞き、そこから解放するためにやがて割れる運命にある。
    植物状態になった夫に恨みを語ることで気持ちが解けていく女。
    あの結末は、女が積み上げさせられてきた苦しみから解き放たれるために必要だったのだろう。
    若い兵士がいることが、これからの女の生活を良いものにしてくれることを祈る。

  • アートシアター鑑賞のような感触、静寂な筆質で描かれる場面展開が脳裏に焼かれる。(著者は映像作家とのこと)

    この小説を含め様々な作品で女性への抑圧は描写されているが、ある兵士の登場によってアフガニスタンの慣習「少年遊び」(少年を拉致して性的に搾取)が浮かび上がった場面が印象深かった。

    女性だけでなく、男の子もこんな理不尽で残酷な暴力に晒されていることを改めて認識。国や民族特有の多様な文化は残って欲しいが、人を奴隷として扱うような慣習は廃れていくことを願う。

  • 悲しみを聴く石
    昨夜から家用に「悲しみを聴く石」を読み始め。ト書きみたいな部屋に宙吊り視点な語り方で、世界のどこか(想定はアフガニスタン)の、戦争で負傷した夫を看病する妻が描かれる。標題の悲しみを聴く石は、人々の悲しみを聴き、ある時点で壊れ、それによってその人が解放されるという、堪忍袋の悲しみ版みたいなもの。こういう仕組みというかアイテムというかも、案外に似ているものが各地にあるのね。
    (2017 12/27)

    宙吊りになった語り手
    「悲しみを聴く石」原題サンゲ・サブールを読み終えた。自分の意識が、作品中と若干の眠気の中で朦朧となりつつ。
    とりあえず、引用で誤魔化す(笑)。
     <武器のもたらす快楽を知る者を決して頼みにするべからず>
    (p66)
    これは昔の格言の形をとっている。武器を手に取っている男達は、それそのものが快感になっているから、女無しでも生きていけるというそういうこと。この後の展開の夫の秘密ともオバーラップする内容。
     私の思い出はいつも、待っていないところに現れるの。そうでなければ、もう待たなくなった時にやってくる。どうしようと、思い出は私に襲いかかる。よい思い出も、わるい思い出も。
    (p116)
    女を娼婦だと思ってやってくる若い兵士との最中に「思い出」に襲われて笑い出してしまったことのあとで。
    女の語りはぽつぽつと、また自分の語りに罪悪感を覚えながら、往きつ戻りつ進む、というのも女自身が語ること、告白することに慣れていない為。相手が植物状態の夫、サンゲ・サブールだからこそ、女は話すことができる。父親の鶉を逃して猫に殺させたこと、似た境遇で娼婦となっていた叔母に(本当は夫のせいでできない)子供を授けるために目隠しした若い男と何回も性行したこと、などなど。内容もさることながら、語りの少なさと、時に過剰になることに、強く惹かれる。
    解説の中の作者の言葉から。
     彼女は私を、天井に設置されたカメラのように定位置につけ、(中略)そこで、『いいからそこに座って私の話を聞きなさい』と言ったのです。そういうわけで、この小説では、語り手は部屋から出ることができません。この語り手は、舞台を歴史的、地理的に位置づけることも、登場人物をその名で呼ぶことも出来ないのです。
    (p153〜154)
    ここで作者の言う語り手とは、作者自身の視座のこと。だから、戯曲のト書きみたいに固定された部屋の内部の宙吊り視点になる。読者もまた。
    また作者の言葉から。
     自分がその中で育った言語にあっては、口にすべきではない言葉を内在化し、無意識のうちにこういった言葉を口にするのを自らに禁じてしまうでしょうし、結果的に検閲を受けているような気持ちに陥ったことでしょう。母国語とは、禁止とタブーを学ぶ言葉なのです。
    (p155〜156)
    作者ラヒーミーはアフガニスタンにいた頃からフランス語教育を受けていて、それから20年以上もフランスに住んでいる、それでもこの作品を初めて母語のダリー語(アフガニスタンのペルシャ系言語)ではなく、フランス語で書くことにこのような印象を持つ。語り、告白が困難なのは女性だけでなく男性もそうであるということが、先に挙げた若い兵士などを筆頭に、フランス語で辞書を引きながら書き綴るラヒーミー自身も含めて改めて思い至る。
    (2017 12/31)

  • 『悲しみを聴く石』と云うタイトルは、当に其の虚しさや悲歎、狂気を的確に表した題名だろう。
    実際にクルアーンの中に存在した『サンゲ・サブール』と云う懺悔を聴く為の黒い石は、砕ける迄人の悲しみを聴く。

    植物人間と成った夫を、…嘗て乱暴だった男と云う生き物を、怨みながら何も応えないが故に寵愛する女。叫ぶ様に過去の罪を贖い、それを恰も罪の共有であるかの様に救いと捉える虚しさ。
    孤独と遣る瀬無さの繰返しに徐々に気が狂れていく女は、“石”と成った無機質な男―嘗ての夫と、二人きりの世界に浸る。

    女に執っての“サンゲ・サブール”の男は、女の懺悔が尽きる迄生き続けるのだと女は確信を持って謂う。

    歪んだアフガンの宗教観念、経血への忌避、売春婦への蔑み。聡い此の女は自らを穢れた娼婦と名乗り自らを護り、初夜の生理を破瓜の血と想わせて恍惚に浸らせる。
    血が有つ意味とは。貞操とは。誇りとは。
    現代の日本とはまるで違う此の観念に、嘗て無い凛々しい美しさを見た。

    後半で出てくる少年の存在、滲み出る残酷で滑稽な迄の真実。宗教と云う観念の愚かしさ。
    最後の顛末は実際に起こったものか、或はあくまでも女の妄想か。何れにせよ、語り尽くされた贖罪と“サンゲ・サブール”の粉砕を象っている。

    一言ひとことが感傷的で時にヒステリックでありながら、哀愁の漂う憐憫を超えて慈愛にも似た感情を読者に誘う。性的観念の深淵に触れた此の噺は、簡易な文体でありながら何処か繊細で麗しい気がした。

  • サンゲ・サブール、黒い石。自分の前に置いて不幸や苦しみ、つらさ、悲惨なこととかを話す。石はその人の話しを聞き、その人に言葉や秘密を吸い取る、ある日割れるまで。そんとき石は粉々になる。
    アフガン(らしい)の内紛で撃たれて石のように動かない夫の前で、妻が語りだす。内紛の狂った雰囲気の中、やがて告白が始まり、妻の狂気が表れてくる。

  • ゴングール賞受賞とのことですが、確かにフランス人が好きそうな感じ。閉鎖的で美しくて、静寂の中で押し殺された叫び。

    批評の中には「主人公の女性が西洋的すぎるのでは」って意見もあったそうで。女性の自我が強い=西洋的、って型にはまった考えだよなあ。オリエンタリズム。非西洋人女性の自我はどこへ?
    作者も言ってますが、最も抑圧されている存在でありながら同時に強い個性がある、そんな矛盾を抱えた存在としてのムスリム女性。多くを知らないのにどうして決めつけたりできるの?彼女達についてもっと知りたいです。

    あと、主人公の「語り」はサアダーウィーを思い出しました。「わたしの話を遮らないで、あなたの話を聞く暇などわたしにはないのだから」っていう、あの切迫感があると思う。小説の中で雄弁に描かれるのは、現実では口を閉ざす他ないから?

    ただ、訳者さんも言ってますがこれは第三世界のフェミニズムだけではなく普遍的魅力を持った作品でもあると思います。
    誰にでも、誰にも言えない秘密や悩みがあるはず。この作家がアフガン亡命作家だからと言って全くの異世界として読むにはあまりにもったいない。密室で展開される深い精神世界。歪んだ美しさ。本当に素晴らしい本です。

  • ・・・・・・微妙。


    原著はフランス語で書かれているそうですが、舞台となっているのは作者の故郷であるアフガニスタンのある街。
    紛争が続くその街で、負傷して昏睡状態に陥ったままの夫の世話をする妻が主人公。
    登場人物は少なく、くら~い雰囲気のなか淡々と進んでいくお話でした。
    それでも何か惹きつけるものがあって、最後まで面白かったと思うんだけど、最後の最後が自分の中でなんだかすっきりしませんでした・・・(つ_〒)
    読むタイミングを間違えたのかも。

  • 友人に勧められたゴンクール賞の受賞作。著者の作品はもちろん初めてだし、アフガニスタン人の小説も初めてなのでは…?と思います。原題のSyngué Sabourは英訳だとThe Patience Stone 忍耐の石ですが、邦訳は悲しみを聴く石。
    物語は淡々と進んでいく。主人公の女性の情景描写、夫をサンゲ・サブールに見立てることで自己に向き合い、彼に向き合っていくというストーリーも面白い。ラストはどちらかというと現実ではなく幻想の世界の描写に思われたが、どうなのだろう。まさしく最初の「アフガニスタンのどこか、または別のどこかで」というタイトル通り、この物語はどこか、または別のどこかという一般性を持っている"稀有"な本だった。

  • コーランの祈り…い、異文化だ…

全48件中 1 - 10件を表示

アティーク・ラヒーミーの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×