昼の家、夜の家 (エクス・リブリス)

  • 白水社
3.85
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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560090121

作品紹介・あらすじ

ノーベル文学賞は2018年オルガ・トカルチュクさんが受賞しました。

ポーランドとチェコの国境地帯にある小さな町、ノヴァ・ルダ。そこに移り住んだ語り手は、隣人たちとの交際を通じて、その地方の来歴に触れる。しばしば形而上的な空想にふけりながら、語り手が綴る日々の覚書、回想、夢、会話、占い、その地に伝わる聖人伝、宇宙天体論、料理のレシピの数々…。豊かな五感と詩情をもって、歴史に翻弄されてきた土地の記憶を幻視する。現代ポーランド文学の旗手による傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • ポーランドとチェコとの国境の町、ノヴァ・ルダ。歴史に翻弄されてきた土地の記憶。

    百十一の挿話が、ゆるやかな繋がりをもつ構成。聖人伝や伝説、主人公の日常生活、キノコ料理のレシピ、隣人のエピソードなど。


    時の流れは一方向ではなく混沌としていて、わたしたちはその断片を集めて眺めているのかもしれない。というような気持ちになった。
    修道士パスハリスの話が印象的だったが、思い返すと、ぼやけていて、つかみ取ることができない。時間を置いて再読したい。

  • ポーランドのノーベル文学賞作家、オルガ・トカルチェクの著作。
    チェコとの国境近くのノヴァ・ルダに住む主人公(作家)、
    多くの生活をともにする時間軸を無視した存在のマルタ、そして近くに住む人々。

    認識外の世界の不安定さ、不確実さが描かれる。キノコがメタファーになっていたり、憂悶聖女の話が出てきたり、”家”の存在が大きなテーマだけど、
    国境を跨いで命を落としたドイツ人など、戦争の背景もうかがえる。

    各章は短く文章が美しい。一方、全体像が見えてこなくて、難解という印象。
    文章自体が象徴的で、まるで神話やおとぎ話のような話もあり、そのメタファーの背景を知らないとうまく入り込めないのかなと思いました。
    ポーランドという国の歴史や東欧の文化に造詣の深い人だとまた理解が違うのでしょうか。私は知識が足らず、正直うまく入り込めず、読むのに時間を要しました。
    でもなんとなくまた読み返す気がします。

  • チェコとの国境付近に住む人々の暮らし、言伝え、死を含む様々な事象を、持ち前の鋭い感性と心理学の専門家としての知識を持つ、ポーランドのノーベル賞受賞作家が描いた私的な小説。国境が幾度も変わったという歴史を持つ影響か、作中で語られているのは流動的な世界であり、現実・夢、真実・創作、男性性・女性性の境界さえあやふやで、読み手に解釈を委ねているようにも思える。 

    作者の描く謎めいた不思議な世界は、心理学や哲学的知識を持っていたらもっと容易に読み解ける?のかもしれないけれど、作者は専門的知識を持たない読者を置き去りにしないし、翻訳者は作者の意図を理解した上で歯切れのよい言葉を紡いでいるように私には感じる。この作品を読み進める上で大切なのは、解る解らないより、未知の世界への好奇心を持てるかどうか、面白がれるかどうかではないだろうか。
    作者の描く世界に、目には見えない豊かさを感じるし、この世の中にはまだまだ自分が知らない世界、面白い考え方や本がたくさんあるってことをこの本は教えてくれる。

  • 全容が見えない短編が続く、少し悪夢的な雰囲気もあり、ラテンアメリカ文学のような雰囲気もあるがもっとジメッとしている。そして徐々に、それぞれの話がつながっていたり、とぎれとぎれに続いたりしていることに気づく。不思議な魔術的魅力を持った本。なにかとても大切なことが書かれている、と感じるが、軽く、不安定で、頼りない。もっとこの作家の本を読みたい。

  • ポーランドの小さな町を背景に、いろいろな話の断片が時間や空間を超えて集合し、重なったり続いたりしている。
    人間として物質的に存在しながら、果てしない内面を抱えて生きている人たちが描かれている。

  • 一見関係がなさそうな断章が続き、最初はこのまま全体像がどうなっていくのか不安になるが、わたしとR、わたしと隣人のマルタ、聖人マクーニス、マクーニスの伝記を書いたパスパリス、きのこ料理のレシピなどが緩やかに関係しながら、話が続いていく。読んだことのない、詩のような神話のような小説。

  • 短い散文的な文章が集まり重なって蜘蛛の巣のように拡がり、レース編みのように模様を形作る。ポーランドの田舎道やキノコ、名もなき人々の運命、トウヒの森、湿った下草のにおい、家畜の鳴き声、錆びた錫の皿。現実と夢、過去と現在が混ざり合った中に微睡む意識。
    とても美しくて本当に良かった。本はまあまあ読む方だと思うけど、こういう風に思える本は一年に一冊あるかどうかなので、僥倖というかしみじみと読んで良かったと思えたし、本を読む人間でいて幸いだったと感じられた。

    ま、でも、キノコをバターで炒めて砂糖かけてお茶受けにするのはどんな塩梅なんかね。

  • とても良かった。長い間放置していたんだが、じゃあ昔に手に取っていたら、同じように刺さっていたのかと思うとよくわからん。読書とは作家と読み手の共同作業であり、どちらにも敬意があるべきと思っている。大抵の本に対して距離感断絶感を感じ憤慨して終わるのだが、この本にはとても共感した。テーマな人間として生きる上での理想と現実。社会人としてこうあるべき姿と、野生の生き物として、裸で森で駆け回り、酒池肉林の世界に生きる。その狭間で距離に怯える人々。日々の生活は残酷にそして退屈に厳しく一人一人に訪れ、心と体を蝕んでゆく。

  • ノーベル賞受賞作家の作品とはこういうことかと納得した。
    他のどの作家とも違う、型にはまらない構成。難解といえば難解。それでも文章はよみやすく、するすると読める。(翻訳の良さもかなり貢献していると思う)
    例えば、一人の人物を描写するのに、その人の生い立ちや、好きな食べ物や、交際関係や家系など多様な側面から表現することができると思うが、それと同じことをポーランドのある田舎町について行ったようなイメージ。
    その土地の伝説や聖人伝や最初に住み着いた人やドイツからポーランドに国籍が変わった歴史やキノコ料理のレシピなどについてのさまざまな断章が、それぞれの間には論理的なつながりはあまりなく、無造作にぶちまけられている。全体を読むことでその土地の人となりが四次元的に立ち上がってくる。
    難しく、理解が及ばないところもあったが、気にせず文章に身を任せて読んでいればよく、なかなかに心地よい読書体験だった。
    個人的には聖女伝をまとめる修道僧のエピソードを読むのが楽しかった。

  • 久し振りにオルガ・トカルチュクの長編を手に取りましたが、そうそう、こうだった…。
    断片的なおはなしの連続で、切れ端がどこかで繋がっていて、少し不思議で、怖くて、奇妙で、悲しい。
    はまらない人にはうーんかもだけど、はまる人にはものすごく響くと思う作品世界。

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著者プロフィール

現代ポーランドを代表する作家のひとり。国内で最も多くの読者に支持されるとともに、国外にも広く翻訳紹介されている。
1962年、ポーランド共和国西部スレフフ生まれ。1993年の『本の人々の旅』で本格的に文壇デビューを果たす。本作『プラヴィエクとそのほかの時代』(1996)で、ポーランドの架空の村を舞台に、この国の経験した激動の二十世紀を神話的に描きだし、国外にもひろくその名を知られるようになった。その後も『昼の家、夜の家』(1998、邦訳:白水社)、『最後の物語』(2004)などコンスタントに話題作を発表、『逃亡派』(2007、邦訳:白水社)ではポーランドの権威ある文学賞ニケ賞を受賞。扱うテーマはメソポタミア神話から政治、フェミニズムまで多彩である。
2018年のノーベル文学賞を受賞。

「2019年 『プラヴィエクとそのほかの時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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