デニーロ・ゲーム (エクス・リブリス)

制作 : 藤井 光 
  • 白水社
3.20
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本棚登録 : 32
レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560090176

作品紹介・あらすじ

内戦下のベイルートで、キリスト教民兵組織が支配する地区に暮らすアルメニア系の少年バッサーム。幼なじみのジョルジュは「デニーロ」というあだ名で呼ばれている。二人はジョルジュが働くカジノから金をくすね、ガソリンを盗んではバイクを乗り回す日々を送る。ジョルジュはカジノを運営する民兵組織に引き抜かれ、イスラエルで訓練を受けるかたわら、密造酒や麻薬の取引をバッサームに持ちかけ、次第に二人は疎遠になっていく。ある日、バッサームはある殺人事件の嫌疑をかけられ、民兵組織に連行され拷問を受けるが、ジョルジュの叔母の計らいによって解放される。彼はレバノン国外に逃れる決心を固め、その資金を手に入れるため、カジノの売上を強奪する。脱出の直前、キリスト教勢力の最高司令官が暗殺され、それに関与した容疑をかけられたバッサームを、ジョルジュが連行しにやってくる…。

感想・レビュー・書評

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  • 「こんな小説読んだことない」と思って読んでいた。いや、たぶんそれは正しくはないのだが・・・一万の砲弾が降り注ぐ戦火のレバノンという舞台がそう思わせるのか。静的で確かな表現と、映像的な疾走感、殺伐としたドラマの組合せのせいか。
    映画化を望むほどに、ドラマは波乱に富みスリリングだ。主人公の少年は、暴力をふるい人を欺き殺し銃を撃つ。しかしそれらを紡ぐ言葉は、文中で言及されるカミュの「異邦人」のように虚無感があり、どこか自分の周囲の悲劇やカオスを突き放した醒めた目がある。
    レバノン近代史としては、レバノン侵攻をユダヤ教+イスラエル側から描いている部分も印象に突き刺さる。少年の親友は、孤児となり民兵組織に参加し、この戦いに加わり、パレスチナ人を虐殺する。バイクに乗り女にちょっかいを出す、そんなふつうの少年たちの手を血まみれにする戦争。
    タイトルはデ・ニーロ主演の「ディア・ハンター」からとっており、ロシアンルーレットを指す。ここでも血が流れ、すべてが説明される。余りにも多く流された血のグロテスクさ、残酷さにくらくらする。

  • 悲しい話……でも中東はあらゆる場所がこういう状況になりつつある。やりきれない

  • デニーロとは主人公の親友・ジョルジュのあだ名で、デニーロ・ゲームとは、ロバート・デニーロ主演の『ディア・ハンター』に出てきたロシアン・ルーレットのこと。
    内戦下のベイルートにあっても、主人公はどこか甘ったれな、ごくふつうの少年であることが、戦争が日常となっている異常さの裏返しに思えます。
    人間性とは、繊細で敏感であればささいなことで破綻するし、自分を守るために纏った鈍感さによっても壊れてしまいます。となると、このふたりはまさにその両極に位置しているといえるかもしれません。

    戦争が人間性を奪うことについては、これまでもさまざまな小説や映画などで描かれています。『ディア・ハンター』もそうでした。
    戦争は愚行としかおもえませんが、それでも戦争がなくならないのは、国益を得られるからで、だからこそアメリカは建国以来40回以上も戦争を繰り返してきたのでしょう。
    かつて戦争は正義という大義と美名の下におこなわれていました。そのためには英雄が必要でした。ベトナム以降、戦争を描いた作品にヒーローが不在なのは、それが露呈してしまったからではないでしょうか。

    いま、この国で生きている人間にとって、戦争は歴史の1ページであり、余所の国の出来事です。ただ、主人公の少年たちや作者のラウィ・ハージがすこし年下の世代であると知れば、自分がここにいることは、気ままなルーレットに選ばれた、ささやかな幸運にすぎないのかもという気もしてきます。

    殺伐とした物語ですが、第3部のサスペンスフルな展開は読ませます。独特の暗喩は詩的ですらあり、戦争という日常を一瞬、忘れさせます(そしてすぐに引き戻されてしまうのですけれど)。

    どうやら三部作の1作めにあたるとのこと。ゲームはまだ終わっていないことに、癒えない疵の深さを感じずにはいられません。

  • ベイルートってどんなところ? レバノンってどんな国? イスラエルの侵攻とか内戦って何? という基礎的知識が欠けているにもかかわらず、放談が飛び交い、なんとなくその日その日を無目的に生きている主人公の気持ちは理解できます。将来に対する見通しもなければ展望もなく、とにかく国外へ行きさえすれば何となるだろうという漠たる思い。刹那的な生き方ともちょっと違うような、平和国家・日本に暮らしていたのではわからない世界です。主人公は結局、全編を通じて何か希望となるものをつかむわけでもなければ、人間的に成長するわけでもなく、そういう意味では「これで終わったの?」という結末でした。

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