ブルックリン (エクス・リブリス)

制作 : 栩木 伸明 
  • 白水社
4.21
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本棚登録 : 161
レビュー : 21
  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560090220

作品紹介・あらすじ

1950年代前半、アイルランドの田舎から大都会ブルックリンへ移住した少女の感動と成長の物語。船出、奮闘、恋愛、そして思わぬ事件と結末が…。コスタ小説賞受賞作品。

感想・レビュー・書評

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  • なんて、なんて素晴らしい小説なんだろう。他の人の人生を歩ける小説が大好きです。アイリーシュがエニスコーシーからブルックリンへ行き、百貨店で働きながら大人になっていく過程(ここは簡単な言葉では語り尽くせないところ)も、マンハッタンの本屋に法学の本を買いにいってホロコーストのことを言われるところも、ローズが亡くなってアイルランドへ里帰りするところも、トニーのことをもう愛していないと気づくところも全部全部好き。こんなに好きな作家には久々に出会ったかもと思う。『ノーラ・ウェブスター』も良かったし、コルム・トビーンの作品を全部読みたいです。あとどう考えても翻訳が素晴らしいです。栩木伸明さんの翻訳している本を読んでいきたい。映画も良いって聞いたのでDVDを買いました! 楽しみ!!

  • 現代のアイルランド作家がトレヴァーにコビーンだとすれば、豊かなストーリーテラーを生む国なのかもしれない。
    うまいと思うのが描写、心理描写と情景の描写。作家がリーディングで選んだという船酔いの場面などイキイキと目に浮かぶよう。時間軸の巧妙な飛ばしようや、ラストも続きが知りたいところで終わるところも。

    俯瞰するとアイルランドを中心としたアメリカの移民社会が浮かび上がる。「田舎にはろくな仕事がない、アメリカで一旗あげる!と若い女性が単身渡米する」という動機=移民のあり方、引受先として確固としたアイルランドコミュニティが存在しており、社会経済が廻っている。タイトルでもあるブルックリンが舞台で恋人のトニーはイタリア系移民だが、この小説に「生まれついてのアメリカ人」の姿はない。
    クローズアップすると、アイルランドから単身、海を渡りブルックリンを目指したアイリーシュの人生がある。私は地方出身の東京在住なので、都会で仕事に奮闘する彼女に共感するし、同じ日本の中とはいえ、いなかの時間の停滞と都会での自分の変容の結果、それぞれ別の人格があるような感覚がよく分かる。
    メインのプロットはアイリーシュの恋愛物語でもあるので楽しく読んだ。ただ女性の目から見るとモテすぎだけれど(笑

  • 時は1951年から2年。舞台はアイルランドの田舎町エニスコーシーとニューヨークのブルックリン。主人公は、エニスコーシーで母と姉と三人で暮らすアイリーシュ・レイシー。英国からの参戦要請を拒否し、第二次世界大戦に参戦しなかったアイルランドは、戦勝国の好景気から見放され景気も雇用もぱっとしなかった。いくら簿記の成績がよくても、売り子ではなく事務職員として働きたいと願う若い娘の働き場所はなかった。ちょうどアメリカから帰国していた神父の口利きでアイリーシュはブルックリンで働くことになる。

    ブルックリンにはアイリッシュ・コミュニティーがあり、神父の紹介で下宿先を見つけたアイリーシュは昼は百貨店の売り子として働き、夜は簿記の学校に通うことになった。異国の小さな同郷人の共同体の中での軋轢や階級意識に翻弄されたり、ホームシックに落ち込んだりしながらも、次第に新しい環境になじんでゆく主人公には、やがてトニーという恋人もでき、封切りしたばかりの『雨に歌えば』を見たり、コニー・アイランドに海水浴に出かけたりと、アメリカ生活を謳歌するようになる。

    ところが、思いもかけぬ出来事が起こり、アイリーシュは一時帰国することに。トニーのたっての願いを聞き入れ、秘密に結婚式を挙げたアイリーシュは船上の人となる。用が終わればすぐに取って返すことになっていたアイリーシュを待っていたのは、故郷の人びとの思いもかけぬ歓迎だった。アメリカナイズされ、自信に満ち溢れたヒロインは、器量よしの姉に劣らぬ美人になっていたのだ。以前ダンスパーティーで無視されたジムは今ではパブの経営者になっていた。彼からの求愛に心揺れるアイリーシュだったが、かつて働いていた店の主人に呼び出された彼女は、そこで今まで秘されていた事実を知らされる。

    働き者で、向学心に溢れ、周囲の人びとへの気遣いを怠らない主人公は、直属上司や下宿屋の主人に気に入られ贔屓される。好意の贈与は当然その見返りを要求している。自分はどう振る舞えばいいのだろう。内省的で自分の行為を振り返らずにいられない主人公の心理描写が卓抜で、読者はどうなることやらとはらはらどきどきしながら彼女の優柔不断ぶりにつき合わされる。コルム・トビーンという作家は初めてだが、美しい姉を持つ、年頃の利発な娘の心理を実に鮮やかに活写している。

    今一点。第二次世界大戦後のアイルランドの田舎町とニューヨークのブルックリンという二つの対称的な世界を描き分けることで、生き生きした時代の雰囲気がよく伝わってくる。離婚の文字を頭に浮かべた主人公がリズ・テーラーを思い出したり、ドジャースがまだブルックリンの人びとの誇りだったりした時代のアメリカ。百貨店で黒人がナイロンストッキングを買う事に好奇な目が注がれていた時代、ダンスフロアに「ジャッキー・ロビンソンの歌」が流れていた時代のアメリカだ。

    年若い娘ならではの矜持や懼れ、自分をしっかり持っているようでいながら、流れに任せて自分を見失いがちな稚さがよく書けている。みなにちやほやされてすっかりのぼせ上がっていたアイリーシュが、母親も含めた田舎の蜘蛛の糸のように張り巡らされた情報網に絡めとられて身動きできなくなってゆく様子が、周囲の人間が善意であるだけに恐ろしく感じられ、かつての雇い主の悪意の奔出がかえって救いのように感じられてくる皮肉さなどほとんど秀逸とさえ言っていい。近頃目にした小説の中でいちばん面白く読めた。原書の惹句にいわく「出発と帰還、愛と喪失、自由意志と義務との間で迫られる残酷な選択をめぐる優しさあふれる物語」である。

  • 映画とは違うラスト。
    でも空気感は同じ

  • なんでこの本をチェックしていたのか忘れたが、チェックしていた当時の俺を褒めたい。とても良い小説だった。

    20世紀中盤、不景気で閉塞感のあるアイルランドに生きる若い娘が、アメリカブルックリンに職を得て生活する事になり、ようやくその生活にも慣れ仕事に勉強に充実した毎日を過ごす。そして恋人もできたころにひょんなことから帰省することになる。アメリカ世界で自らも知らない間に洗練された娘は、帰省した地元で人気ものとなり、かつてつれない態度をとられた男前に惚れられる、娘はアメリカに戻るのか?アイルランドに骨を埋めるのか?

    というのがあらすじ、なんとも地味な小説なのだが、情景や心理描写が丁寧に書き込まれており、それを読むのが実に楽しいのである。

    誠実だが優柔不断なところがある主人公アイリーシュ、彼女の生きる1950年代の閉塞したアイルランドと進取にとんだブルックリン(といってもまだまだ閉塞的ではあるのだが)の情景と、彼女の気持ちが鮮やかに描写されている。非日常的なドラマチックなことなんてほとんど起きてないはずなのに、活字を追う目が離れないのである。

    原作の帯には「出発と帰還、愛と喪失、自由意志と義務との間で迫られる残酷な選択をめぐる優しさあふれる物語」とあったというが、まさにそういう小説。出会えてよかった。

  • 終始さみしい感じが漂う。
    田舎町から都会へ。そのように若い頃に故郷を離れた女性は、多かれ少なかれこのような感情を経験してる気がする。
    正しい選択だけで進んでいけるわけではないしどう左右されるかも判らないけど、アイリーシュにはそれを受け止め生きていく強さを感じた。

  • こんな地味な小説(悪口ではありませんよ)をよく映画化したな。アイルランド系とイタリア系って全然違うように見えても、カトリックという共通項があるから、意外とくっつきやすいのかな。ローズが何故アイリーシュのアメリカ行きに熱心だったか、わかった。自分が元気なうちに妹に自由と可能性を与えたかったんだね。これからのアイリーシュの結婚生活に波乱が待つ予感が…。いずれ姦通小説のヒロインになりそう。ブルックリンにいればトニーがよく見え、アイルランドにいればジムに魅力を感じる。環境で人の心が変わる。アイリーシュが自分で自分の心を見極められるようになるには、まだまだ経験が必要だろう。これからが試練だな。

  • 人が成長するということは、喜びが大きい分、かなしみや苦しみも受け入れていかなくてはならないということ。さまざまな場面で決断をしていかなければならないということ。この小説の舞台が1950年代であろうが、アイルランド人がブルックリンで生きていようが、人生を一歩一歩、ひたむきに、正直に、時には泣きながら歩いていく主人公のアイリーシュに大きな共感を覚える。

    この先も、アイリーシュはいつまでも私の心のなかに生き続ける。彼女はいまごろ何を想っているだろうか。こんなときアイリーシュならどうするだろうか、とふと思い出すことだろう。

  • シンプルな生活の素直な感情。 シンプルに見えるけど違うか。アイルランドからアメリカへ渡っても、その生活に浮つくこともなく。

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著者プロフィール

アイルランドの作家。1955年、ウェクスフォード州エニスコーシーに生まれる。
ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンを卒業後、ジャーナリストとして活動し、雑誌In DublinやMagillの編集主幹を務める。
1990年に小説The Southを発表。以降、数年おきに小説を上梓。作家ヘンリー・ジェイムズを描いた2004年の作品The MasterでIMPACダブリン文学賞を受賞するなど、現代アイルランドを代表する作家と目されている。
邦訳に『ヒース燃ゆ』(伊藤範子訳、松籟社)、『ブルックリン』(栩木伸明訳、白水社)、『マリアが語り遺したこと』(栩木伸明訳、新潮社)がある。

「2017年 『ブラックウォーター灯台船』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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