逃亡派 (EXLIBRIS)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560090329

感想・レビュー・書評

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  • ポーランドのノーベル文学賞作家オルガ・トカルチェクの作品。
    裏表紙には「身体という乗り物に乗り、まだ見ぬ世界をめざす。《旅》と《移動》をめぐる116の断章。」と書かれており、この説明が的確。一見つながりのない地図が挿絵になっているページも多い。
    短編集とも違うが、つながりを持たない多くのストーリーが並ぶ。舞台も時代もバラバラで、世界のいろんなところの旅をするような本。

    川を眺め、定住を避ける”わたし”。
    難病の息子を持つ悩みを抱えながら、世界の視野から消えた浮浪者のような人々に惹かれるモスクワのアンヌシュカ。
    左脚を失い、ホルマリン漬けにされた脚に痛みを覚える解剖学者のフェルヘイエン。
    クロアチアの小さな島で妻と子供を三日間見失い、そこから世界が変わってしまうような体験をしたクニツキ。
    空港で旅行心理学を説く人々。

    「旅に出る」というのは何かしらの境界を超える行為。
    その"境界"とは何なのだろう?自分のホームとは何だろう?
    世界の断片を見ながら、「貴方はどこにいるの?」と問われているよう。定住しない本だけど、本棚においておきたい本。

  • 『昼の家、夜の家』に感動したので、『逃亡派』は珍しく古書で購入し読み始めた。

    ひとつの土地への「定着」を描いた『昼の家…』に比べ、「旅」「移動」がテーマである本作品では作者の視野がいっきに広がり、わからない語句をスマホ検索する回数が増えた。
    作者が長年「旅」や「移動」に関する記事や、実際本人が見聞きした内容をエピソードとしてまとめたものと思われる。血管を通る血液までが旅や移動の対象なのだろうか、この視点や切り口は斬新で面白い。読み進めていくうちに作家の興味の対象が朧げながら透けて見える。時に広く時に…。ただ、何処となく洗練されたこの作品における作者の「興味の対象」は、土臭さを感じさせるポーランドの片田舎を舞台にした『昼の家…』ほどは共感できなかった。自分自身内向きになり、旅よりも定着へと志向が変わっていったためだろうか? それとも図書館で借りた本を優先し何度か中断、集中して読むことができなかったせいだろうか?
    幸い同じ作者が書いた『ㇷ゚ラヴィエクとそのほかの時代』を最寄りの図書館で借りることができた。こちらに期待。

  • 「旅」や「移動」をテーマに116の物語がバラバラに語られる作品。旅先での光景や、人体を地図に喩えた解剖史や様々…。タイトルであり、実在するセクトの名であるらしい「逃亡派」。囚われない為、常に動き続け世界に抵抗する人々の思想が印象に残った。

    立ち止まる事。なにがしかに囚われる生活。ここでは無いどこかへ。それぞれの断章は繋がっていたり、そうでもない単独の物?と思われる物もある。旅先での光景を1つ1つ見る(追体験する)というよりも、世界地図を拡げて、その上を絶え間なく移動し続ける人々を観察する…といった雰囲気の作品だった。

  • 世界中を旅して回り、時に宇宙に想いを馳せ、自己の宿る人体も詳細に探求する。
    「昼の家、夜の家」と同じようにいくつものプロットがばらばらに進みながら、時に繋がることもある。こちらの方がより具体的な内容だった。

    「神の国」
    死の床にいる元恋人をたずねて、ニュージーランドから数十年ぶりにワルシャワに帰ったポーランド人生女性の話。彼女は生物学者だ。
    とても衝撃的で深い内容だった。
    同じ地球上に暮らす同じ人間の形をしているのに、死生観というのは、もちろん信仰にも影響を受けるけれど、こんなにも違っているんだ。

  • ボルヘスの言葉が引用されて、おーっと思う。
    かすかでもボルヘスとのつながりが分かれば、創作の方向は理解できる。

    この小説は全体としても部分としても中心軸や消失点がない、アンチ物語だ。
    前作と同じく、世界の確かさが揺らいでいく。
    構成も不確かだ。どこへも向かわない。あるのは動きだけ。
    ただし、最後の章ボーディングで互いに互いが記述し合う物語が出てくる。自己完結はない。しかし、相互完結はある。そう思うとたしか二回出てくる星座の布置の話が感慨深い。

  • /この本は、めちゃくちゃ好きになるか、めちゃくちゃタイクツするかのどちらかだと思ってました。で、半分は好みだったと思うので好みだったと言えるでしょう。
    /さまざまな旅が描かれる。
    /だれもがどこかのページで自分の言葉を見いだせるでしょう。人生も知識の探究も旅の一種であるからには。
    /これは、GoogleもWikipediaもケータイも存在する時代の聖典なのかも。
    /1ページに満たない短い章が比較的長い章より好みのものが多かった。

    ■簡単なメモ

    この夕方は、世界のはずれ。(p.4)

    そうしてある一瞬に、わたしは真実をみつけた。ほかにどうしようもない真実。わたしはここにいる。(p.4)

    川は自分に手いっぱいで、わたしにかまってなどいられない。(p.5)

    いつだって、動いているなにかは、止まっているなにかよりもすばらしい。(p.7)

    わたしにはたぶん、ある遺伝子が欠けている。しばらくどこかにいるうちに、そこに簡単に根づいてしまう、そういうことができる遺伝子が。(p.9)

    じつのところ、いかなる専門も身につけなかった。(p.10)

    この場所は、本質的には死者に属する。わたしはいまだに大学の建物を夢にみる。だれかの足跡でいっぱいの、岩から掘りだしたような広い廊下。ふちがすりへった階段。いくつもの手のひらがぴかぴかに磨いた手すり。これらはみな、空間に残された痕跡だ。こうした痕跡が、わたしたちに幽霊を見せるのかもしれない。(p.12)

    人生はいつもわたしの手からすべりおちていった。(p.14)

    わたしが患っているのは、あらゆるだめなもの、不完全なもの、欠陥のあるもの、こわれたものに惹かれてしまう症候群だ。(p.18)

    「ぼくが見たものは、ぼくのものです」(p.23)

    出発と同時に、わたしは地図の上から姿を消す。わたしがどこにいるのか、だれも知らない。(p.53)

    空港共和国(p.57)

    化粧品は、旅という現象をこうみなしているのだと思う。それはつまり定住生活の縮小版、滑稽で、なんだかおもちゃみたいなミニチュア。(p.59)

    【三つの基本的な旅の質問】どこの出身? どこから来たの? どこへ行くの? 最初の質問は垂直方向、あとのふたつは水平方向。尋ねることである種の社会的分類がはっきりすると、彼らはたがいをチズノウエニ背馳してあとはやすらかに眠りにつく。(p.58)

    でもだれもがここでは、楽しいことしか望んでいないとわたしは思う。人びとがいるのは、移動する場所なのだから。夜に運ばれ、黒い空間を走る場所。だれのことも知らないし、だれとも知り合うことはない。個人の生活から抜けだして、そのあとなにごともなかったように、ひっそりと戻っていくだけ。(p.63)

    記述というのは使用とおなじで、破壊する。色はぬぐわれ、角は鋭さを失う。書かれたことは次第に色あせ、最後には消えてしまう。(P.69)

    ほんとうにこわいことだけど、書くことは、壊すことなのだ。(p.70)

    地図は余白が恋しいから。(p.97)

    じつは街は存在しないだなんて。(p.98)

    夜はけっして終わらない。いつも世界のどこかの場所を自分の支配下においている。(p.99)

    なんと書いてあるのかその意味を理解するよりも、わたしはそれらの文字に触れたかった。(p.101)

    人体のもっとも強い筋肉は、舌です。(p.102)

    専門家になんてなる必要はない。想像力さえあればよかった。(p.106)

    巡礼の目的は、べつの巡礼者だ。(p.122)

    わたしとは、わたしが参与しているもののこと。わたしとは、わたしが見ているもののこと。(p.173)

    どこかよその土地で同胞に会っても、わたしはぜんぜんうれしくない。(p.174)

    ペルーに行くということは、どこへ行くことを意味するのでしょうか(p.176)

    英語話者も、自分たちだけのものが持てるように。(p,177)

    ここの人びとはカーテンの存在を知らず、日が暮れたあと、窓はちいさな舞台に変わる。(p.181)

    ディテールの王国、細部と線と点の宇宙。絵はそこで生まれるのだ。(p.191)

    形は、形なりの方法で、生きている。(p.202)

    神は嘘つきではない!(p.209)

    物語にはそれ特有の慣性の法則が働くもので、それはけっして完全には制御できない。(p.212)

    「それ、忘れなよ」口にパンをほおばったまま、ぶっきらぼうに女が言った。(p.241)

    「例の、逃亡派の女だ」(p.257)

    ゆれろ。動け。動きまわれ。それが唯一、やつから逃げる道。世界を支配するものに、動きを制する力はない。(p.258)

    あとは旅に出よ。(p.260)

    哺乳類の脳は、闇の影響を受ける。(p.272)

    自分には、必要なものがあまりないと思わずにはいられない。どんどんすくなくなることを、彼女は毎年発見した。必要なものは減っていく。(p.274)

    彼女の家にはある習慣があった。旅立つ前に、かならずちょっとすわること。(p.274)

    彼女には、彼がまだここにいるのか、それともどこかに行ってしまったのかわからなかった。(p.294)

    島が世界に侵されないよう(p.296)

    なぜ人びとはそんなにも喜んで、強制ではない自分の意志で、若いころの場所を訪ねるのかしら。(p.299)

    透明人間になるのは簡単だ。たいして特徴のない中年女性になればいい。(p.300)

    彼が言うには、死は場所を意味する。(p.306)

    妻の死後、ある男性は、彼女とおなじ名前をもつ場所のリストを作成した。(p.308)

    待つことはときに、面白いドラマをプレゼントしてくれる。(p.310)

    わたし自身がその周囲を循環する、ある不変の点が存在すると。つまり、その点からは遠すぎるし、その点には近すぎる、ということ?(p.311)

    それは、生まれたばかりの子どものための名前を売る店だった。(p.324)

    「ご注意ください。9番の鍵がもっとも紛失されやすいんです」(p.327)

    人間同士は、いつでも遠い。(p.349)

    「ねえきみ、いまぼくたちはどこにいるのかな」(p.370)

    わたしたちは、過去を、まだあるものとして扱えるのです。(p.384)

    たとえば、カイロス。この神が支配するのはいつも、人間の線的時間と、神の時間、つまり円環的時間を横切る点。時間と場所が交差する点。たった一度の、くりかえされない可能性をつかむため、瞬間的にひらかれた一瞬(とき)、それは、どこでもないところから発し、どこでもないところへ行く、一瞬が、周囲と、めぐりあう点。(p.387)

    「どこにいるかは問題ではない」。どこにいようと、関係ない。わたしはここにいる。(p.395)

    放浪を唯一の正しい生き方とする彼らにとって(p.406)

  • 逃亡派
    著作者:オルガ・トカルチュク
    発行者:
    タイムライン
    http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698

  • 旅をテーマとした美しい作品で、旅好きとして5★をつけたいが自分が理解しきれたとは言えないので4★にしておく。手元に置いて再読したい。
    パッチワーク状の構成の不思議な作風で、時代も場所も様々の多数のストーリーが並び、ある程度まとまった物語(妻子が失踪した男性、脚を失った解剖学者、ショパンの心臓など)も掌編もある。ポーランド、アイスランド、ギリシャなどの地名からも旅の香りが漂う。もう一つ目立つのは解剖、ホルマリン漬けになる人体。地球を旅する飛行機の上からの視点と、細胞や血管に分け入る顕微鏡の視点。どちらも「旅」ということか。

  • 詳細はこちらを御覧ください。
    あとりえ「パ・そ・ぼ」の本棚とノート
    「逃亡派  (EXLIBRIS) :オルガ・トカルチュク著」
     → http://pasobo2010.blog.fc2.com/blog-entry-1405.html

    ノーベル文学賞受賞作家の本を読んでみよう。
    と借りたのがこの本です。

  • 並行するプロット、詩的表現、女性らしい比喩表現。定住せず「移動」ばかりしている登場人物達。旅行心理学と医学というマクロコスモスとミクロコスモス。「人体で一番強い筋肉は、舌だ」

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著者プロフィール

現代ポーランドを代表する作家のひとり。国内で最も多くの読者に支持されるとともに、国外にも広く翻訳紹介されている。
1962年、ポーランド共和国西部スレフフ生まれ。1993年の『本の人々の旅』で本格的に文壇デビューを果たす。本作『プラヴィエクとそのほかの時代』(1996)で、ポーランドの架空の村を舞台に、この国の経験した激動の二十世紀を神話的に描きだし、国外にもひろくその名を知られるようになった。その後も『昼の家、夜の家』(1998、邦訳:白水社)、『最後の物語』(2004)などコンスタントに話題作を発表、『逃亡派』(2007、邦訳:白水社)ではポーランドの権威ある文学賞ニケ賞を受賞。扱うテーマはメソポタミア神話から政治、フェミニズムまで多彩である。
2018年のノーベル文学賞を受賞。

「2019年 『プラヴィエクとそのほかの時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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