本と歩く人

  • 白水社 (2025年5月30日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (248ページ) / ISBN・EAN: 9784560091722

作品紹介・あらすじ

老書店員と少女が織りなす現代のメルヒェン

本を愛し、書物とともにあることが生きがいの孤独な老書店員が、利発でこましゃくれた九歳の少女と出会い、みずからの閉ざされた世界を破られ、現実世界との新たな接点を取り戻していく物語。
老舗の書店〈市壁門堂〉に勤めるカール・コルホフは、特定の顧客にそれぞれの嗜好を熟知したうえで毎晩徒歩で注文の本を届け、感謝されている。カールは顧客たちをひそかに本の世界の住人の名前(ミスター・ダーシー、エフィ・ブリースト、⾧靴下夫人、朗読者、ファウスト博士など)で呼び、自らの暮らす旧市街を本の世界に見立て、そこで自足している。
ある日突然、シャシャと名乗る女の子がカールの前に現れる。ひょんなことからカールの本の配達に同行するようになり、顧客たちの生活に立ち入り、カールと客との関係をかき乱していく……
歩いて本を配達するふたりの珍道中と、曲者揃いの客たちとの交流、そして思いがけない結末を迎えた後はほのぼのとした読後感に包まれる。読書と文学へのオマージュといえる、いわば現代のメルヒェンのような作品。
二〇二〇年の刊行後、ドイツで一年以上にわたりベストセラーの上位を占め、六十万部を記録した。現在、三十五か国で翻訳されている。

みんなの感想まとめ

孤独な老書店員と活発な少女の出会いが、日常を変える感動の物語です。72歳のカールは、顧客のために本を届ける日々を送っていますが、9歳の少女シャシャが彼の生活に現れることで、彼の世界は一変します。二人の...

感想・レビュー・書評

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  •  72歳の老書店員・カールは、数冊の本をリュックに詰め、歩いて顧客に届けることが日課。そこに9歳の少女・シャシャが登場し、配達の相棒となることで、日常や人との関係性が変化していきます。

     何と言っても、老人と少女凸凹コンビの会話の掛け合いが愉しく、微笑ましい限りです。毎日が閉じた世界で完結した暮らしのカールは、本の中だけで生きているような堅物です。一方のシャシャは現実的で、本好きだし利発で、少々小生意気です。

     加えてカールの顧客たちも、一癖も二癖もある人物ばかりで、カールと本を楽しみにしつつ、やはり閉じた世界で暮らしていたのですが…
     シャシャの存在が、カールと顧客たちの狭い世界の殻を破るきっかけとなります。

     物語はどんどん楽しい方向へ進むかと思いきや、カールが書店を解雇され、シャシャの父親の介入で暗転していきます。この窮地を救うのが、やはりシャシャの機転を利かせたアイディアと行動でした。この辺は読んでのお楽しみです。

     終盤の好転に至る描写の都合の良さ、海外文学特有の言い回しやウィットの伝わりにくさも若干ありましたが、単なるメルヘンチックでは片付けられない内容の深さを感じました。
     
     緑の背景に、ベンチに座る"本と歩く人"(カール)とシャシャの切り抜きの絵が何とも味わい深く、一目惚れでした。著者はカルステン・ヘン、ドイツでベストセラーとなり映画化もされたそう。表紙はそのワンシーン?
     改めて、本と物語が人に与える影響や書店の役割の大きさを、噛み締めさせてくれる好書でした。

  • 正直、翻訳の本は時々読みにくい表現がある。
    文化も違うので、どういう意味を表しているのかがすぐに理解出来ないときもある。
    それでも、日常と違う異文化空間に行けるところがとても面白くやめられない。

    本を届ける老書店員カール。そこに突然現れた少女シャシャ。この2人で、様々な事情を持つお客様に本を届ける日々が始まり、そこから物語は想像もしない方向に展開していく。

    カールはお客様達の現状にぴったりの本を、選んで丁寧に包んで届ける。その本を読むことで何かを見つけ、それをその人の糧にして欲しいから。本がまるで人のよう。家にあるだけでも(積読のこと?)本と一緒に暮らしている感じ。そしてカール自身も、本によって支えられ作られている。カールの本に対する考え方がとても好き。

    ドイツでベストセラーとなったこの本。
    世界共通で、本好きの人って同じ思いを持ってるんだなあと嬉しくなる。

    最後に行くほどハラハラしたけれど、こんな世界憧れるなあ...と思える、とても癒される素敵な読書時間でした(*´-`)

  • 保守的でおだやかなおじいちゃんと、奔放で猪突猛進な子ども。
    一見正反対にも思う組み合わせの化学反応が、なんと幸福なことか!
    誰もが好きになるに決まってるだろう!

    うわーん、素直に感動しかなかったよ。
    王道の展開ではあるものの、王道でありがとうとすら思えるから不思議。
    じわじわと沁みわたる、心の滋養剤です。

  • 綺麗な緑色の表紙が目を引くこの本。
    おじいさんの書店員と小さな女の子の組み合わせのお話は、割とありがちだ。ただこの本のおじいさんは、本を歩いて決まったお客さんに届けにいくというのが面白く、そこから色々なドラマが生まれる。お客さんもそれぞれの問題を抱えている。

    女の子のシャシャは子供ならではの無遠慮で無鉄砲な純粋さとひたむきさで、コルホフおじいさんの、自ら限りを設けているような世界を可愛らしく開いていく。

    「おじさんはひとりで歩く、あたしはおじさんの隣をひとりで歩く。」

    シャシャの台詞。コルホフもシャシャも、自分の信念を大切にしつつ、相手を尊重していることがわかる。ドイツでは直ぐに映画化されたそうだが、この台詞は映画の予告のキャッチコピーになっていそうだと想像した。

    コルホフさん、もう少し上手い方法があるだろう?と、ジリジリさせられるところもあったが、とても面白く、人情味溢れるところが気に入った。

    ただ、文化の違いももちろんあって、独特な文の運びに面食らったり、翻訳本の読みづらさをこの本では強く感じた。上手く意味が取れずに読み返す箇所も多数あって、なかなか進まず気が重い面もあった。

    いつもは、本が映像化されても本の方が好きだが、この本は日本でみる機会があったら、映像の方が楽しめるかもと思った。内容がとても素晴らしかったので、余計に読みづらさが残念だった。それでも、とてもおすすめな一冊だ。

    映画を観ることが出来たら嬉しい。

  • 毎日顧客一人ひとりに最適な一冊を届ける市壁門堂書店の老店員カール・コルホフと、おしゃまな9才の少女シャシャとの奇妙なパートナーシップと、顧客との深く優しい絆の物語。無愛想だけど優しいヘラクレス、作家を夢見る朗読者、裕福な隠遁者ダーシー、DVに怯えながらロマンス小説に慰めを求めるエフィ、閉鎖された修道院に居残るシスター・アマリリス、元教師の長靴下夫人などそれぞれがスピンオフストーリーで語れるほど個性的な顧客たち。シャシャはカールと一緒に顧客の家を訪問するうちにそれぞれが抱える問題をカールとは全く異なる方法で解決しようとする。年老いたカールが孫のようなシャシャに翻弄され続ける様子も楽しい。ほのぼのとした余韻を残し読了。

    「本は自由に選ぶものだ。だからすばらしいんだ。人生では何もかもあらかじめ決められているが、少なくとも読む本は自分で決めることができる」
    "Everyone is free in their choice of books. That's the most marvelous thing about it. So much is, dictated to us in life, at least we can still choose what we read."

    「すばらしい本がまさにここしかないというところでこれしかないという言葉で終わり、それ 以上何かをすれば何であれこの完璧さを台無しにするだけだとしても、読者はさらなるページを望んでしまう。それは読書につきもののパラドックスだ。」 "Even when an extraordinary book ends at precisely the right point, with precisely the right words, and anything further would only destroy that perfection, it still leaves us wanting more pages. That is the paradox of reading."

  • シャシャがとにかく可愛い!
    老人と少女、本を待つ人達。シャシャと届けられる本によって縛るものから解放させていく。本離れが進み、ネット販売によって書店がなくなっていく現代のおとぎ話。

  • 長年「市壁門書店」で働いていた老書店員カール・コルホフは、顧客に頼まれた本をリュックに入れ、歩いて配達している。
    カールは顧客の本名を覚える代わりに、好きな小説の登場人物の名前を当てはめて記憶していた。
    本の配達に向かっている途中、シャシャと名乗る女の子がカールの前に突然現れ、本の配達に同行したいと伝える。
    カールの顧客の多くは自分の人生に問題を抱え、そこから抜け出す術を見いだせない環境にいた。
    カールが勧める本は顧客を幸せにすることは出来ないと、シャシャは説教じみたことを言う。
    そしてシャシャは自らの小遣いを使って古本屋で安価な本を選び、勝手に顧客にプレゼンをしてしまう。
    シャシャ効果はてきめんで、驚くことに彼らの変化のなかった日常を攪乱しながらも、生活環境に変化が現れる。
    そしてカールも、これまで読んだ本の世界に囚われていた世界観に変化をもたらすことになる。
    知り合った頃はこまっしゃくれた生意気な小娘と思っていたカールだったが、ある日からシャシャは姿を消してしまう。
    ただ一人の大切な友と気付いたカールは、必死になってシャシャを探すのだが⋯

  • 読み終わりは、木に囲まれた小さなお庭のポカポカの陽だまりの中で、1人でロッキングチェアに深く座っている気分でした。周りは静かで、鳥の囀りだけ聞こえる。爽やかな風が時々頬をくすぐる。

    この本の読み終わりのイメージが本当にそんな感じでした。少し寂しさも感じながらも、幸せな場所で、満たされた自分の心を感じている。

    今の私が1番欲していた本でした!!!

    たくさんの本好きな人、特に小説好きな人に届いてほしい。沁みる(刺さるではなく、沁みる!)言葉もたくさん出てきます。

    例えば、

    「カールは切手収集家の人と同じように本を蒐集する人のことを理解していた。彼らは本の背表紙に視線を走らせるのが好きなのだ。本の中には自分と連帯を感じる登場人物が生きていて、その者たちがともにする、あるいはともにしたい運命がそこに展開している。彼らはよき友が集まってシェアハウス仲間となるように自分のまわりに本を集める人間なのだ。」

    私は読んだ本を手元に置いておきたいタイプで、図書館で借りて読んだ本も結局後から買うことが多いので、もうこれからはとりあえず買おうと決めているのですが、私は本をよき友してみているのかもしれない。そのよき友たちとシェアハウスがしたくて本を買っていたのかもしれないです笑

    ストーリーズにもいくつか載せていましたが、これ意外にも、色々良い言葉出てきます。
    沁みます。ぜひ小説を愛する沢山の人に読んでみてほしい!!

    ストーリーとしては、現実味が強い小説というよりは、現代のおとぎ話のような小説でした。本を歩いて配達するおじいちゃんと少女のお話。

    ドイツでは映画化もされているようだけど、日本にもいつか上陸するのでしょうか?!上映されたら絶対に観に行きます!!!されなかったらいつかドイツ語バージョンで良いからDVDをゲットしたい!!

    そしてそして、最後になりますが章ごとのタイトルについて!!

    章ごとのタイトルが直接お話と関係してるかは、読者の自由な解釈によりますが、これは全て名作のタイトルなんですね!
    第一章から順に、
    H•ラクスネス『独立の民』
    カミュ『異邦人』
    スタンダール『赤と黒』
    ディケンズ『大いなる遺産』
    サルトル『言葉』
    E•ブロッホ『未知への痕跡』
    セリーヌ『夜の果てへの旅』
    らしいです。(訳者あとがきより)

    全て読んだことない。
    あぁ、なんてこと。

    私が生きられる日はどんどん減っていくのに、
    読みたい本は増える一方。

    幸せな苦悩。

    そんな言葉も、この本には出てきたなぁ。

  • 本を届ける老人が、少女と出会い人生や本との向き合い方を再確認する物語。静かでハートフルな展開で、時折挿入される本の哲学、本の価値といった描写がとても印象に残ります。読書や本が好きな方におすすめしたい素敵な海外文学。

  •  主人公は老舗書店で働く年配の書店員カール。彼は本を何より愛し、毎晩、常連客のもとへ歩いて本を届けている。常連客たちを「ミスター・ダーシー」や「ファウスト博士」など、本の登場人物の名前で呼んでいる。ただ、彼の行動範囲はとても狭い。

     でもある日、シャシャという9歳の少女が突然現れて、カールの本の配達に勝手についてくるようになった。そして、カールの穏やかだった日常は少しずつ変化していく。
     そんなある日、シャシャの父親がカールが娘を連れ回していると書店主に苦情を言いに来て、カールはクビになり、シャシャの父親に強く押され大怪我をする。退院しても、今までのように自由に歩けず、そしてもう誰も自分のことを必要としていないと思い、絶望に近い日々を送る。

     でも、そんなカールに前を向く力を与えたのはシャシャであり、常連客たち。

     簡単に言えば、本の世界に閉じこもっていた老人が、少女との出会いでもう少し広い世界へと出て行く物語。最初は「現実から逃げるための本」だったものが、最後には現実と人をつなぐものに変わっていく。ずっと孤独だと思っていたけれど、実は大切にされていたと知る。

     手元に置いておきたい一冊。

     読みながら、何故かシャシャがモモとだぶっていました。

  • 映画観たい
    カールに本を届けて欲しいし
    カールのようになりたいかも
    丈夫なリュックに包装した本を
    入れて、心待ちにしてる
    顧客に届ける
    もう少しゆったり寛容な社会に
    なったらいいなあ

    近道より遠回りの方が良い時もある

  • Rezension - Der Buchspazierer von Carsten Henn — Feder und Eselsohr
    https://www.federundeselsohr.de/home/2021/11/1/der-buchspazierer

    Für die ganze Familie: „Der Buchspazierer“ | halloherne.de
    https://www.halloherne.de/artikel/fuer-die-ganze-familie-der-buchspazierer-70628

    „Der Buchspazierer“ hat ein Herz für Bücher - Freiburger Wochenbericht
    https://www.freiburger-wochenbericht.de/der-buchspazierer-hat-ein-herz-fuer-buecher/

    Carsten Sebastian Henn - IMDb
    https://www.imdb.com/name/nm9838552/

    Carsten Sebastian Henn
    http://carstensebastianhenn.de/

    本と歩く人 - 白水社
    https://www.hakusuisha.co.jp/book/b661546.html

  • 一人ひとりの顧客にぴったりの本を配達して歩くカール。しかし代替わりした本屋の店主は、カールのやり方に批判的である。そんなカールに、シャシャという女の子が付いて回るようになる。

    全体の三分の二くらいまでは、おもしろくかつ興味深く読んだ。だが後半、結末に向かうあたりから、ちょっと陳腐な感じがしてきて残念だった。
    取り上げられた本の書誌が、参考として載っていたら良かったのにな。

  • 現代の本だなあという感じと、ドイツ文学の流れというのか匂いを感じる作品だった。なんだろうなー、エンデ作品とか飛ぶ教室とか思い出す。ドイツというのは子供時代にとっての読書に厚い国な気がする。
    どうなるのか気になって一気に読んだ。作者の本好きの気持ちが盛り込まれた所々の一節一節に共感して楽しめた。

  • 歩いて本を配達するふたりの珍道中と、曲者揃いの客たちとの交流はほのぼの。日常につきまとうあれこれに縛られ苦しんでいたカールと顧客達が、その世界を破って現実世界と新たな接点を得ていく過程には勇気を貰えた。シャシャのこまっしゃくれた感じが可愛い♪読後感もはほのぼのとしたものに包まれていてとても良かった。

  • 歩いて本を配達する老いた書店員
    そこに現れた少女シュシュ
    彼女は利発で好奇心旺盛で本が好き
    老人は迷惑がるが少女は気にしない
    何回か一緒に配達するうちに
    一筋縄ではない顧客にうちとけていく

    しかしシュシュの父親の暴力で
    老いた書店員は傷ついてしまう
    おまけに書店を解雇されてしまい
    絶望の中シュシュと父親 個性豊かな顧客が駆けつけ
    新しい希望を見つけて再び本を配達するシュシュと一緒に

    ちょっとメルヘンかな
    でも顧客の生活は現代の社会を反映した有様で考えさせられる

  • 老舗の小さな書店に勤め、店舗に留まっているのではなく、顧客の注文に応じて、本をリュックに詰め、徒歩で配達して歩く72歳の老人と9歳の女の子の物語です。

    その顧客というのは、夫の暴力、自尊心、文盲の劣等感、修道院の戒律など、みんな何らかの理由から、家の中に閉じ込もっている人たちばかりなので、この顧客たちにとっては、配達される本と、その本を運んで来てくれる老人は、外の世界との接点となっていると同時に、顧客もどんな内容の本を届けてくれるのか楽しみにしています。

    老人はこの仕事に誇りを持ち、街を歩いて顧客の手元に本を届けることを生き甲斐としているのですが、

    ある日、ひょんなことから活発で賢い9歳の女の子に突然声をかけられ、初めは戸惑いますが、それからは本の配達にこの女の子が同行するようになります。72歳の老人と9歳の女の子が一緒に歩いて本の配達する姿を想像すると、なんともほのぼのした感じがします。

    そのうち、老人が顧客に本を配達した後、この女の子も同じように顧客に別の本を手渡していたことを老人が知るのですが、その時の老人と女の子の会話です。

    「で、きみはおじさんと張り合っていたというわけか」
    「とんでもない。あたしは本を売るんじゃなくて、プレゼントしているんだもの。」
    「お客さんたちが読むべき本を?」
    「そうよ、あの人たちを幸せにしてくれる本をね。おじさんにはその気がなかったから、あたしは貯めてあったお小遣いを全部はたいたのよ。」

    女の子は老人と一緒に顧客を訪れ、老人がそれまで接していた以上に顧客と交流する中で、自然と顧客たちの真の姿や好み、顧客にとって本当に必要と思われるものを感じ取っていたのだと思います。

    老人のプライドは傷つきますが、本の配達を一緒に続ける中、顧客も女の子の訪問を歓迎するようになります。次第に老人は自分にとってこの女の子がとても重要な相棒であると認識するようになります。

    しかし物語の終盤、女の子の父親からの苦情をきっかけに、老人は書店から解雇され仕事も失い、さらには女の子を心配する父親の誤解から、老人は身体に怪我を負わされてしまいます。

    すっかり生き甲斐を失い、生命の危機にも瀕した老人ですが、賢いこの女の子の活躍もあって、顧客のみんなに愛されていたことが再認識され、みんなの力で再び本の配達に復帰していく姿は、感動ものでした。

    本を愛してやまない老人が女の子と本を配達している中で言った言葉があります。

    「表紙と表紙の間にある思想の中には(中略)、癒しが込められていることのほうがはるかに多かった。そればかりか読者が罹っていることに気づいてもいなかった病まで癒してくれることもときにはあった。」

    そしてこの本の最初のページには、

    「すべての本屋さんへ
    困難な時にあってもみなさんはわれわれに心の糧を与えてくれる。」

    と書いてあります。

    さらにこの本の目次の前のページには、

    「小説とは読者の魂をかき鳴らすヴァイオリンの弓のようなものである。」

    というスタンダールの言葉があります。

    まさにこの作品は「本へのオマージュ」と言っても過言ではないと思います。

  • 2024年の映画化を前提に作られたかのよう!
    本を配達することを生業とするカール老人と、9歳のおしゃまなシャシャの登場による開かれた物語。本の配達を待つ人物たちには、みなカール老人によってどこがで読んだ小説の登場人物にちなんだあだ名がつけられている。カール老人は大人だから、家から出ずに本を所望する相手のリクエストに応じた本を配達し続けてきた。でもシャシャは違う。自分の目で見たことを確かに信じ、カール老人の隣りでひとりで突き進む。

    老人と少女(あるいは少年)という組み合わせで人々の人生に影響をもたらしていく、という物語は普遍のものだが、本作はその期待を裏切らない。そしてその裏切りは本作には絶対に必要ない。本が好きな人に読んで欲しいけど、それ以上に、隠しておきたい悩みやコンプレックスのある人にこそ届いて欲しいかもしれない。尼僧のシスターフッドったら!ああ映画で観たいな〜!

  • 書店員の老人と9歳の少女、凸凹コンビの会話の掛け合いが面白く、微笑ましい一冊。本好きの方に勧めたい。

    2020年に刊行されたドイツの小説で、一年以上にわたりベストセラーの上位を占め、60万部を記録したらしい。映画化済みだが、日本ではまだ観られないみたい。

    主人公は72歳の書店員・カール。
    老舗の書店に雇われてはいるが店頭に立つわけではなく、面白い働き方をしている。毎日、数冊の本をリュックに詰め、歩いて顧客に届けているのだ。顧客との間には長年の付き合いがあり、どういう系統の本を好むか熟知している。顧客もカールを信用し、選書を任せている。

    カールは顧客たちをひそかに小説の登場人物の名前で呼んでいる。さらに自らの暮らす旧市街を本の世界に見立て、そこで自足している。そんな閉じた世界の住人であるのだが、彼の顧客も一癖も二癖もあり生きづらさを抱えながら生活している。

    そこに9歳の少女シャシャが登場し、いつも観察していたことを告げられる。「本と歩く人」とあだ名を付けられ、一緒に配達したいと言い出す。カールは断るが強引に付いてきて、許可なく顧客の家に上がりだしてしまう。

    それからカールとシャシャは配達の相棒に。書店員の老人と少女凸凹コンビの会話の掛け合いが面白く、微笑ましい。

    人生の酸いも甘いもを経験した上で今の生活をしているカールと、好奇心旺盛な上、大人が忘れてしまった純粋さを持つシャシャ。しだいにペースは利口で生意気なシャシャに握られ、カールの予想もしない方向へと日常や顧客との関係性は掻き乱されていく。そしてカールは書店をクビになってしまい……。

    大人な付き合いをするということは、本音を隠していることと似ているかもしれない。そこに土足で踏み込み、喧嘩をしたり問題に手を突っ込んだりして、相手が本当に思っていることに触れる。そんな関係性にこそ絆が生まれるし、大人な付き合いでは踏み込めないような人生の機微を感じるのだと思った。摩擦を恐れるな。

    ちょっと義務的になっている人間関係にうんざりしている人はスカッとするかも。

  • 書店員の老人カール・コルロフは年季の入ったリュックに、丁寧に包装された本を詰めて二キロメートル四方の町に出ていく。それらの本はそれらを求めている人々にこれから喜びと楽しさをもたらす役目を担っている。ある日黄色の冬用コートを着て飛行帽をかぶった少女と出会う。その出会いというのは少女の溌溂さと好奇心全開なものだった。長年崩されることの無かったルーティーンがその一人の少女シャシャによって打ち砕かれるところから始まる。
    老人と少年少女のバディ的な作品が何かと好きな私にとって(その始まりはニューシネマ・パラダイスに由来する)、本当に求めていたものだった。それに加えて本という要素が加わってくるものだからもう誰でもいいからありがとうと言いたいぐらい。最初はシャシャのことを鬱陶しいと思っていたのにも関わらず、彼女の革新的なアイデアと実行する勇気に触れているうちに、カールがルーティーンしている中に見失っていた生への喜びを見出していく。それがとあるいくつかの出来事によって崩されてしまう場面は本当に辛かった。その状況を救うのもシャシャだが、その時のカールの喜びようが読んでいる側まで伝わってきて本当にうれしかった。本の世界に生きているカールが顧客たちに本の登場人物の名前を心の中でつけて呼んでいることが初出版されたドイツでは賛否両論らしいのだが、私は賛成派。物語前半、というかシャシャと出会う前のカールの閉塞的な性格が如実に表れていてとても好きだから。
    二人以外にも魅力的な登場人物が多い。その多くがカールの上客である。特に好きなのが暴力をふるう夫に苛まれるエフィを修道女アマリリスが手を取って町に飛び出すシーン。「神の言葉は最強の武器」といったアマリリスに対し、いやそれは…となるカールだったが、その次に出たのが「もし何とかならなくても狙いを外さずそれをぶつけることも辞さない」なんと頼もしいのだろう。アマリリスの手を自然にとって彼女は夫の城塞から飛び出していく。その時彼女からいつものそつがない笑顔ではなく心からの笑顔が出たのが印象的。あとは長靴下夫人の独特なジョーク。これは多分原語じゃないと分からないんだろうなと、実際訳者さんの方も苦労したと述べている。人当たりがすごくよく、志向は違うが中学時代の国語の先生を思い出した。

    本や、それを売る場所、それを愛する人がテーマとなっている作品でこれほどわくわくしたことはないと思う。それらの大抵は温かいコーヒーやお茶が添えられるのに相応しく、大抵は寝入りの時に読みたいようなものだ。この作品を寝る前に読んでしまったら夜更かし必須で翌朝に辛い目にあうこと間違いない。一気読みしてしまった。いろんな意味で衝撃的だった。本を愛する人はぜひ読んでほしい。

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カルステン・ヘンの作品

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