灯台守の話

  • 白水社
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感想 : 57
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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560092002

感想・レビュー・書評

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  • 本書を読みながら思い出したのは『生きるとは、自分の物語をつくること』(小川洋子、河合隼雄/著、新潮社)という本でした。
    物語は、ありのままでは受け入れ難い現実と折り合いをつけるために必要なものだと書かれていたことが印象に残っています。

    主人公のシルバーの人生も客観的に見ると、決して幸福なものとは言えません。
    しかし、シルバー自身はこれっぽっちも自分のことを憐れんではいません。
    それは彼女が見習い灯台守として、灯台守の大切な役目、すなわち物語ることを身に付けたからでしょう。

    そして物語ることで人生を受け入れようとしていたのはシルバーだけではなく、著者自身もそうだったのだと、訳者のあとがきを読んで知ったのでした。

    2つの波乱に満ちた人生が語られる中で、灯台の存在が何とも象徴的。
    光を灯すもの。人を導くもの。

  • 数年前にこの作品を知り、迷いなく購入したものの長らく本棚で熟成させてしまっていた1冊。ふとした拍子ではじめの文章を読んでしまってからは、途中で止めることができずに一気読了でした。
    新年早々、いい作品を読了できて大満足!
    訳者の岸本佐知子さんもあとがきに書かれていましたが、灯台での暮らしぶりに魅了されてしまって大変でしたσ(^-^;)
    海のそば、ましてや灯台で暮らしたことなどないのに、この郷愁はなんでしょう。
    後半、シルバーの物語になってからはやや混沌として意味不明な箇所もありましたが、ラストシーンで再び灯台が出てきたので無問題です(*^-゜)b
    内容的には全く異なる作品ですが、『夜の家、昼の家』をわかりやすくした印象でした。

  • 物語のための物語。
    遥か昔の船乗りの話も、バベルもピューもシルバーのお話も
    灯台と灯台守だけが知っている物語。
    過去も現在も未来だって波と一緒に存在してる。
    この宇宙そのものが記憶装置。

    あなたの物語。
    どう話すかは、あなた次第。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「この宇宙そのものが記憶装置」
      ウィンターソンの思いそのものですよね。自ら話を紡ぎながら、宇宙そのものを形作ろうとしているコトに心打たれまし...
      「この宇宙そのものが記憶装置」
      ウィンターソンの思いそのものですよね。自ら話を紡ぎながら、宇宙そのものを形作ろうとしているコトに心打たれました。。。
      2012/10/11
  • スコットランドの辺境に立つ灯台を巡る、二百年の時空を超えた人々の物語。

    冒頭の、主人公の母の死にまつわるエピソードから、これが完全なる「寓話」であることが明らかとなる。
    その後も、時空を行ったり来たりする場面展開の中で、その寓話性、神秘性が高められていく。

    一方で、散りばめられたエピソードの中には、生々しい「痛み」を感じさせるものも多い。

    寓話性と生々しさ。
    そのバランスに妙味があり、独特の優しさと痛切さが小説全体に漂う。
    なんだか不思議な印象を残してくれる物語でした。

  • ソルツというさびれた港町で暮らしているシルバーと母。崖に斜めに突き刺さった家に暮らす二人。ある日母親は崖の下に落ちてしまい、シルバーと後ろ脚の短い飼い犬が残される。
    ここから物語が始まる。でも物語はもっと前に始まっていた。
    ジキルとハイドのような生活を送っていたバベル・ダーク牧師、代々受け継がれる灯台守ピューの物語、など。

    いちいち立ち向かわないのが心地いい。シルバーは強い子。

    やっぱり物語は終わらせてはならないと思います。

  • 人間は色々なもので自分を構成する。富、出自、名誉、境遇。成してきたこと、これから成すこと。けれども仮に核の部分が空っぽだとしたら、その人にとって、それは何の意味があるだろう。

    主人公のシルバーは自分の核を見失った少女だ。彼女は卵が一直線に転がり落ちるほど斜めに突き立った家で育ち、母親を転落死で亡くした。孤児となった彼女に世間はあまり優しくない。はじめ、世間の代表格のようなミス・ピンチのもとへと送られ、次いで、灯台守のピューのもとに引き取られる。
    シルバーの境遇は傍から見ていると幸福とは言い難い。けれども彼女が語る彼女の物語は魅力的で、そこには痛みとともに常にユーモアが漂う。それは引き取り手のピューが、自分の核を失くした彼女に対して、それを取り戻す方法――“物語ること”を教えたからだろう。

    “わたしは泣き出し、それを聞いてピューは悪いことを言ったと思ったのだろう、わたしの顔に触れて、涙をそっとなぞった。
    「それもまた一つの話だ。自分を物語のように話せば、それもそんなに悪いことではなくなる」”

    堅固な陸と、夜の海とのあいだにあるような小説だと思った。どっしり構える陸は、ゆるぎなく、人生に疑問を差し挟ませない。寄る辺ない海の上では、いつか何処かに流されてしまう。灯台はその中心に存在し、両方を等しく照らす。

    物語るという行為は幸せを約束する切符ではない。それはおそらく港へと戻る道筋を照らす灯台の光そのものだ。シルバーはどこに行っても異分子で、物語はその事実をなかったことにはしてくれない。けれどもそれが照らす光さえあれば、時間を超えて、夜の海にだって漕いでいける。

  • 母親を亡くしたシルバーは灯台守のピューと暮らすことになる。ピューから聞かされるバベル・ダークの物語。二つの物語が時空を越え一つとなるとき、物語は静かに終わる。久しぶりに読後、心が震えた大変素晴らしい作品だった!

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「心が震えた大変素晴らしい作品だった! 」
      ウィンターソンの話は一癖あって、いつもゾクゾクしながら読みます!
      「心が震えた大変素晴らしい作品だった! 」
      ウィンターソンの話は一癖あって、いつもゾクゾクしながら読みます!
      2013/06/28
  • 美しく豊かなイメージがつまった物語だった。

    灯台守に育てられた主人公の孤独な少女と、その灯台誕生に関わった人物の物語と、さらに灯台守と主人公が語る物語が重なりながら、豊かにこの本の世界が出来上がっていく。

    そして文体が何といっても美しく、全てが詩のようにイメージが豊か。あまり詳しく情景と背景は説明されなくとも、その分だけ自由に目の前に現れてくるよう。

    作者は、人間は物語を語る事で救われる、と言っているらしい。登場人物全てが強烈な悲しさや空白を抱えているが、物語の中で世界の美しさ、人の美しさに気づいて、生きて死んでいく。

    時系列も順番でなく、説明もあまりないので、苦手な人は苦手かもしれない。でもよくある気取ったイメージの羅列のような文章ではなく、複雑な世界の有り様を正直に描いたらこうなった、という感じ。近くで見ると意味不明だが遠くから見るとカラフルで広大な世界が書かれていた絵のよう。最初はわけわかんねーと思いながら読んでいたけど、途中でパーンとイメージが広がっていった。

  • 岸本佐知子先生翻訳の海外文学、絶対奇妙なテイストなんだな…なるほど…。
    好きなんだろうな、多分…。

    岸壁に斜めに突き出した家で、母と命綱で繋がれて生活していた少女の話…。
    もうこれだけであらすじが尖り過ぎてる…すごい…。

  • -<物語ること>で人は救われる。-
     邪道にも、訳者あとがきが印象に残った。これはジャネットが何度も繰り返してきた言葉だそうで、本編全体を通してもこのメッセージが感じ取れる。
     本作ではとある灯台にまつわる物語が灯台守によって語られる。僕は、灯台にこんなストーリーがあるなんてと思わず驚いたし、それに想いを馳せるたびに心がふわっとなった。
     物語を語るというのは不思議な魅力を持っていると思う。自身の経験談を話すとまるで他人事のように思えたり、人づてに聞いた話を語ると自身が経験したかのような想いがなぜかよぎったりする。もしかしたら自分一人では抱えきれない痛みや苦しみから逃れるために人は語るのかもしれない。
     今僕は腹部がきりきりと痛い。実は昨日激辛ラーメンを食べてね…。まぁいいや。

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著者プロフィール

1959年、イギリス生まれ。福音伝道主義クリスチャンの家庭に養女として迎えられたが、女性との恋愛関係を理由に10代で家を出る。1985年に半自伝的小説『オレンジだけが果物じゃない』で作家デビュー。

「2022年 『フランキスシュタイン ある愛の物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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