ベルリン終戦日記―ある女性の記録

著者 :
  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560092088

作品紹介・あらすじ

1945年、首都の陥落前後、ある女性ジャーナリストが身近な惨状を赤裸々につづっていた。生と死、空襲と飢餓、略奪と陵辱…身を護るため赤軍の「愛人」となった女子は生き延びられるのか?戦争被害と加害の実態を、女性の目から、市民の目から描いた一級資料!類を見ない戦争日記である。

感想・レビュー・書評

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  • 終戦前後の混乱のベルリンでの出来事を2ヶ月間匿名の女性ジャーナリストが綴ったもの。
    「殺されさえしなければ、それはわたしを強くする」「頭上のアメリカより、腹の上の露助」彼女のモットー、極限ゆえの女たちのユーモア、空襲、役立たずになった男たち、ほんの数日の間にパトロンを替えていくめまぐるしさがつぶさに描かれていて、文章がうまくて読ませる。
    ロシア軍の集団的なレイプの横行、でもロシア語が少々出来たおかげで彼女はロシア人たちを単なる野獣とはみなさない。食料に関する人間関係の変化など、彼の国で起こったことはこの国でも起こった事で、加害と被害は相殺するものではなく、バランスをとりながら語られ伝わっていくといいなと私も思った。

  • これは副題になるのかな?「ある女性の記録」とも書いてあります。記録された時期は第二次世界大戦末期の独ベルリン陥落の前後、1945年4月20日から同年6月22日までの約2ヶ月です。
    この本の凄いところは、ノート3冊と、あわてて挟み込んだ走り書きのメモ用紙を元にしたにもかかわらず、文章が巧みなのです。時に辛らつでユーモアもある。もちろん後から編集や推敲がされたとは思いますけど。
    普通日記となるとしばしば感情に流されすぎたり、自分視点でこだわりすぎたりしがちなのに、そういうしつこさや湿っぽさが少ないのです。だから本当はとんでもなく悲惨な出来事のオンパレードなのに、読めてしまう。それは記録者が聡明なジャーナリストだったということより以上に、彼女の資質にあると思いました。
    おすすめです。

  • 匿名の女性ジャーナリストが、第二次世界大戦のベルリン陥落前後の約2ヶ月間の体験を日記形式で綴ったものです。1960年に初版が出た後、著者が再販を拒んでいたものが、その死を経て再版されたというものということです。その再版は、ドイツではベストセラーになり、映画化も検討されているといいます。朝日新聞の書評でも取り上げられたこともあり、手に取ってみました。

    ノンフィクションということですが、あらためてこういうことが起きたのだなと知らされます。ロシア兵側の2重の復讐(侵攻した豊かな"ドイツ"に対する復讐と前線の兵卒としての自身の立場に対する復讐)と、抑止されるものが何もない中で、組織的ではなく構造的に発生した強奪と暴力があった。「ところであなたは何回...」という会話が成り立つような、その暴力を「集団的体験」として体験し、徐々に(ある種抑圧的に)日常に還る様が、ある意味淡々と描かれています。

    作品として見た場合、著者のジャーナリストとしての編集能力と物事に対するバランス感覚(ますます力強く研ぎ澄まされたように思われます)といった能力と、ロシア語で意思疎通ができたということによる特異な経験とが相俟って、一級品のものとなっています。

    『スターリングラード』や『ベルリン陥落1945』などの独仏戦の非常に重厚な歴史物を著した大家アントニー・ビーヴァーの序文が最初にありますが、非常にまとまったよくできたその文章が陳腐に感じるほど、本文には重みがあります。日記形式なのですが、思いもよらず婚約者が帰還した後の最後も含めて、全体の構成としても非常によくできています(ノンフィクションとしてはよくできすぎという評もあるくらいです)。

    とにかく強い印象を残す本です。
    万人にお奨めというものではないのかもしれませんが、その人なりに受け止める準備がある人にとっては、読まれるべき本のような気がします。

  • 「女はリアリストで男はロマンティスト」と誰かが言っていた言葉を思い出し、妙に納得してしまった。大なり小なり、日々いろいろいあるけれど、それでも、戦争がない今の日本に生きていて良かったとしみじみ思う。

  • 小学校3年生でアンネ・フランクの存在を知ったとき、私は第二次世界大戦下のドイツにおける暴力に底知れぬ恐怖を抱いた。
    ベルリンの壁にまつわる悲劇を知っていくうちに、ジェノサイドの影をまとう敗戦国ドイツが負うものについて考えるようになった。

    戦争に敗れるとはどういうことなのか。
    それでも生きのびるために彼女はどうしたのか。

    ドイツも日本も関係ない。
    知らなければならない事実は、ここにも埋もれていたのだと思った。

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著者プロフィール

山本浩司(やまもと・こうじ):東京大学大学院経済学研究科准教授。専門は近世イギリス史、経済史、経営史。

「2022年 『イギリス社会史 1580-1680』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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