やんごとなき読者

  • 白水社
3.67
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本棚登録 : 602
感想 : 133
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  • Amazon.co.jp ・本 (169ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560092255

作品紹介・あらすじ

英国女王エリザベス二世、読書にハマる。おかげで公務はうわの空、側近たちは大あわて。「本は想像力の起爆装置です」イギリスで30万部のベストセラー小説。

感想・レビュー・書評

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  • 「やんごとなき読者」とは、英国のエリザベス女王陛下のことだ。
    この女王陛下のおわします宮廷に、移動図書館の車がとまる。
    犬たちを追ってつい車に入り込んだ陛下は、言い訳のように本を借りる羽目に。生まれて初めてのことだ。そこから女王陛下の読書の日々がスタートしていく。
    傍で助言をするのは、移動図書館で出会ったノーマンという少年。
    厨房で働いていたが、陛下のお気にいりの「書記」となり、側近たちの嫉妬を買う。
    公務に支障をきたす読書というものから、どう陛下を遠ざけるか。
    側近たちが考え出した策は、ノーマンを遠ざけることだった。。。

    ユーモアと皮肉も随所に効いた本当に面白い話で、クスクスと笑いながら読んだ。
    後書きによれば、英国では「知的でないこと」が、特に上流階級では美徳のひとつであるらしい。「頭が良い」というのは、決して褒め言葉にはならないという。
    「知的な人物」は、周りのひとを不安にさせるというのだ。
    ところが80歳になる手前で読書の面白さに目覚めた陛下は、こう考える。
    「本は何物にも服従しない。すべての読者は平等である。」

    読書によって心にも変化が生じる。
    これまで側近の気持ちなど考えたこともなかったのに、相手を思いやる心が芽生えてくる。
    そして、人間として更に成長していく。
    ノーマン不在後に陛下が書いた「読書ノート」は、読書によって深く考える習慣までついたことが分かる。そして「読むひと」から「書くひと」へとシフトしていくのだ。

    読む本の範囲が広がっていき、様々な書名が登場する。
    よく知った作家名もどんどん出て来て、ここも複線的な面白さ。
    どうやら陛下は「ハリー・ポッター」はお好きではないらしい・笑
    オースティンやヴァージニア・ウルフもさほどではないご様子。
    そして作家たちを招待した宮廷のパーティーは、かなり笑える。
    英国版の「文豪たちの悪口本」が書けそうだ。
    お傍付きだったノーマンのレファレンス・サービスの腕前も読みどころだ。

    読書がもたらす幸せと成長を書いた、懐の深いお話。
    著者本人がこの作品を朗読したDVDも出ているらしい。
    さて女王陛下は、一体どんな本を書いていくのだろう。
    ちょっと小洒落た「読書教育」の一冊を皆さまもぜひ。
    「ステーキではありませんが、本は人をやわらかくしますね」

    ・・ただし、読書のもたらす弊害も明記されている。
    そこは肝に銘じねば、と自戒も込めて。

    • goya626さん
      結構以前に読みましたが、うん、とてもよかったです。
      結構以前に読みましたが、うん、とてもよかったです。
      2020/03/25
  • 読友さんのレビュー「女王のように、やっぱり読書っていいよね、と誰彼構わず伝えたくなる本」をみて面白そう♪と思い読んでみました。
    ありがとうございます!
    女王陛下が読書にはまっていく様子にふふふっと納得。「一冊の本が別の本へとつながり次々と扉が開かれてゆく」の言葉に深く共感しながら楽しみました!最後は”書く”方へ移行していく予感ですね。

  • エリザベス女王が読書の面白さに目覚めてしまった!

    はじめは宮殿の庭に移動図書館が止まっているのを発見したことがきっかけだった。
    最初に借りた本はそれほど面白くなかったが、責任感の強い女王は読み切り、返しに行くついでにもう一冊借りてしまう。
    こうして半ば義務的に本を手に取った女王だが、2冊目が思いがけず面白かったことから読書沼にずぶずぶとはまっていく。

    読書に夢中になる女王がとてもキュートだ。
    続きが気になってしまい、公務は上の空。仮病を使い、ベッドの中で好きなだけ本を読む。移動時間にも読めるように手元に本を忍ばせる。読書好きあるあるが満載で、読みながらうなずくこと必至だ。
    挙句の果てには、移動図書館で最初の本を勧めてくれた厨房手伝いのノーマンを本の選別や手配のための書記にしてしまう。

    本を読む喜びに目覚めた女王は感想をいろんな人に伝えたくなり、側近たちをあたふたさせる。側近だけではない。晩さん会ではフランス大統領に作家のジャン・ジュネについて問うて冷や汗をかかせてしまう。
    困った側近たちは女王から本を遠ざけようとやっきになるが、一度火が付いた女王の読書熱は高まるばかり。

    読書の魅力とは何なのか。女王は自問自答する。読書は分け隔てをしない。女王という立場に関係なく一人の人間として他の読者と共有できる点が魅力なのではないか。
    考えると女王の立場はとても孤独だ。誰に対しても公平であらねばならない。自分自身の主張を持ってはいけない。これまでそれを当たり前に受け入れてきた女王だが、読書によってその均衡が崩れていく。そして物語の最後に彼女はある決断をするのである。

    他の方のレビューにもあるように、本書にはイギリスならではの風刺やユーモアがちりばめられており、内情を知っていないとその面白さが理解しづらい、という点はあるが、それを抜きにしても本好きなら文句なしに楽しめる。また、読書によって女王に人間味が増し、少しずつ成長していく様子は感動的ですらある。経験豊かな実在の女王に対してなんとも失礼な話ではあるが。

    女王のように、やっぱり読書っていいよね、と誰彼構わず伝えたくなる本である。

    • 羊さんさん
      いつもイイネ、ありがとうございます。
      私もこの本、大好きです。一時期、おすすめの本は?と聞かれると、必ずこの本を挙げていました。
      いつもイイネ、ありがとうございます。
      私もこの本、大好きです。一時期、おすすめの本は?と聞かれると、必ずこの本を挙げていました。
      2021/10/29
    • b-matatabiさん
      羊さんさん、コメントありがとうございます。コメントに返信したつもりだったのが登録されていなかったようで、返信できていないことに今気づきました...
      羊さんさん、コメントありがとうございます。コメントに返信したつもりだったのが登録されていなかったようで、返信できていないことに今気づきました。

      本にはまった時の夢中になるところが「わかる~!」という感じで楽しいですよね。それにしても、イギリスの上層部は本当に本を読まないのでしょうか。それともこれもイギリスジョーク?

      いつも本棚を参考にさせていただいています。レビュー、楽しみにしています。
      2021/11/07
  • エリザベス女王がもし読書に夢中になったらという仮定に基づく架空の物語?
    「1冊の本は別の本へとつながり、次々に扉が開かれてゆくのに、読みたいだけ本を読むには時間が足りないことである」この言葉私にぴったり。

    ある日エリザベス女王は移動図書館を偶然見つけ本を1冊借りる。その日から女王はやんごとなき読者となり、今までの遅れを取り戻すかの如くどんどん本を読んでいく。だけど、女王の読書はあまり歓迎されない。女王が公務をサボっては読書をすれば国民に迷惑をかけてしまうからだ。可哀想な女王、ただ読書を楽しむこともできないなんて。家事をサボって読書に熱中する私は胸が痛い。

    「本は何者にも服従しない。すべての読者は平等である。…」女王は読書の間だけは無名の人間になれていたのだろうな。行動的な女王は、自分のなすべき事に気付いてある決心をする。

    イギリスの人間と社会、政治に疎い私はちょっと難しい所もあったけど、どんどん読書を好きになっていく女王の言葉や思いの数々が私の胸に響いた。とても幸せな読書の時間だった。

  • イギリス王室の事情がわかってたほうが面白いのかな。教養のない、読書習慣のない女王が、読者に目覚めていき、最後には自ら物語を書きたいと言う話。女王の物語って…って最後戦々恐々とする各大臣たちの反応が面白い。

  • もしも70代のエリザベス女王が読書にハマったら...?という架空の話。わたし自身の読書歴をふりかえりながら読んだ。

    わたしも本を読み始めたのが遅かった。大学受験が終わった高校三年生の終わり頃(女王よりは早いけれど!)。そのときは女王にとってのノーマンのような読書の案内人がいなかったから、図書館で背表紙を眺めてなんとなくおもしろそうな小説を借りていた。女王みたいに一度読み始めたものは退屈でも最後まで読んでいた(今は読める時間がごくわずかだから、最初の一、二ページ読んでつまらなければスパッとやめられる)。

    本を読み始めてから10年以上が経った。女王みたいに読みたい本は増え続ける一方で、全部を読むには時間が足りないということに気づいた。

    昔は「読書」イコール「暗い」「真面目」という否定的なイメージがあり、本が好きなことを友人たちに隠していた。女王が読んだプルーストもフォースターも『トリストラムシャンディ』もまだ読めてはいない。いまはもう友人たちにも「本が好き」と胸を張って言えるようになった。昔は歯がたたなかった古典や戯曲を楽しめるようにもなった。読書は一度好きになると、歳を取ってもずっと続けられるところがいい。死ぬ直前まで現役の読者でいたい。

    本書のなかで女王が本にハマっていく姿は、本が好きなひとなら共感を覚えずにはいられないだろう。どこに行くにも本をカバンに忍ばせ、移動中に本を開き、いまいる場所とは異なる世界に浸る。感想をノートに書き留めたり、人にいま何を読んでいるか尋ねたり、読んでよかった本をすすめたり。読書好きが高じて自分でものを書くようになるひともいるだろう。わたしはまだその境地には至っていないけれど、感想をこれだけ長く書いていたら、いつか読書エッセイでも書いてしまうのではないかと思う。

  • 英国女王が読書にハマってしまったら…?という小説で、楽しい、うれしい、面白い。
    ホントだったらいいのに。

    • 羊さんさん
      こんにちは!「たなぞう難民」です。名前ちょっと変えてみました。いいですよね、これ。現女王を実名で主人公にしてしまうところが、またスゴイ。そし...
      こんにちは!「たなぞう難民」です。名前ちょっと変えてみました。いいですよね、これ。現女王を実名で主人公にしてしまうところが、またスゴイ。そして、このエリザベス女王、かわいい(本物はどうだか知りませんが)。
      2011/09/09
  • 面白かった。始終クスクスと笑いがこぼれた。宮廷の一隅に来ていた移動図書館がきっかけとなり、読書の面白さに目覚めた女王陛下。猛烈な勢いで読み続ける彼女と、知性がある事を卑しさと考える従者や英国首相たちの価値観の齟齬が面白い。読書をしない人にとって、それを趣味とする人が如何に理解の域を越えるもので、排除の基準にさえなるものなのか。子供時代に似たような体験をした事がある身としては、身につまされる描写もあった。読書を趣味とする人なら、多かれ少なかれ女王の気持ちに賛同する部分がきっとあるだろう。

  • 本書はイギリス人作家のアラン・ベネットが、女王エリザベス二世が読書に熱中することになったら…という題材で描かれたものである。
    読書を趣味とする一人の少年との出会いが始まりでした。それ以降、本の虫になったかのように女王陛下は本を貪り続け、それを良く思わない周囲との確執や孤独、それまでもをユーモアにコメディに綴っている。そして陛下はある決断を致しますが、誰が彼女の御気持ちを察し理解出来たでしょうか。
    何故私達は本を読み続けるのでしょう。知識や学をより多く身に付ける為という者もいるでしょう。日々の中で感じる孤独や悲しみ、そういったものから逃避する為、物語の中で生きる時間が必要な者もいるのです。子供の頃、絵本の中に入れるのだと信じていた少女もいました。
    見た目を磨き着飾るだけでは真の美しさは手に入りません。正しさを伝える為には、多くの言葉を知りなさい。美しくある為には、美しい言葉を使いなさい。
    本はいくつに成ろうと、私達の教科書なのです。

  • 英国女王、読書にハマる。って副タイトル欲しい。下品かしら(笑)
    女王がもしも読書に夢中になったら、という架空のお話。
    公務中や隙を狙って読書に耽り、感銘を受けた小説家を目の前にし(公務)口ごもる姿などただの読書家でかわいらしい。
    されど、女王。首相や個人秘書からささやかな妨害を受ける。
    『読書は利己的なもの』とくされたり公式訪問の旅先に荷造りした本を行方不明にされたり。知的じゃないことが英国上流階級の美徳のひとつって考え方かららしいけれど。
    妨害に負けずに女王が読む力を自身で鍛えて行く過程での言葉たちも良かった。

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著者プロフィール

1934年、イギリスのリーズに生まれ、オックスフォード大学で学ぶ。劇作家、脚本家、俳優、小説家。数多くの演劇、テレビ、ラジオ、映画の脚本を執筆し、2006年には『ヒストリーボーイズ』でローレンス・オリヴィエ賞、トニー賞受賞、同年のBritish Book AwardsでAuthor of the Yearに選ばれた。他受賞多数。風刺的でありながら温かみもあるコメディを得意とする。小説はこれが本邦初訳。

「2021年 『やんごとなき読者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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