装幀の余白から

著者 :
  • 白水社
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本棚登録 : 51
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560092408

作品紹介・あらすじ

装幀家の書物への感性
 今年から来年にかけて、著者に大きなスポットが当たる。一つは著者を主人公にしたドキュメンタリー映画の制作、もう一つは著者による自伝の刊行だ。
 本書の刊行過程も映画のワン・シーンに取り上げられる予定で、殊に製本段階では、これまであまり取り上げられなかった「一冊の本ができあがる」工程が、装幀家の視点を通して紹介されると思われる。
 多くの書店の平台や棚で、必ず目にすることのできる「菊地本」ともいわれる著者装幀の書物の数々。その装幀の根底を支える著者のイメージの広がりは、わずかに書かれるエッセイによって、多く知ることができる。
 内容から造本まで、名エッセイ集として評価の高かった『樹の花にて』が刊行されたのが1993年。それから20年以上の歳月を経て、久方ぶりに著者が世に問うたのが本書である。直接装幀とは無縁な日常の発見の数々が、読者を書物という知的世界への興味をかきたてる。
 この20数年を経て、著者の感性がますます研ぎ澄まされていることに、読者は驚くだろう。

感想・レビュー・書評

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  •  作家の古井由吉さんが亡くなってしまった。彼の本の装幀者として、その後半生の作品について、多分、すべての本の装幀を手掛けた菊地さんが、今、どのようなお気持ちでいらっしゃるのか、傷ましい限りなのだが、偶然「つつんでひらいて」というドキュメンタリー観て、この本を読んでいるところだった。
     この本の中で、菊地さんは一度だけ古井さんについて語っている。彼が、古井さんの本の装幀を続けたのが、なぜなのか、納得がいくエッセイだった。
     そのあたりについてはブログに書いたので、読んでいただきたい。
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202002290000/

  • 装幀家として氏の名前は目にしていた。文章は初めて。
    ”余白”という涼やかさがよい。
     
    「よりそい、作品の内から本という形に不可欠な文字の姿や材質、色や図像を読み取り、本という物へ構築するのが装幀者の仕事。」

     おそらく多くの文章に触れて来たからだろう、氏の文章にも端正な装幀のように整った美しさがあるなと感じた。装幀のことが多いのかと思ったけど、古道具の趣味のこと、お気に入りの料理屋や宿のこと、日常の出来事が流れるような文章で綴られている。エッセイは、こうした文章の美しさと、感性の豊かさが読み取れるものがよい。

     街を歩いていて、花の蕾を見て、

    「ひらこうとする力と、ちぢこまろうとする力が拮抗しながら、それでも少し少し、大きくなっていく、健気な蕾が愛おしい。」

     ありふれた擬人化とはいえ、“健気”と感じる感性がいいなと思うところ。人、そのものに向けた視線も優しい。

    「人はだれも、心に小さな穴があいていて「私」をこぼして生きている。が、当の本人は気付くこともない。そんな「私」に心引かれ、手をさしのべあうどうしが、友達になるのか。」

     著者と父親との関係を語った「厄介な」という章が良かった。家族に、息子にさえ厄介をかけることなく早くに逝った父親というのが、自分の父親のこととも重なる。齢を重ねるにつれ、父親と同じように、その不器用さから、なにかと口をつぐんでしまう自分の性分に気づき、

    「この厄介な性分こそ、あなたが、息子にかけた、たった一度の厄介なのかもしれません。」

     と、父親の内心とシンクロする。その感覚がものすごく分かる。
     あるいは、電車の車内で「まだ、そんなこといってるの」と子を叱る母親の声を耳にして、

    「まだ、の一語に心震えた。どんな内実にせよ、まだと発する側への恐れと憎しみを感じてきた。」

     という一文も、自分の感性と合うところで、非常に印象に残った。

     そんななにげない日常の小さな発見を実に丁寧に拾い上げている。ゆっくりゆっくり読んでいたい珠玉のエッセイ。

  • 装丁についての本かと思って読み始めたら、装幀家さんのエッセイだった。
    日常の一コマが、色気のある文章で丁寧に表現されて引き込まれる。読み進めるうちに心が安らいできて、感情を波立たせない本を最近読んでいなかったことに気づいた。

  • 志ん朝さんの小気味の良い高座を聴いているような、
    さっぱりしているのに、じんわりと応えてくる
    読み応えのあるエッセイ集

    「モノ」の描写が微に入り細に渡り
    それはそれは愛おしく綴られておられる
    どこかで、こんな感じを持ったなぁ…
    そうでした柳宗悦さんのアレでした

    まだ梅雨には少し間のある
    五月の気持ちの良い風に吹かれながら
    読ませてもらった一冊です

  • 詩にちかいような、エッセイ集。
    人よりも「物」が好きな装幀家、菊池信義の佇まいが感じられるような文章の数々。

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著者プロフィール

菊地信義(1943・10・19~2022・3・28)
装幀者。東京・神田生まれ。65年、多摩美術大学デザイン科中退。69年、広告代理店入社。72年、広告制作会社入社。77年、装幀者として独立。84年、第22回藤村記念歴程賞受賞。88年、第19回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。装幀作品集に『菊地信義 装幀の本』(89年、リブロポート)、『装幀=菊地信義の本 1988~1996』(97年、講談社)、『菊地信義の装幀 1997~2013』(2014年、集英社)がある。


「2022年 『装幀百花  菊地信義のデザイン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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