魔法の夜

制作 : 柴田 元幸 
  • 白水社
3.57
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  • (4)
  • (1)
本棚登録 : 271
レビュー : 21
  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560092415

作品紹介・あらすじ

月の光でお読みください。
 夏の夜更け、アメリカ東海岸の海辺の町、眠らずに過ごす、さまざまな境遇の男女がいる。
 何を求めているかもわからず、落ち着かない14歳の少女、ひとつの小説を長年書きつづけている39歳の男、その男を優しく見守る60代の女性、マネキン人形を恋い慕うロマンチストの酔っ払い、仮面を着けて家屋に忍び込む少女たちの一団……ほぼ満月の光に照らされ、町なかをさまよう人びとの軌跡が交叉し、屋根裏部屋の人形たちが目を覚ます……。
 ミルハウザーの9作目(1999年発表)にあたるこの中篇小説は、格好の「ミルハウザー入門」といえるだろう。短い章を数多く積み重ねながら、多様な人間模様と情景を緻密に描写することによって、「小宇宙」全体の空気を浮かび上がらせる手法は、作家の得意とするところ。まさに作家の神髄が凝縮された作品で、余韻は深く、心に重く響く。
 ミルハウザー初心者の読者には好適であるとともに、熱心なミルハウザー愛好者にも堪能していただける傑作中篇だ。
 「訳者あとがき」に柴田元幸氏による「注」を付した。カバー装画は画家の牛尾篤氏。

感想・レビュー・書評

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  • 本を開くと、静かで賑やかな南コネチカットの夜へ遊びにいける。
    何者かが目覚める時間に聞き耳を立ててみる。
    呼んでいるのは原初の海で寄せては返す波の音。誘っているのは太古の森の奥から響く笛の音。夜の声が月の讃歌を歌い上げて。
    青と緑の色ガラスの破片を散らしたみたいな闇の中に満ちる音楽は、揺れ動く月光と共鳴しているから、心は絶えず浮き立ちっぱなし。夏の夜気をまとって地面を一蹴りしたら、ふわりと月まで飛んでいけそう。
    ミルハウザーの言葉が魔法そのもの。本を閉じても解けない魔法の欠片を、今夜の夢にふりかけて眠りたい。

  • 5/28 読了。
    八月も終わりに近づいた日の深夜、コネチカットのとある町で、月明かりの下、人や人ならざるものが蠢きだす。胸のざわめきを抑えられずに家を飛び出した少女、ひとつの小説を書き続けている中年男とそれを見守る老女、夜な夜な他所の家に押し入るアイパッチをつけた少女たちの軍団、庭で逢引するカップル、動き出したショーウィンドウのマネキンと、屋根裏に打ち捨てられたぬいぐるみたち。月光に包まれた魔法の一夜、それぞれの彷徨は一瞬交差してはまた離れていく。ミルハウザーらしい詩情に溢れたマジカルな中篇小説。

    断章の積み重ねによって群像劇を描きだす構成で、全体が散文詩のよう。「夜の声たちのコーラス」や虫の鳴き声の章などは、そのまま切り取っても詩として成立しそうな音楽的な響きを持っており、ミルハウザーのリリカルな部分を凝縮したような小説になっている。また、足穂の『一千一秒物語』に入っていても違和感のない月にまつわる会話の章もある。『エドウィン・マルハウス』の作中作「まんが」に対しても思ったことだが、ミルハウザーの<夜の作家>としての資質や、アニメーション及び黎明期の映画に対するノスタルジーの部分が足穂と共通しているために、ときどきハッとするほど似通うところが出てくるのだろう。
    人びとの営みと、それをぎごちなくトレースするマネキンやぬいぐるみたちの動きが交互に描かれるのは、「探偵ゲーム」(『バーナム博物館』収録)に近い手法だと思う。アイパッチの少女たちは「夜の姉妹団」(『ナイフ投げ師』収録)だ!などなど、過去のミルハウザー作品のトリビュート的な側面もある。このアイパッチ少女たちがとても魅力的で、家に押し入っては「私たちはあなた方の娘です」と書かれたメモを残していく謎の軍団なのだけども、コードネームがそれぞれ<夏の嵐>(サマー・ストーム)、<黒い星>(ブラック・スター)、<夜に乗る者>(ナイト・ライダー)、<紙人形>(ペーパー・ドール)、<追越車線>(ファスト・レーン)なのがいかにもアメリカの女子高生っぽく、且つセンス良い。ひと仕事終えて喉の渇いた少女たちと、少し頭のイカれた(moonyあるいはlunatic!)中年女性との、レモネードを通じたささやかな交流の場面が印象に残っている。

    短い話なのもあり、和訳が出る前に原書を読もうと思い立って半分くらいまで読んだのだが、結局読み終わらないうちに和訳が出てしまい、たまらず先に読んでしまったのだった…。そんなハンパな理解でしかないが、日本語と英語の違いを一番感じたのは本書の「月」に次ぐ頻出単語「緑」の音についてである。日本語の「緑(ミドリ)」という音はどちらかといえば昼の太陽光に照らされて濃くクッキリした色合いを思わせる。対して英語の「green」という間延びした音は、gloom(薄暗い)やgleam(かすかな光)という言葉を連想させ、夜の月光の下で内側からぼんやりと光るようなプラスチックな響きがあるのだ。特にgreenの畳み掛けによって呪文のような効果をなす一文は、日本語になると少し妖しさが減ってしまうような気がした。しかし、改めてミルハウザーの原文にあたったことで、柴田訳の的確さを知ることもできた。装飾的な文章で抑えるべきポイントや、映像的な言葉の選び方など、現代作家の中では柴田さんと一番相性がいいのはミルハウザーじゃなかろうか。

  • <夏>汝、夜を昼に変える。目も綾に眩しき女神。
    月夜のように優しく、不思議な物語たち。お気に入りはどれですか?

  • 「小説の魔術師」といっても良いくらい、幻惑的な世界を作り上げることにて定評があるスティーブン・ミルハウザーの中編作。翻訳はもちろん柴田元幸先生。

    「月の光でお読みください」と書かれた帯のコメント通り、真夏の夜を舞台に、家をそっと抜け出して街中を徘徊する少女、静かに動き出す人形たち、密かに動くマネキンの女性とその美しさに恋をする男、深夜に茶会を繰り広げる中年ニートと彼の同級生の母親の奇妙な邂逅・・・など、それぞれの登場人物が過ごす真夏の一夜の様子が幻惑的に描かれる。

    ふと、自分が最後に真夏の夜を徘徊したのがいつだったかを思い出し、そのちょっとした冒険をまたしたくなる気持ちになってくる。

  •  久しぶりに読むミルハウザー。
     僕の記憶に間違いがなければ、本作はほんの少しいつものミルハウザーとは毛色が違うように思う。
     いつも以上に詩的な表現が豊かなように思えたのだ。
     様々な登場人物が過ごす一晩の出来事を、そんな詩的表現をたっぷりと含んだ、登場人物毎の短いパラグラフを積み重ねることで物語が成立している。
     形式としてはリチャード・ブローティガンあたりを思い出すが、リチャードの作品にあるようなユーモアの代わりに、とても情緒豊かな世界が広がっている。
     ほんの少し毛色が違うとはいっても、読んでいくうちに「ああ、やっぱりミルハウザーだな」と思わせてくれる。
     いつものように詳細な状況説明があったり、情報過多になりそうな一歩手前の繰り返し(小物のリスト・アップといってもいいか)があったりする。
     そして読み始めると止まらなくなる……僕にとってこれがいつものミルハウザーなのだ。
     月夜に潜む「何か」というものを実際に体験、あるいは体感したことがある人であれば、この作品にとても共感出来ると思う(幸いにも僕もそんな体験、あるいは体感した人間の一人)。
     月夜には嘘偽りなく「何か」が存在するし、本書を読めば間違いなく追体験することが出来る。
     それどころか、月夜が明け、朝を迎えなければいけない際の切ない諦観や、一晩の貴重な体験への甘味な追憶の肌触りまでも感じることが出来る。
     僕にとって本書はまさにそんな作品だった。
     唯一、「クープ」と書かれるところを「コープ」と書かれていた箇所があったのが残念。
     まぁ、大勢に影響は全くないけれど。

  • 魔法とは何か。
    いろんな魔法が発動していたのだろう。いろんな意味の魔法が。
    ただ、1回読んだだけでは、その絡みを見逃しているような気がする。今の私の認識だと、柱と柱が上手く絡んでない。
    そういうものなのか、絡んでいるところを見逃しているのかよくわからない。

  • ミルハウザーのマジカルな言語センスで綴られるまさに「魔法のよう」な神秘の夜。眠らない夏の一夜が、幻想的な映像のように色や音や姿を持って浮かび上がる。南の国の海辺で経験した煌々と明るい月夜を思い出しつつ、久しぶりに「ミルハウザー節」を楽しんだ。
    しかし出版は1999年。後書きで柴田さんは「未訳のものは今後毎年1冊出す」オースターやミルハウザーや、色々積みあがって柴田さん大変そうだな。楽しみなような、ミルハウザーで驚いたのは今は昔、柴田さんには新しい作家を紹介して欲しいような。

  • 月夜にささやく息づかいにつつまれながら、たゆたゆと流されていく心地よさに沈んでいく
    Enchanted Night  訳:柴田元幸

  • 物語として起承転結があるわけではないが、月夜感はよく伝わってくる。
    月夜に数枚の絵があって、それぞれに物語を当て嵌めているイメージでした。

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著者プロフィール

1943年、ニューヨーク生まれ。アメリカの作家。1972年『エドウィン・マルハウス』でデビュー。『マーティン・ドレスラーの夢』で1996年ピュリツァー賞を受賞。邦訳に『イン・ザ・ペニー・アーケード』『バーナム博物館』『三つの小さな王国』『ナイフ投げ師』(1998年、表題作でO・ヘンリー賞を受賞)、『ある夢想者の肖像』、『魔法の夜』、『十三の物語』がある。(以上、柴田元幸訳、白水社刊)ほかにFrom the Realm of Morpheus 、We Others: New and Selected Stories(2012年、優れた短篇集に与えられる「ストーリー・プライズ」を受賞)、Voices in the Night がある。

「2019年 『私たち異者は』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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