売女の人殺し (ボラーニョ・コレクション)

  • 白水社
4.09
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本棚登録 : 173
感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560092620

感想・レビュー・書評

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  • よかった。とてもよかった。ボラーニョの短編を読んでいて思い浮かべるのは、夕陽を浴びて輝く、平らに広がるさざ波で、そのキラキラでポルノ、ネクロフィリア、同性愛といったモチーフも穏やかに包まれてしまう。それは美しいとしか、やっぱり他に言いようがない。余韻が素晴らしい短編もいくつかあり、うん、本当によかった。

  • 「悪人がよく言うでしょ、お前に個人的な恨みはないんだぜって、マックス。もちろんこの言い方にはいくらかの真実といくらかの嘘がある。何だって個人的なことなのよ。」

    シュールレアリスムの作品を読んだような感覚

  • チリ生まれでクーデターに遭遇するなどメキシコやヨーロッパを放浪した作家。今回初読。特に面白かったものに○。
    「目玉のシルバ」○ 中南米からヨーロッパを転々とする主人公は同じく転々としている旧友シルバと偶然再会する。残酷な世界の現実がふいに目の前に表出する怖ろしい話。
    「ゴメス・パラシオ」 仕事で出会ったメキシコの国立芸術院の女性所長との交流。さりげないが後を引く。
    「この世で最後の夕暮れ」○ 語り手<B>と元ボクシング王者の父親のエピソード。実際作者の父はボクシング王者だったらしい。
    「一九七八年の日々」○ 語り手<B>とヨーロッパ在住の亡命チリ人たちの一筋縄ではいかない心理が描かれる。胸に重い物が残る。
    「フランス、ベルギー放浪」 <B>は女ともだちのいるブリュッセルに向かう。女ともだちは<B>に対し受容的な態度といえそうなのだが、訪ねて行った癖に建設的な関係を築けず彼女を意識しながら娼婦を買ったりしている所がなんとも(笑)
    「ラロ・クーラの予見」○ 母乳と妊婦フェチのポルノ映画のスター女優であった母親の相手役だった男を訪ねる主人公。とんでもない話だなー。映画「ブギーナイツ」を思わせ、珍妙な滑稽さと対極の死の影や侘しさが漂う。
    「売女の人殺し」 TVで見た男に一目ぼれしたストーカー女が掴まえてバイクで連れ去る。交互に語り手が変わる実験的な要素のある作品。
    「帰還」○ 死んでしまった主人公が目にしたものは。これまた侘しさが味わい深い。
    「プーバ」○ どん底のバルセロナに加入したのは無名のアフリカ人MF。かなり独特なボラーニョ作品だがこれはとっつきやすい面白さがあるのでは。
    「歯医者」○ 旧友の歯医者が患者を死なせパニックになっているところを慰めに行く主人公。何だがいつの間にか芸術や文学の話になるという不思議で幻想的な描写が美しい一篇。
    「写真」 フランス語圏の詩人の名が次から次へと現れその写真への印象や妄想が広がっていくところがユニーク。
    「ダンスカード」 詩人ネルーダに対する思いが断章形式というか詩の様に短い文章で表わされるこれまた実験的な作品。
    「エンリケ・リンとの邂逅」 これまた文学者についての小説だが、文通をしていたものの実際に会うことは無かったという詩人エンリケ・リンに夢で会う話で、もちろんあくまでも非日常の世界である。

     クーデターを経験し亡命チリ人たちと国外で交流したという大きな体験や元ボクサーだった父親を持っていたり自伝的な小説も多いが、芸術や詩そして創作する人々についても重要なテーマであり、またいかに表現するかという実験的な手法への関心の高さもあり、さらには幻想的非日常的な描写も好んで取り入れられるなど多面的な作家であり、実際本書でも作品はかなりバラエティに富んでいる。解説では<死者><見ること>といったボラーニョの特徴が挙げられ大いに参考になったが、他に<意識下の世界>が広がり現実を浸食していく様なところも個人的には感じられた(「歯医者」などの風景描写などに)。
     しかし何より詩人でもあるボラーニョの言葉は鋭く読む者に切り込んでくる感じがあり、描写が鮮烈で視覚的イメージが強く印象づけられる。それが大きな魅力である。

  • 初ボラーニョ。なんというか、個人の意志ではどうにもならない、その状況を体験しているしかない感じがどうにも現代っぽく現実っぽく、お腹が冷やっとする本だった。お腹の冷えでなければ偏頭痛か歯痛か、常に感じ続ける違和感。そういうのは本の外で散々味わっているので、わざわざ読んでしまったなあという気がしなくもない。

    マッチョな父さんとの旅の「この世で最後の夕暮れ」、お尻が無事でよかった「帰還」、地味な友情が伝わる「ブーバ」が心に残った。

  • 初ボラーニョで最初の方の短篇はなかなかつかみにくかった。ビートニク系の作家かと勘違いしそうだった。しかし「売女の人殺し」のぎりぎりに締め上げた緊張感「帰還」の限りない優しさ「ブーパ」の中にもラテンアメリカとボラーニョの反骨に触れ強烈な個性を感じた。特に注目して読むのは「ラロ・クーロの予見」であろう。初読はここまて性を解体し商品化して淡々と描かれては何を感じたらいいかつかめなかった。他の作品に触れた後また読む事で分かった気がする。1番好きなのは「エンリケ・リンとの邂逅」ハラの話も楽しいし生も死も狂気も壁はなく等しいボラーニョの世界が絶妙だった。

  • 2020/1/28購入

  • ぜんぶおもしろかったが、「目玉のシルバ」「帰還」「ブーバ」「ラロ・クーラの予見」が印象に残る。「野生の探偵たち」は、前半さっぱりノレなかったけど再読したらもっと面白く読める気がしてきたw

  • 全集がでてからずっと気になっていたボラーニョをやっと初読。

    薄闇の路地の向こうに何か恐ろしいものがあるような読後感の短篇13本。

    父との思い出「この世で最後の夕暮れ」、
    魔術的フットボールのお話「ブーバ」、
    死姦の世界「帰還」。
    そしていかにもラテンアメリカな「目玉のシルバ」と「歯医者」。

    性に暴力や貧困、奇怪の香り。
    これがボラーニョかあ。

  • 馴染みの薄いラテンアメリカ文学だけど、著者の自伝的な話では、詩的で簡潔な文章に引き込まれてしまった。
    他にも、危ない狂気に満ちた話や幻想的な話、文学的な話もあり、面白い。

    「歯医者」より
    死が確かな事実だとしても生きるのをやめたりはしないのと同じで、本に結末があるとしても僕たちが読書をやめることは決してない。

  • 「2666」読了後の勢いに乗って読んだが、この作家の短篇は結構手強い。かなりの精読を強いられる。語られている裏側を自分なりに想像して読み解く作業が必要だ。まあ、その作業こそがボラーニョを読む楽しみなのだけれど。
    既訳の長編と関係のある作品も複数あり、楽しみ方は色々。ボラーニョ・コレクションの続刊に期待大。

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著者プロフィール

1953年、チリのサンティアゴに生まれる。1968年、一家でメキシコに移住。1973年、チリに一時帰国し、ピノチェトによる軍事クーデターに遭遇したとされる。翌74年、メキシコへ戻る。その後、エルサルバドル、フランス、スペインなどを放浪。77年以降、およそ四半世紀にわたってスペインに居を定める。1984年に小説家としてデビュー。1997年に刊行された第一短篇集『通話』でサンティアゴ市文学賞を受賞。1996年、『アメリカ大陸のナチ文学』を刊行。1997年に刊行された第一短篇集『通話』でサンティアゴ市文学賞を受賞。その後、長篇『野生の探偵たち』、短篇集『売女の人殺し』(いずれも白水社刊)など、精力的に作品を発表するが、2003年、50歳の若さで死去。2004年、遺作『2666』が刊行され、バルセロナ市賞、サランボー賞などを受賞。ボラーニョ文学の集大成として高い評価を受け、10 以上の言語に翻訳された。本書は2000年に刊行された後期の中篇小説である。

「2017年 『チリ夜想曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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