楽園 (グルナ・コレクション)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560094624

作品紹介・あらすじ

舞台は20世紀初頭、現在のタンザニアの架空の町。主人公ユスフの12歳から18歳までの成長の過程が辿られ、東アフリカ沿岸地域の歴史的な大転換期が、少年の目から語られる。
宿を経営するユスフの父親は借金に行き詰まり、裕福な商人アズィズに借金の形に息子を差し出す。ユスフは使用人(奴隷)として働き、内陸への隊商で莫大な富を得ているアズィズの旅に加わる。
互いに争うアラブ人、インド人、アフリカ人、ヨーロッパ人のいくつもの勢力を目撃し、さまざまな経験を積んだユスフは次第に自らの隷属状態について疑問を抱きはじめる……。
作家は1948年ザンジバル(現在のタンザニア)生まれ。革命の混乱を受けて67年にイギリスに渡る。ケント大学で博士号を取得。ポストコロニアル文学を教えながら執筆活動を続け、現在、同大学名誉教授。これまでに長篇10作を発表し、1994年に刊行した4作目となる本書『楽園』はブッカー賞およびウィットブレッド賞の最終候補となる。2021年にノーベル文学賞を受賞する。
巻末に「ノーベル文学賞受賞記念講演」を収録。

感想・レビュー・書評

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  • ザンジバル(現タンザニア)生まれの作家による作品。舞台は20世紀初頭のドイツ領東アフリカ。父親の借金の形に、大商人に渡された10代の美少年。隊商のアフリカ内部へ旅で様々な経験をする。アフリカの地理、人種、宗教、当時の世界情勢の知識が皆無だったので、前半は読むのに苦労したが、キャラバンが始まって(100ページ以降)物語を楽しめた。読了感は不思議な感じ。ノーベル文学賞(2021)
    初めてのアフリカ文学です。読みづらいことを予想していたので、読了できてホッとしています。本編に入る前に解説を読むことをお勧めします。

  • 父親が宿屋を営んでいる12歳の少年ユスフは、たまに立ち寄るアズィズおじさんからお小遣いをもらうことを楽しみにしていた。ある時父親に言われる。「お前はアズィズおじさんと一緒に旅行に出かけるんだぞ」
    アズィズの屋敷に付きユスフは知る。アズィズは親戚のおじさんではなく成功した商人だ。ユスフの父親はアズィズに借りた借金を返せなくなったのだのでユスフは借金の方に差し出されたのだ。
    ユスフは、同じくアズィズの元で丁稚奉公している青年ハリルの元で店番をすることになった。ユスフはときどきハリルに張っ倒されながらも店の遣り繰りを学んでゆく。お客を喜ばせること、穀物や油の扱い方、金の勘定方、アラビア語。客の中でも年取った女のマ・アジュザは、ユスフを「私のご主人」といって追いかけ回してくる。
    ユスフはハリルにアズィズの美しい庭を見せられる。壁に囲われた庭の奥のお屋敷にはアズィズの気の狂った妻がいるらしい。ハリルからはは「屋敷と庭には必要以上に近づくな」と警告されるが、すっかり庭が気に入ったユスフは、老庭師ハムダニの見様見真似で庭の整備の手伝いをする。


     読書会課題本だったので、予備知識無しで読み始めてみました。自分にはこの物語の国や社会状況が読み取れるかな、と思いまして。
     文章に出てきたキーワードは、鉄道は珍しく利用者はヨーロッパの人々や資産家、ヨーロッパの人は少なくなかでもドイツ人が支配階級、黒人は差別される?インド人の移住者が多い、ユスフはイスラム教?でスワヒリ語を話す。ハリルはアラビア語。題名が『楽園』というからには、場面は楽園ではないのだろう。
     …うーん、わからん(-_-;)。そこで一章を読んだところであとがき解説「舞台と歴史文脈」に目を通しました。
     舞台は20世紀初頭のドイツ領東アフリカ。ここはのちにタンガニーカとなり、現在のタンザニア連合共和国の大陸部を指す(タンザニアは、タンガニーカとザンジバルの連邦国家で、タンガニーカはそのうちの大陸部、ザンジバルは島嶼部を指す。ザンジバルは作者グルナの出身地)。なお検索したら「コンゴのタンガニーカ州」も出てきたんだけど…関係ある??

     もう一つ脱線で。
     ポットキャスト「翻訳文学試食会」で、タンザニア作家ケジラハビの『バレンズィ』について話していました。タンザニアがスワヒリ語がどの地域で話されているかを教えてくれます。『楽園』のグルナは英語、ポットキャストのケジラハビはスワヒリ語です。
    https://open.spotify.com/episode/7y7yITek2Ev8C7PxkcS55K


     では『楽園』に戻ります。

    ※※※以下、ラストまでのネタバレ含んでます※※※

    ユスフはアズィズが率いる内陸への隊商に加わることになった。
    この隊商は、自己資産が無い者はインド人の金貸し(ムッキ)から資金を借りて組まなければならない。アズィズは資産があるので自力で隊商が組めるということ。隊商には、荷担ぎや護衛を取りまとめたり、利益の分配率を決める隊長(ムニャパラ)が必要だ。アズィズが雇うのはいつも「悪魔の」と呼ばれるモハメド・アブダラだ。隊商は内陸地の部族や町を回って売買を行う。
    一行は列車に乗り山間の村に着く。そこでユスフはアズィズが金を貸している商売人ハミドの店に預けられる。
     このあたりからユスフがとても「きれいな顔」だということがちょこちょこと出てくる。後にわかるのだが、アズィズは自分の気の狂った妻がユスフを目に留めて厄介なことになる前にユスフを連れ出したかったようだ。

    ハミドには友人で商売仲間で渾名がカラシンガというインド人と知り合う。このカラシンガはシク教徒で、そもそも「カラシンガ」とはインド人シク教徒男性を示す名称らしい。ハミド一家は東アフリカ大陸のイスラム教徒。
     
     このあたりの宗教や言語がよくわかなかった。アズィズやハミド一家はスワヒリ語とアラビア話せる?カラシンガはスワヒリ語もアラビア語もよくわからないというのだが、一体何語で話しているんだ。
     それを読書会で聞いたので…。
     ⇒ユスフはイスラム教徒。アラビア語はわからないので学校で学んでいた。真面目なイスラムは聖典をアラビア文字で読むため学校で学ぶ(ここまでは小説にも書かれている)。でもアラビア語がわからなくてもイスラム教徒になりコーランを「預言者の言葉」として受け取っているイスラム教徒もいるよ。

    そしてこのカラシンガはコーランをスワヒリ語に翻訳して(アラビア語原著⇒英語訳されたもの⇒スワヒリ語への経由らしい)、コーランの出鱈目さ、不寛容さを「あんたら頭の鈍い原住民」にわからせてやる、という。
     ハミドもアズィズの馬鹿なことを考えるなと頭おかしい扱いしてますけど、熱心なイスラム教徒にとって「コーランはアラビア語のみが正本であり、他の言語では意義を持たない」といって、他の言語への翻訳禁止ですよね。かなり身の危険な発言なんじゃなかろうか、そこまで厳しくなかったのかな。

    ユスフがほとんどコーランを唱えられない。学校に通っている途中でアズィズに取られたのだ。ハミドと妻のアルミナはユスフをコーランの学校に通わせる。すっかりハミド一家に馴染んだユスフだが、アズィズの隊商が戻ってきた時には次の商売の旅に同行することになった。どうやらハミドは、ユスフが自分の娘(ユスフ16歳くらい、娘12歳くらい)と怪しい関係になることを警戒したようだ。

    物語のあちらこちらで、ヨーロッパの人間がこのあたりの(漠然とアフリカ大陸全般?)人間をさらって奴隷として売買しているという噂が語られる。この頃の情勢は、現地の人が噂として捉える漠然とした不安として小説に流れてゆく。

    アズィズの隊商のモハメド・アブダラが怪我で勢いが無くなっていた。そこで新たな監視役のシンバ・ムウェネ(ライオンのムウェネ)が雇われていた。
    ユスフを加えた隊商の旅が語られる。大きな町での取引、種族を巡ったときのスルタンとのトラブル。失われる荷物に隊員の命。
    地域のスルタンたちは、ヨーロッパの人間が自分たちを奴隷にしようとしているとして旅の者たちを信用しなくなっているのだ。それより以前はこの地域に来たアラブ人達が小さな区域ごとを支配していた。
    修羅場を超えてきたアズィズやモハメド・アブダラにも陰りが見える。だが「荷物全てを置いていかないと荷物の保証はしない」というスルタンの申し出は断り部族の近くにキャンプを張る。商品は全財産も同じ。全部売ってやっと利益が得る。引き下がるわけには行かなかった。
    アズィズはドイツ兵にスルタンとの仲裁を頼み、一行はなんとか帰路につくことになった。

     読書会では「スルタンに捕まってから小説の雰囲気が変わった。スルタン以前はヨーロッパに蹂躙される前の交渉やしきたりが通っていた東アフリカで、スルタン以後がヨーロッパの力が強くなる東アフリカ」という意見が出た。なるほど。

    アズィズの屋敷に帰ったユスフは、ハリルや店の客たちから逞しくなったと歓迎される。そして以前にもまして塀に囲まれた美しい庭に惹かれるようになる。ハリルは「気の狂った奥様の目に触れると厄介なことになるから庭には近づくな」と繰り返し警告するが、ユスフを止めることはできない。そしてユスフはハリルの妹アミナがアズィズの妻になっていることを知る。
     ※読書会にて。イスラムでは妻四人まで。でもアフリカは元々一夫多妻なので、キリスト教徒でも妻が複数いるアフリカ人もいるよ。(イスラム教徒「イスラムは一夫多妻でしょ」。クリスチャン「アフリカの伝統で一夫多妻なんだよ」、で、都合よく一夫多妻^_^;)

    そしてアズィズの気の狂った正妻から声がかかる。アズィズの正妻はユスフを神の使いのように感じ、ユスフが自分に触れ、祈ってくれれば自分の病が治ると信じたのだ。屋敷に入ったユスフは、ハリルの妹のアミナに惹かれてゆく。
     …ハリルが、ユスフが正妻の前に出ることをとても止めたのは、気の狂った者の呪いのようなものなのか?それとも「レイプなどと訴えられたらどうするんだ」という現実的な心配だろうか?

    まあ結局変な噂がアズィズの耳に入ってしまう。そしてユスフは自分には帰る場所がなくなったこと、ずっとアズィズをご主人として仕えるしかなくなったことを知る。かつて老庭師ハムダニは昔奴隷だったがアズィズから「与えられる」自由を拒否してここに留まっているのだと聞いた。では自分の自由とは?

    小説の終わりは唐突だ。
    町を捕虜を連れたドイツ軍が通る。人々の噂ではイギリスとドイツの戦争が近いという。
    ユスフは、皆の目が向いていない隙をみてアズィズの庭を抜け出し、ドイツ軍の行方を追いかけるのだった。

     …このラスト場面で疑問が(-_-;) ドイツ兵の連れた捕虜ってどこの捕虜?ユスフはアズィズから逃げることを選んだってこと?これも読書会で聞いた。
    ⇒ドイツ軍が、現地の人々を捕虜にしている。ドイツの兵士または雑用係として連れて行く途中。ユスフはおそらくアズィズの隷属からドイツ軍に入った?と読み取れる? これを自分の意志で掴み取った自由なのかどうなのかは読者次第。

    ユスフの移動は、生まれた小さな町から、アズィズの大きな町に行き、山間の村に旅して、さらに内陸部を周った。その地域地域ではアラブ人やヨーロッパの国々がやってきては支配していった。その時時で奴隷売買が行われていた。
    そんな、自分の土地が自分のものではないところに生まれたユスフは、自分の奴隷状態から逃げ出そうとする。だがこれからヨーロッパの戦争にアフリカ全土が巻き込まれ、さらに土地に線を引かれるなら行先々でも安定はないだろう。
    ユスフの行く先は見えない。(「下人の行方は誰も知らない」みたいな)
    ⇒読書会で聞いたんですが、同じ作者の『アフターライブス』という小説が、この『楽園』の続編に位置すると読めるんだって!

    印象的だった「自由」について。
    ユスフの「自由」
    <見捨てられたときの光景が次々と脳裏に蘇る。ひとつひとつの場面を思い起こすと、無気力な生き方を責められている気になる。来る日も来る日もその日の出来事に流されていき、瓦礫から顔を出して近くばかりを見つめ、先に待ち受けているものを無駄に知ろうとするよりも無知でいることを選んだ。どうすればこんな人生に縛られている状態から自由になれるのか、なにも考えつかない。P193>

    老庭師ハムダニの「自由」
    <贈り物として自由を与えられた。あの人(※アズィズのこと)がそうした。でもあの人が自由を与えられるなんて誰が言ったんだ。お前の言う自由がどういうものかはわかっている。俺には生まれたときからその自由がある。(…中略…)次の朝、否が応でも太陽が登る。自由も同じだ、連中は閉じ込めて、鎖に繋いで、ささやかな望みを踏みにじることはできる、だが自由は奪えるものじゃない。生まれた日と同じで、縁が切れるときにも、連中は人を所有しているわけじゃない。わかったか?この庭は俺に任された仕事だ。あそこにいるあの人がこれより自由なものを与えられるか?P248>


    ❐読書会
    ・美しい少年との繰り返されているが、風貌がわからない。民族が入り混じっていること、性的に男女から持てまくるのはなぜ。⇒ユスフの旅が巡礼のようで、生きている美しさかな。悲惨な世界であっても人とは美しいということ。⇒スワヒリ社会は色々混じっている。
    ⇒美しいと言われるユスフだが外見の描写がない。想像に任せているのか。
    ・多言語、他宗教社会の豊かで複雑な文化
    ・深刻でもお互い軽口叩きまくり、おちょくりまくり。しかし交渉など冷静なところもある。
    ・アズィズは芯が強く優しい面もあるが、どことなく薄気味悪さがある。
    ・冒頭がよい。<まずは少年。名はユスフ。P7> 聖書の「光あれ」みたい。
    ・ユスフの知る事だけ書かれているので、ユスフの情況もなかなかわからないし、世界情勢(第一次世界大戦直前)もわからない。未来も見えない。そこへ、最後の一場面(ユスフが駆け出す)でユスフの知らないことが晒される。
    ・アズィズの庭はユスフにとっての楽園だったが最後には牢獄になった。小説では他にも「そうだったと思ったものが、実は違った」ということが多い。
    ・神を信じないのは野蛮人という観念。
    ・現れるヨーロッパ人が、人格を感じず異物のようだ。上から命令を下す、見かけも異様。伝説として「あいつら鉄を食べるんだ」とか。
    ・現地の人々の中でも階層がある。そこにヨーロッパからさらに侵略される。
    ・隷属と自由。ユスフの成長物語。子供の頃から振り回されていたユスフが意思を持つ。だがアズィズから逃げ切れないというリアルさ。
    ・最初に出てくる物乞いモハメドに対して「もしかしたら聖人が物乞いに姿をやつすこともあるんだよ」という宗教観。
    ・現地の人を野蛮人扱いする人もいるし、その現地の人と同じ言語で話す人もいる。
    ・ハリルに同情してしまう…。ユスフは自力で立てるかもしれないが、ハリルは隷属されるしかないよね。
    ・ラストのユスフがドイツ軍に向かって走り出したのは、伝統のアフリカからヨーロッパ社会に染まる東アフリカの象徴。未来に向かって駆け出すこともできるユスフ。伝統から離れられないハリル。

    ❐翻訳者さんより
    ・アフリカ作家は自分たちの社会に向き合っている。すると必然的に文学作品の中に「仕掛け」が入る。そのためそれを知らない部外者が近づけない部分はある。だがこの本は事前知識がなくても楽しめると思う。キャラバンの冒険物語でもあるし。
    ・この本は、他にも旧約聖書やコーランの物語、スワヒリ語の旅行記での記述が下敷きになっている。
    ・第一次世界大戦はヨーロッパ同士の印象があるが、アフリカ大陸での戦いが熾烈だった。その前夜史が現地の歴史に現れない市井の目で書かれている。大きな歴史を小さな視点から書き出す。人々の視点から社会を書き出す。
    ・グルナは「海は人々と繋ぐもの、分断するものではない」として、インド洋を介した人々の交流、歴史の世界を描く。
    ・作者グルナは、作家から慕われる作家。他のアフリカ作家からアドバイスを求められるような作家。
    ・グルナの小説には、秘密を巡る物語、大切な場所を出たり大切な人をおいていったり捨てられる痛み(自分の経験を踏まえて)を書く。

    • nanaoさん
      淳水堂さん、こんにちは。
      この本、私も読んだのですが、全然読み取れていなかったので、レビュー、大変勉強になりました。ありがとうございます。
      ...
      淳水堂さん、こんにちは。
      この本、私も読んだのですが、全然読み取れていなかったので、レビュー、大変勉強になりました。ありがとうございます。

      ラストのユスフが走り出すところは、「伝統のアフリカからヨーロッパ社会に染まる東アフリカの象徴」ということなのか!とハッとしました。
      『アフターライブス』も翻訳されたら読みたいです。
      2024/03/29
    • 淳水堂さん
      naomaoさん
      みなさんのレビューも読んでおります!
      私も読書会がなければわからなかったことがいっぱいです。「ラストでドイツ兵が連れて...
      naomaoさん
      みなさんのレビューも読んでおります!
      私も読書会がなければわからなかったことがいっぱいです。「ラストでドイツ兵が連れてた捕虜ってどこの国の人なんでしょうか…」なんて質問しちゃいましたから(^_^;)
      「スルタン以前と以後で雰囲気違う」など、漠然と感じていたことを他の方の言葉で聞くと形化した感じがしますよね。
      『アフターライブス』は翻訳者の方が準備中のようですので出版を待ちましょう(^o^) 
      登場人物も違うので続編ではないのですが、ユスフのその後を連想させる人物がいたり、大戦下の東アフリカ情勢が語られるにそうです。
      翻訳者の方の「第一次世界大戦はヨーロッパ同士の戦争の印象があるが、アフリカ大陸での戦いが熾烈だった。」という言葉には、現在のアフリカ国境や動乱考えればまさにそうなんですよね。でもいままでアフリカから語るものが少なく(私が触れることが少なかった)、このような目線で語る作者が出て来てノーベル賞受賞は大きいなあと改めて思いました。
      2024/03/30
    • nanaoさん
      淳水堂さん、私のレビューにも、いいねくださってますよね。ありがとうございます。

      「スルタン以前と以後」という捉え方も、なるほど!と思いまし...
      淳水堂さん、私のレビューにも、いいねくださってますよね。ありがとうございます。

      「スルタン以前と以後」という捉え方も、なるほど!と思いました。私はよくわからなくて、、ユスフにとって、アズィズが絶対的な支配者ではないことをあらわしているのかなとか、ユスフの成長過程なのかなとか思っていました。(^^;)
      あらためて、読書会での意見をここで共有してくださって、ありがとうございます。
      知らないことばかりですが、今後も、小説を通して、知っていけたらと思います。
      2024/03/30
  • 背景がよくわからないまま読み終えたので、解説に助けられた。ザンジバル、東アフリカ沿岸地域について、あまりにも知らなすぎた。アフリカ、アラブ、インドの文化の混合、支配の推移。そして、ヨーロッパの支配。

    クルアーン(の預言者ユースフの物語)が下敷きになっているなんて全く想像もできなかった。
    グルナ・コレクションとして、今後も翻訳が予定されているそうなので、そちらも読みたい。

  • 「まずは少年。名はユスフ。」
    この1行目から物語への期待が高まる。
    ストーリーは簡単に言えばユスフの成長物語だけど、著者が植民地支配や迫害の跡に目が向けられる前のアフリカを描きたかったと言うように、複雑な要素を含むアフリカを知れる歴史認識本だと感じた。
    「楽園」はただアズィズおじさんの庭の意味だけではなく、作中に複数の人が自分の描く「楽園」について語る。
    ラストのユスフの選択には驚かされたが、庭師のムゼー・ハムダニの自由、カラシンガの信仰などの話の他、父と母がもういないと知ったことも大きかったのだと思う。
    ユスフは隷属状態に徐々に疑問を抱くようになっていたし、気付かぬうちにどん底に落ちている糞に群がる犬の姿を見た瞬間に何かがパチンと弾けたということだろう。
    だけど、ユスフの選択もまた隷属状態という意味では変わりはなく、「楽園」なんて存在するように思えない見えない未来を自分で手で人生を切り開くことがいかに困難か。
    ハリルが受けるであろう衝撃、アズィズおじさんの落胆、ユスフの絶望を予想して悲しく胸が痛くなる結末だった。
    奥行きが深くサクサクは読めない文章だけど、読み終えた後の満足度も大きい。

  • 2021年度ノーベル文学賞受賞作品。
    読後は不穏感で終わり、
    中々に解釈が多そうな作品という印象、、でしたが、
    後書き読めば、舞台は二十世紀初頭のドイツ領東アフリカであり、ドイツ帝国から支配されているという歴史的背景や、イスラム教の聖典を題材としている所もあり、もしかしたら伝えたい事はそんなに難しいことでは無いのかな…と思いました。
    作者自身、書くことに対して強い思いがあると書かれてあり、色んな経験されてます。
    私たちの日常では中々知る機会が多くない、理解することがもしかしたら大事なのかなとも思いました。
    歴史がとんでもなくポンコツ、、な私ですが、何とか情景描写や、登場人物の心情、場面はどんな事が起こってるのかを頼りに読めていけたので、(途中で挫折しかけたけど。。)、100%理解した!とは言いきれませんが、、
    今回初めて、グルナさんの作品に触れることが出来て良かったなと思います。

  • 著者はザンジバル(現在のタンザニア)出身。2021年ノーベル文学賞受賞作家である。
    長編はこれまでに10作発表しており、本作は4作目にあたる。
    2021年当時は、邦訳はなかったのだが、2024年1月刊行の本作を皮切りに「グルナ・コレクション」として何作が出版される予定だそうである。

    本作は著者の出身地、ザンジバルを舞台とする。第一次世界大戦前、東アフリカのこの地は、ドイツ領であった。独英間の戦争が迫っている時代で、イギリスの影が忍び寄っている。タンガニーカ湖の西側はベルギーに支配され、キリマンジャロ周辺にはマサイ人が済み、隊商の中継地となる町には、アラブ人・スワヒリ人の隊商、またヨーロッパ人探検家が訪れる。隊商の資本を提供していたのはインド人であり、つまりはこの地にはさまざまな背景を持つ多くの勢力がひしめいていた、ということになる。

    主人公ユスフは12歳の少年である。家は貧しく、暮らし向きは厳しい。
    ユスフは時々訪ねてきては小遣いをくれる「叔父さん」にどことなく惹かれている。
    だが、ある日突然、父親に「叔父さん」と一緒に旅に出るように言われる。実際のところ、「叔父さん」は親戚ではなく、父親が金を借りた相手であり、ユスフはある意味、借金のカタとされたのだった。
    ユスフは「叔父さん」に言われるがままに、彼の使用人として働き、やがて大商人である「叔父さん」に付いて、ザンジバル各地を旅することになる。その途上で出会う人々や出来事がユスフを成長させていく。そういう意味では一種の少年の旅物語・成長物語である。
    ただその背景には、時代の転換期である複雑なアフリカ世界がある。作品自体は英語で書かれている(著者は19歳でイギリスに渡り、学問を修めている)が、イスラムやアラブの伝承も織り交ぜられ、最も色濃いのは、コーランの第12章「ユースフ」の物語である。預言者で美しい容姿を持つユースフが、エジプト王の侍従長に売られる。その後、侍従長の妻に誘惑されるなどの困難があるが、最終的にはユースフは苦境を脱する。大枠ではユスフの経験に重なる部分が多いが、さて、ユースフならぬユスフには幸福が訪れるのかどうか。
    一方、ユスフらの旅のエピソードには、スワヒリ語で書かれた旅行記からの引用もある。
    少年の冒険物語であると同時に、激動の東アフリカ社会を描いており、また、アラブやスワヒリ、インド、ドイツなど、さまざまな文化が交錯する作品ともなっている。

    「楽園(Paradise)」とは、コーランではジャンナと呼ばれ「楽園/天国」を指し、「庭園」も意味するという。本作にも印象的な庭園が登場する。
    伝説や伝承の英雄物語のように、夢のように美しいパラダイスで、絵に描いたようなハッピーエンドが得られればよいのだが、どうやらユスフの行く末はそれほど薔薇色ではなさそうである。
    だがその不穏さが物語の豊かさの源のようでもあり、また(おそらくはかなりの困難を伴ったであろう)著者自身の来し方をどことなく匂わせるようでもある。

  • 苦戦したけれど読んでよかった。知らない世界の知らない関係性について書かれていた。苦戦の理由は、登場人物たちの顔立ちや身に着けているものが、なんとなくでも想像できなかったから。小説を読むとき情景を逐一映像にする癖があるのに頭に絵が浮かばないままだから、読むのに体力を使った。彫刻刀で板を削り続けるような気の使い方をした。

    8割がた進めたあたりから急に何を読んでいるのかわかったような気がして、小説を読む普段の楽しさが戻ってきた。それなのに訳者解説を読むと、本書を十全に読み取るための知識がまったく欠落していたことが改めて分かる。本書は未知の在り方を見せてくれただけでなく、わたしが見知っていることの偏りも突き付けてきた。聖書を読んだように、コーランを読まなくてはならないと思った。

    この本の中には、言葉も宗教も立場も考えも違う人たちが数多く出てくる。同じ人物がそのときの居場所によって尊敬されたり蔑まれたりするし、物語が進むにつれて見え方がまったく変わったりする。そのような流動性がありながらも、主人公が最後まで足枷を外せない予感がある。わかりやすい話に落とし込むな、このままならなさを忘れないでいよ、と言われている気がする。

  • 読了後、あえて読んでいる間は開かなかった地図を開いた。著者の出身地で舞台でもあるザンジバル(現タンザニア)はアフリカ大陸の東海岸。一方、近時活躍著しく「アフリカ出身の作家」と言われると個人的にすぐに思い浮かぶチママンダ・ンゴズィ・アディーチェの出身地ナイジェリアはスーダンやコンゴなどを挟んで遠く西海岸。その物理的な距離に、改めて「アフリカ」とまとめることの無意味さと自身の解像度の低さを突きつけられた。
    読んでいる間も、常に顕になるのが己の無知である。イスラム教徒が多いのか?アラブ系住民の立ち位置とは?地方の統治者としてスルタンが頻出するが旧イスラム帝国圏なのか?一方でインド系移民の存在感も強いが?
    基本的な歴史や文化をあまりわかっていないので、地域の文脈だったり、例えば登場人物がマイノリティなのかどうかもよく理解できない。しかし思えば、子供の頃は、ヨーロッパやアメリカ文学を読むときにも同じような戸惑いを感じ、出てくる一つ一つの行動や慣習の「文脈」を理解するまである程度時間はかかったことを覚えている。要は多く触れているかどうかがかなり重要だと思うので、これからも積極的に読んでいきたい。

  • 地図でタンザニアの位置を確認して目を開かされた。アラブ系とインド系の移民が多いはずだわ。

  • アフリカ文学を読むの流れで手に取った作品。この本の前に読んだアチェべの「崩れゆく絆」と似て、作者が自らのルーツである文化を再構築して描いた作品。
    まずは東アフリカの人種や文化の多様さに驚かされる。
    しかし、人物の外見や情景があまり具体的に描かれない(みんなから美しいと言われるユフス、しかしスワヒリ人の美しさとは?)ので、読んでいてイメージが湧きにくいという難点はある。
    それでもユフスと人々のやりとりが面白く、特にアズィズおじさんの隊商とともに様々な困難に遭いながら、先へと進んでいく様子は冒険譚のようでもあってワクワクした。

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