わたしはこうして執事になった

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  • Amazon.co.jp ・本 (369ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560095270

作品紹介・あらすじ

華麗なる時代の最後の輝きの日々
 登場するのは、『日の名残り』の主人公のモデルといわれる「クリヴデンのリー卿」ことアスター子爵家のエドウィン・リー、ニューヨークの英国大使館執事を務めた「執事の王子」チャールズ・ディーンら業界の名執事たちに、途中で他業界へ移ったひとりを加えた5人。
 彼らはみな、18世紀後半〜第二次大戦前のイギリスで、地方の労働者階級の家に生まれて10代前半から働きはじめ、それぞれ異なるキャリアをへて執事への道を歩む。執事になってからの、大邸宅の日常や豪華な大イベントを取り仕切る責任者としての、驚くような仕事内容と、責任にともなう孤独な立場。チャーチル首相や王家の人々との関わり。そして、20世紀社会の激変に翻弄されながら、華麗な貴族の時代の終わりを目の当たりにする哀しみ……。華やかなまま引退する者もいれば、悲運に見舞われた雇用主一家にあくまで忠義を尽くす者、〝旧時代の雇い主〟の要求と〝新時代の部下〟という現実の板ばさみになって苦しむ者など、その結末はさまざまだ。
 5人それぞれが一人称で語る人生の物語は、楽しい読み物であると同時に、20世紀イギリス史の貴重な記録である。

感想・レビュー・書評

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  • 先日読んで大変に面白かった
    「おだまり、ローズ-子爵夫人付きメイドの回想」
    の作者、ロジーナ・ハリソンがお屋敷奉公仲間に
    インタビューしたもの。

    「おだまり、ローズ」を読みながら
    図書館へ予約を入れたのが2月、
    やっと順番が回ってきました。

    それでもまぁまぁ予約が入っていても
    気長に待てば借りられるんだな、と思った。

    (今回はほかにも読みたい本が
    身近にたくさんあったので買わずに待っていられた)

    執事界のレジェンド、エドウィン・リーをはじめ、
    執事の王子 チャールズ・ディーン、など
    5人の男性のお屋敷や仕えたご主人の思い出や
    仲間とのエピソードがどれもこれも興味深く
    あっという間に読了してしまった!

    仲間同士ではざっくばらんにしていても
    いざ本番となれば、かっこいい制服を着て、
    身のこなしもエレガントに登場、

    でもそういう時ですら、ゴードン・グリメッドは
    ふざけてくるみたいで、
    本人のエピソードも愉快だし、
    リー氏のお話の中の「この私でも笑いを堪えることが
    難しかった」と言うエピソードに出てきて、
    本当に剽軽な人なんだな、と
    なんだか嬉しくなった。

    どの人も自分たちが誇りをもってやってきた仕事や
    とりまく環境、また人材も遠い過去のもの、と言って
    寂しがっている。

    この本の書かれた当時から(1976年)
    沢山の使用人を雇うと言うのも無いし、
    お屋敷もどんなにお金持ちでも維持するのが難しいので
    みな手放したり、
    観光地として一部開放してなんとかやっている
    というような状況だったみたい。

    お屋敷の主人、奥様、招待客、
    執事から下男、女中やシェフ、またボーイに至るまで
    自分の役割を楽しく演じている印象。

    色々裏話やお屋敷奉公あるあるも満載で
    とても楽しめた。

    「おだまり、ローズ」のときも思ったけれど
    主従を越えた信頼関係と言うのがうらやましい、

    だからこそ、雇われている人が「やめたい」と言ったときに
    主人側が「裏切られた」と思って怒る気持ち、と言うの、
    これがすごくわかる気がする。

    例えば雇われている人はそれを忘れることは無いけれど、
    雇っている側は尽くしてもらっているのを
    すべて「愛情」と思ってしまうようになるのかな?と。

    今はエドウィン・リーがモデルと言われている、
    カズオ・イシグロの「日の名残り」を読みだしています。
    (やり過ぎ?)

  •  ダウントン・アビーを見ていて興味がわいたので読んでみた。
     非常にいいレビューがあるので、そちらをご覧ください。

    『わたしはこうして執事になった』のレビュー ロジーナ・ハリソン (abraxasさん) - ブクログ : http://booklog.jp/users/abraxas/archives/1/4560095272

  • 執事というのは奇妙な仕事だ。本人は決して高い身分ではない。ほとんどが労働者階級の出身である。それなのに、上流階級の人々にくっついていることで、時の首相や、時には女王ご本人に拝謁を賜ったりすることもある。直々に声をかけていただいたり、お褒めの言葉を頂戴したり、と傍から見れば羨ましいようなものだが、あくまでも使用人である。周囲からの高い評価は期待できない。パブの店主でも一国一城の主のほうが敬意を抱かれる。

    しかし、名のある執事ともなれば、行儀作法は勿論、ワインや料理に対する知識、超豪華客船一等室での船旅を含む世界旅行の経験等々、われわれ庶民には及びもつかない世界を知っている。どこまでいっても主人と使用人という間柄ではあるけれども、大事な悩みを打ち明けられて、その相談に乗ったりすることもあり、他人には決して言うことのできない秘密を共有することもあって、長く仕えているうちに友人のような関係になることもある。

    国家の運命を決定する場に立ち会うこともある。「20世紀最大の英政界スキャンダル」と呼ばれたプロヒューモ事件のようなスキャンダルの現場にだって。1962年、当時のハロルド・マクミラン政権の陸相ジョン・プロヒューモがソ連の美人スパイ、クリスティン・キーラーに紹介されたのが、ビル・アスター卿所有のバッキンガムシャーにあるクリヴデンだった。その後二人は肉体関係を持つに至り、国家機密の漏洩が疑われた。その結果マクミランは辞任、次の総選挙で労働党が政権に就くことになる。

    1975年に刊行された『おだまり、ローズ』の著者が、当時アスター家で一緒に勤めた執事たち五人から聞いた話を、自伝風にまとめたのがこの本。主人とメイドという関係にありながら、互いに意見を主張して一歩も引きさがらず、丁々発止とやりあう二人の関係を面白おかしく描いた前作は、日本でも話題に上った。本の内容上、夫人に関するエピソードという枠組みからはみ出したものは、いくら面白くとも割愛しなければならず、とっておきのこぼれ話が書かれずにいた。それらを拾い集めて執事の物語にしたところがお手柄。

    五人の誰もが一度は勤めることになったのが、アスター卿の館クリヴデン。ここを取り仕切る「クリヴデンのリー卿」と呼ばれる執事エドウィン・リーこそが、他の四人の男たちの教師であり、父であり、尊敬する船長、皆から「サー」と呼ばれるあこがれの対象だ。著者であるハリソン嬢もまた、このリーを「父さん」と呼ぶ。アスター夫人付きのメイドとして長くリーの下で働き、その仕事ぶりや人柄を誰よりもよく知る人である。

    実はこの本、とんでもなく面白い。英国上流階級を描いた小説や映画は多いが、終始一貫して使用人の視点で描かれたものはそう多くはない。ジェイムズ・アイヴォリー監督の手で映画化され、アンソニー・ホプキンスが主演した、カズオ・イシグロの『日の名残り』くらいか。主人公スティーブンスの目から見たダーリントン卿と、世間の目から見たそれとの差が際立っていたが、あの視線に近いものは、この本にもある。

    はからずもスキャンダルの場を提供することになり、正当な手続きを経ずして指弾されてしまった主人に、使用人たちは誰もが同情的だ。逆に労働党の幹部や社会主義者たちに向ける視線には冷たいものがある。労働者階級に属してはいても、自分たちがその空気を吸っていたアスター家の(女主人の時間を無視する癖と、仕事振りを素直に褒めようとしないことには辟易しながらも)今はなくなってしまった英国上流社会の活気に溢れた優雅な暮らしぶりとそこで働く自分たちの仕事を愛していたからだ。

    男たちは一つ仕事を覚えると職場を変える。下働きの使い走りから始め、第二下男、第一下男、そして副執事、執事、とステップを踏んでいく間に何度も勤務先を変える。上司とそりが合わず、どうしようもなくて辞める場合もあるが、いい雰囲気の勤務先であっても、最後までそこに勤めようとはしない。ある程度その世界で生きていこうと思ったら、場数を踏むことが大事だと知っているからだ。また、仕事ぶりが認められた者には、好条件で雇ってくれる家が必ずあるのがこの世界なのだ。

    一方的に雇ってもらうというのではない。こちらも相手を選んでいる。その駆け引きの面白さ。新しい勤務先で出会う上司や同僚の奇矯な振舞いや、酒癖、女癖の悪さといった下世話な話も話し手が労働者階級出身だからこそ。年代物のワインの空き瓶やコルク栓が、結構な値で売れる仕組み(食堂の給仕が中身を安物のワインと入れ替えて、相手にヴィンテージと信じさせるための小道具)等の業界の裏話もあれば、信じられない手さばきで燕尾服の裾に隠したワインを二本も取り出して見せる水際だった給仕ぶりの紹介もある。

    狐狩りで着用する赤い燕尾服の汚れ落としのテクニックもあれば、主人のお付きでアスコット・ウィークの大晩餐会に招待された時の晴れがましい感想もある。食事中も無言で通す作法、長時間をかけての銀器の手入れ、夜明け前から午前三時まで働き詰めの生活は、自分では経験したいと思わないが、そういう労働で支えられていた、かつての上流階級の暮らしぶりを知るには、とっておきの一冊。読み物として面白いのは保証するが、英国小説を読んだり、映画を見るときの参考資料としての価値も高い。

    第一次世界大戦勃発の引き金を引いたオーストリア皇太子暗殺事件の直前、急用ができ、渡英した皇太子を迎えに行けないアスター卿の代りに車に乗った父君。いつもの癖で、開いていると思った窓に痰を吐いてガラスを汚してしまった。これに腹を立てた運転手は興奮のあまり車をぶつけてしまう。幸か不幸かフェンダーをこすっただけで済んだが、大事故でも起こしていたら、第一次世界大戦は起きなかったのでは、と語る執事は歴史の証人でもある。

    ドイツ軍の爆撃を逃れて週末だけチャーチルが身を隠すことになった。身近で暮らしぶりを見た者だけが知るその実像とは。酒浸りだと噂されていたが、そうでもなかったらしい。好きな酒はウィスキーで、トレードマークの葉巻も一口吸ったら灰皿に置いていたとのこと。帽子とコートを渡したチャップリンに握手を求められ、礼儀から無視をしたら、かえってご不興を買ってしまったという。この種の有名人の逸話には事欠かない。

    第一次世界大戦前から、第二次世界大戦後までを扱う。時間の経過とともにさしもの英国上流階級の暮らしにも変化が生じる。大人数の使用人を抱え、大勢の客を呼んで食事会を開く家も少なくなり、執事たちも変化を認めざるを得なくなる。時代の趨勢から見て、そういうものだとは思いながらも、物心ともにゆとりのあった時代を惜しむ気持ちもよくわかる。今は昔の英国上流階級の暮らしを、執事部屋から覗く貴重な体験のできる一冊である。

  • ふむ

  • 割とつい最近までこんな世界があったのだ。
    クリスティの世界みたいだった。
    でも、割と適当なとこもあり
    滅私奉公ではないんだなー。

  • 保守的な考えには同調できない部分もあったけれど、当時の人々の暮らしや心情を興味深く読めた。

  •  「お黙り、ローズ」に出てきた名執事リー氏をはじめ、アスター家に一時でも仕えた男性達の語る自らの立身出世、上流階級の人々との交流や同僚達の思い出。
     皆一様に下っ端から始め、お仕着せを着る様になり、やがて緑のラシャカーテンの向こう側一切を取り仕切る執事へと駆け上がっていくのですが、その間に幾つものお屋敷を渡り歩いてスキルを上げ、人脈を作っていく様子は現代の転職事情にも通ずるものを感じました。

     

  • 2018年12月15日に紹介されました!

  • おだまりローズの続編。
    今回は、アスター家に関係していた男性使用人の話で、執事になるまでのことが書かれている。
    分厚かったけど、読めば読むほど興味がわいてきて、あっという間に読み終わった。写真も少しあって当時の様子を想像する助けになった。もっと写真があったら良かったなぁ。

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著者プロフィール

1899年イギリス、ヨークシャーに、石工の父と洗濯メイドの母の長女として生まれる。1918年、18歳でお屋敷の令嬢付きメイドとしてキャリアをスタート、1928年にアスター子爵家の令嬢付きメイドとなり、同年、子爵夫人ナンシー・アスター付きメイドに昇格する。以後35年にわたってアスター家に仕えた。1975年に『おだまり、ローズ――子爵夫人付きメイドの回想』、76年に本書を刊行、1989年没。

「2016年 『わたしはこうして執事になった』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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