- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560095478
作品紹介・あらすじ
二次会で失敗する前に確認すべき近代日本の「社交」のかたち
サントリー文化財団が奇妙な団体に助成金を出したと話題になっている。その名も「スナック研究会」。研究題目は「日本の夜の公共圏――郊外化と人口縮減の中の社交のゆくえ」という。
スナ研のHPによると、「日本に十万軒以上もあると言われる「スナック」について、学術的な研究がまったく存在しないことに憤り」を感じて決起したという。目指す到達点は以下になる。
〈スナックは、全国津々浦々どこにでもあるが、その起源・成り立ちから現状に至るまで、およそ「研究の対象」とされたことは、いまだかつて、ただの一度もない。本研究では、社会的にはおよそ真面目な検討の対象とはされて来なかった、このスナックという「夜の公共圏」・「やわらかい公共圏」に光を当てることで、日本社会の「郊外/共同体」と「社交」のあり方を逆照射することを目指すものである。〉
調べた結果は仰天するものばかり。「夜明るい街でスナックが増えると投票率が上がる」「夜暗い街でスナックが多くなっても年金納付率は下がらない」。人工衛星による夜間平均光量データまで駆使して出てきた統計結果にメンバーも困惑するしかない……
感想・レビュー・書評
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いや何もこんなに論文の形にしなくても、というのがみそ。へえが山ほど。
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馴染み深い人も多いであろう、飲食店の「スナック」について、大真面目に考察した1冊。
スナックは全国津々浦々、どんな小さな町にもあるのに、スナックについて研究した書はほとんどない。
編者でスナック研究会代表の谷口功一さん(首都大学東京法学系教授)は序章「スナック研究事始」でそう指摘します。
たしかに、云われてみれば、その通り。
そう、ほとんど前例のない本です。
結論から申し上げますと、これが実に面白かった。
たとえば、「スナックの立地と機能」について考察した荒井紀一郎(首都大学東京法学系准教授)さんの論考。
まずは、スナックの市区町村ごとの軒数(全国に10万軒超!)を調査し、「西高東低」の傾向があることを突き止めます。
人口1千人当たりのスナック軒数は、1位が福岡市博多区で838軒、2位が札幌市中央区の810軒と上位に食い込んでいますが、以下、20位までの大半は西日本勢が占めました。
人口当たりのスナック軒数との相関を表したデータも興味深い。
どんなことが分かったかというと―
①郊外のベッドタウンのような地域にスナックはあまりなく、昼間、住民が他の町に出て行かない町にはスナックが多い。
②どちらかというと財政的に厳しい地域にスナックが多い。
③「昼の社交場」ともいえる公民館や図書館などが少ない地域に、「夜の社交場」であるスナックが多く立地している。
ね? 面白いでしょう?
私は「おお」と思わず声を上げながら読みましたよ。
これで終わりではありません。
論考は、さらにディープな領域に立ち入ります。
スナックが立地するエリアにおける最低夜間光量を考慮したモデルで推定した結果、以下3点が明らかになったというのですね。
①スナックの軒数が多い地域ほど刑法犯認知件数が少ない。
②明るいエリア(繁華街エリア)にあるスナックよりも、暗いエリア(繁華街でないエリア)にあるスナックの方が刑法犯認知件数に影響する。
③「昼の社交場」である図書館の数が多い地域ほど刑法犯認知件数が少ない。
こうしたデータを積み上げた上で、荒井さんはこのように結論付けています。
「人口減少や財政赤字といった日本が抱える様々な問題をかんがえたとき、『昼の社交場』となりうる公共施設を大幅に増やしていくことは難しく、スナックのような『夜の社交場』が地域で果たす役割は、今後ますます重要なものになっていくかもしれない」
いやはや、快刀乱麻というか何と痛快な結論でしょう。
井出太郎さん(近畿大学文芸学部准教授)の「カフェーからスナックへ」も印象に残りました。
本筋ではないですが、永井荷風が通った銀座のカフェー・タイガー(1924~35年)には、女給の人気投票があったそう。
どんなシステムかというと、ビール1本を買うと投票券が1枚もらえるというもの。
菊池寛はお気に入りの女給に投票するために、ビールを150本も購入し、荷風から「田舎者の本性を露したり」と嘲笑されています。
菊池寛のミーハーな行動も含め、まるで現代の人気アイドルグループの人気投票そのものではありませんか。
本書では、荒井さんや井出さんをはじめ各分野の第一線で活躍する研究者たちが、スナックについて幅広い視点から考察しています。
スナックと規制の問題、スナックと社交、果てはスナックと憲法と、実にユニーク。
さらには、編者の谷口さん、東大法学部教授の苅部直さん、スナックについての著作もある編集者の都築響一さんの座談会も収録しています。
では、スナックは何故に存在するのか?
これは本書でも紹介されている全日本スナック連盟会長の玉袋筋太郎さんの言に勝る回答はないでしょう。
スナックとは、「社会人としての嗜み、人間関係のさばき」を身に付ける「人生の学び舎」であるということです。
久々にスナックに行きたくなりました。 -
いつも聴いているpodcastの番組に著者の谷口功一さんがゲスト出演していて、「日本の水商売ー法哲学者、夜の街を歩く」という近著の紹介をされたのですが、その際、本書についても触れられました。
こちらの方が先行して世に出た著作で、「サントリー文化財団」が助成金を出した際に話題になった法学・政治学・行政学などの専門家・教授陣による多角的な考察とのことで興味を持ちました。
各執筆者が自身の専門領域を基点に自由に論考を拡げているので、様々な切り口からの思いも寄らぬ気づきが得られました。なかなか面白い試みの著作ですね。 -
うーん。
法規制の話は、スナック開店の予定のない自分には退屈だった… -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/710307 -
・日本のカフェの歴史と純喫茶の違いに関する言及が面白い。フランスのいわゆる文化カフェと、日本のカフェって全く別物。初期の日本のカフェは、もともとかなり安い給料だったそうで、チップをいかにもらうかが要だったと。そのために風俗としての側面が強かったらしい。風呂場のあるカフェまであったというから驚き……だけど時代背景とともに書かれていて妙に納得。純喫茶に対し、カフェは特殊喫茶、という位置付けだったそうな。
・スナックの原型はカフェ(特殊喫茶)。カフェに対する取り締まりが厳しくなり、そこからスナックが広がっていった。
・スナックがお酒を飲むための場所ではなく、コミュニティとして機能しているという点にめちゃくちゃ未来を感じた。ある種SNSと近く、同じ共通言語を持った人たちが集う場所。「同じ地域に属している」という人たちが集えるわけで、一人で言ってもその場に溶け込めるのが特徴ともいえる。
・バー:終夜営業可能、お酒を提供する
・スナック: 終夜営業は不可、お酒以外の軽食(スナック)も出す
cf.
芸術サロンを作るための情報収集として -
6/21はスナックの日
日本に十万軒以上もあると言われるスナック、「夜の公共圏」。
驚きの研究成果が一冊に! -
あまりお酒を飲まないし、飲み会のようなお付き合いとも縁が薄いのでスナックにはおそらく1度しか行ったことがありません。
自分の生活とは縁遠いスナックですが、最近興味を持ったところにこの本を知り、一読。
スナックの歴史から、開業の仕方まで様々論じられており、面白かったです。 -
スナックの歴史、法的位置づけ、立地に関する統計分析などをまとめた一冊。序説ならではの「いいとこ取り」のような気もするが、かなり面白い。
人口当たりのスナック件数の上位は宮崎県、青森県、沖縄県、長崎県、高知県となりパブやバーが都市部に多いのと対称的である。なお、最下位は奈良県である。
歴史的には「カフェー」を源流としつつ、法的規制をかいくぐるための変容を経て現在の姿になったという。どうもネガティブ・リストに基づいて定義づけられるようだ。
「荷風が通ったこのカフェー・タイガーでは、女給の人気投票があった。ビール一本を買うと投票券一枚がくるというどこかで聞いたことのあるようなシステムである。菊池寛はお気に入りの女給に投票するためにビールを150本(1本60銭)も購入し、飲み切れるわけがないので車で持って帰った。この珍事件を荷風は…「田舎者の本性を現したり」と辛辣なコメントを書きつけている(『断腸亭日乗』1929年4月5日条)。公共圏におけるはしたない振る舞いを嗤っているのである。」 すごく菊池寛っぽいエピソードで笑った。