移民の政治経済学

制作 : 岩本 正明 
  • 白水社
3.69
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本棚登録 : 106
レビュー : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560095911

作品紹介・あらすじ

「移民」による移民論
 本書は、ハーバード大ケネディスクールで20年にわたり移民経済学を研究してきた世界的権威による最新かつ最深の移民論である。著者自身、幼少期にキューバから移ってきた移民でありながら、移民に対する見方は慎重である。
 一般に経済学者は貿易や移動の自由を支持する傾向が強い。社会的効率や経済効果といった観点から、開国や移民は全肯定される。それだけではない。さまざまな数式モデルや統計データを用いて、あたかもその推進が客観的な数字に基づいているかのように議論されるのだ。
 しかし、労働経済学という視角から見たとき、事実は全く異なる様相を呈する。
 まず、経済効果という観点で言うなら、移民には短期的な効果はない。とりわけ未熟な労働者を受け入れた場合は、福祉制度に深刻な打撃を与えてしまう。加えて、雇用を奪われる労働者から安く移民を雇う企業に莫大な富が移転するという事態も招く。
 長期の効果もかなり心もとないものだ。それでも高技能から低技能まで、多様な移民を受け入れるのはなぜなのか? 移民を〈労働力〉ではなく〈人間〉としてみること。人文知としての経済学はここから始まる。

感想・レビュー・書評

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  • 米国労働経済学専門家による移民の影響に関する本。学術的かつ論理的に意見を述べており、説得力がある。記述が正確。移民とはどのような存在で、国家にどのような影響を与えるかを正確に述べていると思う。移民受け入れが得なのか損なのかは一概には言えず、その影響は複雑であることが、よくわかった。訳もとても良い。いずれにしても、政策というものはいかなるものでも、結局は「いったい、あなたは誰の肩を持つのか」ということなのだと思う。
    「(移民の本質)「我々が欲しかったのは労働者だが、来たのは生身の人間だった」p9
    「同化しない移民の数が増えれば、多くの難しい課題が発生する」p10
    「(外交官の駐車違反)一人当たりの駐車違反が最も多かった5か国は、エジプト、セネガル、パキスタン、コートジボアール、モロッコだ。オーストラリア、コロンビア、日本、ノルウェー、トルコなどの国の外交官は一度も違反をしなかった。各国の外交官の駐車違反の回数の違いを見ると、興味深い傾向が浮かび上がる。社会の腐敗度が高いことで知られる国から来た外交官は駐車違反をし、切符を切られ、罰金を無視する傾向にあるのだ。そうした国からの外交官は、母国の社会では一般的とされているやり方を持ち込み、ニューヨーク市でもそのやり方を引きずっていると解釈するのが自然だ」p42
    「移民グループ(母国)の間で収入に差が出るのは、出身国によって移住を決断する人のタイプが異なることが1つの要因となっている」p74
    「移民グループの一部で収入が少ないのは、単純に彼らのスキルが足りないからだ。そして、彼らの持っている能力が、米国社会ではそのまま通用することが少ないのだ」p82
    「(仲間の少ない移民グループ)私たちはすぐに英語を話さなければならなかったのだ。自分でなんとかしなければならず、そんな風にして自然と早く英語を覚えていった」p95
    「(同化の速度)スキルが問題なのだ。教育レベルの高い移民はおそらく、英語を流暢に話せるようになる、労働市場での雇用機会をうまく捉えるようになるなど、容易に新たなスキルを習得する。つまり、移民がすでに習得していたスキルと彼らが将来に習得するスキルの間にはある種の補完関係があるのだ」p98
    「単刀直入に言えば、移民グループが1つの地域に集まると彼らの同化は進まない」p100
    「20世紀初頭に移住してきた移民に関して言えば、彼らの世代で見られた民族間の格差は孫の世代まで続くことが分かっている」p117
    「すべての格差が解消されるまでにはおそらく百年の期間がかかる」p118
    「不法移民は不法な立場であるがゆえに、いい存在なのだ(税金は支払うが、健康保険や年金等の社会保障の恩恵にあずかれない)」p179
    「シンガポールでは、低技能のサービス労働者を受け入れている企業は、短期ビザのために労働者の月給の2割から3割の税金を政府に毎月払っている」p218

  • 【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/520358

  • 社会
    政治

  • 移民による政治的・経済的影響をよく言われる表面的な見解ではなく、データに基づいた研究結果をまとめた内容。主旨は概ね理解できるが、そこまでに至る考察がなんともまどろっこしいのと、同じようなことが何度も繰り返され冒頭から読み疲れを起こしてしまった。(僕の理解力の問題かもしれないが…)

  • データ整理の方法をひたすら議論する本。
    勝手な想像だけど、たまたまテーマが「移民」なだけだったのかと思う。それくらい冷静な検討を追えた。

    いろんな本を見てると、自由な移動は経済に正の影響を与えると思ってた。
    一方で本書では、同じ移動が影響を与える対象によって正にも負にもなることを解き明かす。
    改めて、データ整理の難しさを感じた。

    細かく書けば書くほどさらなる詳細が気になってしまうジレンマも感じた。どんな影響をどのように除いているのか・・。
    やる気にはならないが、当然そこは読者が原論文を追わなければならないところ。

    政治としての移民は、感情面含め、いろんな要素が混ざり合う。数字の問題だけで解決するものではないけど、新たな視点を与えてくれる本だった。
    経済学は面白いと思う傍ら、物語感が拭えない。
    ただ、正しく理解するための正しい根拠の整理方法の追求は、まさしく科学だった。

  • 著者自身がキューバからの移民であるが、イデオロギーの考えを排除すると移民による経済効果は世の中に吹聴されるほど大きくはないとしている。著者は、移民たちが単なる労働力だけではなく、生身の人間であり社会にとって負担になり得るということを繰り返し述べている。

  • 日経新聞掲載20180217

  • 東2法経図・開架 334.4A/B65i//K

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著者プロフィール

1950年キューバ生まれ。1962年に米国に移住。コロンビア大学で経済学博士号取得。カリフォルニア大学を経て、1995年からハーバード・ケネディスクール教授。労働経済学の分野で最も権威のあるIZA賞を2011年に受賞している。主著にLabor Economics (McGraw-Hill, 1996; 7th edition, 2015), Heaven's Door: Immigration Policy and the American Economy (Princeton University Press, 1999), Immigration Economics (Harvard University Press, 2014)

「2017年 『移民の政治経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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