- Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560099070
作品紹介・あらすじ
初期傑作長篇、待望の本邦初訳!
英国の巨匠ウォーは、代表作『黒いいたずら』、『ピンフォールドの試練』(以上、白水社)をはじめ、ベストセラーとなった『ブライヅヘッドふたたび』など、依然として高い人気を誇る。本書は、アフリカの架空の国の政変と報道合戦の狂奔を、辛辣な諷刺とユーモアたっぷりに描く、初期傑作長篇。本邦初訳。
新聞で「田園便り」を担当する独身男ウィリアムは、手違いから、突如外国特派員に任命される。派遣されたのは、政変が噂されるアフリカの独裁国家。怪しいスパイや政商が暗躍し、ライバル記者たちが報道合戦を繰り広げるなか、ウィリアムは人生初の恋に落ち、思いがけずスクープをものにするのだが……。
ウォーは新聞記者としてアフリカに派遣され、実際に報道合戦を体験しており、本書を「ジャーナリズムに対する軽い諷刺」と述べている。一九三八年に発表され、今なお「現代の古典」として不動の地位を占めている作品だ。二〇〇三年、『ガーディアン』紙上で「古今の名作小説一〇〇」に選出され、二〇一四年、『テレグラフ』紙上でも「絶対必読の小説一〇〇」に選出されている。
感想・レビュー・書評
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なんの前知識もなく図書館で借りたのですが、読み始めてすぐ、「げっ、ファルスか!」と思いました。
はっきり言って超・苦手ジャンル。
大学時代、坂口安吾を全部読まなくてはいけなくて、ファルスだけは死ぬほど苦痛だった記憶が蘇る・・・
てなわけで、全然乗れませんでした。
「『現代の古典』として不動の地位」とか「絶対必読の小説100選」に選ばれた、とか訳者あとがきに書いてあったけれど。
もともと、欧米人のExpatライフを描いた小説には、書き手がそんなつもりはなくてもなんとなく現地の人を「未開人」扱いする気配や、物価が安いせいでお金に困らないことを何か優越感でとらえていたりする気配を察知してしまって、正直、あまり好きではない。
特に、アフリカは欧米列強がすべてをめちゃくちゃにしてしまったという考えをどうしても抱いてしまうので、この小説は、フィクションだけど一度たりとも笑えなかった。どっちかっていうと、むっつり顔で読んだ。
冗談通じなくてすみませんね、って感じですかね。はは。
まあそう言いつつも、ディネーセンの「アフリカの日々」はすごく好きだから、書かれているテーマにもよるんだけど。
あとがきを読んで、作者の特派員だった時代の経験がかなり反映されていることに驚いた。
確かに、現地の風景描写などに、見る人の「苦々しい思い」が漂っていて、リアルだな、と思ったが・・・
イーヴリン・ウォーはまったくのダメ特派員だったみたいですね。
すべての中で、あとがきのこの部分だけクスッときた。
訳はかなりイマイチだと思った。
すごく硬直した訳で、時々ビックリした。もしかしたら、外国人が多く登場するので、英語が母語じゃないことを表現するためにこんな直訳なのかな?と一瞬思ったけど、会話文だけじゃなくて地の文もいろいろ変だった。
「彼にとっては、宴会は幸せな晩の娯楽にとって必要な一切のものを満足させるものだった」とか。
「ウィリアムの朝食は、この前のクリスマスツリーの自分の払うべき分を、フラウ・ドレスラーにまだ払っていない、極貧の機械工によって、やがて運ばれてきた」とか。
・・・('Д')? となって、3、4回読み直すはめになりました。
でも、おかげで改めて、最近の翻訳者はみんなすごく上手だな~ってありがたく思った。こういうのに今はそれほど出会わなくなっている気がする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
新聞で自然についてのコラムを書くウィリアム・ブートは人違いによって、内戦を取材するよう東アフリカのイシュメイリアへ派遣される。各新聞の記者たちはスクープをものにするためお互いの動静をうかがい、ときにはニュースをでっち上げ、ときに握りつぶしたりする。新聞記者がいかにいい加減であるかを風刺した小説。
『黒いいたずら』では政変が起きた際の政府内部のドタバタが描かれていたのに対して、本作は内戦(ファシストとボリシェヴィキの争い)をとりまく記者に主眼が置かれているので、現地入りするまでの経緯やスクープを報道したあとの顛末にもページが割かれている。内戦に関する事件はなかなか進展しないので、そういう意味では少々退屈。
1930年と1935年の二度にわたってエチオピアを取材した著者の経験をもとに書かれている。
そうさ、ある時ジェイクスは、バルカン諸国の首都の一つで起こった革命を取材しに行った。彼は列車の中で寝過ごしてしまい、間違った駅で目を覚ましたんだが、その違いがわからずに降りて、真っ直ぐホテルに行き、戦後の記事を打電したんだ。通りのバリケード、炎上する教会、彼の打つタイプライターのカタカタという音に呼応するかのような機関銃の音、部屋の窓の下の人気のない道路に、壊れた人形そっくりに大の字になっている死んだ子供について――そういうことなんだ。
そう、違う国からそんな記事を受け取った社は、かなり驚いたんだが、社はジェイクスを信頼していたんで、それを六つの全国紙に派手に載せた。その日、ヨーロッパのどの特派員も、新しい革命の現場に駆けつけるよう命じられた。彼らは群れを成して到着した。何もかも平静に見えた。でも、ジェイクスが一日に血腥い千語の記事を社に送っているのに、そう報告したのでは職を失うことになるんで彼らも調子を合わせた。国債は下落し、財政恐慌が起こり、非常事態が宣言され、軍隊が動員され、飢餓が起こり暴動が勃発した――そうして、一週間も経たぬうちに、ジェイクスが言った通りの正真正銘の革命がおこった。それが新聞の力さ。
(p.85) -
波に乗れませんでした。この作家さんの持ち味は好みなので別の作品を読んでみたいです。同姓同名の二人が出てきてA君は女関係をしくじり、ぜひ仕事を言い訳に住居を改めたいと思っていて、B君は自宅大好き非リア充。「海外特派員になるとお金いっぱいもらえて、レストランで何でも注文できるよ」「自宅にいればメイドが料理を運んできますからレストランなんて行きたくないです」「彼女に高価な花束をプレゼントできるよ」「花なんて家に一杯咲いてます」もうB君をほっといたれ。なんて素敵なんだB君。ええ、もちろんB君が海外に行きます。
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文学
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人違いできな臭い土地へ送られた、田舎のエッセイストがうっかりスクープをつかむ、ドタバタ喜劇。
風刺満載な空気はわかるんだけど、知識がなくて…。
ジャーナリズムに詳しかったら、もっと楽しめたんだろうなぁ…。
結末はくすりと笑える。 -
読み始めてすぐは状況が飲み込めなかった。。。ブートなんていう名前の人がそう何人もいるなんて思ってなかったから。
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姓が同じ故に取り違えられて、アフリカへ外国特派員として派遣された男の顛末。いい加減な仕事振りが幸いして、スクープをものにするが...。
誇り高きイングリッシュネスのほころびが隠しおおせない時代背景を舞台に、英国ジャーナリズム界を風刺した(と著者が述べる)小説。システム化され、右へ倣えで群盲化する記者たちの怠惰さや、経営者である貴族の末裔たちの無能さが、「愛すべき」とでも形容したくなるテイストで描かれる。
文学の紹介文で「ユーモアをもって」「思わず笑わずにはいられない」などとある場合は、経験上、眉唾の場合が大半。しかし本作はついついクスリと口角が上がる場面が、度々おとずれた。
わかり易い伏線が目に付いたり、アフリカ世界が暗愚に描かれていたり、いろいろ言いたくなる部分はあるが、いうのも野暮かなと思えるくらい堪能した。 -
イーヴリン・ウォーらしさが詰まった本書が日本初訳とは!ともあれ翻訳が出たことに感謝。
ウォー流の皮肉なユーモアに満ちており、カトリック色もなく、とにかく面白い。手違いで新聞記者としてアフリカ某国に送れらた田舎の青年が、巻き込まれ型で偶然スクープをものにし、英雄に祭り上げられるのだが…ウォー自身が「ジャーナリズムに対する軽い風刺」であり、「外国特派員の英雄気取り、政治家気取り、外交官気取りを暴くこと」が目的というが、そこにイギリス社会、上流社会や企業、政治に対するシニカルな言及も加わる。
「3人のブート」をめぐるラストの展開の鮮やかさ意外さは「さすが…」と思った。ウォーのイギリス的ウィットは全くお見事。 -
『ピンフォールドの試練』に引き続き、エクス・リブリスから『スクープ』刊行。イヴリン・ウォーもちょくちょく邦訳が出るのは有り難い限り。
『スクープ』は著者の記者体験を元に書かれた風刺小説。ドタバタ喜劇とまでは言わないが、基本的にユーモア溢れる明るいストーリーだった。反面、訳文は非常に真面目で、そのギャップが不思議でもある。ちょっと『黒いいたずら』と共通点もあって、両方を読んでいると違った楽しみ方も出来るのでは?(……と、考えると、つい、「これも吉田健一訳で読みたかった……」と思ってしまうのよねぇ。ふぅ)。