モーツァルトを求めて (白水uブックス)

著者 :
  • 白水社
3.50
  • (1)
  • (0)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 27
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560720851

作品紹介・あらすじ

的確で精妙で、どこまでも耳を満足させ、比べるもののないほどよく流れるモーツァルトの音楽。その音楽に秘められた「楽想」を楽曲に即して紡ぎ出し、「モーツァルト的な美しさ」とは何かをさぐる。モーツァルト理解にとってこのうえなき一冊。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • モーツァルトの音の輪郭



     アマデウスだ! クラシック音楽にくわしくなくても、一度も耳にしたことがない人を探すほうが難しいマテリアル(素材)ですね。

     この本は、モーツァルトの音楽に、生涯に、人物に、何らかの興味を持つ人すべてに開かれた音楽随筆です。
     吉田秀和さんが視たモーツァルト像は、開拓者。当時の宮廷や教会が注文していた楽曲の形式や、古楽器(現代人から見たら★)の使われ方を超えた「音楽」自体の世界を追求した人でした。ただし、演奏者を傷めつけることなく、楽器の性能外のことは要求せずに、です。
     楽器の特性もしくは限界を知りながらもさらなる音の可能性を探った、モーツァルト的な響き、モーツァルト的な流れ。それは、楽譜の難易度を高め、楽器の能力外にまで音楽を拡張したがったベートーヴェンらしさとは対極に位置するものとして、読み進めるほど両者の差異が浮き彫りになります。

     評論それ自体が、一つの作品として魅力的です。専門用語に寄りかからずに、すっくと立った文体の自然さ、平易さ、鮮やかさ。「?」や「!!」などの記号が語尾に踊った後、呼吸を整えるようなフレーズが連なる、緩急のついた書きかたは視覚にも訴えてきます。
     たびたび、楽譜の一部を切り出して規則性を挙げる箇所が出てくるのですが、音符を読めない人も心配無用の、分かりやすい面白さに満ちています。

     こうして吉田秀和さんが描き出したモーツァルトの音の輪郭は、吉田さん自身の評論の輪郭によく似ているな…と感じました。モーツァルトの音楽の、可能性を模索しながらも無理を感じさせないところと、吉田氏の平易ななかに豊かさを含んだ文体との、心地よい響き合い♪
     いまは、著作権のない古典音楽ほど気軽なBGMに使用され、空気のように何となくそこら辺を流れてしまう時代ですが、モーツァルトの一曲に、一つのメロディーに、一つのフレーズに、改めて丁寧に耳をかたむけたくなります。

  • 久しぶりに吉田秀和氏の本を読んでいる。もうかなり昔の話になるが私のクラシック音楽が好きになった背景には、吉田氏のFM放送や書籍で紹介された演奏や曲を次々と聴いてきたことがある。今再び吉田氏の本を読んでいると、氏は一つひとつの曲に対して様々な観点から分析していく。単に音楽的な背景だけでなく、文学、美術、地理的あるいは時代的文化。またそれらを譜面で実際に示して解説してくれる。まだ読みかけだが、インターネットでスコアをダウンロードしたり持っているCDを聴きながらじっくりと内容を味わいながら読んでいきたい。これを読んでいると最近読んだクラシック音楽についての本が皆一面的で浅薄なものに見え、吉田氏のような深く多面的なものに遠く及んでいない気がした。

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

1913年生まれ。音楽評論家。文化勲章、大佛次郎賞、讀賣文学賞。『吉田秀和全集』他著書多数。

「2023年 『音楽家の世界 クラシックへの招待』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉田秀和の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×