気になる部分 (白水Uブックス 1087)

著者 :
  • 白水社
4.07
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感想 : 177
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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560720875

作品紹介・あらすじ

眠れぬ夜の「ひとり尻取り」、満員電車のキテレツさん達、屈辱の幼稚園時代-ヘンでせつない日常を強烈なユーモアとはじける言語センスで綴った、名翻訳家による抱腹絶倒のエッセイ集。待望のUブックス化。

感想・レビュー・書評

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  • 岸本佐知子さんが某洋酒メーカーを辞めて翻訳家となり何年か経った33~39歳の時のエッセイで、最初のエッセイ集がこの本です。
    しょっぱなから、「リニアモーターカーは根性とか念力で動いている」と密かに感じているとのたまう岸本佐知子さん。
    最初のエッセイを最後に読むことになってしまったが、この本も、岸本ワールドが期待できそう♪と確信。

    とは言え、遠慮して抑えている感も伝わってきて、円熟した岸本ワールドをさらけ出すまでには至っていない。
    一番面白かったのは、新書版で追加された最後のエッセイで、これだけが2006年(46歳)に書かれたものだから遠慮なく自由だ。
    一度も会ったことのない川上弘美さんとの思い出話を詳しく書いている。
    差し向かいで飲み屋でお酒を飲んだこと、歳も住まいも違うのに小学生の時同級生だったこと、高校の時も同じクラスにいたこと。
    その時々の様子が鮮明に記憶されていて、絶対にあり得ないことが具体的に次から次へと思い出され筆が止まらない。

    岸本さんのエッセイは楽しい!

    ロールシャッハ・テストの絵がどれも「骨盤」に見えてテストにならない。
    「お騒がせ」を「おさがわせ」と言う人がかなりいることに密かに気づいた。
    人体で不要なもの、男の乳首問題。「乳首あてゲーム」という使い道くらいしかない。
    売れ残り商品を完売させるには「福袋」にすればいい。
    一卵性双生児の片方に素敵な名前を、片方にひどい名前をつけたら人間性に違いが出るか?
    大人になってやらなくなることは、スキップ、ジュースのストローをブクブク吹く、月に向かって懐中電灯を照らす、クワガタに触った手を嗅いでみる、
    まあ、こんな話題で埋め尽くされている。

    "気になる部分"は、どうでもいい「部分」ばかりで、
    トラックの車輪の後ろにぶら下がっている、あのビラビラしたものや、
    ダイヤル式の電話の指止め金具や、
    勤めていた会社の社長の額のホクロや、
    工場見学に行った時の天井のパイプなど。

    新書で200ページは少し物足りないが、期待どおり面白かった。
    だけど、これで、楽しみに残しておいた岸本佐知子さんのエッセイがなくなってしまった。
    これからしばらくは、何冊か残っている三浦しをんさんだな(^^♪

  • いやぁ、やはりいい。
    この人面白い。

    もちろん誇張や脚色はあるのだろうが、空気が読めず周囲に溶け込めない、かと思えば溶け込み過ぎてそこに居ることに気付かれないという、自分のコンプレックス、妄想癖をネタにした、にやにや笑いが止まらないエッセイの連続。

    翻訳家ゆえの語彙力なのだろうか、ただでさえ奇抜な場面、展開をこれでもかというほど誇大な言葉で修飾するから、ばかばかしさは最高。
    『ねにもつタイプ』に続き図書館で借りた著者の作品だが、こうなってくると手元に置いておきたい気持ちすら湧いてくる。

    本書は後半、著者の本業の方の話題もあり、そちらも興味深々。
    本書を読む前から、以前から気になっていた『掃除婦のための手引き書』がこの著者の訳であることを知ったとき、近く読んでみようと思っていた。
    加えて、本書で紹介された”ニコルソン・ベイカー”の『中二階』は、エスカレーターを昇っていく途中の考察だけで一冊が出来上がっているという、まさに岸本ワールドに通ずる世界観。
    嬉しきかな、どっちも行きつけの図書館にあるぞ。

  • 岸本佐知子さんのエッセイ集。子供の頃に考えていたことから、OLだった頃のこと、翻訳家になってからのことなど、日常の中で気になったことを気ままに書き綴った本。

    大概面白いが、"それで?"と言いたくなるエッセイもある。あっという間に読了。

  • 翻訳家である岸本佐知子の主に90年代のエッセイ。

    岸本佐知子という翻訳家の名を初めて認識したのは恐らく高校時代のこと、それは例の『中二階』という奇妙な小説の存在を知ったのと同時であったと思う。しかしそのときは、『中二階』も彼女の他の翻訳も手に取ることはなかった。その後、大学生となった2000年代初め、朝日新聞の「ベストセラー快読」という書評コーナーで初めて彼女の文章を読むようになった。それ以外にも、確か白水社だったか筑摩書房だったかが出していた出版情報誌に連載されていたエッセイなどにも目を通していた。

    当時と云えば、小泉政権下、人の生を「勝ち/負け」という思慮の陰翳を欠いた暴力的な記号で序列化可能なほどに平板化してしまえると浅ましくも思い上がった即物的な(無)価値観に社会それ自体が同一化し始めていた頃、そんな卑しい世相を軽妙なユーモアと皮肉とで茶化してくれていたのがこの岸本佐知子の書評だった。私は毎週その文章に大いに笑いながら、彼女のいつも的確な標的を選定してくるセンスと毒気を笑いに包むユーモアとのおかげで、なんとか当該の社会の中で正気を保てているように感じていた。そのくらいに、当時の私は社会というものによって精神的に参っていた。だからいまでも、彼女の感性は信じられるものだと、どこかで思っている節がある。

    そんな彼女の文章を書籍で読むのはこれが初めてだった。ただし冒頭の「空即是色」を読むのは二度目で、一度目がどの媒体だったのかははっきりと覚えてはいないが、やはり何度読んでも面白い。

    今度ようやく『中二階』を読んでみようと思っている。朝日新聞の「ベストセラー快読」は、どこかで書籍化されているのだろうか。もしそうなら読んでみたいし、もしそうでないならどこかから出版されることを期待している。

  • 外国文学を読む時、最近は訳者が気になるんです。エドウィン・マルハウスという本を読んでみたいと思っているのですが、その訳者さんが岸本さん。というわけでエドウィンに行く前に岸本さんのエッセーにて彼女をチェック。
    いやはや、なんというか、ぶっとんでおります。
    幼少期の自分語りを読んでいると、え、なんかかなりへんてこな子だったのね、、、と思うのと同時に自分もそういや同じような事普通にしておったぞと気付き、強烈なショックを受けるという。
    そしてどうやらご自身の変態さ(失礼過ぎる)に完全にお気づきのようで、そのなんというか自分の趣向というのか、好きな本を訳したいという感じでお仕事をされているのかなと勝手に想像。
    III章「軽い妄想癖」では、今までのキテレツぶりから一転してちょっとなんというかゾッとする小話が続くんですよ・・・
    いやはや、懐が深くてビックリです。彼女がお好きな本を何冊も紹介されているのですが、なんというか読むのが恐い(笑

  • 『ねにもつタイプ』ですっかりファンになって、出版順をさかのぼって読了。
    エッセイだけど時々フィクション?の不思議な感じがほんと大好き。
    クスッと笑わせつつ、幻想小説のような味わいがあります。
    何より読んでいると肩の力が抜けてきて気持ちが楽になります。
    岸本佐知子さんのエッセイを手に取ったきっかけは、書評家の豊崎由美さんの「まだ読んでいない人が羨ましい」も一言でした。
    ほんと未読の人は羨ましい。もちろん読み返しても楽しい一冊。
    現在連載中の「ちくま」を購読中です。単行本になるのが待ち遠しい。

  • 著者の第1エッセイ集。
    のちのエッセイ集へ発展していく、その萌芽がみっしりと詰まっている。
    これは書いて、これは書かないでおく、といった明確な書き分けがなく、笑いたくなるような、切ないような、懐かしいような、ひやりとするような、岸本佐知子という人間そのものがごろりとそこにいる感じ。

    翻訳についてや、おすすめの本についても書かれているのも、ファンとしては嬉しい。

  • たいして読んでないのに言うのもなんだけど、岸本さんのエッセイ、面白すぎ。さくらももこのエッセイを好んで読んでいた頃と同等の満足度を感じてます。もちろん褒め言葉。”ねにもつタイプ”も素晴らしかったけど、本作はもうちょっと現実寄り。翻訳家としてのコラムみたいなのも掲載されていて、それはそれで興味津々。岸本さんの翻訳本を、もっと読みたくなりました。

  • 「穂村弘が好きなら岸本佐知子はいかがですか」、とすすめられた一冊。
    読んでて言葉のチョイスがうまいなあと思いました。
    そしたらなんと彼女、穂村弘と同じ上智大学文学部英文科。
    よくよく考えたらわたしたちのゼミの先生も上智英文科だった。
    上智英文科、強者ばかりじゃないか。
    できるならわたしも行きたいぞ。

  • 私が私の好きな人(女性)に、何か本を贈るなら、絶対この本にする。(もしくは同著者の『ねにもつタイプ』か)
    今まで読んだエッセイの比ではない程面白い。

    ああ、友人達にばらまきたい。


    国際きのこ会館…
    すごく気になる。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「絶対この本にする。」
      それは危険な賭けかも、、、好き嫌いが分かれそう。贈った相手に、もし「合わなかった」と言われたらショックでしょう。。...
      「絶対この本にする。」
      それは危険な賭けかも、、、好き嫌いが分かれそう。贈った相手に、もし「合わなかった」と言われたらショックでしょう。。。
      2014/04/25
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著者プロフィール

岸本 佐知子(きしもと・さちこ):上智大学文学部英文学科卒業。翻訳家。主な訳書にルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』、ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』、ニコルソン・ベイカー『中二階』、ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』、リディア・デイヴィス『話の終わり』、スティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』、ジョージ・ソーンダーズ『十二月の十日』、ショーン・タン『セミ』、アリ・スミス『五月 その他の短篇』。編訳書に『変愛小説集』、『楽しい夜』、『コドモノセカイ』など。著書に『気になる部分』、『ねにもつタイプ』(講談社エッセイ賞)、『なんらかの事情』、『死ぬまでに行きたい海』など。

「2023年 『ひみつのしつもん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岸本佐知子の作品

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