ルソー 市民と個人 (白水Uブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560721209

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  • フロイトの精神分析によってもたらされた概念装置、とりわけ「退行」の概念を援用して、一見したところ矛盾をかかえ込んでいるかのように見えるルソーの思索の歩みを読み解く試みです。

    ルソーは一方で、人間の真の幸福は集団への所属を通じて獲得されるといい、他方で孤独の状態において享受されるといいます。著者は、この矛盾しているように見えるルソーの思想を解読するために、彼の生涯や『エミール』などの文学的作品の解釈をおこない、「市民」と「個人」がルソーの思想のなかでどのようにして相互形成されていったのかということを明らかにします。

    ルソーの『社会契約論』では、個人が権利を全体へ全面的に譲渡することで、全体によって個人が保されるという関係が論じられています。しかし著者は、この契約以前には全体はまだ存在しておらず、契約によってはじめて全体が現実のものになることに注目します。このことを読み解くためには、祖国や徳といった全体への献身と自己愛の両立という心理学的メカニズムをルソーが実感しており、その実感のもとで社会契約が論理的に展開されているのではないかと考えます。そのうえで、フロイトの精神分析を援用して、「父」への回帰による理想我の形成という図式のもとで、ルソーが論じた社会関係の心理学的な基礎を解き明かそうと試みています。

    さらに著者は、「母」への退行という見取り図のもとで、ルソーにおける自己愛と祖国愛の一致が可能となった理由を明らかにし、ルソーの思想におけるもっとも問題的な概念である「一般意志」の由来についての探求をおこなっています。

  • ルソーの思想の一貫性を、精神分析や行為科学の知見を用いて論証する試み。思想の区分を著作の時期だけでなく手紙などの史料も用いて再構成し、どの時期にいかなるタイプの思想をルソーが表明しているかを明らかにしている。精神分析や文芸批評の用語に不慣れだといささか戸惑う内容ではあるが、附論だけでも読む価値のある著作。

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