「人殺し」の心理学

  • 原書房 (1998年7月1日発売)
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  • 本 ・本 (415ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784562031023

感想・レビュー・書評

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  • 「なぜ人は人を殺すのか」というより、「なぜ人は人を殺さないのか」というテーマの本。誤解してはいけない。
    戦争中のウクライナでも、ロシア軍兵士が、ウクライナ人老婆に咎められ泣いている姿をSNSを通じて見た。一方、ロシア軍兵士により虐殺された女性や子供の死体が、奪還した都市内部で発見されつつあることもニュースで見た。
    人間らしさとは?軍隊とは?政治とは?考えさせられる本。

  • タイトルだけみると、大量殺人、猟奇殺人の心理とかを想像するが、改訂されたように、「戦争における」殺人の心理学を論じた本である。

    著者はこの本の中で何度も、「人はなぜ人を殺すのか」ではなく「なぜ人は人を殺さないのか」を理解することの重要性を述べる。

    うっすら不穏な空気が漂いまくる現在、20年以上前に書かれたこの本が再度注目されると良いと願っている。

  • “その感情は普遍的なものだと教えるだけで、ひとりの人間の理解を助けることができるのだ。自分は狂っていたのではなく、たんに異常な状況に対してごくふつうの反応を示しただけなのだと。くりかえすが、これが本研究の目的である。”

  • 参考文献がついていないし、ついていても原語では私には理解できないので、兵士の殺人忌避の割合が正しいかどうかわからないが、話半分でも、充分ありえると思う。
    戦争では敵を殺すのが当たり前だ。だが、目の前の人を、簡単に、殺せるとは思えない。
    そして、合法的に殺人を犯した兵士たちは、精神に傷を受けている。

    殺人に対する心構えをいかに兵士につけさせるか、ということが書いてあるが、それが目標の本ではない。
    兵士に何が起きているのかを、戦場にいない人が理解するためのもの。
    兵士が負っている心の傷を、分析するもの。


    アドレナリンの放出と揺り返しによる虚脱。
    大小失禁。真田太平記だったかにも書かれていたか。

    敵を別名で呼んで貶めることによる、心理的距離
    殺すという言葉を倒す、と言い換えることなどによる心理的距離


    p28
    「 マッカーサーは言う。「兵士ほど平和を祈る者はほかにいない。なぜなら、戦争の傷を最も深く身に受け、その傷痕を耐え忍ばねばならないのは兵士なのだから」。」

    本を読む順番の神さま、ありがとう!まさかこんなところで、マスケット銃についての説明が読めるとは!

    人は簡単には同類を殺せない。
    p60
    「 パディ・グリフィスが明らかにしたところでは、黒色火薬時代の銃撃戦では、平均的な連隊の命中率は一分間にひとりかふたりだった。」
    いざというときに、狙いをずらしたり、敵の頭上めがけて撃っていたものたちがほとんどだということ。80~85%の人間が、第二次大戦では、殺人を拒否していた。怪我をして戦線を離脱するものよりも、精神的にダメージを受けて離脱するものの方が多かった。
    「ジェローム・フランク博士は、著書「核時代における正気と生存」のなかでそのような説に明快な反論を加えている。一般的に言って、内戦は他の戦争よりも残酷で、長引きがちであえり、歯止めが効かなくなりやすいというのである。またピーター・ワトスンの「精神の戦争」にはこう指摘されている。「同じように規範からはずれた行動であっても、直接関係のない他者より、身内のなかから出た行動のほうがけしからぬふるまいと見なされ、激しい報復を引き起こすものである」。」

    p117
    「 心理学者のバイブルである「精神障害の診断と統計の手引き」第三版(DSM-Ⅲ-R)には、心的外傷後ストレス障害では「ストレスの原因が人為的なものの場合、障害はより重く長期にわたるようである」と書かれている。人間は、梳かれたい、愛されたい、自信をもって生きてゆきたいと切望している。意図的で明白な他者の敵意と攻撃は、ほかのなによりも人間の自己イメージを傷つけ、自信を損ない、世界は意味のある理解できる場所だという安心感をぐらつかせ、しまいには精神的・身体的な健康さえ損なうのである。
     …略…人間の心に恐怖と嫌悪を打ち込むのは、病気や事故による死や負傷ではなくて、同じ人間による個人的な略奪や破壊行為の方なのだ。
     強姦の場合、心理的な傷は一般に身体的な傷よりはるかに深い。戦闘のトラウマと同じで、死や負傷の恐怖はそほどの影響を及ぼさない。はるかに深刻なのは、無力感、ショック、そして激しい不快感――こんな仕打ちを受けるほど、同じ人間に憎まれ蔑まれたということへの不快感である。」


    p138
    中間地帯(ノーマンズランド)をうろつく者は
    両側から影に付きまとわれる
    ジェームズ・H・ナイト=アドキン「中間地帯」

    p171
    より遠距離から攻撃する方が、心理的に殺人が容易。ナイフで刺すよりも、槍でつく方が簡単。
    そして、刃物を突き出すのは難しく、払ったり振り下ろしたりする方が簡単。
    「突き出すのは相手を刺し貫くためであるが、振りまわすのは敵の急所を刺し貫くのを回避する、あるいはそのような意図を否認することなのだ。」
    銃剣や槍などで武装するとは、武器が自然に兵士の身体の延長、付属物になること。
    「身体の付属物で敵の身体を刺し貫くのは、いくらか性的な意味合いを帯びた行為である。敵の肉体に触れ、刺し貫き、自分の身体の一部をその体内に突き通すのだから、これは性行為にきわめて類似している。そんな方法で人を殺すことに対して、人間は強烈な嫌悪感を覚えるのである。」

    刃物で殺されるのは、その刺さる様子が自分で見えるので、よりおぞましい。
    「APの記事によると、ツチ族の犠牲者はフツ族から銃弾を買っていた。切り殺されるのがいやで、自分を処刑するのに使う銃弾に金を払っていたのである。」

    銃剣での闘いでも、兵士はいつの間にか持ち替えて、銃床で敵を打ちのめしていたらしい。自覚はないが、それほど、銃剣で人を殺すことへの抵抗感、近距離であるために発生するトラウマの可能性が忌避されている。

    p196
    殺人者の素因
    ●権威者の要求
    ・殺人要求の強度
    ・権威者の正統性

    ●集団免責
    ・集団の殺人支援度
    ・直接集団の人数
    ・集団の正統性

    ●犠牲者との総合的な距離
    ・社会的
    ・文化的
    ・倫理的
    ・機械的

    ●犠牲者の標的誘因
    ・戦略の適切性
    ・有利性
    ――殺人者の利得
    ――敵の損失


    p271
    「 残虐行為には、単純にして恐ろしく、きわめて明白な有用性がある。モンゴルは、かつて抵抗した町や国を徹底的に殲滅したことで有名だったが、ただそれだけで、戦わずして数々の国を降参させることができた。<テロリスト>の語は、ずばり<恐怖(テロル)を行使する者>という意味である。恐怖を無慈悲かつ効果的に行使して権力をにぎるのに成功した個人や国の例は、地理的にも歴史的にも近いところにごろごろしている。」


    p273 殺しの資格付与
    「 この残虐行為はたんに正しいというだけではない。殺した相手よりも自分のほうが、倫理的社会的文化的に勝っているという証拠なのだ。兵士はそう信じなければならないのだ。残虐行為は相手の人間性を否定する究極の行為であり、殺人者の優越を肯定する究極の行為である。これと相いれない考え、すなわち自分は過ちを犯したのだという考えを、殺人者は力ずくで抑えこまねばならない。そしてさらに、この信念を脅かすものには、それがなんであれ激しく攻撃を加えねばならない。殺人者の精神の健康は、自分の行いが善であり
    正義であると信じられるかどうかにかかっているのである。
     さらなる殺人へ、虐殺へと殺人者をしばり、またその力を与えるのは、犠牲者の血である。…略…


    p290
    ひとつめの要因は、同輩からの圧力と集団免責の相互作用。集団からの離脱、集団の行為への参加に対する拒絶は難しい
    「 残虐行為の場で反抗をむずかしくする強力な要因はもうひとつある。それは、テロ行為と自己保存の影響である。いわれのない暴力的な死を目の当たりにするのは、衝撃的かつおぞましい体験であり、それに対して人は原初的な深い恐怖を感じる。残虐行為によって抑圧された人々は麻痺状態に陥り、服従と従順という学習性無気力状態に落ち込んでゆく。いっぽう、残虐行為を行う兵士のふおもこれと非常によく似た影響を受ける。残虐行為によって人の命の重みは著しく低下する。そして兵士は自分自身の命の重みも同じように低下していることに気がつくのだ。」

    p293
    「集団全体が、残虐行為の歪んだ論理を全面的に奉じる覚悟をしないかぎり、その論理のもたらす短期的な利益さえ手に入らず、みずからの矛盾と犠牲によって集団はたちまち弱体化し混乱する。魂は半分だけ得るというわけにはいかないのである。
     残虐行為――罪もない弱者にたいするこの近距離殺人は、戦争の最も忌まわしい一面である。そして人間のうちにあって残虐行為を許すのは、人間の最も忌まわしい一面なのだ。自分自身がその一面のとりこにならないよう心しなければならない。だが、忌まわしいからといって無視することもできない。この部の、そしてのこの研究の究極の目的は、戦争の最も醜い面を見ることだったのだ。」


    戦争から帰ってきて、社会に受け入れられれば、兵士の傷はいくらか癒される。
    しかしベトナム戦争では、帰ってきた兵士は社会的に軽蔑された。彼等の受けたトラウマは非常に激しかった。

  • 社会通念上、禁忌とされる「殺人」が奨励される状況というものがある。
    …「戦争」だ。
    兵士たちは武器を持った敵を前にして一体どのような心理で立ち向かっていくのか。
    実際に軍に所属していた筆者が様々な資料にあたり、さらには帰還兵らの協力を仰ぐことで書き上げた著。

    本来ヒトは同種であるヒトを殺すことに多大な抵抗感を抱くもの。
    目を合わせた相手を殺すとなれば、その抵抗感たるや相当なものになる。実際、第二次世界大戦の米軍兵士のうち発砲した者は15~20%だったという。(マーシャル将軍の調査)
    玉の無駄撃ちも含めれば、その殺傷能力の低さに失笑さえ漏れかねない。…他ならぬ自分が人間を殺すということの戦慄を考えなければの話だが。
    だからこその躊躇いを、どのように軍隊では解除し殺人へと導いていくのか。

    命令、連帯、条件づけ、距離、集団免責、合理化…

    相手の怯え歪んだ表情を目にしないこと。
    自分が殺したのではないと言い聞かせられること。
    あれは殺してもしょうがない、下等生物なのだと思い込むこと。
    上官の命令だからしょうがないと責任を分散すること。
    仲間を守るために殺さねばならないという状況。
    高揚感に身を任せるということ。
    人間によく似せた的を使った訓練で反射的に殺せるようになること。
    大義のためにはしょうがないと思い込むこと。
    薬物。

    しかしそれでもなお、精神的戦闘犠牲者はゼロにはできないのだろう。
    人を殺すというのはそれだけのことなのだ。
    当たり前のことなのに、何となく勘違いしていた。
    慣れてしまうものなのだと。

    慣れたからといって、精神に傷がつかないというわけではないのだということを改めて突きつけられる。

    一方で、人間が攻撃的欲求を抱いたり、破壊的衝動を持ったりするのも間違いない事実だと思う。
    だから、そういったタナトス関連の追究があれば、さらに多角的な観点からの掘り下げとなったのではないかと感じた。

  • ・人は人を殺すことに抵抗感を持つ
    ・人との物理的距離、権威者による指令、集団免責等により抵抗感は弱まる
    ・パブロフの犬的な関連付けにより抵抗感を克服できる
    ・たとえ抵抗感を克服しても、殺人を犯すことにより人は精神的ダメージを被る
    ・軍人の社会への復帰には、精神的ダメージのケアが必須

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