本書でも述べられているがここ数年、『本ミス』と『このミス』のランキングは似通っているところがあり、しかもここ3年間は1位が同じと、あまり特徴的な差別化が無かったように思ったが、今年は全く趣きが違い、それぞれの特徴が出て、非常に面白い結果だった。
本ムックの中でも述べられているが、ここ数年の両者のランキングの類似性はいわば、本格推理小説の充実振りを示しているのであって、二階堂氏が苦言を呈しているような推理小説研究会の怠惰振りを批判する物ではない(というよりも何故このようなコメントを公の場でするのか、二階堂氏の非常識ぶりに唖然とする)。
そして今回二者のランキングが異なったのは、日本ミステリ・エンタテインメント小説界の充実振りを示す証左に他ならないであろう。
二階堂氏のコメントに戻るが、彼の論は単純にジャンルの偏愛から述べたものでなく、自分のお気に入りの作品、作家がなぜ本格ミステリランキングに載っていないのかとか、上位にランキングされないのか?といった非常に個人的な憤激であり、自分を何様だと思っているのかと、斯界の大御所ぶった横柄ぶりを露見しただけに過ぎない。全く自分の評価を下げたものだ。
しかし1位が有栖川有栖氏の『乱鴉の島』というのは正直意外だった。このムックでも投票者のコメントを見ると複数、作品を上梓し、本格ファンの琴線に触れた道尾秀介氏と三津田信三氏が目立つのみで、この作品が1位にもかかわらず、全く目立っていないのも面白い。
そして2006年はやはり道尾秀介氏の年だったのだろう。続々と注目が集まっている。斯く云う私も彼の作品を読みたい一心だ。
そしてランキングに島田作品が2作もランキングしたことも個人的に嬉しい。
2006年は『吉敷竹史の肖像』の文庫改訂版ともいうべき『光る鶴』を加え、6作も新作を出し大御所健在振りを発揮したが、健在というよりも島田氏が未だに本格ミステリ好きのマインドをくすぐる作品を続々と紡ぎだしているという事実に心からの賞賛を送りたい。
そして今回で早くも10年目となったんだなぁ。
節目節目に行われるオールタイムベストランキングも過去10年分となると、全然古めかしさが感じられず、つい最近の作品ばかりだと思うようになった。私の今読んでいる本たちが古典なども多いため、ますます時代との格差が広がるばかりである事を痛感した。
あれも読んでいない、これも読んでいないと愕然とした次第である。
ホント、島田作品しか読んでなかったもんなぁ。
しかしこの年もいい本がいっぱい出たことが解った。今年も沢山の素晴らしい作品が出版されますように。