水魑の如き沈むもの (ミステリー・リーグ)

著者 :
  • 原書房
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本棚登録 : 455
感想 : 82
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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784562045419

感想・レビュー・書評

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  • 民俗学+ホラー+ミステリーの〈刀城言耶〉シリーズ。
    長編第五作だが読み落としていたので今さらが読んでみた。

    久しぶりのシリーズだが相変わらずのわちゃわちゃ感から始まる。
    阿武隈川烏と祖父江偲が引っ掻き回し、言耶が落ち着いて解説しているようで余計に脱線したり深みに嵌まったり。言耶が好きな怪奇話になると興奮し過ぎて阿武隈川と偲が逆に落ち着かせ役に回ったり。
    正直読み飛ばしたくなるシーンなのだが、こういうところに興味深い民俗学的エピソードを紛れさせるのだから結局はしっかり読んでしまう。

    水魑様に水乞い(或いは豪雨が止むこと)する儀式を見に山奥の村にやって来た言耶と偲。そこでは過去に儀式を行った宮司が亡くなる事件が起きていた。
    そして言耶と儀式の関係者たちの目の前で宮司が胸を刺されて殺され…。

    衆人環視状態という密室で起きた殺人事件。その裏には一番力を持つ宮司が密かに怪しげな儀式を行っているようだ。
    それを探ろうとするのは宮司の義理の孫・正一少年。彼は怪しげな蔵や洞窟を見付けるのだが、そこには何か恐ろしい気配が。正一はそんな何かを感じる力があった。

    ただですら閉鎖的なコミュニティなのだが、この宮司が強権と人質で以て敢えて警察など外部機関を介入させないという徹底振り。その状況で言耶に事件を解決しろと迫る。偲まで人質に取られた言耶は宮司の命令を聞くしかないのだが、警察のような捜査が出来ない中で真相に辿り着けるのか。

    言耶の推理もまた相変わらずの二転三転。しかしこれが彼のスタイルなのだから仕方ない。ましてや警察などの第三者的捜査も望めない環境なのだし。
    宮司が怪しげな蔵で行っていたことは予想がついたが、水魑様への様々な儀式の解釈は分からずなるほどと思った。
    しかし事件の全容について、特に犯人の動機や行動についてはやや強引かなと思うところがある。

    今回はホラー要素は薄め。むしろ宮司の狂気に振り回された人々の悲哀の印象が残った。残された人々が少しは前向きになれたようで良かったが。
    結末もまたいつものように明確な部分と朧な部分とに分かれる。いつもならこの朧な部分にホラーな予感を絡めるのだが、それがなかったのは残念。
    結局この事件は警察が介入しなくて正解だったのかも知れない。

  • 水魑様を信仰する4つの神社とその宮司たち、増儀と減儀という儀式、左霧・鶴子・小夜子・正一の家族の過去の経験など、作品世界の作りこみが重厚で、ページ数も多いが、物語としての読み応えは十分で、作者の物語の創作力・構築力はすばらしい。
    13年前に儀式の最中に起こった死亡事件、刀城と祖父江が立会時に起こった殺人事件、さらに引き続き起こる宮司の連続殺人。事件とその背景にあるものが複雑で入り組んでおり、探偵役の刀城が後半で疑問点を整理しているのはわかりやすくて良い。真相の核となっている儀式に関する秘密は、全く想定外だったので、判明した時、なるほど面白いと感じた。このシリーズでお約束となっている真相の二転三転だが、刀城が推理を示す中で論拠の不備が見つかって、その都度犯人が入れ替わっていき、最終的に1人に落ち着く。
    犯行現場とそれにつながる経路の状況がわかりにくいこと、真犯人が真相通りに実施可能かどうかを読者が判断しにくいこと、その後の連続殺人に関する動機に疑問があることなど、ミステリーとしては不満箇所があった。

  • シリーズ前作との繋がりがありそうで身構えしましたが、結果あまり関係なく、これだけ読んでも大丈夫です。
    解決編に入って、指命犯人が二転三転し、ヘボ探偵と詰られるのは、このシリーズのお約束なのですが、ここはいつ読んでも冗長な印象です。

    舞台設定、謎の列記と伏線回収の素晴らしさは言うまでもないです。正直無限に続いてほしいシリーズ

  • 本シリーズをこれまで読んでいた人には節目を感じさせる内容になっています。
    節目というとちょっとニュアンスが違うかもですが……。
    これまでの登場人物のキャラクター性や人物関係図がここへきてまとまって、
    ああこれから言耶シリーズはこういう方向へ向かって形を成していくのかなと
    思いを馳せることになります。

    過去作品に出てきた村やキーワードも出てきて、今回事件が起こる村単体
    としてだけでなく、もっと広い、モノ憑きの共同体全体として根底に漂う
    『人間』というものが描かれています。

    怖いシーンは相変わらず怖く。
    結末は、いつもよりちょっぴりしんみり系。

    游魔は良い味を出していた登場人物だと思いました。

  • こういう作風の作品だと、どうしても乱歩だの、横溝正史と比べてしまう。だから期待値も上がるしガッカリしやすい。
    昔の作家は基礎の教養やボキャブラリーのレベルが違う。その上にあの文章力と圧倒的な世界観がある。過去の鬼才達の怪しの世界と比べると、どうしても平成の若手は見劣りしてしまう。特に伝奇的な世界を綴る場合には。この著者の一作目を読んだ時、あまりのペラペラ感にガッカリし二度と読むまいと思った。でもこの作品を読んだら腕が上がってる。横溝など忘れてあまり期待せず読めばかなり気持ち悪くていい感じの雰囲気が出ている。ミステリーとして面白く、ドンデン返しとか意外な犯人でいえば横溝より好みだ。あの人の小説は謎解きはかなりショボかった記憶がある。だからトータル的には結構楽しめる娯楽小説だ。もう少し日本語を磨いて粘っこく湿度の高い怪奇性を高めてほしい。探偵一行が現代の軽いお兄ちゃんのようで興ざめ。探偵の魅力が足りない。ホームズも金田一も、探偵の魅力に助けられてる部分大なんだから、なんとかからないものか。勿体無い。

  • このシリーズは初読でした。
    民俗学メインのホラーミステリ小説で、前半はホラー味が強く、だんだんミステリが強くなっていく形です。割と人間関係的な所が複雑になっていくのでところどころで整理しないとごっちゃになるかも。割と人情味がある話なので読後感はさっぱりします。

  • シリーズの中において、過去作で1番読みやすいお話だったと思います。(難しい解説が無かった為)鶴子ちゃんが好きだったので、途中から登場しなくなって寂しかったです。もちろん殺人事件が起こりますが、ラストはハッピーエンド?救いが残っており良かったなぁ〜とい思いました。

  • ホラーミステリー単行本。
    【刀城言耶シリーズ】
    太平洋戦争後、昭和時代の閉鎖的な山間の村で起きた、神社宮司連続殺人事件に挑む。
    雨乞の儀式に生贄が捧げられ、蔵の中に人間ではない何かが居るなど、怖い舞台は揃って雰囲気がたっぷりと味わえます。
    刀城言耶ならではの迷推理のくだりも楽しいです。

  • 面白かったー!
    相変わらず長いので読み応えある!

    前置きも長く、殺人事件が起こるまで半分くらい読み進めるないといけないがそれでも面白い!

    前半は正一の過去の話や五月夜村についてだが、興味深くスラスラ読めた。

    正一、小夜子は世路と一緒に幸せになって欲しかったので残念というか心に残るというか。

    1番初めのシリーズと微妙に繋がってるのも◎。
    どうリンクしてるか、調べないと!

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著者プロフィール

三津田信三
奈良県出身。編集者をへて、二〇〇一年『ホラー作家の棲む家』でデビュー。ホラーとミステリを融合させた独特の作風で人気を得る。『水魑の如き沈むもの』で第十回本格ミステリ大賞を受賞。主な作品に『厭魅の如き憑くもの』にはじまる「刀城言耶」シリーズ、『十三の呪』にはじまる「死相学探偵」シリーズ、映画化された『のぞきめ』、戦後まもない北九州の炭鉱を舞台にした『黒面の狐』、これまでにない幽霊屋敷怪談を描く『どこの家にも怖いものはいる』『わざと忌み家を建てて棲む』がある。

「2023年 『そこに無い家に呼ばれる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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