- Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
- / ISBN・EAN: 9784562048465
作品紹介・あらすじ
「最後の事件」の直前の出来事、エラリー・クイーン風のホームズ譚、"あの女"そしてタイタニック…。E.D.ホックがみずから手がけた"最後の"作品集。
感想・レビュー・書評
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作者からの先入観かもしれないけど、この歴史的事件や人物と話を絡める手法や雰囲気は、ホームズよりもサム・ホーソーンって感じがする。歴史上の事件と結びつけたがるのは後世の人間ならばこそなのかもしれない。
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すでに他のアンソロジーや雑誌などで読んだものも複数あるが、ホック作品を一度に読めるのはうれしい。
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「シャーロック・ホームズ物語」というタイトルだけを見れば、「ああ、いつもの贋作ものね」というだけの感想しか持たないけれど、それが本格短編ミステリの名手エドワード・D・ホックの作品だとなれば話は別だ。まして先年なくなったホックの最後の単行本で、生涯書いたホームズものの贋作をすべて集めたものであると聞けば、手に取らないわけにはいかない。僕は、かなりのホック好きなのである。
ホームズものの贋作というのは、ミステリの世界ではかなり大きなジャンルのひとつである。有名な名探偵シャーロック・ホームズが活躍する作品を創作するわけなのだけど、ミステリとしての完成度のほかに、原典の雰囲気をどれだけ醸し出せるかというのも大きなポイントになる。「未発表の原稿(しかも優れた完成品)が作者の遺族の荷物から発見された」と思いこませてしまうようなのが理想なわけだ。
読んでみると、さすがに名手ホックで、ミステリとしてのおもしろさも、原典の雰囲気というかエッセンスをうまくコピーしている点でも水準以上である。贋作は、原典の中でちらりと触れられているが内容までは描かれていない事件を取り上げたものが多いけれど、そのパターンもあり、もう少し微妙なパターンもあり、なかなかそういう点でもニヤリとさせられる。また、実在の人物や事件をうまく組み込んだりする遊び心も見事なものである(タイタニック事件とかね)。
うんと楽しませていただいた上であえて2点ほど物足りなかった点を上げるなら、まずは原典の雰囲気について。いい感じではあるのだけど、ちょっと軽い感じがしてしまう。行列が出来るラーメン店の味というよりも、その店の店長が監修したカップ麺の味、という感じだ。確かに同じ味だしおいしいのだけど、ちょっと深みに欠けるというか軽さがあるというか。その軽い感じがホック作品の魅力ではあるのだけど、ホームズ贋作としてはもうひとつしっくりこないように思った。具体的にどのあたりかといわれると困るのだけど。
もうひとつは本格ミステリとしての物足りなさである。ホックのミステリは、不可能性にあふれた事件設定と虚を突かれるような解決が持ち味だと僕は思っている。シャーロック・ホームズの操作法というのは、実はかなり直観型だから、ホックの作風とは相性がいいと思うのだけど、実際に読んでみるとホックっぽくない。読みどころに欠けるのである。特に、奇想天外な謎と言えそうなものがなかったのは、ホックの短編集としてはどうしても物足りなく感じてしまった。これはまあ、僕がホック・ミステリに希望しているものがそれであるからであって、贋作にそれを期待するのは間違っているのかもしれないとも思うのだが。
どちらかといえば万人向けの本ではないかもしれない。でも、楽しく読める本だし、ホームズ贋作の入門編として、とってもわかりやすくていいものだと思う。