ヴィクトリア朝英国人の日常生活 上:貴族から労働者階級まで

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感想 : 13
  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784562054244

作品紹介・あらすじ

ヴィクトリア朝の英国人の生活を目覚めから就寝までレポートするという形式のかつてない歴史書。文献を駆使するのは勿論、生活様式を自分でも実践した著者が、労働者から貴族まであらゆる階級の真の姿をいきいきと描きだす。

感想・レビュー・書評

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  • ヴィクトリア朝とは、ヴィクトリア女王がイギリスを統治していた1837年から1901年を指す。産業革命によって経済が発展し、英帝国が最も繁栄した時代と言われる。シャーロック・ホームズの時代、メイドや執事がいたころ。近代化が進み、豊かな時代に見える一方で、多数の庶民は苦しい生活にあえいでいた。
    そんな時代、人々の衣食住はどんな風であったのか、1日の流れに沿って追ってみる、というのが本書のねらいである。著者のすごいところは、文献などで得られた知識を羅列するだけでなく、自身もヴィクトリア朝時代の服を着たり、身だしなみ法を試してみたり、当時の道具で農作業などの労働をやってみたりしていることだ。実体験に基づいた話は説得力が違う。
    上下巻に分かれているが、上巻は起床から昼食前まで。朝の身づくろい、着替え、用足し、運動、朝食、外での仕事、家事に触れる。一応、時間軸に沿ってはいるが、適宜、各事項の背景知識などが織り込まれる。
    庶民の暮らしから、貴族の暮らしまで、ざっくり広く触れられているところも楽しい。
    いざ、ヴィクトリア朝にタイムスリップ!

    朝の目覚めと共に寒さが身に染みる。この時代、寝室の暖炉に火が入ることはめったにない贅沢だった。
    朝のシャワーなどはもちろんなく、浴槽につかることもあまり一般的ではなかった。たいていの人は、目覚めの後、寝室で立ち洗いにより身を清めた。水が入った水差し1つで全身きれいになる。浴用布を水に浸し、石鹸を使って体を拭いていく。部位ごとに拭くため、全身裸になる必要はない。寒い時でも大丈夫、部屋にほかの人がいても恥ずかしくはない。ゆったりしたガウンを着ていれば、まったく脱がずに体をきれいにすることができた。
    髪を洗うこともそう頻繁ではなかったが、著者によれば、個人差はあるものの、よくブラッシングすると、週に1度程度水ですすぎ、たまにシャンプーを使うくらいでも臭わないという。ヴィクトリア朝の髪型にして、油をつければ、シャンプーなしの生活でも問題はないそうだ。

    ヴィクトリア朝の服装といえば、コルセットにクリノリン(服の下にはくフープ状のスカート)だろう。胸郭を締め付けるコルセットは見るからに苦しそうだが、ヴィクトリア朝ではつけていないと「まともな」人間には見られなかったらしい。細いウェストが流行したときには、締め付けすぎて体に悪影響が出ることも多かった。寄宿学校などで1か月に1インチ細くする習わしがあるところもあり、15歳でウェスト23インチ(約58センチ)の時に入学し、17歳で卒業する際には13インチ(約33センチ!)だったという女性もいる。徐々に締めていくわけですねぇ・・・。怖い怖い。
    これだけ締めるともちろん、困ったことが起こる。失神したり頭痛に苦しんだり、消化や生殖に影響が出たりする。だがこれらは「締め付けすぎ」の場合の問題で、コルセット自体が悪いという方向にはいかなかったようである。
    但し、コルセット着用も試した著者によると、草刈をする際には、コルセットが支えとなり、背中の筋肉に力が入らずに済む利点があった。意外に肉体労働の際には理にかなった面もあったようだ。

    ヴィクトリア朝は、多くの庶民にとっては「飢え」の時代でもあった。この時代、じゃがいもの疫病が流行し、収穫量が激減した。1845年はひどい不作の年で、アイルランドでは100万人以上が餓死したといわれる。窮状の中でもイギリスへの農作物の輸出は続き、それが被害をひどくした。この結果、アイルランドからは多くの移民がアメリカ等に渡っていくことになる。
    イギリス本土でも飢えは一般的で、食品価格は高騰し、動物性タンパク質をほとんど口にできない者も少なくなかった。

    産業革命でさまざまな仕事が生まれたが、労働環境が劣っていたのもこの時代の特徴である。「職場での死や負傷は概して仕方のないことだと思われていた」というのだからすさまじい。鉄道現場での連結作業、紡績工場や織布工場の粉塵、半日以上続く暗がりでの縫製作業。死亡、肺病、視力低下、聴覚障害。田園地帯ではどんな天候でも屋外作業を行うため、肺炎、気管支炎、関節炎に苦しむ者が多かった。水や蒸気で動く機械、馬力に頼る機械で怪我をしたり死亡したりする者もいた。

    育児法は現代と違うことが多く、興味深い。特に食べ物と薬だ。母乳から固形物に移行する際、果物や野菜は推奨されず、肉や魚もほんのわずかしか認められない。子供が二歳を過ぎるまで、ほぼ炭水化物のみの食事が推奨された。母乳の出が悪いなどで早くからでんぷん食を与えられた子供は、後々、体調不良に悩まされることが多かったという。
    こんな食事では子供は不満だろう。機嫌の悪い子供を落ち着かせるために与えられたのが薬で、何と、子供にアヘン剤を投与することが珍しくなかったというのだ。薬を飲めば子供はよく眠る。アヘン剤には食欲を抑制する効果もあったため、ただでさえあまり栄養状態がよくないのに、薬で静かにさせられて、食欲もなくなり、栄養不良で死んでしまった子供たちは相当な数いたことだろう・・・。

    下巻は昼食から就寝まで。近いうちに読む予定。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/684097

  • ヴィクトリア朝の文化風俗に関する本は数多くあると思うが、著者の実体験に基づいて論評しているものは少ないのではないかと思う。

    例えば、ヴィクトリア朝のファッションを述べる上で、コルセットについて記述していない本などない。
    著者が女性なら、実際につけたときのエピソードも交えるかもしれない。
    しかし、この本の著者は更に上を行く。
    19世紀以前の背骨を支える下着と、19世紀のコルセットと、21世紀の服装、それぞれで農作業をやってみた結果、スムーズに作業するための足の出し方は、それぞれの服装で異なっていることを発見したりする笑

    これは実は服飾を真面目に学問するためには、ものすごく重要な視点。
    現代人から見ると、「コルセットは不健康で女性を拘束する下着!」と思っているけど、意外にもコルセットの方がやりやすい作業もある。
    ・・・もちろん、それでも健康被害を発生させるし、当時の女性はコルセットを「選択して」いたのではなく、「選択されて」いたに過ぎないから、コルセットが「良いもの」にはならない。
    でも物事を正確に評価するためには、全てを丸ごと知っておかなければいけないことを考えると、著者の功績は非常に有用だと思う。

    服飾以外にも、食生活から身だしなみ、入浴など全般に渡って綿密に研究されており、個人的には名著だと思う。

  • ヴィクトリア朝英国人の日常生活が、起床から就寝までという1日の流れに沿って書かれている。
    上流階級の場合、労働者階級の場合、北部の場合、南部の場合など、それぞれの階級や地域、また年代ごとの生活の質や状況、食生活などの違いが詳しく説明されていて、各章がそれぞれとても読み応えのある内容だった。写真や当時の雑誌の挿絵などの資料もあり、当時の生活を想像しやすい。
    さらに、歴史研究家である筆者が資料をもとに当時の生活用品を手作りし、実際に試してみたという体験談が随所に書かれていて、とても興味深く、そこまでするんだ!と筆者の探究心に驚く一冊でもある。

  • シャーロック・ホームズが活躍したヴィクトリア朝の普通の人々の暮らしに焦点を当てた作品。

    起床から就寝まで、一日の流れを追いながら、それぞれの項目について詳しく解説しています。

    著者は、ヴィクトリア朝やテューダー朝の時代の暮らしをありのまま体験するという活動をされている方で、本国イギリスではテレビ番組などでも有名だそうです。

    実際に暮らしを体験した著者の解説は具体的で、これまで抱いていた辛くて不便そうなイメージが覆される部分もありました。

    上巻は「起床」「服を着る」「用を足す」「身だしなみを整える」「朝の運動」「朝食」「外での仕事」「家事」の8章からなり、ヴィクトリア朝の人々の一日の始まりから午前中の時間を追体験できます。

    意外と写真や図での説明は少ないので、ヴィクトリア朝について扱った図説シリーズやスマホを片手に読み進めるのがおすすめです。

    ◇おすすめポイント
     ・ヴィクトリア朝の普通の人々の暮らしについて知ることができる
     ・著者の実体験に基づいた解説が充実
     ・装丁がかわいい

    ◇こんな方におすすめ!
     ・ヴィクトリア朝が大好き
     ・ヴィクトリア朝の人々の生活の細部を知りたい
     ・とにかく日常生活が好き

  • シャーロック・ホームズやブロンテ姉妹はどういう生活をしていたのか、興味があるじゃないですか。先日見たアンナ・カレーニナの映画で、ヴロンスキーがコルセットを着けるのを手伝うシーンがあり、この時代の服装はすごく複雑そうで何をどう着たらあの完成形になるのだろうと思った。身近なあれこれを現代人の目で解説してくれる。

    作者が研究者の鑑という以上にマニアックな人で、実際に経験し実感がこもっているのが面白い。洋服ならその次代の生地と仕立てを再現するし、風呂に入らず布で体をこするだけで3ヶ月過ごす。

  • 著者が実際にヴィクトリア朝の生活様式を実践しているところが面白い。

  • ↓貸出状況確認はこちら↓
    https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00250457

  •  日本でいえば明治時代のころの英国の庶民はどんな生活をしていたのかを解説した本。なんといっても筆者が、文献を読み解いただけではなく、その頃の英国人の生活を何か月にもわたって試してみての実感を述べているあたりがすごい。やはりその感覚は生々しい様子で、今の生活からは想像もつかないような大変さがあったであろうことが伝わってくる。映画で見るようなはなやかなだけの生活ではなかったみたい。

  • 現代人の作者が実際体験してみた、ヴィクトリア朝生活録。
    歯磨き粉や整髪料を調合して作ったり、洋服を縫ったり…すごいなぁ!と、前半はふむふむ読んだのだけど、後半の飢饉や薬については痛ましいとしか言いようがなかったです。
    必要な栄養素が解明されていないのと、単純に収入がないのと、医者ですらお粗末な知識…。
    いろいろな要因が合わさってじわじわ餓えていく子供達。
    よくぞイギリス人、この時代に絶滅しませんでしたよね…。

    合間にちょびっと出てくる娘さんエピソードには癒されました。

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