ヴィクトリア朝英国人の日常生活 下:貴族から労働者階級まで

制作 : Ruth Goodman  小林 由果 
  • 原書房 (2017年7月11日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784562054251

作品紹介・あらすじ

ヴィクトリア朝の英国人の生活を目覚めから就寝までレポートするという形式のかつてない歴史書。文献を駆使するのは勿論、生活様式を自分でも実践した著者が、労働者から貴族まであらゆる階級の真の姿をいきいきと描きだす。

ヴィクトリア朝英国人の日常生活 下:貴族から労働者階級までの感想・レビュー・書評

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  • ヴィクトリア朝の人々の暮らしを体感してみる歴史書。朝起きてから昼までを追う上巻に続き、下巻は昼食から就寝まで。

    上巻と同様、章ごとに、食事や家事などの日常的なイベントをテーマとして、上流から下流までの多くの階級に渡って、その実態を紹介し、背景を解説するスタイルである。史料から得た知識だけでなく、著者自身が再現・体験しているところが、本書の特徴であり、強味だ。

    午後は、昼食、その後の家事、学校生活、余暇の過ごし方、夕食、就寝前の入浴、寝室での営み(性交渉)となる。

    家事で詳しく紹介されているのは洗濯の様子だ。これが想像以上に重労働で驚く。ヴィクトリア朝ではおそらく最も人気のない家事だっただろうというのも頷ける。
    洗濯物はあらかじめ水につけておき、汚れが落ちやすくしておく。土曜日にひたす作業を行い、月曜に洗濯をする例が多かったようだ。
    洗濯を始めるには、まず、お湯を沸かす。水では石鹸が泡立たないためだ。
    洗濯のメインの作業は現代と同じ方式で、水中で衣類をぐるぐると回して汚れを落とす。しかし、もちろん、電気洗濯機はない。手動でかき回し棒を使って攪拌するしかない。これを一生懸命半時間(!)。その後、1枚ずつ絞る。湯を入れ替えてすすぐ。また1枚ずつ絞る。そして漂白(そのままでは石鹸による黄ばみが残るため)。またすすぐ。
    屋内には排水設備がないため、すすいだ湯や水は、いちいち外に捨てに行かなければならない。外と中を濡れたものを持って行ったり来たりするため、床も水浸しになる。
    読んでいるだけで腰が痛くなりそうである。
    2本のローラーの間を通して衣類を絞る装置もあるにはあったが、一部の裕福な家庭にしかなかった。そもそも非常に裕福であれば、洗濯作業はお金を払って人にさせていた。
    湯を使うこともあって、洗濯は毎日ではなく、週に1度など、まとめて行った。1日が終わるとくたくた。外注したい家事の筆頭だったという。

    教育の重要さが徐々に認識されつつある時代であり、学校教育制度が整っていく過渡期だった。初期には、庶民階級の子供たちは、「おかみさん学校(dame school)」と呼ばれる施設に通うのが一般的だった。保育にプラスαして読み書きを教えてくれるもので、さらには手工芸など就業や家事に直ちに役立つような知識・技術も教えてくれた。安価で子供を預かってくれる上、基礎教育や職業訓練を行ってくれるこうした施設は、公的教育機関が整うまで、全英各地で見られた。
    1880年には教育が義務化される。富裕層はパブリックスクール、少女たちはハイスクール、貧困層は12歳以降は学校に通えない、と、さまざま立場による差はあれど、ともかくも教育を受ける最低の基盤は整ってきた時代だった。

    初期には「余暇」などなかったが、時代が進むにつれ、少し人々の暮らしにも時間的な「ゆとり」が生まれる。
    こうした時間はスポーツや遊びに使われた。クリケットやフットボール、クロッケー、ボクシング。自分がプレイする場合もあるし、観客に回る場合もあった。
    女性は一般に、あまり激しいスポーツをするべきではないと考えられていたが、そうはいうものの、富裕層を中心に、少しずつ女性が運動をすることも認められてきていた。アーチェリーやテニスなどがこうしたスポーツの例である。

    食事は、階級により、地域により、また時代により、非常に多様だった。
    初期には、労働者階級の場合、北部ではじゃがいもが主食、南部ではパンとビールが主だった。中流階級では、主要な食事は昼に済ませ、夕食はごく軽く、パンとバターに冷肉、ピクルスにココアといった具合だった。上流階級の夕食はぐんと豪華で、スープにローストビーフ、ヨークシャー・プディング、じゃがいもやかぼちゃ、そしてデザートが付く。
    中期になると、じゃがいもだけに頼ることはなくなり、パン屋バターが並ぶ。職人層もかつてより多く食べることが可能になり、肉や乳製品も手に入りやすくなった。上流階級では夕食時間が以前より遅くなっていく。
    後期には、製粉された白い小麦が主流になる。石臼がローラー製粉機に取って代わり、製粉企業が台頭してきたのだ。見た目の問題もあったが、胚芽が含まれる小麦粉は劣化しやすく、国中に輸送・保管するに胚芽を取り除く必要があったのだ。なるほど小麦もパンも見栄えがよくなったが、ビタミンBという重要な栄養素を失い、パンが主体の食事をする貧困層にとっては、健康問題につながることになった。
    加工食品の人気が増してきたのもヴィクトリア朝後期である。手軽に食べられるビスケット、ケチャップなどの調味料などが街角のお店で手に入るようになった。
    上流層では、食事内容はあまり変わらなかったが、大皿から取り分けられる「フランス式」に代わり、1つ1つの料理が一皿ずつ運ばれる「ロシア式」の配膳に代わった。夕食の時間は夜8時頃とさらに遅くなる。これは家庭用照明が普及したことにもよる。ガス灯の登場は1860年代、電灯が広く用いられるようになったのは1880年代である。

    夜の営みにも1章割かれているが、印象的なのは避妊が現実的に可能になったことだろう。これは1843年のゴムの加硫法開発が大きいようだ。避妊の意味もあったが、性病防止の観点からもおそらく画期的なことだっただろう。
    一方で、危険な妊娠中絶が行われていた時代でもあり、秘密裏に行われたこうした堕胎は正確に把握することは困難だが、さまざまな形があったようだ。

    ヴィクトリア朝は科学技術が発展してきた時代である。現代にもつながる話も多いが、一方で、今日からすると「迷信」「旧弊」と思われるようなことも多い。
    現在常識と思っていることが実はそれほど古いものではないのだなということにも気付かされる。
    近くて遠い1世紀半前。
    丁寧に再現した好著である。

  • ひええっ思ったところ。
    『暴発した銃の弾を受けて腹部に穴が開き、回復するも癒着して外から胃の内部を覗ける状態になった患者の体を使い、ウィリアム・ボーモントという医師が実験を行って胃の動きを研究していた。 ー163p』
    消化される様子を確認できたっていうから、いや…想像が難しいわ…。

    『少女たちと裁縫』の項目は一番興味深かったところ。
    キャップ型の指ぬきって中指にはめて使うんだったのねえ。
    普段お裁縫するにしても、指ぬき自体あんまり使わないし、小学校でも習った記憶がないので…。
    リング型のを使う時は人差し指にはめてた気がするし。
    ステッチドリル、ちょっと試してみたいと思ってしまった。
    ほんとにそんなに上達するのかな(笑。
    その当時の婦人雑誌、もっといろいろ見てみたいわ~。

  • ヴィクトリア時代の華やかな暮らしから、ドン底の暮らしまで。

    日常の生活が眼に浮かびます。

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